【マンガ化】焼肉スコスコスコティッシュフォールド【進行中】   作:goldMg

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17_腕、動きません!

「ごめんなさい! ごめんなさい! ごめんなさい!」

 

「うおお……!」

 

「そんなつもりなかったんです! 本当です! 本当なんです!」

 

「すげえな! これ!」

 

「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい!」

 

「右腕の感覚が全くねえ! 左腕はほぼねえ!」

 

「本当にごめんなさい!」

 

 ──異能は人の規格を超えた力だ。

 

 モンスターを倒しうるというというのは副次的な効果にすぎず、最も興味を持つべきは何故人間の体から氷だの衝撃波だのが出たり空を受けるようになるのかということ。

 肉体から離れたあとでも異能から発露された力は連続性を保ち、世界へ影響を与える。

 物理学とは全く異なる法則によるものであることは間違いなかった。

 

 俺はその力をもろに喰らってしまった。

 

「……ぐっ」

 

「うぁ……う゛っ……」

 

「大丈夫だ、大丈夫だからな」

 

 しかし、凄まじい痛みだ。

 氷漬けにされるというのはこんな感触なのか。カーボン冷凍状態にされた彼は全身でこの苦しみを味わっていたのかと思えば、幾分かマシな気もする。しかし、やはり痛い。

 腕の内部から針で刺されるようなピリピリとした感触が極大化されている。これは血管に異常が出ているということだろう。

 

「はぁっ……! くっ……!」

 

 まずいのは、腕には血管が走っているからこういうことになる(ピリピリする)わけで……いきなり血が止まったら体に変調をきたすのも……

 

「ぎっ、がぁぁっ!」

 

 やむなしだ。

 

「シエラ! 回復薬を!」

 

 暫くは焼け付くような感覚を全身で味わい、暫く経ってからいきなり痛みがなくなった。

 

「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ……ははは……」

 

 全身が汗びっしょりで、先ほど食べたばかりの食事を思いっきり撒き散らしていることにもようやく気がついた。痛みってやつはいつも突然にやってきて、『異世界とかマジ1発だから』って調子に乗ってる俺を叩きのめしてくれるんだ。

 手拭いで遠慮なく口元を拭ぐってもらい、水をいただき、そしてその元凶を見る。

 

「ソフィア……なかなか良い一撃だった!」

 

「……ごめんなさい」

 

「謝るな」

 

「…………」

 

「図々しく生きろ。お前がその力を手に入れたのはお前のせいじゃないんだから、それをどうやって使うかを考えるんだ。その過程のことなんて全部無視して良い」

 

「……ちょっと……部屋に戻らせてください」

 

「そうだな……深山さん」

 

 気まずそうに立ち尽くしていたユキさんに声をかけると、意図が分かったのかメイドさんを呼んでくれた。

 

「──申し訳ありません」

 

「はは……まさかこうなるとは」

 

 ユキさんは律儀にも頭を下げるが、被害は何も俺だけではない。仮にそうだとしたらピンポイントで俺を狙っているということになるけど、そんな人間が辛そうな顔で謝罪を繰り返すわけがないからな。

 

「……強力な異能だわ」

 

 凍ったのは室内全体だ。

 何故俺だけ腕が凍っているのかというと、入り口付近にいた深山一派は逃れたけどすぐ近くにいた俺は避けられなかったというだけのことで──ある一点から先、放射状に広がった範囲ではテーブルや窓ガラス、カーテン、食器に至るまであらゆるものの時が止まったように固まっていた。

 

「凍ったこと以外に身体に不調は無い? 何かして欲しい事があったら言って欲しいわ……」

 

 先ほどまで冷静にソフィアの異能の様子を吟味していたとは思えないほどしおらしい姿。とてもではないけど同一人物とは思い難い。

 

「俺は大丈夫です、頑丈なのが取り柄なので。それよりもソフィアが1人でどっか行かないように見張っててください」

 

「……そうするわね」

 

「まだうまく動かねえや……仕方ないな、今日はこのまま過ごすか」

 

 回復薬を使用しても強力な異能を喰らったことによる後遺症というのは生じるようで、右腕が動かない。左腕も上手くうごない。とはいえ凍っていたのは長時間じゃないから血栓とかはできていないと思う。放置すれば問題ないだろう。

 

 ──今日1日これからの時間をどう過ごしたものか。

 

「メイドがおりますわ。彼女たちにお任せになって?」

 

「あ、はい」

 

 看護師みたいなものと考えれば、特に違和感もなく受け入れる事ができた。しかし、何故若い子にしてしまったのか。小用を手伝ったくらいで顔を真っ赤にされるとすごく居た堪れないです。

 

「あ、あの……慣れてます……よね……?」

 

「いや、慣れてないです」

 

「でも! …………うう……」

 

「別に言いつけたりしないんで、できるところだけ手伝ってくれれば良いんですけど……左手頑張れば使えるようになってきたし」

 

「メ、メイドは言われた通りにご奉仕するのが仕事で……」

 

「俺のここ触れなんて言われてないでしょ」

 

「…………ひゃう」

 

 普通に考えて食事とか着替えとかだよね。なんで下の世話までしようとしてしまったん? ぶっ倒れてたとかならともかく……いきなりトイレ入ってきてびっくりしたわ。何か言う前にやっちゃうんだもん。よく分かってないからか撒き散らされたし……割と酷いな、こう考えると。

 

「あの……コユキ様とはどんなご関係なんですか?」

 

「……道端で知り合った。それだけだよ」

 

「へえ〜」

 

「聞かされてなかったの?」

 

「ご、ご家族の内々の話ですから一介のメイドにはとても……」

 

「聞いて良かったの?」

 

「はっ!?」

 

「んふふっ」

 

「どうしましょう! 私、クビですか!?」

 

「さあ〜」

 

「あわわわ……」

 

「冗談だよ。服を着替えたいから手伝ってもらっても?」

 

「あ! それならお風呂があります!」

 

「おお」

 

「あ──」

 

 視線がだんだんと下に下がっていく。

 この先に待ち受ける未来を想像して、想起して、ポップコーンのように弾けたのがありありと分かった。

 

「ここだけは自分で脱げるけど……それ以外を頼むよ」

 

「は、はい……」

 

「というか、もう少し歳が上のメイドさんはいないのか? お互いのためにも──」

 

「今日はみなさん非番です……」

 

「お、おう」

 

 それならば仕方ない。

 スッポンポンになって何とか腰布を巻いた。

 

「背中を流します!」

 

「お願いします」

 

 ちゃんと座れる風呂用の椅子があって俺は感動した! これが金持ちだよ! 川で水浴びをするのは文明人のやる事じゃない! なんで随一の文明人たる俺が毎日温かいシャワーとお風呂に入れないんだ! 流石におかしいだろ! 

 

「痛くないですか?」

 

「うん、ちょうど良いよ」

 

「筋肉付いてるんですね」

 

「筋トレしてるからな」

 

「筋トレ……ってなんですか?」

 

「筋力トレーニングだよ」

 

「何となく意味はわかりますけど……何をするんですか?」

 

「石を持ち上げたり、座って立つ動作を繰り返したり……まあ、筋肉に負荷をかけて大きくするんだよ」

 

「何でですか?」

 

「ヒョロガリだとかっこ悪いだろ?」

 

「旦那様はヒョロガリらしいです」

 

「おいおい、やめてくれよ。まるで俺が旦那様の悪口言ったみたいじゃないか」

 

「でこぼこしてて面白いですね、男の人の身体って」

 

「みんながみんなこうってわけじゃないぞ? 俺も結構頑張ってるんだから!」

 

 ペタペタと背筋から二の腕までを指が這い回る。流石に前は……ね? 

 

「ありがとう、あとは自分で洗えるよ」

 

「あ、はい! じゃあ、えっと……お着替えの用意をしておきますね!」

 

「頼みます」

 

 温めたらどうなるか分からないので、腕をつけないようにしてお湯に体を沈めた。

 

「ふぅ……アイテムはやっぱり有用だったか……まさか耐えきれないとは思わなかったけど」

 

 あの手袋はソフィアの力に耐えきれずに弾け飛んでしまった。まさかレベル45のモンスターですらとは……想定よりもずっとソフィアの状態は良くないのかもしれない。

 

 分が悪い。

 

 探索者が関わる問題は、いつだって俺1人の力じゃ何もできなかった。

 当然だ、なんて思わない。

 だけど物理的に俺の力の届かない段階で起きる出来事ってのは対処の方法が極めて限られてしまうのだ。

 

「コウキさんはちょうどいないし……」

 

 レベル88。

 人類の頂点に座す一級探索者たちの中でもトップ層の彼ならば、大抵のことは物理で解決できる。

 そんな四門光輝は引退した今でも商工会から力を貸して欲しいと頻繁に請われていた。だから、電話した時も全然出てくれなくてマジで役に立たない。

 あのモヒカン何してんだよ、その無駄にあげたレベルで娘の幼馴染を助けようとは思わないのか? 

 

「……まあ、負けないけど」

 

 牛を人類にもたらすリハーサルとしてはちょうどいい。小娘1人、俺が全力で助け切ってやろう。

 

「つっても……はぁ……運だけで何とかしてるからなあ……」

 

 正直、俺は幸運だ。

 ネルさんに出会って、深山家の邸宅にまで入り込めた。これが一歩間違えればソフィアと一緒に凍死してただろうからな。

 

「ふぁぁ〜……ねむ」

 

 なんだかんだで数日野宿してるから、こんな良い環境にいきなり放り込まれると一気に肉体の緊張が解けて欠伸が止まらない。

 溺死する間抜けを犯すわけにはいかないので上がると、タオルを持って待ち構えていた。

 

「ふ、拭きます……!」

 

「ふぁい」 

 

「……眠いんですか?」

 

「久しぶりに建物の中で過ごしてる気がする」

 

「?」

 

「最近野宿してたからさ、体も川で洗ってただけだし」

 

「ちょっと……何を言っているか意味が……わからないです」

 

「貧乏、金なし、宿なし」

 

「……そんな状態であの人を助けたんですか?」

 

「まだ助けてない」

 

 拭き終わった身体に衣服を纏った。流石メイドさん、水滴をしっかりと拭き取ってくれたな。

 

「助けてないっていうのは?」

 

「今は段ボールに入っていた犬に傘をあげたくらいだよ。飼い主を探したり、あるいはきちんと責任を持って飼うまでやって初めて助けたって言えるかな」

 

「……飼うんですか?」

 

「比喩だ、比喩」

 

 そんな顔で見ないでもらってもいいですかね。人間を飼うなんて、西の部族じゃないんだから……

 

「腕、お風呂でちょっとは良くなりました?」

 

「……誤差かな」

 

 多分何も変わってない。

 

「それなら、もう一度回復薬飲みます?」

 

「え? いいの? あれ高いじゃん」

 

「ここは深山家です!」

 

「……説得力あるな」

 

 でも、メイドの彼女が勝手にそんなことを決めていいのだろうか。備品を外部者に使用するのは緊急時ならともかく、時間が経てば治るだろうってのに……無駄に使ったってならない? 

 

「シエラさんに聞きに行きます」

 

「ああ、あの人やっぱりまとめ役なんだ」

 

「今はお連れの女性の部屋に行っているはずなので! ……一緒に行きます?」

 

「そうだな。やることないし」

 

 長い廊下を抜け、ネルさん(酔っ払い)が収容されている部屋の前に辿り着くと中から声が聞こえてきた。

 

登場したキャラクター等の名簿的なものは必要か否か

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