【マンガ化】焼肉スコスコスコティッシュフォールド【進行中】 作:goldMg
「この子は……?」
「こっち来て最初に知り合った子です」
「コユキです!」
元気な挨拶だ。
ネルは笑顔で返すと、知り合いが女の子しかいない男へと細い視線を向けた。
「へー……」
「……なんすか」
「いや、なんだろうね……ふーんって感じだよね」
「な、なんでそんな感じ悪いんですか」
「なんだろう……女の勘かな」
「勘弁してくださいよ」
主題は、なぜお互いがここにいたのかということへ移った。
「俺たちは探し物しててさ、探し物っつってもモノじゃなくて情報なんだけど……」
「何でお店?」
「お店の人なら知ってるかもってことで来たんだけど、貧乏3人だから入れる理由もなくて門前払いくらったってわけ」
「…………へー」
「なんか変か?」
「ううん、ビンボーって大変なんだなって思った!」
「おお…………おおっ?」
アキヒロは、ネルから猛烈な陽熱が発せられているような感覚に陥った。じわじわと迫り来るような圧迫感と強い不快感だ。
「ネルさん!」
「ん」
「子供なんです!」
「ん」
「……コユキちゃん、人にビンボーって言っちゃダメだぞ? たとえ本人が貧乏だって認めてても、他人が言っちゃダメなんだ!」
ネルへの説得は秒で諦めた。
「えー? でも本当のことでしょ?」
「本当のことではあるんだけど……しょうがないか……たとえば、コユキちゃんはまだ歳が若いから背が小さいじゃん?」
「! ──ち、ちいさくないもん!」
「俺と比べたら?」
「…………」
「嫌でしょ?」
「……ばか!」
「ごめんごめん。でもネルさん──このお姉さんもそんな気持ちだったんだよ」
ジタバタと暴れるコユキは、そんなアキヒロの言葉を聞いて気まずげにネルを見た。
「…………ごめんなさい」
「あ、いやっ……私こそ大人気なかったから……」
警備員たちは今もこちらを見ている。
「コユキちゃんは何か買い物に来たのか?」
「…………んー」
小首をかしげる姿は、どう答えようか迷っている人間の姿そのものだった。しかし、なぜか店員達まで見に来ている。
「お父さん達が心配しちゃうから、あんまり長いこと一緒にいるのもアレだな」
「……中に入れるように私が頼んであげようか?」
「え? まじで?」
「うん」
願ってもないことだった。
コユキがまた店内に戻って親へとお願いをしてくれている間に、ネルが詰める。
「あのさ……あんな伝手があるなら最初に使ってくれない? 私のあの時間なんだったの?」
「そんなこと言われても、あそこにいるなんて思わなかったし……」
「何で連絡取れるようにしてないの?」
「数時間一緒にいただけの子供と連絡先交換なんてしないですよ!? そんな事したらあらぬ嫌疑をかけられるかもしれないじゃないですか!」
「何? あらぬ嫌疑って」
「誘拐とか」
「……するの?」
「しねえよ!」
「あの子とカガミくんの髪の色同じだし、兄妹みたいに見えたよ? 多分変な風には──大荷物は確かにちょっと違和感あるけど、そこまでじゃないよ」
「それだけじゃないです。お金持ちの親ですよ? ただでさえ過保護そうなのに、どこから来たともしれないイケメンと知り合ったなんてなったら速攻で暗殺者が送り込まれてくるでしょ」
「?」
「イケメンと知り合ったなんてなったら速攻で暗殺者が──」
「聞こえてるよ?」
「でしょ?」
「いや、なにも同意に至らないけど」
「つ、冷たい……」
「イケメンとか名乗るならせめて私にお金出させないくらいの甲斐性は見せてね?」
「くっ……!」
「そもそも暗殺者なんてそんな簡単に送り込まないでしょ……あと、商工会の立場的には本当にそんなことになったら捕まえなくちゃいけないっていうか……」
探索者から堕ちた奴らと商工会の対応は、常にイタチごっこになっている。
「あ、戻ってきた」
スッキリとした体型の男が、コユキの腕を優しく引きながらやって来た。ニコニコとした笑みを浮かべていて、感じの良さそうな壮年紳士と表現するのが相応しいだろうか。
「なんか……大丈夫そうだね……!」
「ええ! これならいけますよ!」
ワクワクと胸を躍らせるネル。
高級なアイテムショップに入れるということで、純粋に期待していた。
男は3人の前まで来ると、笑みを崩さずに口を開いた。
「貴様が……コユキを誑かしたというガキか」
──────
男はキレていた。
「よくもまあ、性懲りもなく再び私の娘の前に姿を晒せたものだな……歓迎されるとでも思ったのか?」
娘に近寄る馬の骨を許してはならぬと怒りに満ち、先日誑かしてから再び近づいて来たガキをこの目に収めてやろうと直接現れたのだ。
「……どうやら勘違いされているようですね」
「ちょっ!? カガミくん、やめなよ! ごめんなさいしよう! ごめんなさい!」
金持ちに睨まれることの不味さというものをわかっていないバカのせいで巻き込まれるのはごめんだと、ネルは大慌てで宥めた。商工会の本部で仕事をするものとして、散々っぱら例を見せつけられているのだ。
「ほう? ではこの子を使いっ走りにして私を引っ張り出したのはどういう意図だ? 誰から駄賃をもらった? 何を伝えろと? それともここに連れ出すことで暗殺を狙っているのか? 無駄だ。彼らのレベルは50を超えている。暗殺者に堕ちる程度の低位探索者では触れることすらできまい」
「それは良いことを聞きました。コウキさんはやっぱり最強ってことだ」
「──ほう?」
「正直言って、私はあなたには興味がありません。コユキちゃんは友達で……それ以上でもそれ以下でもないんです」
「ならば、何が目的だ?」
「娘さんから聞いていませんか? 深山商会のお店に…………正確には店員さんに話が聞きたいだけです」
「…………」
しかし男は睨む。
もちろん娘から話は聞いていたが、鵜呑みにするほど若くはなかった。
そんな彼の前で、少年は服を厚く着込んでいる少女へ近付いた。
「この子はソフィアです」
「ふむ」
「彼女が困っていて、それを解決する手立てを探しているんです」
「困っている?」
「…………ソフィア」
苦悶の顔の後、アキヒロはソフィアの肩に手を置いた。
「いいか?」
「……っ」
「──場所を変えさせてください。人目のつかないところへ」
その言葉を聞いて、男は鼻で笑う。
「露骨すぎないか?」
「そうなるよなあ……それなら──」
アキヒロは再びソフィアに向き直ると、耳打ちをした。
「!」
「これは賭けだ。もしダメだったら……その時は俺が責任を取る」
「…………」
「うん、それが良い。一番スッキリする」
しかしその内容を聞いたネルは戦慄していた。
戦慄し、困惑し、否定した。
「な、何言ってんの……?」
「リスクを背負ってこそリターンがあるんですよ」
「そういう問題じゃ……お父さん達がいるんじゃないの? お母さんも、幼馴染の子も……」
「そこは申し訳ないけど、人間として0点だったとしか」
「──ソフィアちゃんはそれで良いの?」
「ソフィア、ネルさんの話は聞くな」
「カガミくん!」
「気分のいいこと、気持ちのいいこと、正しいことを言えるのは……自分が苦しい立場にいない人間だけだ。俺はもちろん苦しい立場にはないけど……俺自身が納得できる道が欲しい」
加賀美明宏はネルのことを否定した。
「だから、やれ」
「…………ダメです」
「ソフィア!」
「カガミさんはそうなのかもしれないですけど……ネルさんにも迷惑がかかります」
「…………」
それは、卑怯にも無視していたことだった。
「ちゃんと話します……ちゃんと話して、ちゃんとやります」
ソフィアが顔を晒すと、フードから冷気が霜となって落ちていく。
「……雪?」
コユキの父親は、その不思議な光景に目を細めた。
「異能か? つまり、君は探索者なのか」
「……違います」
「うん? そんなわけはないな。探索者でなければ異能を手に入れることなどできまい」
「私は……生まれた時からこの力を持っていました」
「──!」
解放された力。
周囲を漂っていた霧が凍りつき、結合し、巨大な氷の結晶へと成長していく。急速に大気が冷やされ、周囲の様子は一変した。
霧に包まれている世界の一角が冬になり、ゆっくりと空を漂うのは水滴ではなく雪へ。
「──物騒だねえ」
やって来たのは警備員2人組だった。
武器を抜き、油断なくソフィアの一挙一動から目を離さない。
「動くなよ? 動いたらその可愛い顔だけを綺麗に落とさなきゃいけないからな」
だが、ソフィアは動揺しながらもあくまで男に向けて話していた。
「……わ、わたしはこんな力いりません」
「状況が掴めないな」
「この冷気は…………出したくて出してるわけじゃありません」
「ソレが本当だとしたら可哀想だが……何を求めているんだ?」
「そ、それは……あ──加賀美さん?」
アキヒロが前に出た。
「探しているものは三つ。彼女の異能を抑えるか消し去るアイテム、異能を抑える方法、彼女の父親。そのどれかが必要なんです」
「アイテム……そうか、それでここに来たのか」
「だから店員と話をしたいんです」
「だが、そんなアイテムがあったところで買えるのか?」
「金を稼ぐ方法はいくらでもあります。ものがある事さえ分かれば、あとは努力次第だ」
「…………」
「──お願いします。どうか、俺たちが店の中に入ることを手伝っていただけないでしょうか」
それは、綺麗な土下座だった。
「それ以上は望みません。ただ、そのアイテムが存在しているかどうかを──」
「いいや、中に入る必要はない。入れる気もない」
「……」
「そんなモノは存在しないからな」
「!」
顔を上げたアキヒロが見たのは、仏頂面の男だった。
「わざわざ確認するまでもないことだ……私が誰よりも詳しいのだから」
「……ソレは、深山商会の店員よりも?」
「ああ」
「?」
「貴様が私たち目当てでやってきたわけではないというのは……どうやら本当のことらしいな」
その発言の意図がつかめなかった。
「もしもそうなのであれば、そんな反応にはならない筈だ」
「……」
「目の前にいるのが誰か分かっていないようだな」
その通り、わからない。
コユキの父親だろう。
「不勉強だな。だが…………その異能、興味深い」
顎に手をやると、ずっと黙っていたコユキに声をかけた。
「コユキ」
「……はい」
「彼等を家に連れて行け。確かに店前でする話ではなかった」
「!」
「シエラには私から連絡をしておく」
「は、はいっ」
なんだかよくわからないうちに、コユキの家にお邪魔することになっていた。
登場したキャラクター等の名簿的なものは必要か否か
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いる
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いらない