【マンガ化】焼肉スコスコスコティッシュフォールド【進行中】 作:goldMg
「ソフィア」
ニコニコと笑う明宏は誰がどう見ても機嫌が良かった。
「な、なんでしょう」
底知れぬ不気味さ。
なぜ笑っているだけなのにこれほどまでに嫌な予感がするのだろうと、年がほど近い少年に対して抱くようなものではない感情がソフィアの胸のうちに湧き上がった。
ソフィアが起きた時にはすでに学校に行っていたアキヒロが帰ってきて、一緒に夕飯を食べようというので外で食べていた。
「グリフィンとアクフレは倒されたらしいぞ」
「あ、そうなんですね」
「そうじゃなきゃ学校行けないしな」
「そっか……確かにそうかも」
「そんで、列車も使えるって事だしちょっと遠出しようと思ってて」
そのまま話を続けようとするアキヒロだったが、そこでストップが入った。
「あの、話の前に一つだけ質問いいですか?」
「はい何でしょう」
「……何でほっぺた腫れてるんですか?」
アキヒロの左頬に真っ赤な紅葉がついていた。誰かに全力でビンタされたことを象徴するような赤さだが、その誰かというのがソフィアには分からなかった。何せこちらにきて間もない。
「ああ、これ? これは……名誉の負傷というか、コラテラルダメージだな」
「?」
「ほいで──」
要領を得ない回答だと首を捻ったが、肝心のアキヒロはそれで十分だと思ったのかさらに話を進めようとする。
流石に今の説明だけでは何も分からないと、一つの予想を口にした。
「あの……幼馴染の子にビンタされたんですか?」
「そう」
「…………」
もしかして自分はものすごく悪いことをしているんじゃないかという予感がソフィアのシックスセンスに宿った。冷や汗が背筋を流れる感触を感じながら次の質問をする。
「私、お邪魔ですか?」
「なんで? そんなことないぞ。ソフィアがいつまでいてくれてもいい」
──ああ、この人はダメだ。
ソフィアは何となく、目の前の男の『男性としての』性質というものを理解した気がした。初恋もまだだが、それでも加賀美明弘という男は何かが欠けていると思ったのだ。
「遠出……でしたね」
「うん。そこで残念なお知らせがあって……キミを連れて行くことはできないんだ」
「気にしないでいーです」
本当に心の底からどうでも良かった。
彼に着いていくと、またわちゃわちゃとした事態に巻き込まれそうな気がした。夕飯を取りに行っただけで二級モンスターと出くわすようなのは、一度きりで十分だ。
「そうか! それは良かった! 実は俺の財布はこう見みえてもカツカツでな! 行きたいって言われたらどうしようかと思ってたんだ!」
誰がどう見てもカツカツだが、いつ出発するのだろう。
「明日の朝だ」
「……が、学校は?」
「…………」
ソフィアのそれは当然の反応だったが、アキヒロは顔を見つめ返した。顔を見て、首筋を見て、だんだんと降りていく視線に恥ずかしくなったソフィアは身を縮こまらせる。しかしアキヒロは真面目に手を差し出した。
「ふむ……手を」
「? …………ひゃっ!?」
言われるがまま手を握ると、思いの外シッカリと握られた。突然の荒々しさにドキドキしていたが、対するアキヒロは険しい顔をやめない。
「……むっ」
そして、彼の手の表皮が音を立てて凍りついていく。
「!?」
慌てて振り払ったソフィアは、信じられない気持ちで彼の顔を見た。彼はうまく動かない自分の手を見つめ、苦痛に身を歪ませていた。
「な、なにしてるんですか!」
夜だというのにソフィアは大きな声を出してしまった。当然家族がやってきて、何が起きたのかを把握する。そこからはアキヒロに対する呆れとお小言が始まるのだった。
何故こんなことをしただの、ソフィアのトラウマになったらどうするだの、身を重んじてはいるもののそれよりソフィアに気を遣った怒りの方が大きかった。
主に怒っているのはアケミだ。
「──これに懲りたら変なことはしないこと!」
「ああ」
最後にコツンと額を小突いてアケミはその場を去った。アキヒロはグーパーと手を動かすと、気まずそうに縮こまっているソフィアに顔を向けた。
「ソフィア」
「……」
「あまり無理をするもんじゃない」
それは穏やかながら確かに叱責の意図を含んでいた。自分がバカなことをしたという前置きなどどうでもいいというように、今度はソフィアの肩に手を置く。
「さ、触らないで!」
当然こうなる。
ソフィアは最早、誰かと触れ合うことすら許されない身体なのだと強く自覚してしまったのだ。
「そうだ、キミは人と触れ合う事ができない。強靭な肉体を持つ探索者ですら、キミの能力の前では凍り付いてしまうだろう。低温に対する抵抗を獲得しているなら何とかなるのかも知れないけど……それは健全じゃない」
「っ…………」
「手に入れたばかりの道だけど……兵は拙速を尊ぶからな」
──────
「よし……」
荷物は少なめだ。
今回は野宿をする気もない。
多分あの家なら泊めてくれるだろう。
ダメだったら雑魚寝でいいや、敷地の隅っこで寝るくらいならモンスターも何も出ないはずだしな。
というか、断られるはずがない……はず。
うん、ないと思う。
「い、いってらっしゃい……?」
どんな顔をすればいいのか分からないソフィアの行ってらっしゃいは非常に価値のあるものだった。……いっときでも、彼女の顔が笑顔で満ちてくれますように。
『うおおおおお!』
うるさい。
街の中心部に来たけどなんかうるさい。具体的には、町で一番お高い宿の一角からやかましい声が聞こえてくる。俺は道歩いてるだけだからいいけど、隣に泊まってる人は地獄だろこれ。
「なんですこれ」
「ん? おお……俺もよくわかんねえんだけど、なんか詩人だか探索者だかが明け方から叫んでるんだとよ」
「…………」
「お仲間さんも止めねえらしいしよ……これだから探索者は……」
懐古厨と話をしたら少しだけ情報が集まったけど、どうやら複数人で構成された吟遊詩人か探索者のお友達会で盛り上がって1人だけ永遠に奇声を発しているらしい。
「こわ……」
こんな街には1秒たりとも長居していられないのでさっさと駅に向かおう、そうしよう。
『──なんか感じるぞ!』
「…………」
窓がばん! と開けられ、衆目が一気に集まる。ただでさえうるさくて人が集まっていたところだったので、ミュージカルの一場面みたいになってしまった。
『そこ征く若者!』
どこに向けているのかすら分からない言葉を民主駅投げかけ、大仰に手のひらを見せつけた。シンプルに怖い。詩人ってなんであんなに自分を演出できるわけ?
『暫し待たれい!』
「行くか……」
『逃げるな!』
「!?」
独り言に反応された。
探索者の身体能力と知覚能力がぶっ壊れているというのは嫌ってほど思い知らされてるので、思い違いとかじゃなくて間違いなく俺の言葉に反応していた。
「若人! いいところに来た!」
美麗な顔が間近へ距離を詰めてきて白い歯を見せた。
「我が名はウルフ、キミに少し話を……お…………お?」
「…………」
「待ちたまえ!」
「遠慮します」
「まあ待て! 俺は2級探索者だ! 逃げられると思うな!」
おいふざけんな、忙しいんだよ。
「感じる……感じるぞ!」
「なんですか」
「決めた! キミに着いて行こう!」
「はあ!?」
本当に意味がわからない。
誰ですかあなたは。
──────
「ふむ……」
「…………」
「…………」
知らん3人組と一緒に列車に乗ることになった。ウルフと名乗った男は3人パーティーのリーダーだったので、2人は道連れになる形となったようだ。不機嫌そうに唇を尖らせる女と、兜を被ったままの男が仲間。
女の取り合いでギスギスしてそう。
「アンタは……誰?」
こっちのセリフだって言ってやりたいところだけど、相手は意思のある熊やブルドーザーだと思った方がいいな。慎重にいこう。
「加賀美明宏です、そちらは?」
「ルクレシア。こいつはアオキ」
「アオキ……」
鎧武者の名前はアオキというらしい。
何だか親近感の湧く名前だ。よくお世話になった気がする。
「そんで……何で私たちはこのガキンチョに同行させられてるわけ?」
「勿論、センセーショナルを感じたからだ」
「またわけわからないこと言って……」
「一緒にいれば良い詩が書けそうなんだ。いいだろう?」
「つっても支部的にはあんま嬉しくなさそうだったけどな……いきなり2級が減るのはやっぱきちーんだろ」
「そんなことは知ったことではない! 重要なのは、彼から強い波動を感じたということだ!」
何だかよくわからない主張が繰り広げられていた。そこに俺の意思の介在する余地はなく、一方的に話が進んでいく。なんならリーダーの意思のみで話が進んでいるので他2人に関しても置いてけぼりだ。
「このガキの顔見ろよ! めっちゃ嫌そうじゃねえか!」
「ふん、違うな。俺の顔に見惚れているだけだ」
「んなわけねえだろ!」
確かに顔は綺麗だ。2級探索者という話だし、若作りはバッチリなのだろう。だけど子供的な可愛らしさの残った顔じゃないから俺のストライクゾーンからは少々……
「微妙な顔してるぞ」
「どうなんだ少年、俺のご尊顔は」
実際のところ、彼の今の顔から遡ると──
「もう少し若かったら……具体的には15歳くらいだったら……」
「おいウルフ、なんかこいつ気持ち悪いぞ!」
「き、気持ち悪い!? そっちが聞いてきたんじゃないですか!」
「いやいやいや! 今のはどう考えても気持ち悪い! だってウルフが15歳だったら普通に……その、あれだろ?」
何で顔を赤らめてるんだ……?
「だ、だって……男でもいけるんだろ? その……そういうのよくわかんねーけど、なんかアレじゃん」
「待て。いや、待ってください」
先ほどの発言はあくまで顔に対するものであって、彼という人間に対してのものじゃない。というか、顔が良いからって男に発情するわけないだろ!
そういうのじゃねえよ!
勝手に薔薇を咲かせるな!
「確かに俺の顔がいいのは認めるが……俺にそっちのケは無いぞ……?」
「俺もないですから──というか、本当に着いてくる気?」
「ああ! あの街にいる理由は特に無いからな! そも、すでに列車に乗ってしまっている以上は道行を同じくせねば意味のある行動になるまい!」
「何も面白いこと無いですけどねえ」
「──いい!」
「はい?」
「いいぞ、やはりキミはすでに面白い! 俺の知らない人間性を有しているようだ!」
「人間性……」
「性格や行動の性質だけではない。ある個人の在り方そのものを俺は人間性と呼んでいる!」
「ああそこじゃなくて。知らない人間性ってのが気になっただけです」
「ははは! いいだろう、では教えてやる! キミには俺たちへの恐怖が見当たらない!」
それのどこが新しい人間性だというのか。彼らを恐れない存在など、ダンジョンに潜ればそれこそ溢れるほどにいるだろう。
「くくく……分かってないな、少年!」
「はあ」
「まあいいだろう! こういうのは言わぬが花、というやつだ!」
「おお! よくその諺を知ってますね!」
「えっへん──って詩人をバカにしているのか!?」
行きは一人旅と洒落込もうかと思ったけど、こうして訳のわからぬ探索者連中に絡まれた。
登場したキャラクター等の名簿的なものは必要か否か
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いる
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いらない