【マンガ化】焼肉スコスコスコティッシュフォールド【進行中】 作:goldMg
「──稲妻よ!」
ルクレシアが振り上げた槍の穂先を中心に生じた散弾が、大気の持つ絶縁能力を完全に破壊しながらカクカクとした動きを高速で繰り返して進んでいく。狙われたのは特有の肉体を持つモンスター、アクフレ。
霧の季節に乗じて現れてゆっくりと地面を這う、通常のモンスターとは違う成り立ちの存在。動植物が魔素を吸収して生じるのが常識におけるモンスターであり、その姿は元の生命体から離れつつも一部を残したものとなる。
だが、このアクフレには生命らしさというものがまるで感じられなかった。
稲妻。
電気。
物質を構成する要素である電子の動きであり、強烈な電圧を伴って放射されれば細胞を破壊し、ショックにより心臓すら止める。
「こいつ!」
そんなものを喰らったアクフレは、水蒸気らしき白い煙を上げたもののダメージは今ひとつだった。
「やっぱ切るか!」
大回しに槍を構え、重量級を引っ張り上げる釣り人のような踏ん張りで斜めに切り上げた。引っ掛かりを覚えながらも刃は通り抜けることに成功し、止まることなく腕を動かす。
「っしゃあ! 1ヤリ!」
「──槍だけにってか!」
「死ね」
通りざまにくだらない親父ギャグを放ったパーティーメンバーを冷たくあしらうが、魔石を拾おうとした女は違和感から手を引っ込めた。
「なんだろ…………うわっ!?」
彼女が手を引くと同時、切り払って地面にベシャリと落ちていた水色のヘドロが勢いよく魔石に集積し始めた。すぐさま形が元通りになり、先ほどと全く同じ大きさのアクフレがその場に現れる。
「……小賢しい!」
先ほどは敢えて切らなかった魔石も含めて両断すると、ブルブルと情けなく体を震わせながら今度こそ地面のシミと消えた。
「クソの役にも立たねえな!」
あまりにも汚すぎる暴言と反吐をそのままシミに投げ付ける。
「コイツもそういう感じかよ!」
「おい! コイツ魔石ぶっ壊さねえとダメだ!」
「分かってる! 今やった!」
「……おお」
「ウルフは?」
「消沈って感じだ」
「使えねえな……」
あとで慰めてやるか、と斜め上に視線を飛ばす。しかし、ほのぼのしているように見える彼らの周囲は実際のところ阿鼻叫喚になっていた。
「だ、だすげっ……!」
「うわああああ! 手が……手が……!」
彼女があっさり討伐したのと同程度のサイズであるアクフレはそこかしこにいる。そして彼女らのパーティーとは違い、相対した3級探索者達は苦戦している。
刃が通らない。
メイスで押し潰せない。
腕を掴まれ、中に引き摺り込まれそうになり、複数体に囲まれて串刺しにされそうになる。
易々と武器を振るう者とそうでない者の差がはっきりと戦果に現れていた。
「ったく、本当にしょうがねえなあ」
「ほら、助けに行くぞ」
「はぁ〜……足手纏いがよお!」
気怠げに槍を担ぎなおして地面を蹴った。土を足型に捲り上げると、空気抵抗をなるたけ受けないように低くした姿勢で駆け抜ける。
「──!」
顔面をゲルに包まれ、圧力でミシミシと音を鳴らして潰されそうな探索者目掛けて槍を振るった。
「ぶはあ! ……げほぉっ! おえっ! ……はぁ……はぁ……」
「どけ!」
「うげっ」
乱暴に足でどかされた探索者の背中の下には、綺麗な断面を見せる魔石が一つ。
「あっ!」
「私のに決まってんだろ」
男は思わず拾おうとしたが、ヒョイっと取り上げられた。
「助けてもらった挙句に魔石までもらえるなんて、そんな都合いい話あると思ってんのか?」
「うるせえ! あと少しでやれたんだ!」
「…………バカが」
相手にしていられないと、つむじ風だけを残した。
「た、たすかった……!」
「うおっ、おっぱい」
「あれがうちのエースです、か」
「良いよなあ……あのピチ肌で40手前とか信じられねえよ……」
「レベルの暴力ってやつだな」
有象無象は反応も有象無象であり、それゆえに3級止まりなのだ。女は効率よく探索者を助けつつ魔石を集め、反対をぐるっと回ってきたメンバーと合流した。
「厄介だな……どんだけいるかわかりゃしねえ」
体躯に見合わぬ巨大なハンマーを担いだ男──アオキは兜の下からくぐもった声を響かせ、また1匹、分を弁えずに突っ込んできたアクフレを魔石ごと粉微塵に砕いた。
アオキの一撃には、ルクレシアの放つ槍の一撃とは違って繊細さのかけらも見られない。一撃を放つたびに反作用で体が浮き上がり、代わりに地面は大きく陥没する。彼が武器を振るった箇所は、見ればすぐに分かった。
「おい、ちゃんと魔石集めろよ」
「ふん……こんな小ぶり集めて何になる」
「金になるだろ!」
「ここで稼ごうとは思わんな。せめてグリフィンと戦いたかった」
「バトルジャンキーめ……」
「これを見て戦おうと思わない人間にはイチモツが──なかったな」
「ぶっ飛ばすぞ」
2人が振り返った先。
そこには異様な光景が広がっていた。
「一体何があればこんな風になるんだ?」
彫像のように。
戦闘の一場面だけを切り抜いたかのように。
相対していた2体は絶命していた。
アクフレの巨大な魔石にはヒビが入り、うねり上げる冬の海のような造形のまま固まっていた。
ヒビの原因であるグリフィンの噛みつき。夥しい量の血を流したせいかどこかほっそりとして見える肉感はしかし、最期の瞬間まで後ろ脚を地面についていることでむしろ強者の証明にすらなっている。
グリフィンの絶命の直接的な原因であろう、その肉体と心臓を貫通した透明なランスが象徴的にその場に聳えていた。
「はぁ……」
ウルフと呼ばれた男は、その彫像を前にして腰を落としていた。メンバー2人がアクフレを掃討する前からこれであり、駆けつけた割には何の行動も起こしていない。
「美しい……」
彼は感動していた。
激しい戦いの末に強者として死んだモンスターを眼前にして、胸の内から打ち震えていたのだ。震えをそのまま自らの手元に目を落とし、二つの剣を強く握りしめ、ぎゅっと目を瞑る。
「──ばか!」
「いってえ……何だよ、邪魔すんなよ……せっかく浸ってたのに……」
何が痛いか。ぼやくリーダーのすぐ背後に迫っていたアクフレを切り伏せた女は、あまりの迂闊さに後頭部を叩いたのだ。
「浸るなら帰ってからにしろ!」
「見ながら浸るのがいいんだろうが」
「ちっ……これだから芸術家気取りは」
「その気取りについてきたのは誰だったぁぁぁぁがぁぁぁぁあ!」
「誰のせいでこんなところまできてると思ってんだ……!」
「肩がああああああ! ごめんなさい! ごめんなさい!」
この男、元々は吟遊詩人だったのだ。それがひょんなことからモンスターと戦う羽目になり、ここに来るまでに至っていた。そしてルクレシアは、吟遊詩人だった男にふら〜っと付いてきてしまった女の子(当時)だった。世界を知らず、外には何があるのかすら認識しようともせず、ただ、美しい言葉を語る美しい男に惹かれて着いていっただけだった。
カッコつけたがり。
女たらし。
使う言葉が一々やかましい。
カッコいい武器じゃないと使わない。
戦い方に美学がある。
とにかくクセが強い男と一緒に行動してみると、さまざまな欠点が見えてくる。美辞麗句を並び立てて人を集めていた時は、綺麗な顔とそのカリスマ性しか見えなかったというのに──近付くほど、その人間臭さを隠さずに彼女に見せつけるようになった。
夜遅くまで詩を考えているせいで、起きるのは昼前。しかも部屋の中はぐちゃぐちゃで美しさなどどこにもない。隣室に泊まらせられた彼女は毎夜、ウルフの呻き声を聞いていた。
「あーあ……ナタネちゃん……」
「ちっ…………死ね」
「な、なんてストレートな罵倒! リーダーに向ける言葉とは思えないぞルクレシア!」
「普通に死んだほうがいいと思っただけだよ」
「ガーン!? ショック!」
大仰にのけぞると、両肩を落として剣を二本とも納める。
「はぁ……面白いことねえかなあ」
「何だよ面白いことって」
「世界がひっくり返るような事が向こうからコロコロってやってこないかなって……探索者の話聞いて書こうにも、ココだと大したやついないじゃん」
ウルフ的には、自分より弱い奴の話など聞いてもなんのインスピレーションも湧き上がってこなかった。
「1級探索者にコネとかあっただろ」
「あったと言っても、まともに会話ができないんじゃなあ……せめて話が通じる奴だろ」
「そんなこと言ってるから何も書けないんだな」
「ルクレシアさん!?」
最近はスランプでいい感じの詩が書けていない──というのは本人視点からもそうなのだが、それを彼女に指摘されるというのはかなりショックだった。
「昔は道を歩く人を見ただけで思いついてたじゃん」
「…………」
「あーあ、カッコワル」
「!」
「約束したのにな」
「ぐぬぬぬぬぬぬ!」
男は、今にも爆発しそうな勢いで震えていた。
そして、ちゃんと爆発した。
「うおおおおお!」
「ええ……」
「見てろよおおおおお!」
クールさなどどこにもない。
全力で走って帰っていった。
「いや、まずは仕事しろよ……」
「お前が焚き付けたせいだろうが。ちゃんとあいつの分まで仕事しろ」
「はぁ〜……しょうがねえなあ」
「しょうがねえで許してるからいつまでも治らねんだろ」
「なんか言ったか!?」
「はいはい、怖いでちゅね〜」
緩んだ空気だとしても、強者のいなくなった場にて彼らは最強だった。
登場したキャラクター等の名簿的なものは必要か否か
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いる
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いらない