【マンガ化】焼肉スコスコスコティッシュフォールド【進行中】 作:goldMg
休日。
大人として2人を引率する気持ちで街に繰り出したネルはまず朝ごはんを食べに向かった。何にしてもご飯を食べなければ行動活力が生まれない。どれだけ忙しくてもご飯は一日2食きちんと食べる。それが彼女のポリシーなのだ。
「それで来るのが酒場ってのは……なかなかエッジが効いてますね」
「えっぢ」
「カッコいいってことです」
「ふん……」
「この店はいい雰囲気ですね」
少年の背に隠れたソフィアは店内を見回して、その感想の方がエッジが効いてるんじゃ……と口を抑えた。なにせ彼がいい雰囲気と言った店内では今まさに2人の探索者が見合っているところなのだから。
甘々ラブラブの空気感ではなく、今にも爆発しそうな火薬のそれ。女2人の喧嘩にしては、あまりにも暴力的な雰囲気が強すぎた。
「──んのか?」
「てめえだよ」
言葉遣いがソフィアの人生で上から数えた方がいいくらいには荒れている場所だった。同性があんな顔して、あんな物騒な言葉を吐いているのなんて見たことがない。
「良いでしょ? なんかこう、落ち着くんだよね〜」
「ええ……」
この2人は私と感性が違いすぎるのさも……とソフィアは若干遠い目になりかけたが、朝飯を食べさせてもらう立場でそのようなことを考えるのすら失礼な話だ。
「金は……俺が……俺が、全部出す!」
「無いくせに何言ってんの……」
無い袖は振れない。当然の話だが、肉体的には年上だとしても女の子に出させるのは心苦しいというカッコつけたがりな感情がアキヒロの胸中を埋めていた。
なお、金がないのでその目的を達成することはできないものとする。
「そうなんだよ……お金は計画的に使わないとすぐ無くなっちゃうんだよ、お金の分際で……」
「ふぅーん……キミって結構貧乏の出だったりするる?」
「するる」
「噛んだだけでしょ!」
「つみゃみゃひゃいでくだひゃい」
「全くもう……子供が意地張らないでいーの!」
「子供以前に俺は男なんですよ。意地を張らない男なんてチンコが付いてないのと一緒どころか、去勢されたメスも同然なんで…………はっ!?」
「…………」
「…………」
女子2人は非難の目というやつを彼に向けていた。
持論を語るにしても、エッチなことはいけません! というわけだ。
「さいてー」
「さいてーです」
「…………ご飯食べません?」
選んだのはカウンター席。
ボックス席は既に探索者様が占めているので、必然的にこちらへ座ることになった。
「そういう人だとは思わなかったな」
「ついいつもの感覚でしゃべっちゃったんですよ」
「気をつけた方がいいよ?」
「普段は気を付けてるんですけどね……この酒場の雰囲気が知り合いのソレと似てたもので」
「はぁ……とにかく食べよっか。何食べる?」
「そうですね。若いのでステーキで」
「若いからって、わざわざ言う必要あった?」
当て付けか? と睨む。
その視線を軽く流しての返答は──
「成長期なんで、たくさん食べないと健全な肉体が育ちませんからね」
「他人事だなあ」
「ステーキ! ステーキ!」
「ガキだなあ」
肉は美味い。肉が不味いなどと宣う逆張り野郎は毛根まで死滅してしまえ。
隙あらば肉。
「酒場で飲食ってあんま無いんで、新鮮ですね」
それもそうだ。探索者達の視線を見てみろ。
いきなり現れた余所者に対して歓迎的な視線を向けるものはおらず、ギラギラとした瞳で女子2人の輪郭をなぞるばかり。
アキヒロに対しては、邪魔な男が──という負の視線しか向かない。
「よお姉ちゃん!」
起きることといえば、決まっていた。
青髭の生えた探索者が、酒瓶を片手にネルの隣に腰を下ろす。ネバっこい笑みを浮かべ、空いているコップへ注ぐ仕草を見せた。
「やりねえ?」
「間に合ってます」
「そんなこと言わんと、昼間っから呑まなきゃ1日損するぜ?」
「やることがあるんで」
「なら、一杯だけなら良いだろ? こんなところに来たんだ。酒だって飲みたかったんじゃねえか?」
「いりません」
なかなか退かない。
慣れている、というよりも周囲を見た時に「麗しい」と接頭辞がつきそうな人物がネルとソフィアの2人しか見当たらないからか。
「おいおい! 女1人引っ掛けるのもできねえのか!」
「ギャハハ! お前さんにゃ無理だ!」
「ネルちゃんはお堅いからな!」
「……あ?」
飛んできたヤジに舐められたと悟ったのか、ピリついた空気を返す。剣呑な目つきで笑い声の元に行くと、声掛けも何もなくいきなり殴り飛ばした。
「テメェら、立て」
「立て、だってよ! 立たせてみろよなあ探索者ならさあ!」
売り言葉に買い言葉。
店の一角を破壊しながら喧嘩が始まった。木片や陶器のかけらが飛んでくるのでソフィアをさりげなく庇うと、店主が茶化す。
「女2人連れ立って酒場に来るなんて、随分肝が座ってんな坊主」
「いやあ、そうなんですよ。そういう事もたまにはしたい年頃で……でもアレですね、良い雰囲気で好きですよココ。黙々と食べるよりはよっぽど」
「けっ、舌がよく回るやつだ」
「酒が入ればもう少し回るかもしれないですね」
「へっ! じゃあ入れるか?」
「おっ?」
いいすか!? という期待に対して返されたのは、微塵も興味がない顔だった。
「ダメらしいです」
「ガキはミルクでも飲んどけ〜!」
「そうしようか……ミルクねえ」
ミルク≠牛乳だ。
仮に
「カガミくんはお水ね?」
「はい」
ミルクすら飲むことは許されなかった。
テキパキと料理をする店主。
やる気は微塵も感じられないが、その手捌きだけは確かにプロであることを伝えてきた。
「期待できそうだ!」
「うん、ここのご飯はどれも美味しいんだよ。安いし」
「よく見つけましたね」
「頑張りました!」
「可愛い」
「!?」
いいかい? 満面の笑みでピースサインを見せてくる女の子がいたら絶対に褒めてあげるんだよ。
おばあちゃんとの約束だ。
──────
「おらっ! 食らえっ!」
「おっ! ……おお!」
明宏の目の前に置かれた皿。
盛り付けも一級品だが、テーブルの汚さや皿の安っぽさにまるで見合っていない。そのチグハグさに困惑したけれども、素直に感嘆の声は漏れる。
丸皿のど真ん中に配置されたのはサークルボアのもも肉のミディアムレア。サークルボアはいわゆる猪だが、
ちなみに俺は食べたことない。
添えられた緑色はシーソーンと呼ばれる海藻。棘部分には塩分が全くなく水分が貯められているため、そこだけを切り取って食べる。噛むとジャキジャキとしたメリハリのある食感と瑞々しさを楽しめるので沿岸部ではよく食されていた。海辺での遭難時はこれをまず探せとも言われるぐらいだ。
真っ赤なのはトマト。
トマトだ。
「いただきまーす」
「……ぷっ、なにそれ」
未開民族が……いただきますしろ!
いただきまあす!
「……お゛んっ」
口に入れた時に広がったのはやや臭みのある香り。ハーブで臭みを消すなどというまどろっこしいことはしないらしい。
舌に触れたらその次は歯。茹で時間が短めのか、2度茹でてもこれなのか、そもそも茹でてないのか。歯ごたえ抜群の、グミすら超えた感触に跳ね返されそうになった。それでも歯を突き立てて格闘していると、心配そうな目でソフィアがこちらを覗いてくる。当人は魚の塩焼きを食べているが、その料理には特に思うところはないようだ。
「大丈夫ですか?」
「うん?」
「……お、おいしくないんですか……?」
店主に気を遣ってのヒソヒソ声は、しっかりと捕捉されているようだった。
「美味しいよ」
「あ、そうなんです?」
「うん。こっちの端からちょっと食べてみる?」
「…………ちょっとだけ」
ナイフで切ったら、それでも大きいという。
「これくらいならどうよ」
「ありがとうございます。…………んっ」
口元が見えないように手で隠しながらひとかけらを咀嚼すると、少しだけ考えるように視線を散らした。
「普通の……お肉ですね……」
わからん!
どっちだこれ!
お世辞なのか本心なのか、まるで分からんぞ!
──まあ、普通のお肉と言われればそうである。養殖でもない雑食性の動物なんてこんなものだろう。
草食ならもっと美味しいんだけど、いかんせん猪系はね……
「ウメー」
これが前世の居酒屋で出てきたらペッてしていた。
「むぐむぐ……ごくん……」
ネルさんはソフィアと同じく塩焼きを頼んでいる。定食ではないので米はないし──なんなら米は見たことない──基本的に主菜やら副菜のみを食べる感じになっている。強いていえば、広義のパンはあるのでそれが主食だろうか。
「食べ終わったらどこ行こっか」
「どこ行くって言われても、あんまり目星ついてないんですよね。まずはどこに行くかっていうキッカケから探そうとしてます」
「……私?」
「まあ、短期的にはそうですね。ソフィアのお父さんのことから……って感じです」
「今日、この後は?」
「ノープランっていうのが正し──あ、ちょっと外しますね」
「…………持ってるんだ、貧乏なのに」
「ええ」
登場したキャラクター等の名簿的なものは必要か否か
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いる
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いらない