【マンガ化】焼肉スコスコスコティッシュフォールド【進行中】 作:goldMg
それは、あまりにもストーリーライクで浮世離れしていた。なんだかんだで使いたくなるがどう考えてもネタにしかならない、使える人種が極めて限られた語尾。
『わ』
普通に生活していたらまず聞く機会のないソレが、この屋敷内では聞くことができるのだ。
「夫から話は聞いているわ。あなたがコユキちゃんの素晴らしさに気付いた男の子ね?」
「はい、そうです」
「それで……あなたね?不思議な女の子というのは」
「………」
ホワホワしている。
悪意というものをおおよそ感じさせない抑揚と、おっとりとした目つきが彼女の雰囲気というものを醸し出していた。
「私もお昼を一緒にいただいてもよろしいかしら?」
「奥様、本日は会席の予定があったはずでは?」
「急用だとかで帰ってしまわれたの」
「左様でございますか」
「……いいわよね?」
「ええ、勿論でございます」
「やった!」
ウキウキで部屋から出ていくと、幾分か落ち着いた服装になって戻ってきた。
……とてもおっきいですねえ!
「ふう、きつかった……あら、そういえば皆さんもいるんだったわ」
恥じらう姿は乙女の如し。
コユキちゃんと吹雪ちゃんを産んでもなお保たれる体型は、知り合いの母親をよく思い出させるものだった。
「おっきい……」
しかし、死んだ目で自分の胸を揉むのはやめていただきたい。男と違って、女の子は胸が大きい小さいで価値が変わるわけではないのだから。前提として、大きければ大きいほど良いというのは本当のことだけど――小さければ小さいほどそれもまた良い、というのが胸だ。
だから、というわけではないけど隣で胸を揉むのはやめてくれ?
「栄養状態……金……乳……無駄肉……」
不毛な詠唱を始めるな。
「改めまして自己紹介と参りましょうか。ご飯はそれからよ!……では私から!深山雪、深い山の雪で深山雪です。髪色と真逆なのがちょっと残念だけどお気に入りの名前よ!じゃあ次は吹雪ね!」
「もう言ってんじゃん」
「これは名指しであって紹介じゃないのよ?」
「分かってるよ……」
「ほら、ほら!」
「……深山吹雪です」
「うん!うん!」
「……終わり」
心底うんざりしたという表情で雪さんのワクワクを跳ね除けた。これ、反抗期というか普段からこのテンションでこられ過ぎて嫌になってるだけかも?
「もー……この子、最近ちょっと冷たいのよー……前はもっと可愛げがあったのに……」
この程度の反抗期なら、まだまだ可愛げがあるどころか可愛いと素直に表現することも可能なレベルだけど、身内になると確かに感じ方は変わるよな。
「私は深山小雪です!小さい雪です!」
「うんうん、それで?」
「え……ええ〜……明宏!」
ほいな。
「加賀美明宏です。加賀十万石の
「へー……よくわかんないけど良いと思うわ!」
よくわかんないなら褒めなくて良いよ。
「ソフィアエメリッヒです、ええと……」
そんな見られても他人の名前のことなんかわかりませんよ。ソフィアが智慧って意味だってことぐらいしか聞いたことない。エメリッヒに何か意味なんてあったっけ……そもそもカタカナの名前だと俺たちみたいな自己紹介できないっしょ。
「無難に好きなものとか言いな?」
「あ、はい。えーと……ちょっとお行儀悪いんですけど……食べながら色々と見て回るのが好き、かもです」
「ぱちぱちぱちぱち!」
「口で言うんですか……?」
やらなければならない気がした。
「ねえ!なんで私の時それやってくれなかったの!」
「コユキちゃんはお母さんがやってくれるじゃん」
「私も!わーたーしーも!」
「公衆の面前でそんな恥ずかしいことをしろっていうのかい?コユキちゃんは」
「いーいーかーら!」
「でももう自己紹介しちゃったじゃん……」
「じゃあもう一回する!深山小雪です!小粒の雪です!」
「パチパチパチパチ!」
「きゃっきゃっきゃっ!」
箸が転んでも笑うとはこのことか。
対してこの人は……
「目白ネルです、目が白いで目白です。ネルは特に意味はないです。貧乏です」
「あ、こらっ」
「だって本当のことだもーん」
「………すいません、ちょっと資本主義に飲み込まれたショックでおかしくなっちゃったみたいで……この人は行く当てのなかった俺たちを家に泊めてくれた人です」
「や、やめてよ……」
雪さんはしかしネルに大層感激したようで、口元を手で覆いながら近づいて来た。
「あなた、良い人なのね!」
「い、いや……そんな、別に……」
「困ってる人を見捨てずに助けるなんて、誰にでもできることじゃないわ!無関心から飛び出すのは何よりも勇気がいるのよ!」
「……ええ〜?そうですか〜?」
「そう!良いことをしたらちゃんと胸を張るのよ!」
バルンッ。
「胸を……張る……?」
ファスンッ。
「こう!」
バルンッ。
「……」
スンッ。
「しにたい」
「どうして!?」
ともかく、コユキちゃんたちのお母さんは大層愉快なお人だった。
――――――
「――!」
届いた食事はきっと、一品だけで加賀美家の食費1ヶ月分とかなんだろうと思わされるようなレベルだった。
火の妖精の爪を砕いて混ぜたドレッシングがかけられたサラダ。サラマンドラの尾肉の揚げ物。パンケーキに糖蜜をかけたデザートなどなど、不貞腐れていたネルも目を輝かせて手を伸ばし始めた。
「おいひー!」
「うふふ、楽しんでちょうだい」
「むぐ、むぐ、むぐ……ごくん。加賀美くんも食べなよ!」
食べてますよー。
「このお酒?も美味しい!」
シャンパンなんて初めて見たぞ。
しかも甘めで女性でも飲みやすい上物だ。
弱炭酸なこともあって肉に良く合うので、ネルさんがスイスイ飲んでいた。
「ぷはーっ!休日にこんなの飲めるなんてカガミくんのおかげねー!」
「叩かないでね、食べ辛いから」
「お堅いよー!さっきの挨拶も堅かったし、もったらふにさー!」
「もう酔ってんじゃん……」
「あ!サラダ食べないなら食べちゃおーっと!」
「良いですよ、食べても……でもお酒は一旦終わりね!」
「あー!手!手触った!私のこと好きなんでしょ!」
「だる……」
一番良くない酔い方してるよこの人。
「もぐもぐ……あれ、なんか建物揺れてない?」
揺れてるのはあんたの頭だ。
シャンパン飲み過ぎで酔っ払うとかあまりにも希少種すぎるだろ……
「あ〜、揺れてる〜」
「おっと」
「………すぅ」
「寝ちゃった」
――――――
「ごめんなさいね、あの人は忙しいから代わりに私が来たのよ」
食事を終えると、改めてきちんと話をする段取りになった。ネルさんはメイドさんに連れて行かれた。お風呂に入れてもらえるらしいので一安心だ。
寝ゲロの心配もないだろう。
「詳しい話を聞いておけって言われてるんだけど……誰から聞けば良いのかしら。ネルさんはもう寝ちゃってるし……カガミさん?それともソフィアさん?」
「ソフィア、話せるか?」
「……はい」
ソフィアは自分の身体の状態について話した。
その間、コユキちゃんとフブキちゃんは静かに話を聞いていたが、内容が信じられないのか目を見開いている。
落ち着いてるのはユキさんだけだ。
「そう……そんな事があるのね。あの人の答えも決まってるんじゃないかしら」
「そんなアイテムはない、と仰っていました。まさか目の前にいるのがみやま商会の現会長だとは思わなかったもので、失礼な質問をしてしまいました」
「いいのよ。自分から名乗らないのは気付いて驚いて欲しいだけなんだから」
意外とそこら辺はフラットに考えてくれるらしい。
「それよりも!」
雪さんはワクワクとした表情を見せた。何かを待ちきれないと、今にも立ち上がりそうな勢いだ。
「どんな力が使えるのかが知りたいわ!」
「どんな力?いや、それは……事前に伝わっていないのですか?」
何度も使わせるものではない、ということが伝わっていなかったのか。使う事で――使わなくてもソフィアの身体に負担がかかる異能なのだから、おいそれとさせるわけにはいかない。
「私はまだその力を見てないし……一応夫の代理として来ている以上は現状を正確に把握しないとじゃない?」
くそっ!思ったより正気だ!
……営業の力ではこれが限界だ!頼みましたよ生産チーム!
「ソフィア次第です」
「えっ」
「ソフィア、実際のところ異能を使うとどんな感じなんだ?寒くてたまらなくなるか?」
「……少しだけ」
「結構寒いか」
「………はい」
「厚着したらどうだ?」
「肌から冷えてくので……あんまり意味はないかな、と。普段であれば効果もあるんですけど、力をつかっちゃうとどうしても……」
やはり、厚着程度で抑えられるものではないらしい。そりゃそうだ。大気中の水分を即座に凍結させるほどの冷気が肉体から生じるんだから。
「それなら手はあるわ!」
「へ?」
「ソフィアさん、待っていてちょうだい!」
声高に、得意げに部屋を出ていった雪さんは、暫くすると手袋を持って帰ってきた。表面の色は毒々しいマダラ模様で、センスは悪い。
「これが手よ!」
「手袋ですか?」
「そう!ソフィアさん、着けてみて」
「え……でも、ダメになっちゃうかも……」
「いいからいいから!」
これが金持ち!
高そうなモノをダメにする可能性を気にしない!
「ダメになったら性能が低いということだから、問題ないわ」
「………」
それを聞いたソフィアは全然嬉しそうじゃなかった。
体良くテスターとして扱われてるようなもんだもんな……
「ほら、つけて!」
「じゃあ……失礼します………」
………だっっっっさ!
ソフィアの儚くて奥深かった印象が一気に金持ちの道楽趣味に変わってしまった。そのマダラ模様、やめないか?
「これは160セクター付近にあるハルノヒ火山に生息しているマダラツボミズチというモンスターの皮なのよ。レベルは45付近で、魔素に応じて温度を上昇させる力を持っているの」
火山に住んでるなら逆では?
「それがね。体温が低いと捕食者に見つかって食べられてしまうから、わざと体温を上げて隠れるんですって」
「どう?暖かい?」
「……わかりません」
「それなら冷気を放ってみてくれるかしら」
「…………」
不安なのか、こちらをじっと見つめてくる。本当はネルさんが良かったんだろうけどあの人もう寝ちゃってるからね……
「とりあえず……軽めにやってみようか。軽めとかできるの?」
「でき……ると思います。あんまり力をこめなきゃ良いってことですよね……?」
「そう」
「………!」
知らないけど頷いたら、ソフィアは目をギュッと閉じて、恐る恐ると手を前に向けた。
「!」
ジワジワと漏れていく冷気によってバスケットボールくらいの小さな氷霧が生み出され、ユキさんはその光景を見て動揺することなく手袋を観察している。
「――どう?」
「…………わかりません」
「………」
ソフィアの曖昧な表情に何かを思ったのか、無言で近付くと手袋に触れた。
「温かいわ。けど……その周囲は冷たいわね」
「………」
「どうやら……あなたの力でちゃんと温まりはするけど、あなたの手が冷たくて意味を成していないようね」
「ええと……」
「次はもっと強い力でやってみてくれるかしら」
更なる実験が始まった。
登場したキャラクター等の名簿的なものは必要か否か
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いる
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いらない