【マンガ化】焼肉スコスコスコティッシュフォールド【進行中】   作:goldMg

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12_可愛いでしょう?

「誰からだったの?」

 

「幼馴染です」

 

「へー……ちなみに男の子?」

 

「女です。可愛いですよ、ほら」

 

 聞いてもないのにいきなり写真を見せ始めた。

 どぎつい水色の髪。親は探索者なのだろうと察したネルだったが、写真は一枚ではなかった。

 復元されたという造影技術を組み込んだ、ややオーバーテクノロジー気味の手元操作機械。それが、商工会から発表された携帯端末だった。

 当然その値段は探索者向けで、貧乏人どころか一般家庭ですら買うのは厳しい。

 

 そもそもそんなもの無くても俺たちは生活できるんだ! という冷笑もあいまって普及はまだまだだが、彼が持っているのはどういうことかとネルには図りかねていた。

 

「…………」

 

「幼馴染が金持ちで、その父親に買ってもらったんですよ」

 

「ええ……?」

 

 俄には信じがたい。

 いくら娘の幼馴染といっても、他人に対して高価なものを買い与えるだろうか。

 

「ほら、可愛いでしょう?」

 

「……そうかな?」

 

 確かに顔は悪くない。

 商工会に勤めている人間としてはもっと上を見たことはいくらでもあるが、幼馴染加点があれば可愛さは満点だろう。大人しめの小動物系、というのがネルの印象だった。

 

「可愛いんですよ!」

 

「そ、そう……」

 

「扉に肩ぶつけたくらいで泣きそうな顔するんですよ」

 

「…………」

 

「全然痛くないくせに、そうすれば構ってもらえるからって小賢しいのがもう本当に可愛くて!」

 

「あ、そこはわかってるんだ」

 

「目に入れても痛くないですね!」

 

「ふーん……好きなんだ」

 

 しかし、手が止まらない。

 いくらスクロールしてもその幼馴染とやらの写真が出てくる。髪の色も写真ごとに違う。

 

「ほら、これなんて恥ずかしそうにやってるでしょ? 俺が自分で撮ったやつなんですよ、ヤダヤダって言いつつやってくれるもんですからつい調子に乗っちゃって!」

 

 口も止まらなかった。

 

「幼馴染ってこんなに可愛いんだってアハ体験ですよね。俺も最初は気付けませんでしたけど、やっぱ慕ってくれる子って自然と好きになっちゃうというか……ネルさんはいないんですか?」

 

「は?」

 

 いきなり喧嘩をふっかけられた気分だった。

 

「ほら、幼馴染みとか彼氏とか」

 

「いたらソフィアちゃん泊められないよね? ね?」

 

「どうなのかなって」

 

「今の会話でわかったよね?」

 

「はい」

 

「泣くぞ?」

 

 なんだか、雨でも降りそうだった。

 

「…………ところで今日は、ネルさんこそどこかに行く予定なんですよね? 俺たちをわざわざ連れ出したってことは、そういうことなんでしょ?」

 

「そうだよ」

 

「一体どこへ?」

 

「商会」

 

「商会? 商工会じゃなくて?」

 

「うん、深山商会って聞いたことある? ないよね、貧乏だもん」

 

「お、おう」

 

「そこが色々なアイテム扱ってて、しかも異能のことに関しても知ってるっぽいから一応店に行ってみようかなって」

 

「…………」

 

 アキヒロは怪訝な様子でネルの横顔を見つめた。不信感、というよりは若干の驚きがそこには含まれているようだ。

 

「ありがとうございます」

 

「……言ったでしょ? お姉さんに任せなさいって」

 

「言ってないですけどありがとうございます」

 

「いや言っ──てないか、カガミくんには」

 

「兄弟はいるんですか?」

 

「いるよ、お姉ちゃんがね」

 

「……」

 

「お姉ちゃんっぽかった?」

 

「ええ、なんだかんだで面倒見がいいところが」

 

「ふふん! うちのお姉ちゃんだらしないからね」

 

 下着をそこらへんに放り投げていた女の子が言える言葉ではないが、きっとお姉さんは部屋中に下着が撒き散らかされているに違いない。

 

「なんか失礼なこと考えてない?」

 

「いえ」

 

「……ソフィアちゃんはもう食べ終わったんだ」

 

 ネルの食べる速度の遅いこと遅いこと。

 もちゃ……もぐ……もぐ……もぐ……もぐ……という擬音で表すのが適切な程度には遅かった。

 それに比べるとソフィアはテキパキと食べるので、倍程度の速さで消えていく。

 アキヒロに関してはそんなに早く噛んで何になるんだというくらい早いので、比較にならなかった。

 

 

 ──────

 

 

「いやあ、美味しかった!」

 

「結局、ナンパは一度だけでしたね」

 

「何でちょっと残念そうなの」

 

「探索者と触れ合う機会って少ないじゃないですか。もうちょっと見てたくて」

 

「そもそもキミはナンパされてないけどね……」

 

 呆れたと首を振る。

 ネル自身はああいう輩にはもう慣れたので軽くあしらうだけで良かったのだが、今になって若干後悔していた。

 

「──ソフィアちゃん、ごめんね。まさかそっちにまで行くとは思わなかったよ」

 

「いえ、何もなかったので……」

 

 アキヒロが通話のために外に出て行ったタイミングで、別の男たちも来ていたのだ。もちろんソフィアにも。

 ネルと──最終的には店主が両方とも追い払ったが、ソフィアは臭くて汚くて怖いお兄さんおじさんたちに囲まれて若干怯えていた。

 

「あ、そうなんだ。やっぱ男がいると男除けになるよな」

 

「カガミくん16には見えないもん」

 

「え? 17くらい?」

 

「はあ?」

 

「18?」

 

「なにその刻み方。24ぐらいだよ」

 

「…………いや、そんな事ないですよ!」

 

「うるさっ!?」

 

「16ですって」

 

「……男の人って、歳少し上くらいに見られるのがいいんじゃないの?」

 

「そんなわけないでしょ! 若ければ若いほどいいんだから!」

 

「へー……でも男除けにはなるんだから16には見えてないんじゃないん」

 

「いやいや。単純に子供がいたら近寄りづらいってもんでしょ」

 

「……」

 

 子供扱いして欲しいのだろう。

 なら子供扱いしてやろうか……と、アキヒロを子供扱いしたとしたらを想像し、寒気に襲われた。

 

「きもちわる」

 

「な、なんでいきなり……普通に傷付くんですけど」

 

「いや、カガミくんを子供扱いってこれ以上は無理だなって」

 

「なんでですか。扱ってくださいよ、子供として」

 

「じゃあ自分がお金出すとか言わないほうがいいよ」

 

「…………!」

 

 アキヒロには、いわゆる子供らしさが無かった。

 

 無鉄砲な野宿は子供らしいと言えるのかもしれないが、そこの根底のあるのが貧乏であるということを考えると何か違う気もする。子供らしさというのは、様々なものに対する知識の不足からくる突飛もない行動から感じるものだ。

 出会って間もない少年だが、彼の行動は知識不足というよりも何らかの情熱がまずそこにあって、情熱に従った結果として不可解なことをしている──ようにネルは感じていた。そうでなければ、暴走した異能を持っている少女を必死に助けようとするはずがない。

 

「深山商会か……ソフィアは聞いたことある?」

 

「あります。高級なアイテムを売ってるって」

 

 真っ先に思い付くのは恋愛・慕情に基づく暴走だが、どう考えても惚れている感じではない。

 

「んええ、じゃあ門前払いの可能性あるな。ネルさんが商工会所属っつってもそこら辺はシビアじゃないとブランド落ちるし……いや、揉め事を嫌っているならワンチャン……まあ言ってみなきゃわかんねえな」

 

「カガミさんの学校って……そういうことも勉強するんですか?」

 

「するるよ」

 

「するる……」

 

「するる」

 

「ふふっ」

 

「ははっ──はぁああああ! 千切れる!」

 

 ──あんまり舐めてると千切るぞ。

 

 

 ──────

 

 

「あー……厳重な警備ってやつだ……」

 

「ですね……」

 

「聞き込みとか無理だろ絶対……あんなん総合受付の段階でパスカード持ってないので通れません、ってのと一緒だからな」

 

「? …………そうですね」

 

 一行は深山商会の店近くにまでやってきたが、中に入れるかというと全くそんなことはなかった。

 入り口両脇は警備員──間違いなく探索者が固めている。中に入っていく人間の服装は煌びやか、かつ、何かを見せている。アレでは一般人が入るのは厳しいだろう。

 

「ネルさん、頼みますよ」

 

「ま、まかせて……!」

 

 声、震えてますよ。

 

「し、しぃましぇーん……私商工会のものなんですけどぉ────というわけでしてぇ、中でちょっとだけお話とか……あっ! 全然全然! 強制とかそういうのじゃなくて、ちょっと確認したいことがあっただけで! もうホント、少しの間だけでいいんで、邪魔とかしないんで! ──」

 

 ネルはペコペコと頭を下げながら警備員に話しかけていた。その、何とも情けない様子を見て明宏はこぼす。

 

「立派だなあ……」

 

「…………」

 

「しっかりと和の精神」

 

 少なくともソフィアは、ペコペコとしている様子を見て立派とまでは思わなかった。もちろん全ては自分のためにやってくれていること。極限にして最大の感謝を感じてはいるが、なぜ立派という言葉が出てくるのかが理解できなかった。

 ケチをつける気は全くないが、商工会の人間ならもう少し上からいけるのではと思ったのだ。

 

「アレが大人のあるべき姿だよ、ソフィア」

 

「そう……ですね……」

 

 ネルの行動は少しだけよく分からないところがあるが、云々と後方彼氏面で頷いている明宏──彼のことは全てにおいて全く理解できない。なので適当に合わせることにした。

 

「ホント少しだけ!」

 

『──』

 

 しかし警備員は甘くなかった。

 なんかコイツおかしいぞ、と視線を交わすとネルに対して油断なく近付く。その雰囲気に危ないものを感じ取り、ネルも必死に言葉を紡ごうとしたが──

 

「あ、いやホント! ホントに! ちょっと! ちょ──あぁぁぁぁぁ……」

 

 ズルズルと引き摺られ、離れた場所に捨てられた。

 まるでゴミ掃除のようだった。

 

『近付くんじゃねえぞ』

 

「……うぅっ、ひどいや……私、こんなに頑張ったのに……みんなに見られてるし……子供2人にもこんなところ見られて……」

 

 さめざめと泣き崩れるネルの元へ影が一つ。

 

「──ネルさん」

 

「ふえ?」

 

「カッコよかったですよ」

 

「キュンッ……」

 

「ほら、服に土ついちゃってますから」

 

 手を取って立ち上がらせると、パシパシと軽く汚れを叩いていく。あまりにも自然で、セクシャルなものを感じさせない紳士さにネルは慄いた。

 

「絶対妹いる……絶対妹いるよ……お姉ちゃんもいる…………」

 

「妹はいます。絶賛反抗期です」

 

「嘘だ……お姉ちゃんもいるんだ……お姉ちゃんが大好きで、女として見てたのにヒョンなことからいなくなっちゃったから私に面影を重ねてるんだ……」

 

「妄想小説とか好きそうですね」

 

「好き……」

 

「……あの、そろそろ正気に戻ってもらっても?」

 

「げんじつ、つらい」

 

 お目目グルグルから元に戻ったネルは、先ほどまでのことなどなかったとでもいうようにキリッとした表情で結論を述べた。

 

「ダメでした」

 

「ダメでしたねえ〜」

 

「うーん……うまくいけると思ったんだけどなあ」

 

「言っちゃあなんですけど、ネルさんが元々深山商会? に伝手があるか、もう少し役職が上なら使える手でしたね」

 

「無いよそんなの! だって私探索者じゃないし……まだ下級職員だし……そんな伝手とか……無いもん……」

 

「ああごめんなさい! 悪く言いたいかったわけじゃないんです。ただ、元々厳しい策ではあったなって」

 

「……やったことあるの?」

 

「ノーコメントで」

 

「あるんだ……!?」

 

「ノーコメントつってんだろ」

 

 ソフィアは置いてけぼりにされていたが、あることに気付いた。

 

「あの……」

 

「ノーコメントって言ったらもう突っ込むなってことで──ん? どした?」

 

「あの……あの子……こっち見てますよね?」

 

「どれどれ……」

 

 指差した先。

 子供がこちらを見ている。

 商会の入り口から顔を覗かせているだけなので性別も含めてどんな子かはまるで分からないが、確かに子供が見ているようだった。

 

「ホントだ」

 

「なんでしょう」

 

「不審者が3人もいるから気になったんじゃないか?」

 

「不審者……」

 

 ソフィアは自分もカウントされている子にショックを受けたが、状況を考えれば不審者筆頭のネルの仲間なので仕方がないと気付いた。

 

「親御さんの付き添いかね」

 

「さあ……ん?」

 

 しばらくこちらを見ていたかと思えば、顔を半分だけ出している状態から手を控えめに見せた。そして、また控えめにこちらへ向けて手を挙げている……? 

 

「ネルさんの知り合いでしょうか?」

 

「え? 何ソフィアちゃん。…………誰あの子、お金持ちの知り合いなんていないよ?」

 

「うーん……カガミさん? ……あれ? カガミさんは?」

 

「あっ」

 

 明宏は嬉しそうに入り口に向かって小走りしていた。

 

「カガミくぅん!?」

 

 ネルは思わず手を伸ばしたが、どうせ止められることに思い至った。そして予想通り、近付いてくる少年がネルのところから来たことを踏まえて、警備員達は立ち塞がるコースに入った。

 

 しかし、背後からの通行を妨げることはしない。

 軽い足音が2人の間をすり抜け、少年に向けて近付いていった。

 

「わー! アキヒロだー!」

 

「コユキちゃん! コユキちゃんじゃないか! どうしてこんなところにいるんだいコユキちゃん!」

 

 ルンルンと高い高いを決めた。

 

「アキヒロこそなんでいるのー?!」

 

「俺はちょっと野暮用でね……あの人達と散歩してたんだ」

 

「お散歩!? いーな! いーな! 私もしたい! あ、でも今日は……」

 

「今日はお父さん達いるんだ?」

 

「うん……だからキョーはダメかも」

 

「そっかあ、でも今度なら大丈夫だろ?」

 

「!」

 

「今度、また散歩しような?」

 

「する! 絶対する! いつ!?」

 

「え、いつ? い、いつかあ……」

 

 イチャイチャイチャイチャと入り口までいつまでもくっちゃべっているにも関わらず、警備員達は2人を退かすことはしなかった。

 それどころか、若干困ったように頬を掻いている。

 

「あ、すいません仕事の邪魔しちゃって……コユキちゃん、お兄さん達が困ってるからちょっとこっち側にズレよっか」

 

「はーい!」

 

 お兄さんという年齢でもねえけどなあ……と警備員達は苦笑いをしていた。

 

登場したキャラクター等の名簿的なものは必要か否か

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