【マンガ化】焼肉スコスコスコティッシュフォールド【進行中】   作:goldMg

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25_出現、絶対強者

 シットリと大気を濡らす霧が全て──そう、比喩誇張抜きに一帯の霧が全て振り払われた。何がそうしたのか。

 

「い、いつの間に……!?」

 

 風だ。最も身近で、あらゆるものに姿を変えることのできる風が霧を吹き飛ばしたのだ。

 ──赤くゆらめく瞳がとらえるのは三つ。

 

 二つは取るに足らぬ肉の塊。

 触れれば崩れる脆くて儚い弱者。固まって動かないのは、真の威というものに触れた故だと本能で理解した。

 

 残された一つこそ、この存在がわざわざ重い身体を持ち上げて奥地から足を運んだ理由だった。

 不浄。特定の時期に現れ、あらゆる動物を食らい尽くす。モンスターも獣も等しく口に入れ、見境なく食べる様は間違いなく最低最悪の生命体だった。

 レベルすら関係ない。他者の脅威を感じ取るほど複雑に思考が発達していないから、どんなモンスターだろうが構わず手を伸ばす。

 

『ハシュルル……』

 

 獲得したチカラ。

 四肢に生えた羽があればこそ、風と同じ速度で世界を駆けることができた。尾に芽生えた半身とは獲物の趣向で対立する事はあれど、我が身故に最後まで背く事はない。そもそも決定権はこちらにある。

 

 そして、領内にやってきた不届きものを誅すのは王の役割だ。獣は躊躇なくそれを実行しようと、本能に従って『チカラ』を貯め始めた。時折やってくる小さくて弱い奴らの言葉を借りるならば、『異能』。身の前に向かって力をじんわりと解放していく。

 

「ソフィア……逃げろ」

 

「!」

 

「ゆっくりと、だ」

 

「は、はい……」

 

 小さきものが何かをしようとしている。だが、それは戦意でも敵意でもない。単なる恐怖と逃走の意味のみが含まれていた。

 ならば何をする必要もない。

 興味を失った獣は視線を前に戻し──

 

『!』

 

 不浄の存在が姿を消していた。しかし、音はしなかった。どこに行ったのかと首をめぐらせたところで脚に違和感を覚える。

 

『……グルルルル』

 

 目をやれば、グジュグジュと不気味な音を立てながら脚が喰われていた。しかしその程度でバランスを崩す事はない。六本の脚の中で一本を失った程度で、自らの強さがどうにかなるものではなかった。

 

 獣は本来、痛みに対して実直に向き合う。脳内物質もなしに突然の痛みを受ければ叫びを上げるものだ。だが、この獣は違った。痛みをしっかりと感じながら逃げの体勢を取らずに怨敵を睨みつけている。

 痛みに狼狽える事なく行動するだけの知性を持っていた。

 そして、力も。

 

 ──ボッ。

 

 ガスが燃焼を開始した時のような音を伴ってそれは放たれた。自らの脚を巻き込んでアクフレを吹き飛ばし、大地を大きく陥没させるほどの威力は当然、周囲へ膨大な音を撒き散らし、衝撃を響かせる。

 例の肉塊二つの事など、まるで気にしていない。

 

 それもその筈、そもそも最初から気にしていないのだから。

 

『!』

 

 素早く肉体を変形させながら地面を移動する姿を捉えた獣は、いよいよ臨戦体制に入った。今の一撃で死滅しないという事は本腰を入れる必要があるという事なのだ。

 

『──』

 

 ただ、静かに浮かび上がった。

 敵を殲滅する為、一方的に上空からの爆撃を敢行しようというのだ。

 

 ──地面を突き破って、表層を吹き飛ばして、対峙するモンスターが現れた。

 

 先ほど吹き飛ばされた分などまるで関係ない程に大きく体を膨らませ、体のあちこちにイボを作っている。もはや別個体と呼んでもいいほどかけ離れた姿は明らかな戦闘形態だった。

 

『──』

 

『ウジュル』

 

 見合った両者はどちらが先に動くかを見切り合う西部決闘の様相を呈していた。その間にも流れていく霧はどんどんと濃くなり、肌身に触れて吸い付くと玉雫と化す。

 

 しかし、いつまでも膠着した状況を維持するわけはない。巻き起こった風が木々を揺らした瞬間、獣が動いた。

 

『グルァアッ!』

 

 

 ──────

 

 

「はぁ……はぁ……はぁ……きゃあっ!」

 

「こ、ここまで来れば……うぉあっ!?」

 

 衝撃が2人を吹き飛ばした。人間の体を持ち上げる風圧というのは、齎すダメージも並大抵のものではない。2人してしばらくのたうちまわり、先に起き上がったアキヒロがいまだに蹲っている少女を助け起こす。

 

「うう……」

 

「大丈夫か? 頭はぶつけてないな?」

 

「……」

 

 無言で頷く。ソフィアの顔をまじまじと見つめたアキヒロは、せっかく小川で綺麗にした顔がまた汚れてしまったと探索した。

 

「──つおっ!?」

 

「きゃっ!」

 

 そんなどうでもいい事を考えている間にも再び衝撃が身体を貫いていく。

 

「何がどうなってんだ! いくら危険だからって、流石にこんなのは初めてだぞ!」

 

「ど、ど、ど、どうしよ……どうしよ、どうしよ……」

 

 逃げてきたのと同じ方向から、まるで金属塊同士を巨人が振り回してぶつけているような重くて明快な波がやってくる。少女1人をパニックに陥らせるには十分な状況だ。

 そもそも、落ち着いているように見えるアキヒロとて仮に少女がいなければどう動くか考えあぐねるところだった。

 

「ソフィア、帰るぞ!」

 

「え、え、え」

 

「ほら!」

 

「いたっ……!」

 

「ごめん! いくぞ!」

 

「…………!」

 

 先ほどと同じように背を向けて逃げようとした2人は、しかし先ほどの逃走成功があまりにも幸運に象られていたものだったということをここにきて理解した。

 

『グギャアアア!!』

 

『…………!』

 

 まるで砲弾のように2人の前方に突っ込んできたのは、くんずほぐれつ絡み合っている化け物2匹。狼の肉体に鷹の頭、蛇の尾を持つ怪物は口から怪光線を放っていた。自らの身体にへばりつくゲル状のモンスターをこそぎ落とすように放つが、首根っこを柔らかく包み込まれてあらぬ方向へ首を向けられる。

 当然、ビームが四方に撒き散らされた。

 

「きゃあああああ!」

 

「…………っっ!!」

 

『────ギャアアア!』

 

 軽く直撃しただけで、人が数人でやっと腕を回せるほど育った陽樹が消し飛ぶ威力。その物的熱量もまた凄まじく、ソフィアを庇ったアキヒロの右頬からジリジリという音が。

 

「ぐあっ……!」

 

「ひっ!? あ、アキヒロさん……ほっぺたが……」

 

「っ……!」

 

 まだまだ暴走は止まらない。アクフレはイボを拡大延長させて無数の棘を生やし、無色透明のウニとなった。その棘が突き刺す対象は獣──いやさ、グリフィンと呼ばれる超級のモンスターだった。

 ドラゴンと並ぶ有名な存在であり、アキヒロも見ただけでそれとわかる。想像の姿と少しだけ違うのは、翼を持たないことか。その代わりに羽根が脚から生えている。

 羽ばたくよりもよほど効率よく、空を滑るように飛べるグリフィンは今、身体にまとわりつくヘドロを剥ぎ取ろうと苦戦していた。

 

『ガウッ! ギャウッ! ──!!』

 

 噛みつき、爪を立て、怪光線を放つ。

 しかしそれでも離れない。

 毛皮を溶かし、鱗を溶かし、少しずつ血が滲み出している。

 

「か、怪獣大決戦め!」

 

「…………なんだか変な気が……」

 

「変? …………!」

 

 彼女の感じた違和感は間違いではなかった。

 グリフィンは肉体を溶かされても即座に回復し、また溶かされ、その繰り返しの中で少しずつアクフレの身体が大きくなっていた。グリフィンの身体を取り込んでいるからだろうか。

 

「あのままじゃ、あっちの透明なのが勝つんじゃ……」

 

「そうか! 逃げるぞ!」

 

 どっちが勝ってもこの場にいれば碌な目に遭わないのは確定的だった。だからと言って逃げられるかは、また別問題だが。

 

「うおおっ!?」

 

 どったんばったんともんどり打つモンスターどものせいで地面が豆腐のように捲れ返り、2人は足を取られて走れない。突き出た岩やメコメコに凹んだ土、そして砕けた木があちこちに転がって霧にも負けず焼け焦げている。

 動こうにも、高速で不規則に動く眼前の怪物どもを前にしてどう動けばいいのかなどまるで予想がつかなかった。

 

「こんなの……どうすりゃ……」

 

 限界の二文字が頭に浮かぶ。

 サラリーマンを勤め上げたからといって、生物的に強くなれるわけではない。異常な事態に対してある程度の精神状態を保つ事はできてもそこから先を見出すのはまた別の力なのだ。

 

「…………いや、違う」

 

 コウキに助けを求めることはできない。魔素の入り乱れる空間において端末は使えなくなってしまう。しかし、だからといって直ぐ様諦めるのは許せない。こんな無為に、何も成さず、夕飯を取りに行っただけで死ぬなどと──男のプライドは許さなかった。

 

「腹が減った」

 

「え?」

 

 こんな時に何を言っているのか、とやや引き気味の視線を無視して指差す。

 

「?」

 

 その先にいるのは血みどろのグリフィン。

 

「援護……しよう」

 

「!?」

 

 それを聞いたソフィアは、無意識のうちに後ろへ下がっていた。

 理解ができない。

 モンスターを援護するという言葉は、主語と述語の関係が成立しているように思えなかった。

 

「あの様子……再生力が落ちている。つまり放っておけば、ソフィアの見立て通りにあのグリフィンは負けるってことだ…………うおあっ!」

 

 またも、衝撃で吹っ飛ばされた。

 

「いちち……この感じ、ただ逃げてもあんまり意味はないだろうな」

 

「に、逃げてもないのになんでそんな事がわかるんですか!」

 

「気付かないか? あの水玉、ちょくちょく分身っぽいのをあたりに飛ばしてるんだ」

 

「!」

 

 ソフィアが目を凝らすと、確かにアクフレの肉体の端っこからポコンと小さな個体が抜け出していたを可愛らしくポヨポヨ動いている。しかしあれに取り込まれたら最期、持っているナイフだけがその場に取り残される事だろう。

 

「あんなのがもっと増えてみろ、俺んちの食料事情はおしまいだ」

 

「で、でも、どうするんですか」

 

「…………それなあ」

 

「ええ!?」

 

 まさかの答えに、ソフィアは思わずアキヒロの顔を覗き込んだ。

 

 

登場したキャラクター等の名簿的なものは必要か否か

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