【マンガ化】焼肉スコスコスコティッシュフォールド【進行中】 作:goldMg
「流石に、疲れたか……」
「あ…………うう……」
アキヒロは道端に座り込んでいる。空腹の具合が体に与えている負担が無視できないものになっていた。
そんな彼をなんとか励ましたいが、彼の分まで夕飯を食べたのはソフィア自身なのだ。その身で『元気出して!』なんて言えるわけがない。オロオロと落ち着きなく彼の周囲を歩くばかりで、何もできずにいることしかできなかった。
当然、アキヒロは俯いたままで本格的に元気がなくなっていく。
そして元気がないまま、指先がわずかに動いた。
「ソフィア……」
「あ、は、はいっ」
「一直線じゃ、ダメなんだ」
「え?」
「世界は……社会は、そんな簡単じゃないんだ」
「な、なにが、ですか」
「足りないんだよ……」
「…………」
「力が……足りないんだ」
魔王に取引でも持ちかけられたらそのまま承諾しそうな雰囲気だ。
「よくわからないですけど……お腹が空いてるってことでいいですか?」
「いいよ……」
「あ!」
「?」
「あの、第1セクターに来た時に持っていた干し肉はないんですか!?」
「あんなのもうとっくにないよ」
「うう〜……」
「はぁ……よいしょっと…………バッタビュッフェ行くか〜」
「…………で、でも! 何かおかしいですよ! 危ないかも!」
「せやかて」
食べなければそもそも明日が保たないだろう。
「貧乏暇なしって、よく言ったもんだよ本当……」
「バッタ……」
「都会ではバッタなんて食べる機会ないか?」
「ないです」
「こっちじゃ割と食べるぞ。今のうちに慣れといた方がいいかもな」
「え゛っ」
かくして彼らのバッタ探しが始まった。
草原に行けばバッタなんぞなんぼでもいる。それはもうなんぼでもいる。
「う、うひやああああ!」
「すごく……大きいです」
「取って! 取ってください! ひいいい!」
手足をばたつかせるソフィアの背中には成人男性の前腕くらいの全長のバッタがひっついている。太く鋭い棘が足に生え、一際鋭い爪が服の繊維に引っかかって振り払うことができない。
「アキヒロさん!」
「でかいなあ」
「アキヒロさん!」
「うん……ちょっとこれは予想外だ」
「い、いいいいま予想外って言いました!?」
「いつもはもうちょい小さいんだけど……なんか変だな」
バッタが食べられるのはある程度ミニマムなサイズである事が確約されているからで、これが『僕はおっきな虫です!』と主張するようなサイズになれば話は変わる。そもそもどこをどうやって食えばいいのかという問題がある。ただでさえ美味しくないバッタなのに、特大バッタの肉体など焼いても似てもどこが美味いのか分からない。
「とりあえずとってください!」
「はい」
しかし、草食なのは間違いないようだ。2人を見ても群がってくることはなく、ソフィアの身体の飛び付いたのも跳ねた瞬間に偶々そこにいたからだ。
「結構ガッチリ掴んでるな」
「あ、ちょっと待ってください! 丁寧にやってくれないと服が破れちゃうかも……」
「うーん……えい」
「…………今、変な音が」
「気にすんなって」
「ポキポキ聞こえるんですけど……枝を折っているみたいな音が……」
「気にしたら負けだ」
「まだ背中に棘の感触があるような……」
「はい、終わり──う?」
アキヒロの瞳が微妙に揺れ、しゃがみ込んだその顔色はお世辞にもいいとは言えなかった。
「──大丈夫ですか?!」
「ああ……少しグラっときただけだ。地震かもな」
「…………私がやります!」
まさかのスルー。
「なにを?」
「動物を取ります!」
「……ソフィア、危ないから──あ、おい! ……はぁ……くそ……」
まさかのスルー。
動物を取るということの意味を分かっているのかとアキヒロが投げた質問を無視してソフィアは草むらを進んで行った。
追いかけるために立ちあがったところで、昼から何も食べていない状態ではマトモに動けるわけもない。少しずつ足跡を踏み締めていくのが限界だった。
「──はい!」
しかし追い付くことなど視野に入る前──数分も経たぬうちに、凍りついた鳥を抱えて持って来た。目を白黒させるアキヒロに対して、ソフィアは興奮気味で身振り手振りをする。
「あの! 鳥がこうバーって飛んでいたので、出来るかなって思って! 手からビューンって飛ばしたんです! そしたらできました!」
「…………すごいな」
彼女の発言から判断するに、鳥は空を飛んでいたらしい。明宏の知る限り、動いている物体に対して何かをぶつけるというのは極めて難易度の高いことだ。アーチェリーで百発百中だとしても、動体に対してはそううまくいかないだろう。
「凄いですか!? 私、凄いですか!?」
「普通に尊敬する」
「やたっ!」
「……ソフィア…………体は、大丈夫か?」
異能を使用したということ。
それはつまり制御しきれない異能の力を外に向けて放つということで、身体には負担がかかるはずだ。実際、ソフィアの頬が少しだけ凍りついている。人間であれば凍傷をおこすような状態だが彼女はそれを我慢していた。
「頬……」
「ふふ、それよりもご飯を食べないとですよ」
「…………ははは」
力なく笑う。
だがそれは間違いなく笑いであり、一本取られたということの証左だ。また一つ距離が縮まったような気がした2人の間柄。こんな危険な場所にいるのにも関わらず、穏やかな時間が流れている。
「──帰ろうか」
「は──きゃっ!?」
ずぐんと。
腹の底にまで響く衝撃が一つ。
「な、なにこれ……」
「…………どうやら……霧の消失は……はぁ……やっぱり、あの二体が……あるいは、どちらかが、関係してたみたいだな」
「なんでですか?」
「今……衝撃が来た瞬間……さらに空気が渇いた」
「…………敏感なんですね」
「はっはっは……エジプトぐらい乾けば流石にわかる」
「ふぇっ?」
どこへ、と問いたくなるほどに世界が渇いている。唇を触れればカサリという感触があり、ソフィアは思わず保湿剤を探した。
「これが……あのモンスターたちの仕業なんですか?」
「…………」
もうグロッキーで、声すらまともに出ない。
「ああっ! あと2匹あるんで、一緒に持って帰ってください! 早く帰りましょう!」
「き、鬼畜だな……結構……」
──────
すでに嫁と長女が寝ているというのに、
そんなエリックにソフィアは本日の戦果を披露した。
「おお、こりゃあ綺麗に取ったねえ…………ん? …………ほ、本当に綺麗だね」
刺し傷などがまるでなかった。
「ふぅ…………ソフィアが頑張ったんだ」
「キミは何もしてないのかい?」
「……ハハッ! ↑」
「やれやれ」
ともあれ、鳥の肉だ。
ジューシーでおいしい、カロリーの取れるお肉。
「……へへっ…………」
そう、取って終わりではない。
生えている羽をむしる作業が待っている。慣れているとはいえ空腹で限界のアキヒロは不気味な笑いを口から漏らしながら毟っていく。
その背姿は見ているものの同情を誘う程には哀愁が漂っていた。
「僕がやるから休んどきなよ」
「…………頼む」
「ソフィアくんも疲れているだろう? お腹が空いているんじゃなければ、お風呂に入ってから寝なさい」
「えと……失礼します」
しかし、こんな深夜に温かいお風呂など期待できる家ではないので冷水がソフィアを待っていた。
「ひぃぃ……!」
半泣きで水浴びをした少女は一旦アキヒロの様子を見に行った。確かに疲れているがご飯はちゃんと食べていたし、アキヒロにおんぶされて運ばれる場面あったのでそこまでなのだ。
では、疲労と空腹の中で頑張ったで賞くらいなら貰えそうな少年は何をしているか。
父親が羽をむしる横で、とある努力をしていた。その姿を見たソフィアは歪みそうになった口元と笑いそうになった心を正す。
「ア、アキヒロさーん……」
「う゛っ」
この男、半目で耐えている。ソフィアの声にはかろうじて反応したが、今にも意識が穏やかな波底に沈みそうだった。しかし、そうはさせぬと肩を揺らす。
「アキヒロさん、アキヒロさん」
「…………」
「お風呂空いてますよ?」
「…………」
「…………えいっ」
「うっ」
声の可愛さの割にはスナップのよく効いたビンタが炸裂した。エリックも何事かと顔を上げるが、振り抜いた手を見てまた視線を下に戻す。
「あ……」
ソフィアはソフィアで思ったよりも威力が出てしまい、そっと手を体の横に戻した。
「な、なんだ……?」
少年は疲れ目を開けてソフィアのことを見たが、その瞳はやはり焦点が定まらない。今にも落ちそうだ。
「冷水浴びてきてください」
「…………おお」
もったりと腰を上げ、風呂場に向かったアキヒロ。
『──おああああ!』
「ふふ」
ソフィアが使った影響で相当に冷えている風呂場と水を寝ぼけ眼の人間が使えばあんな声だって出るというものだ。
「ふぅ……なかなか、手間のかかる作業だよね」
「っ!」
黙々と羽をむしっていたエリックは、ようやく作業を終えたのか汚れた手を洗っている。背を向けたまま声を投げかけてきた。
「さあ、ソフィアくんはもう寝なさい」
「あ……」
「それとも……僕と少し話でもするかい?」
「……」
エリックは再び椅子に座り、ソフィアにも勧めた。
「そうだね……何の話をしようかな…………うん、キミの話がいいか」
「私の……」
「アキヒロから聞いたよ、氷の異能が暴走状態にあると。大変だったね」
水たまりくらい浅い話から始まった。
「あまり詳しいことは聞いてないんだけど……アキヒロがキミを拾った、ということでいいんだよね?」
「はい」
「キミはこう思っているだろう。なぜ彼は私を助けたんだろう、と」
「はい」
「彼は物事に理屈をつけたがる。それは生まれた時からそうで……僕にもその理由は定かじゃない」
過去の火傷痕か、爛れた左頬を隠しもせずにエリックは風呂場の方をじっと見つめた。
「
ソフィアは少しだけエリックに対する印象値を下げた。
「正直、キミを助けたのはアケミの血だと思うよ」
「そうなんですか?」
ソフィアは明美の顔を思い浮かべた。料理の作り方を教えてもらう間、快活に笑いながら丁寧に教えてくれた。ダメなところはダメ、良いところはいいとハッキリ物言いをするタイプで、気を遣われるよりよほど楽だった。
彼女の血。
「彼女も、人助けをせずにはいられないタイプなんだ」
「…………」
理屈っぽいのに、理由もなく人を助ける。
そんな矛盾した人間ということだろうか。
しかし、言わなければならないことが一つ。
話の腰を折ることにはなるけれども。
「あの──」
「?」
こんなタイミングだからこそ。
「アキヒロさんを巻き込んでしまって、ごめんなさい」
それだけは言わないといけないと思った。そして、エリックやアケミらがダメだと言うならば消えようと考えていた。いいや、許すわけがないから消えなければならないだろう。2人とも、家族に対する愛を内心に秘めているはずなのだから。
わかっていても冷たい予感が胸の内を流れていった。
「ああ、うん。許すよ」
「…………えっ」
しかし返答はあっさりだった。軽い笑みを浮かべながら、なんてことでもないというようにソフィアを認めた。
「そもそも……彼が自分で決めたことだ。僕が何と言っても意味なんてない」
「……それって、少し冷たくないですか?」
「彼が望んでいるのさ」
ソフィアは違和感を感じた。
「言いたいことはわかるよ。変じゃないかってね?」
「はい」
「ハッキリ言うね……でも、これでも20年近く一緒にいるからね。ある程度は関係性だって掴めるんだよ」
しかし、変なものは変だ。
「なんだか息子だって思ってないみたいな……」
「それは……ハズレだね。彼は紛れもなく僕の息子だ」
「息子なのに彼って言うし……」
「…………これはオフレコなんだけどね。それこそ、誰にも言ったことないんだけど…………僕は彼に期待しているんだ」
「……何をですか?」
オフレコの意味がわからないことをスルーして、ソフィアは問いかけた。ソフィアだって親が子供に期待するのはある意味では当たり前だとわかっている。だけど、エリックが言っていることは少し違う気がした。
「ふむ……」
エリックはやや気まずそうに左脚をさする。
しかし、それを口に出すことは躊躇わなかった。
「僕をいつか助けてくれないかなって、そういう期待だよ」
「!」
具体性に欠けた物言いであるにも関わらず、ソフィアはエリックが言っていることが何となく理解できた気がした。自身も同じだからだろうか。
「まあ、だから……単純な親子の関係性とも言い切れない複雑な関係なのさ、僕たちは」
「…………」
「変だろう? だけど、どこの家族にだって秘密はあるものさ。キミの家族にも、ね」
「そう……ですね」
「ソフィアくん、キミの事もきっとそこに答えがあるよ」
「……!」
ドタドタと足音が聞こえてきた。
どうやら風呂から出たアキヒロが動き回っているようだ。そして近づいて来る足音は扉の前で止まることなしに、勢いよく扉を開けた。
「服がねえ……!」
「…………ひゃあっ!?」
「あのさあ……」
登場したキャラクター等の名簿的なものは必要か否か
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いる
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いらない