【マンガ化】焼肉スコスコスコティッシュフォールド【進行中】 作:goldMg
「よう!」
教室に入ると全員がこちらを向いた。その中の1人、ニヤニヤと笑みを見せる少年が寄ってくる。
「アキヒロ久しぶりジャーン! 辞めるのかと思ったわ!」
「まさか! それよりも寂しくて泣いてなかったか? 誰か教えてくれよ」
「泣くわけねーだろ!」
「そうか」
「…………ちなみに何してたん? また狩猟?」
「いや、第1セクターに観光に行ってた」
「か、観光!? 第1セクター!? は!? ずっる! どういうことだよ!」
「ちょっと調べ物でな」
「ちょっとした調べ物で行くところじゃねーだろ! ふざけんなお前! 俺の心配返せよ!」
「お? やっぱ心配してたんじゃん」
クラスメイトたちは相変わらず、といった様子だ。俺が貧乏人なことは知っているのでちょくちょく狩猟やらで怪我をしていくと心配されるけど、遠出するとまた別の意味で盛り上がった。田舎モンは都会に憧れますからねえ。
「ねえお土産は! お土産ないの!?」
「アキヒロくん貧乏だからお土産は無理なんじゃない? なんか面白い話とか聞かせてよ!」
「貧乏だからは余計だな?」
「アキヒロ、また幼馴染来てるぞ。いいのか行かなくて」
「今はいいじゃん! どうせいつも話してるんだし! ねえ第1セクター!」
「ちょっ、やめっ、お前らっ、服に皺が!」
「へへっ、皺だらけにしてやれ」
「ぐへへ」
「良い体してるよね……」
「してる……」
揉みくちゃにされて服に皺がついたんですが! こんなの俺じゃなかったら不登校になりますよ!
「はい、おはようございます。今日も何のためにやるのかよくわからない朝の会を始めます。それでは──カガミくん!?」
「あ、はい」
「何でいるの!?」
「なんで……生徒だからです」
「ちょっとこっち来て!」
廊下にわざわざ連れ出されたが、壁越しにクラスメイト達が聞き耳を立てているのが分かる。
「何してたの!」
「第1セクターに行ってました」
「え? な、なんで……?」
「見聞を広めるために」
「何でいきなりこんなことしたの」
「若いうちじゃないと色々なものを見て回る時間や気力はなかなか湧いてこないし、旅行する習慣を付けるなも大切かな、と」
「…………確かに、そうかもだけど……勉強を放り出してまですることじゃないよね?」
「すみませんでした」
「…………」
何か言いたげだが、頭を下げた子供に対して追撃はためらわれるらしい。あまちゃんめ! すみませんでしたじゃ済まないよね、から反省文原稿用紙2枚提出ときて更に追加の課題まで出すのが正しい教育だ! 暴力でも可!
根が優しい人は教師には向いてないんだぜ!
「まあ、今後は気をつけてね」
「はい、
座り直すと、隣からちょいちょいと腕を突かれた。
「ねえ、ねえ、アキヒロくん!」
「ん?」
「第1セクターはどうだったか……! 私は、今、それが聞きたいよ……!」
「楽しかったぞ」
「美味しいものは……!?」
「いっぱいあった」
「食べた……!?」
「たくさん食べた」
「ふぉぉぉ……! じゃ、じゃあ有名人とかいた……!?」
「いたぞ」
「だ、誰……?」
「深山商会の一番偉い人」
「ひええ……深山商会って……深山商会って宝石商だよね……! 良いなあ、良いなあ、私も見てみたいなあ……お金持ちの人はやっぱりかっこいいドラゴンに乗って空のダンジョンすら飛び越えくのかなあ……!」
キラキラと瞳を輝かせる少女の想像の向こうにはきっと、詩人の語る世界が広がっているのだろう。
目眩く輝く黄金の日々。清き力と正しき意思にかたどられた世界の中で、邪悪なる王を打ち倒して遍く人々に平穏と健やかな日常の回帰をもたらす。
あるいは、虹の橋の向こうにあるという理想の王国で、千の夜すら撃ち落とす軍を従える最高の王に見初められる夢でも見ているのか。
「エリシィ〜、また妄想にハマってるのぉ?」
「も、妄想じゃないし……どこかに王子様はいるんだし……」
「そんなこと言ってないで現実見な〜、この前の小テストを思い出せ〜」
「…………」
惨たらしい往復ビンタだった。
あまりにもシュンとしてて可哀想すぎる。
可哀想は可愛いとは言うが、先ほどまでは輝いていた瞳が今やどんよりと曇ってしまった。口もへの字に曲がっている。
あんまりだ。
「世の中には色々なダンジョンがあるらしいから、そんな世界もあるかもな?」
「私は今、この瞬間にその世界に飛び込みたいの! うわーん!」
ダメだこりゃ。
「そういうのは自分からその世界に飛び込まないと……」
「良いよねアキヒロくんは学校をおサボりできる胆力と頭があって……私なんか毎日学校に来ててもこれですよ!」
細腕が手に載せた紙を机に叩きつけた。理想はバァン! ってなることだったんだろうに、ファサァ……と穏やかな風が一つ通り過ぎただけ。白日の元に晒されたものを摘んでみるとテストだった。
「……赤点取ってないんだからよくね?」
「いいよね頭良い人はそういうこと言えて!」
『エリシィさん静かにしなさい!』
「……くすん」
「ふふふ」
実に面白い。
──────
昼飯どき。
広い校内の一角でややお疲れ気味の顔で弁当を開いた少年は素朴な質問をぶつけてくる。
「なー、結局何で行ったの? 第1になんか用事あったんじゃないの?」
「用事って……なんで?」
「だってアッくんアレじゃん……お金が、あんまり……というか? だから、ただの観光で行くってなんか変っつーか」
そこまでは気付いたけど、そういうときは聞かない方がいい場合の方が多いことには気づけなかったみたいだな。まあ俺は本当にただの観光だったんだけど。
そう。
『だった』
もう、ただの観光じゃない。
しかし! 元々の目的は本当に観光だったので! 抜かりありません!
「本当に観光だとしたら……?」
「心の底から尊敬する。学校サボって旅行に行けるアッくんの神経を尊敬する」
「ははは、見習えよ」
「あんま舐めるな?」
「でも、大人になったらこうして旅行に行く時間すら取れないからな。本当におすすめだぞ」
「んな事言ったってお金だってかかるし……そもそも列車がモンスターに襲われるかもしれないじゃん?」
そういうリスクは確かにある。
過去、列車の運行時にモンスターからの襲撃で乗客が全滅した事故は100件ほどあった気がする。だけどそれもかつての話で、今は対策としてモンスターが嫌う匂い玉みたいなやつを載せているらしいから基本的に襲われることはない。
効果には限度があるので、たとえばドラゴンが急襲してきたらなすすべなくやられるとか、効果時間を超えて使うと逆にモンスターを寄せ付けることがあるとか、そういう事も時にはある。
しかし、歩いて移動するよりは万倍マシだ。
歩いて行ったら1時間も経たずにモンスターと遭遇からの肉塊エンドが待っている。これは体感なので実際にやったわけじゃないけど、街の近郊ですら動物からなりかけのクソ雑魚モンスターと出会えるのに、それが街の中間とかになればどうなるかなんて分かりきっている。
「それに第1って探索者もいっぱいいるんだろ? 絡まれたりしねーの?」
「俺に絡む理由がないだろ」
「いやまあそりゃそうだけどさ……どうなの?」
「ないよ。探索者は貧乏人に絡んでる暇なんてない」
「でもほら、探索者に腕切り落とされた事あるんだろ」
「それは──事情が事情だからな」
「…………実際どうなん? 四門さんと」
「お前さあ……せめて第1セクターの話がしたいのかミツキの話がしたいのか絞れよ」
「んな事言ったって気になるじゃん! なあ!?」
「……うお!?」
飯を食べていて気付かなかったが、いつの間にか後ろに
「お、お前ら飯食いながら何やってんだ……」
弁当をわざわざ持ってきて、俺たちの会話を盗み聞きしていたのだ。あまりの行儀の悪さにドン引きしてしまっても誰が咎められるだろう。
「楽しい話を2人だけで締めようとするお馬鹿さんがいると聞いて、ご飯なんか食べてる場合じゃないなって話し合いました!」
「話し合ったのはいい事だ。その対象が本当にどうでもいい事じゃなかったら手放しで褒めてた」
「いーじゃん! 褒めてくださいよ!」
「褒めるところがないっつってんだろ」
「ずるい! いつも美月ちゃんばっかり──ちょ、ちょっと!」
ヌイっとさらに割り込んできた。
「そんなのどうでもいいから、第1セクターについて話してもらいたいです」
「いや、聞いてたならさっきの通りで…………」
「私は概要じゃなくて、中身が知りたいんです」
「そうだよな……勉強好きだもんな……」
生がつくほど真面目で、いつも勉強頑張ってるの俺は見てるからね……? ついでにミツキにお勉強教えてあげて?
「そうじゃなくて……勉強は好きですけど、第1セクターの話なんて誰だって聞きたいに決まってるじゃないですか」
「行けばいいのに……」
みんな俺よりお金持ってるんだから。
「お母さんたちが許してくれるわけないじゃないですか!」
「ここまで列車使って来てるやつだっているだろ」
「それとコレとは話が別です!」
「……しょうがないねえ」
──────
「良いなあ……」
芝生に座って楽しげに賑わっている。その中心で椅子に座っている男の子は、至って落ち着いた様子で旅行先でのことを話していた。
『ちょうど霧垂になってさ、準備してねえから大変だったよ。荷物も大きいし』
『ちっさくすれば良いじゃん』
『野宿用の荷物持ってかないわけにはいかねえだろ』
『野宿したの!?』
とても楽しそうだ。
楽しそうだが、少女は見ているだけだった。
「はぁ……」
「ね、楽しそうだね」
「うん……いいなあ……」
「エリシィも混ざってくればいいじゃん」
「で、できないよそんなの……」
「奥ゆかしいこと」
いつもは瞳の鋭さのせいで仏頂面にすら見える真顔で過ごしているというのに、ああして人と話すときは穏やかで、柔和な笑みを浮かべる。
おもわずと、少女はため息を漏らした。
「はぁ〜…………!」
「うざっ。いいから混ざってこいっての」
「無理無理無理〜……だって、どうせ意味無いし……」
「まあそうだけど」
「そうだけどって言うな!」
「でも明らかだもん」
『…………』
木の影からじっとりと視線を向けている彼の幼馴染、四門美月。人とあまり話さず、話しかけても『おっ……』とか言うだけのよくわからない存在だが、彼と話す時だけは口数多くジェスチャーも増える。
こうして度々見に来ては、彼のことを監視しているのだ。
『むぅ……』
「むふふ……」
しかも彼はその重さに対して痛痒を覚えないようだ。一瞬だけ視線を飛ばして意味深な笑みを浮かべたりする事もあれば、迎えに行って何かを楽しそうに話している姿も見かけられる。付け入る隙の無い関係性がそこにはあった。
「でも、どうせなら話してくればいいじゃん。普通に話してくれるよ?」
「ま、まさか……むにっ」
抜け駆けをしたのか! と裏切りにあった気分で顔を上げれば、人差し指が頬に突き刺さった。
「ふぁに」
指が5本に増え、肩をぐわしと掴む。
「え、本当に何?」
「アキヒロくーん! この子も混ぜて〜!」
「!?」
『え? 混ぜる?』
「お話ししたいんだっもごご」
『話? なんかあったっけ』
わざわざこちらにやって来た。
「どしたん」
「──ほれ!」
「きゃっ!」
「のわっ」
背を突き飛ばされ、明宏に正面から突っ込んだ。巻き込んで倒れ込──
「危ないぞ? 人を押したら」
「…………!」
──まない。
彼女自身や友人の柔くて華奢な体とは違うゴツゴツとした身体。反射的に突き出した手に感じるのは、硬くて弾力のあるゴムに触れているような感触だった。
「に、逃げた……何がしたかったんだ……」
「えっ」
彼女の友人は背中を押したらとっとと退散してしまい、先ほどまで話をしていたクラスメイトたちの前で少女に抱きつかれた明宏はそっと小さな体を押し返した。
「大丈夫か?」
「大丈夫……です」
アイツめ〜! と内心で怒ってはいても、表に現れるのは公衆の面前で抱き付いてしまったことに対する羞恥。
「話があるんなら──」
「そ、そんな大したことじゃないよ! 私も第1セクターの話聞きたいなーって、ちょーっとだけ思ってただけだから! お、お構いなく!」
「うん? まあ聞きたいってんなら一緒に食べようぜ」
「…………はい」
「ははっ、なんで敬語なんだよ」
遠目にグッドサインだけが見えた。
登場したキャラクター等の名簿的なものは必要か否か
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いる
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いらない