【マンガ化】焼肉スコスコスコティッシュフォールド【進行中】   作:goldMg

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21_学生の義務

『学校行かないとぶっ飛ばすぞ』

 

 1週間くらい街を探索していたらコウキさんがやってきて、そう言い渡された。なんでも商工会の本部に用事があったらしくて、途中で俺のことを感知して寄ったらしい。きもっ。

 

「あの人誰? めっちゃ怖かったんだけど……お父さん?」

 

「幼馴染の父親です」

 

「幼馴染のお父さんにぶっ飛ばされそうになってたんだ」

 

「そういう人なんで」

 

「……そうだよね、キミ学生だもんね。もう2週間くらいいるけど大丈夫なのかなってちょっと思ってたけどやっぱりダメだよね……学校行かないとダメだよ?」

 

「テストで点取れば何しても良くないか?」

 

「うわ、滲み出てる……ちなみに行くの?」

 

「ここで行かないって選択肢とったら強制的に連行されるだけなんで」

 

「あの格好、探索者だよね。そりゃあ力では勝てないか……」

 

「元ですけどね」

 

 商工会の中心にいる人間でも、元がつけば一級探索者を知らないなんてことがあるのか……いや、案外そうなのかもしれない。俺だってコウキさん以外の一級探索者は半分くらいしか覚えていない。変異の薄いコウキさんだと初見じゃ一級って見抜けないかもしれない。

 まあ、歩き方も見た目もただのチンピラにしか見えねーしな。

 

「ふーん……言っちゃ何だけど、レベル低そうだね」

 

「滅多なこと言わない方がいいと思いますよ」

 

「あっそ、ちなみに学校行くとしてソフィアちゃんは?」

 

「連れて行きますけど」

 

「え」

 

「はい?」

 

「学校に?」

 

「いや、入学してないところに連れてくわけないでしょ」

 

 俺の実家に決まってるじゃん。何で中学生の女の子を高校にわざわざ連れてくんだよ。

 

「お母さんたちは良いって言うの?」

 

「さあ」

 

 良いって言うまで話し続けるだけだからあんまり気にしてなかった。

 

「いつもはソフィアちゃんの意思が〜とか言うくせに今回は違うの?」

 

「このセクターばっかいても面白くないし、良いんじゃないですか?」

 

「あまりにも自己中心的過ぎると思うんだけど……深山さんのところにはなんて言うのよ」

 

「そのまんまです」

 

 雪さんにその話をすると面食らっていた。

 

「あなた、学校辞めてなかったの!?」

 

 どういう誤解をされているのかと思えば、もう学校に通うのは辞めたからソフィアを助ける時間があるものと思われていたらしい。人を馬鹿にするのは大概にしたほうがいい。授業に出ようが出まいがテストで点は取れる。それくらいの差が第一期と第二期の間には存在するんだ。

 

「まさか他人のために自分の学校生活を棒に振ろうとするような子だったなんて! それにテストの点が取れても取れなくても、友達を作るとか一緒に部活に入るとか、色々あるじゃない!」

 

「おお、そういう経験がおありなんですね」

 

「あるわ! なんたって私は学校にちゃんと通っていたもの! これでも昔は今よりも貧乏だったのよ!」

 

 今よりはっていう枕のせいであんまり信用できるセリフじゃなくなっちゃったな。

 

「…………もしかして学校で嫌なことでもあったの?」

 

「ないですね。みんな素直で良い子ですよ」

 

 ミツキの事もずっと見てられるし。

 

「じゃあなんでそこまでしてソフィアさんの事を助けようとするの? …………あなたの行動を否定しているわけじゃないわよ? あなたにとって何のメリットがあるのかわからないの」

 

「ああ、なるほど……」

 

「まさか……本当にメリットを考えずにやっているの?」

 

 なぜ固唾を飲むのか。そんな珍妙な答えが飛び出してくるとでも思っているのかね。

 

「メリットねえ」

 

「この1週間と少しの間、あなたを観察していたけど……楽しそうだったわ」

 

「楽しかったですから」

 

「…………不粋な詮索なのは分かっているわ」

 

「そう思うなら心にしまっておいて欲しかったなあ」

 

 何で出会う人みんなから怪しまれるんだろう……割と真人間の、しかもこの世界基準に寄せているはずなんだけど……やっぱり女の子といるから目立つのかな。

 

「教えて欲しいわ」

 

「……学校は楽しい、そんなことは通う前からわかりきっている事です。同じ年頃の子達と、同じ空間、同じ価値観、同じ時間を共有する──それが楽しくないわけがない。だけど……目の前で倒れている人間を放置して立ち去るのは気持ち悪いでしょう? 全然楽しくないでしょう」

 

「…………」

 

「俺の学校生活なんかより、目の前で倒れていた人を助ける方が大事じゃないですか? 放置して、無視を決め込むなんて……もちろん言い訳はいくらでもできます。時間が無いとか、他にやることがあるとかね? だけど……そんな事をしたら俺は顔向けできませんよ自分に対して」

 

 情けなくて、墓すら見にいけないだろう。

 

「自分に対して……」

 

「お前は何のためにこの世界に生まれたんだ? お前が楽しそうに笑っている裏で、1人の女の子が死んだぞ? って、自分が問いかけてくるじゃないですか。じゃあそれに胸を張って答えられるように頑張りましょうよ。況してやそれが可愛くて、ひとりぼっちの女の子なら尚更……助けたいと思うのは当然でしょう?」

 

「……」

 

 いつの間にか、口を挟む者はいなくなっていた。メイドも当主代理もネルさんも、庭師もソフィアも小鳥でさえも、邪魔をせずに聞いてくれているようだ。

 興が乗ってスルスルと言葉が出てくる。

 

「あの日、ソフィアを拾った事を俺は後悔していません。仮にその結果として何か大変なことが起きるとしても、そんなことは関係ない。だって……俺が助けたいと思ったのはソフィアなんだから」

 

 そう、彼女を拾った事を後悔してはいけない。

 落ちていた可能性を拾い上げて、それをまたポイ捨てするなんて……年寄りとしてあっちゃいけねえことだよ。

 

「世の中には必ず答えがある。助けられるのか助けられないのか、助けられるとしたらどうやって助ければいいのか……それはきっと、簡単な答えじゃないと思います。何せアイテム作りのプロが1週間あっても答えを探しきれないんだから。だけど──」

 

 魔素に関して俺は知識が浅い。アイテム作成の技術者たちはきっと、生半可な探索者よりもほど深い知識で魔素に対して向き合っている。そんな彼らが分からないというのだから、俺が一年かけてもロジックすら解けないだろう。

 

 そんなのは関係ない。

 

「助ける」

 

 諦めない。

 

「俺が助ける」

 

 諦める理由にはならない。

 

「彼女の未来を俺は見届けたい」

 

 なにせ俺1人の力ではなし得ないものだらけだから。

 

「その先に俺の夢があるんだ」

 

 それこそが、俺が人を助ける時の理由を構成する100%だ。

 

 

 ──────

 

 

「っす〜……なんか、語りすぎたあ?」

 

 (少年)は気まずそうに頭をかいていた。

 いつもに比べて上気しているようにも見える。話しすぎて息が上がった、という事ではないのは明らかだった。彼に対して話す事を要求したユキは返す言葉もなく口をパクパクとさせていたが、そんな彼女の代わりに口を開く者がいた。

 

「加賀美さん…………ううん、アキヒロさん……分かりません」

 

「?」

 

「あなたが何を言っているのかわかりません」

 

「あれっ、分かり辛かったか。まあいきなりだったし……分からなかったら忘れてくれてもいいぞ! 正直恥ずかしいし!」

 

「イヤです」

 

「どういう事なんですかね……」

 

「分からないけど、アキヒロさんが私のことを楽にしてくれなさそうなのは分かりました」

 

「ああ、うんそうだね……というか呼び方……」

 

「ダメですか?」

 

「名前までさん付けされるといよいよ距離遠いなって」

 

「遠いですよ。だって分からないんですもん」

 

「さびちー」

 

 少年はおどけるが、その一方でソフィアの表情を見て穏やかに笑ってもいた。

 そんな中、やっとこさユキが口を開く。

 

「鳥肌が立ったわ」

 

「ひどくない……?」

 

「良い意味でに決まっているじゃない」

 

「……うーん」

 

「私も、あなたの頭の中はさっぱりわからなかったわ」

 

「私も!」

 

 ここにきてネルも元気よく手を上げた。いよいよ『お前何なの?』という空気感をひしひしと感じ始めた少年は泣き真似をして同情を誘う。

 

「ひどい……そんなこと一々口に出さなくて良いのに……!」

 

「でも、ソフィアさんを助けたいという気持ちはちゃんと伝わってきたわ」

 

「それなら良いんですけど……」

 

「あなた、かっこいいわね!」

 

「!」

 

「お金は無いけど……すごくかっこいいわ!」

 

「こう……さっきから俺の評価が乱高下してて喜ぶに喜べないのなんなんだろうね……おっと」

 

 手を蛇のようにくねらせるアキヒロのもとへ、コユキが突っ込んできた。何気に彼女も話は聞いていたのだ。

 

「アキヒロ!」

 

「はい」

 

「アキヒロ! アキヒロ!」

 

「なんですか」

 

「アキヒロ!」

 

「なんですかって」

 

「私も何かする!」

 

「え?」

 

「私も何かしたい!」

 

「……ありがとう」

 

 暖かい気持ちが胸の中へ広がっていく。共感し、協働したいと申し出てくれる者がいる。その事実だけでやる気が溢れてくるようだった。

 

「だけど、気持ちだけ受け取っておく」

 

「……なんで?」

 

 少女の目からハイライトが失われた。

 

「こんな歳でその瞳を……なあ、コユキちゃんにはやることが沢山あるだろ?」

 

「…………」

 

「お勉強とか、友達と一緒に遊ぶとか、そういう普通のことをちゃんと熟せるようになったら手伝って欲しいな」

 

「自分だってガッコー行ってないくせに……」

 

「そう、その通り! 俺みたいなのとつるんでちゃダメってこと」

 

「なんで!」

 

「何でか分からないなら、尚更危ない事はしちゃダメ」

 

「…………」

 

 唇を尖らせても明宏の態度は変わらない。不満げな少女の頭を一度撫で、ソフィアを正面から見返した。

 

「ようやく助かりたいって思ったか?」

 

「……私が何を言ったって、あなたは助けるんでしょう?」

 

「そうだな」

 

「はぁ……それなら、私を助けてください」

 

「うん」

 

「この氷を……このチカラを……どうにかして下さい」

 

「そのつもりだ」

 

「…………お父さん達に会いたいです」

 

「それはネルさんが何とかしよう」

 

「ふふっ……」

 

「俺1人じゃできることなんてタカが知れてるんだよ。使えるものは何でも使わなきゃ」

 

「──そうやって、これまでにも誰かを助けてきたんですか?」

 

「そんな大層な感じじゃないな。やりたいようにやってるだけだ…………そう! 言うなれば俺の欲望と世の中の善の性質の向きが同じってだけ!」

 

 では、学校に行きましょう! 

 人助けの前に圧殺されちゃうんで! 

 

登場したキャラクター等の名簿的なものは必要か否か

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