【マンガ化】焼肉スコスコスコティッシュフォールド【進行中】   作:goldMg

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14_豪邸

「──やったね! アキヒロ!」

 

「本当にいいのかねえ……」

 

「いいんだよ! おとーさまが良いって言ったんだもん!」

 

 俺は賭けに勝った。

 正確に言えば、勝ったのはソフィアなんだけど……俺もそこに付随して勝ったということになる。その代わり、ソフィアについて知る人間が増えてしまった。

 ──俺は迂闊だったのだろうか。

 

「──ヒロ! アキヒロ!」

 

「ん?」

 

「ねえ聞いてる!?」

 

「あ、ごめんなんだっけ?」

 

「ゆーごはんは何食べる? って聞いたの!」

 

「ええ? ……えーっと、干し肉がもうすぐ無くなりそうだからそこらへんのトカゲとか魚とか……多分焼くかな」

 

「なにいってるの!?」

 

「…………?」

 

 夕飯の話をしたのはそちらでは……? 

 

「カガミさん……流石にドン引きです」

 

「な、なんで!? これまでもそうだったのに今更か!?」

 

 ひどいハシゴ外しを食らった気分だった。何故この段階でいきなり人の意気をくじくようなことを言うんだ。

 ……まさか、さっきソフィアに冷気を使わせようとした一連のやり取りがダメだったのか!? 結果的には使ったのに!? 

 

「そこは関係ないです……というか、あそこに関しては本当に反省して欲しいです!」

 

「え」

 

「ネルさんの事、何も考えてないですね! 私、ちょっと頭に来てるんです!」

 

「……ごめんなさい」

 

「ごめんで済むなら人は罪を犯さないんです!」

 

「…………はい」

 

「今の話は! 一緒にご飯食べようっていう話じゃないですか!」

 

「それは……」

 

 言われてみれば、確かにそういう文脈にも繋げられたかもしれない。だけど最初の方を聞いてなかったからそうはならなかった。ならなかったんだよ。

 

「アキヒロは……私と一緒にゆーはんはヤダ?」

 

「いやいや! 全然良いよ!」

 

「ほんとお! やったあ!」

 

「おほほ……」

 

 しかしそうなると、気にかかることというのも当然ある。例えば、彼女の食べようとしている夕飯の値段だ。出会した店の格と言うやつから考えると、彼女の食事にかかる値段というのは俺のそれと比べて桁が数個違っていてもまるでおかしくなかった。

 

「──え? お店じゃないよ?」

 

「ん?」

 

「お家で食べるんだよ?」

 

「!?」

 

 チラリと頭に浮かんですぐに消去された選択肢が答えに入ってくるのは、完全な予想外だった。しかし、彼女の普段の食事とはどんなものなのか。

 

「え? えーと……あっ! 昨日はスカイドラゴンの蒸し焼きとキャロットウーマンの葉のサラダ! あとなんかのスープとよくわからないお菓子! あと──」

 

 途切れることなく食べた料理の名前が出てくる。

 だけどスカイドラゴンってレベル60超えのモンスターじゃなかったかな。そんなのを食べられるなんて、探索者かそれこそとんでもない大金持ちだけだ。

 やっぱこの子、すごいセレブなんじゃ……

 

「いっつも食べられないって言ってるのにたくさん出てくるんだけど……今日は4人だから食べ切れるね!」

 

「…………そうだな! じゃあ俺がたらふく食べてやる!」

 

「うん!」

 

 辿り着いたのは豪邸だった。しっかりとブロック塀で囲まれて、黒光りした表面はそういう仕上げなのかとてもツルツルする。少なくとも俺のボルダリング技術ではとても登ることはできそうにない。

 鉄格子の門は、商会の店と同じく探索者によって守られていた。

 

「ひ、ひええ……」

 

 ネルさんに関しては余りの大きさによろめいていた。

 

「マッシュ、イツカ、ただいまー!」

 

「おかえり〜」

 

「お嬢様が男連れて来た……しかもガキ……」

 

 意外とフランクな関係らしく、金持ちの警備という言葉から想像するほど恭しい態度ではなかった。敬意よりは親愛を感じる。

 1人に関しては俺に対して悪意に近い感情を向けていたけど。

 

「まあまあまあ! こんなにお客さんが!」

 

 俺と同年代くらいの婆さんが出てきて、コユキちゃんの元に駆け寄って来た。

 

「それで……この方が?」

 

「アキヒロ!」

 

「では、先日の──?」

 

 片手を向けて来た。

 そうなればもはや避けて通れないものがある。

 

 そう、挨拶だ。

 

「お初にお目にかかります。加賀美明宏と申します」

 

「お嬢様の教育係を賜っているシエラと申します。こちらこそお嬢様が大変お世話になったようで……本当にお若いんですね?」

 

 老眼鏡がきらりと光った。

 

「はは……ああ、失礼しました。こちらは目白ネルとソフィア・エメリッヒ、おそらく彼女のお父様からお話は軽く行っているのではと思いますが……」

 

「ええ、ええ、勿論でございます。それにしてもご友人……」

 

 涙がポロリ、ですか……出会った時の顔にもなんとなく合点が言った気がした。

 

「家に連れてくるような友達ができたのですね、お嬢様……はあ、どうしてこう歳を取ると涙脆くなるのですかね」

 

「や、やめてよおばあさま……」

 

「年が少々離れているのが玉に瑕でしょうか……旦那様もそこを気にされていました」

 

 気にされているで済んで良いレベルの顔と態度ではなかった気がするんですけど、どうなんですかね。

 

「娘を持つ父親というのは少しおかしくなってしまうものなんです。さっ、いつまでも外にいては冷えてしまいますからね、入りましょう。先ほどはそこまで寒くもなかった筈なのに……やたら冷えがきておりますね」

 

「…………ソフィア、気にしなくて良いからな」

 

「はい、大丈夫です」

 

 門を通るとまず迎えたのは広い庭。

 生前はこういうのと縁が遠かったから、何気に人生初かもしれない。

 

「良い匂いですね」

 

「こちらは天明山脈の麓で取れるイブルナイトローズです。春になると黄金に輝く薔薇を咲かせるんですよ」

 

「ほわああああ……! 私も、こんなところに嫁ぎたいよお……!」

 

 丁寧に整えられた植栽はバラや柑橘系の果樹など、香りアンド見栄え重視で女子2人はとても好意的だ。

 

 天明山脈とは我らが住う広大な大地の北側に聳える山脈である。見た感じで8000m級なのではと思うような雄大な山々で構成されたあの山脈を越えようとして戻って来たものはいないらしい。ドラゴンがあちらの方角から飛んでくるのは度々目撃されていて、ネグラがあると言われている。

 

「あそこから取ってきたのか……」

 

「こんなのただの草だよ。早く行こー?」

 

 コユキちゃんは『ただの草』になど興味はないらしい。少し興味があったので葉の形などを見ていたら、腕を取られた。早く行こうと腕を引くのに吊られてぐんぐんと進んでいく。

 ソフィア達を置いて行くほどに。

 

「ああ……ちょっと興味あったのに……」

 

「ふふん、もっと良いのがいっぱいあるもん!」

 

 どうやら、見せたくて見せたくて仕方がないものがあるらしい。ものすごく気に入られてしまったな、これは。

 

「あ、でも……おばあさま、どこの部屋に連れて行こうとしてたのかな」

 

「──客室に決まってるでしょ」

 

「……あれ、お姉ちゃん」

 

 お姉ちゃんと遭遇した。

 

「初めまして、加賀美明宏です」

 

「……はぁ」

 

 ため息つかれちゃった;;

 そんなに俺の挨拶な仕方ダメだった? ちゃんと膝曲げて目線合わせたのに……

 

「お姉ちゃん! 挨拶して!」

 

「うるさいな…………どうも」

 

「……むぅ! お父様に言ってやる!」

 

「勝手にすれば?」

 

 なんというか……すごく反抗期を感じます。

 

「せめて名前だけでも教えてもらえると嬉しいかな」

 

「……それで、私になんのメリットがあるんですか?」

 

「俺が将来偉い人になった時に何かあるかも」

 

「それってあなたが悪い人だったら逆にデメリットにしかならないですよね?」

 

「おお、そうだな! でも性悪説に従って生きてると心が荒んでくからあんまりお勧めしないかもな!」

 

「……私の勝手でしょ」

 

「いや、全くその通りで──どこ行くんだい?」

 

「…………」

 

「振られちった」

 

 お姉ちゃんは背を向けると、こちらを一顧だにせず庭を進んでいった。庭を進むだけで姿が見えなくなるってすごいよね……

 

「お姉ちゃんの名前は吹雪! 深山吹雪だよ!」

 

 兄弟姉妹と喧嘩するとこういうことが起こり得るから、みんなは気を付けようね。

 

 

 ──────

 

 

「あ、あの……」

 

「…………」

 

 ネルはむっつりと黙り込んでいる。

 客室に通されてしばらく待ちの時間になったが、改めて先ほどのことを思い出して不貞腐れていたのだ。

 

 土下座。

 賭ける。

 全ての責任を負う。

 

 いずれも軽々しい言葉ではない。

 それが発揮されるのは、カジノか大仕事の時のみだ。

 少なくとも子供が何かを行うときに発する類の言葉ではないし、子供にそんなことを言わせてはならない。

 

 だというのに、明宏は迷いもなくそれを実行しようとしあ。可愛い可愛い幼馴染も、家族も、全て失くすかもしれない選択肢を容易く選び取ろうとした。

 

 ネルの理解の外にある行動。彼は家族よりも、身近な人よりも、知り合ったばかりの女の子を優先したのだ。

 

「意味わかんない……」

 

「ネルさん……」

 

「……あの子、なんなの」

 

「そうですね……でも、大丈夫です!」

 

「え?」

 

「さっき反省するように言いましたからね!」

 

「…………そうだね!」

 

 叱られて反省するようなお行儀の良い人間であったならば、最初からあんなことはしないだろう。

 それでも、元気付けようとしてくれている心遣いが嬉しかった。

 

「それにしても、カガミくんは何してるんだろうね」

 

「男の人なので更に別部屋なんじゃないですか?」

 

「確かに……でも、コユキちゃんに連れられて行ってから一度でも顔見てないけど」

 

 コユキに手を引かれてイブルナイトローズの庭木を縫うように消えてしまったアキヒロ。躾係のシエラはため息を吐きつつも、楽しそうなコユキの様子に止めようとは思わなかったようでそのまま行かせてしまった。

 ソフィアとネルは彼女におとなしくついていき、一つの部屋に通された。

 

『寝室は更にわけますけど、取り敢えずここでお待ち下さいね』

 

「というか、ここに寝泊まりすることに決まっちゃった感じなんだね」

 

「実は私もあんまり実感出来てないです……」

 

「深山商会の娘と知り合うなんて、どんな豪運があったらそんなことになるんだか」

 

「……こんな良い布団で寝るなんて、久しぶりかも」

 

「…………ェ?」

 

 ぼそりとつぶやかれた言葉は聞き間違いかと思ったが、ソフィアは懐かしそうにベッドを撫でている。ベッドを構成するものは、布から中綿、木製の架台、枕に至るまで全てが一級品のように思えた。これで寝るのが久しぶりとは、どういうことか。

 

 尻込みして、結局聞くことはできなかった。

 

登場したキャラクター等の名簿的なものは必要か否か

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