【マンガ化】焼肉スコスコスコティッシュフォールド【進行中】   作:goldMg

385 / 571
26_腹の虫と草の虫

「聞いたこともありません! モンスターを援護なんて!」

 

「そりゃねえだろ」

 

 何せ、モンスターと人は捕食者被捕食者ということで相容れない間柄だ。それに加えてレベル差が存在する二つの生命体同士において、無思慮に全力のふれあいを行えば低レベル側の肉体が容易く崩れるという物理的障壁が存在する。人間であれば調節できる事は広く知られているが、モンスターがそのようなことをするのかはアキヒロの預かり知るところではない。

 

「方法もありません!」

 

「……都合のいい想像だけど、アクフレはおそらく水分99%なんじゃないかな」

 

「はい?」

 

「クラゲみたいなもんで、肉体を構成しているほぼ全てが水な可能性はあると思うんだ。霧季にしか出てこないし……だから、なんとかしてあの水分を吹き飛ばせば──」

 

 それはしかし、彼の言った通りの都合のいい想像と厨二病的観測の合わさったものでしかなかった。どこかから現れた2体の強力なモンスター。まともに相手取る事ができるのはそれこそ探索者だけだ。

 

『ギィヤアアアア!』

 

 蛇が睨んだ部分──その瞳から放たれる灰色の光が当たった物体が石になり変わり、ボロボロと風化して崩れていく。光のくせに視認できるほどの速度なのは、その実体が光子で構成された実際の光ではないということか。

 

「隠れろ!」

 

 援護しろと言ったその口で隠れろと言う。

 手を引っ張られソフィアは目の前の少年のことを、支離滅裂で、なんて分を弁えていないんだと見つめていた。

 

「巨大な爆弾があれば有効打になりそうだな……それか電子レンジ? 分子加速の異能なんてのは聞いたことねえなあ……この世界の人間がそもそも分子レベルの話すら理解してねえだろうもんな。それよりはやっぱり燃やし尽くした方が確実か? くさタイプとかでんきタイプってやつは効くのか? コウキさんはなんか言ってたっけ……」

 

 変貌した世界を説明するに当たってほぼワンセットとして語られるものの一つに含まれるのが異能だ。

 

 異能というのは、窮地に追い込まれた探索者が発現させることが多いということは知られている。従って、彼らが持つ能力というのはのタイミングで必要な──あるいはそのタイミングで持っていれば事態を打開できたはずの力になることが多いのだ。

 

 発現するものとしないものの差については商工会も活発に研究を行っているが、いかんせんかつてのように学問を体系化する為の機械機器が損なわれて久しい。民間レベルでの解釈の方が進んでいるというのが現在だ。

 異能を発現しやすい職業である探索者が一般に忌避されているというのもその流れを助長しているだろう。

 

 小〜高において異能という項目に触れる機会は少なく、知名度の割に極めて浅い学問だった。

 

 アキヒロもそんな異能について知っている事は僅かに限られるが、そのバリエーションに思考を巡らす事はできた。インターネットを媒体としてさまざまな妄想空想の世界を見聞きすることができた彼は、それ故にこの世界の人間よりもよほどオカルティックな力について深い造詣を有しているという自信を持っていた。

 

「水が固まっているってのはなんだ? タンパク質かなんかで固定してるのか、それとも一時的にヒエッヒエになってるのか? 魔素がなんかやってるのか? ……いや、それは当たり前か」

 

「……アキヒロさん?」

 

 ソフィアはそれを理解できる人間ではない。半笑いで呟き始めた少年へと純粋な疑念の瞳を向けていた。

 

『──!』

 

 肉体の破壊と再生がひっきりなしだ。グリフィンの血肉を取り込んだゲル状生命体の身体は元の無色透明を失い、赤色半透明に変わっている。

 このままいけば真っ赤に染まるだろう。

 

「こ、このままじゃもう直ぐ……援護なんて……さっき自分で言ってたじゃないですか! 万全の状態と知識で臨まなきゃやってられないって!」

 

「そうだな」

 

 道中、すっ転ぶソフィアを助け起こしながらそんな偉そうなことをほざいていたのだ。

 

「ならせめて、商工会に行きましょうよ! そこで討伐の要請をしましょうよ!」

 

 必死にだってなる。目の前の少年は自分を助けてくれると言ってくれたのに、同じ口で自殺しようなどと嘯くのだから。

 そこにあるのは、ただひたすらに生きたいという意志だった。

 

「うん……ソフィア、君は正しい」

 

「それなら!」

 

「だけど、正しさじゃ何もできないよ」

 

 ビームが空を飛び、怪物が空を飛び、分裂したアクフレが飛び跳ねる。分裂した肉体は今や意志を持ってグリフィンに殺到していた。

 天変地異よりもよほど悍ましく、先に待ち受ける未来が憂いを帯びていくのに──少女は声を荒げ、少年はソレを穏やかな顔で流した。

 

「何ならできるんですか!?」

 

 怒りに満ちていた。出会って初めて見せるその表情を見て、アキヒロはどこか感慨深そうに続ける。

 

「寄り道しなきゃ」

 

「もう何言ってるか全然わかりません! 寄り道ってなんですか!」

 

「幹から別れて、主枝から更に枝分かれして、全然関係ないことをしてこそ人生ってやつだ」

 

「人生の話!? 今、ここで人生の話ですか!?」

 

「全ての道はローマに通ずとも言う通り──」

 

「言いません!」

 

 状況はその間にも動く。

 

『──シャアッ!』

 

 蛇たる尾の一撃が、グリフィンの体にへばりついていたものをやっとこさ弾き飛ばした。

 

 ──大きく揺れながら空中を吹き飛ぶゼリー。

 

 獣は敵を眺めるばかりではない。血を身体中から滴らせながら今一度の大疾走、振り上げた腕の先に生え揃った凶器が粉微塵に切り刻んだ。

 

「おおっ!? あそこから逆転したのか!」

 

 千を超えて万に至るであろう細切れに至らしめ、多細胞動物であれば細胞ごとに切り分けられてしまったのではというほどになったモンスターはその身を風に流されて消え去るはずだった。だが、唯一残された箇所が一つ。

 

 魔石。

 

 非常に強度が高く、安定性の高いソレは明確に攻撃されていなかった。周囲にはいまだに小型のアクフレがひしめく中でも本能なのか、魔石に鼻を近付けて匂いを嗅いでいる。

 

「──今がチャンスだな!」

 

「援護ですか!?」

 

「逃げる!」

 

「なぁっ!?」

 

 言っていることがコロコロと変わる。

 なにがしたいのか、本格的に少女には理解できなくなっていた。

 

 

 ──────

 

 

 ガヤガヤと騒がしい酒場。

 商工会に備え付けられた酒場というものは常に探索者が誰かしらいて、酒を呑んでいる。あるいは肉を、あるいは魚を、あるいは女を侍らすのもアリだ。ともかく彼らは金、酒、肉──そして自らの武勇伝が好きなのだ。

 夜も半ば、仕事を終わらせた探索者たちがグダグダとやっているところに、突然激しい音が鳴り響く。

 

 扉を勢いよく開け放った音だ。

 場の空気を乱すような入り方をしてきた頓珍漢のツラを拝もうと全員が視線を向けると、少年少女が走り込んできていた。

 

「はぁ……はぁ……はぁ……」

 

 肩で息をしているのを見た探索者たちは2人が低レベル、あるいは素人であることを理解した。レベルが上がるほど、単純な体力に関しても人外の領域に至る探索者という人種は、こんな街中で息を切らすことなど中々ないのだから。

 

「ふぅ……」

 

 そして、いち早く息を整えた少年は自分を見る探索者たちに怪訝な目を向けながらも受付にまっすぐ向かう。

 

「ママはどしたー?」

 

 ヤジの声を飛ばしてしまうのも無理はない。面白そうなものを見つけたら近寄るのが彼らなのだ。二つ三つとヤジを受けた少年は受付嬢の前までやってきてから立ち止まり、少し考え込んだ。

 受付嬢はそんな姿にやや戸惑いつつも歓迎する。

 

「いらっしゃい?」

 

「…………」

 

 少年は、少女が追い付いてきたらやっと声を出した。

 

「街の近郊にグリフィンとアクフレが現れた! 二体は戦闘中だ! グリフィンは劣勢で、アクフレは数を増やしている!」

 

「!」

 

 その発言は、探索者達を臨戦体制に持ち込むのに十分な内容だった。誰もが立ち上がり、もはやヤジを投げようなどという者はいない。

 

「それ、本当!?」

 

「本当です」

 

「どこか教えて!」

 

「『宵の森』の西端、瓢箪型の泉の近くです」

 

「……わかった!」

 

 それを聞いた当直の職員達は慌ただしく駆け回る。

 少年は一仕事終えたと満足げの顔を浮かべることすらなく、少女の肩に手を置いた。

 

「悪いな、言ってることあちこち変わって」

 

「本当ですよ! なんなんですかもう! ……そもそもアキヒロさんの夕飯取ってないですよ!?」

 

「もういいよ、逆にお腹減ってないわ」

 

「じゃあその音はなんですか」

 

 グキュルルル、と音を発する少年の腹。これで腹が減ってないは無理があると、その場の誰もが頷いた。

 

「どうするよ、森戻ってもう一回チャレンジすっか? あのバケモンどもがいる中で」

 

「む、むりです!」

 

「俺も無理だよ」

 

「…………」

 

「もうあれだよ。違う場所でバッタ取って食うから」

 

「せ、せめて木の実で……」

 

「種類も知らずに食べたら死ぬかもしれないだろ。バッタなら何度か食べたしいけるいける」

 

「…………」

 

「あ、ダメだ! 明日の飯がねえ! ……っかー、やっべえなあ…………はぁぁ……アカネにブチギレられるわ」

 

 ソフィアは呆れる以外の行動を取ることができなかった。今日の飯より明日の妹のご機嫌とは。

 

「おい坊主」

 

「?」

 

 それは、先ほどヤジを飛ばしてきた探索者のうちの1人だった。

 

「腹減ってんのか?」

 

「……ん? これ…………ああ、お構いなく」

 

「え──」

 

 興味すらなく、外に視線を向けたアキヒロは商工会を出て行った。呆気に取られたソフィアは一瞬置いて行かれかけ、慌てて追い付く。空を見上げる彼に対してやや語気を強めた

 

「い、今の、奢ってくれるとかそういうんじゃないんですか!?」

 

「さあ」

 

「ご飯を食べられたかもしれないのに……」

 

「そうかもな」

 

「……アキヒロさん?」

 

 様子がおかしい。

 何かに意識を向けているようだった。

 

「空気が……乾いてる」

 

「え?」

 

「これ、普通なのか……?」

 

「…………!」

 

 腹の虫が、決して開けぬ筈の霧がなくなった空に放たれた。

 

登場したキャラクター等の名簿的なものは必要か否か

  • いる
  • いらない
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。