【マンガ化】焼肉スコスコスコティッシュフォールド【進行中】   作:goldMg

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37_不埒者

 

「コマ様元気でねえ……うう……」

 

「コマ様……」

 

「ごま゛ざま゛ぁ……!」

 

 コマちゃんお見送り会というのが開かれ、町中から人がやってきてコマちゃんを一目見て帰った。ふふ、怖い。

 丸一日かけてこれをやるらしいけど、どんなモチベーションで子犬を泣いて見送るんだ。コマちゃんも逃げたりせず律儀に待ってるし、君たちはもしかして割れ鍋に綴じ蓋なのかい。

 

「早く行きたいな! アキヒロくん!」

 

 そんでお前は未練がなさすぎるだろ。もう少しないのか、初めて親元から離れる寂しさみたいなものは。離れるっつっても数日で終わる可能性だってあるけど。

 結局最後まで、ロイスをいつになったら帰せばいいのかというところは答えてもらえなかった。

 いい塩梅が自然と見つかるみたいなこと言ってたけどマジか? 不安だぞ俺は。

 

「はあー? 楽しみに決まってんじゃん! だって外に行きたいなって思ってたら行けるんだぞ! なんで不安なんだよ!」

 

「はぁ……」

 

「な、なにしゅんだわあああ!」

 

 気楽そうで羨ましいので、ロイスの柔らかほっぺをもちもちして楽しんだ。音の鳴るおもちゃが二つ目だ。

 一つ目は何かって? 

 それはもちろん──

 

「ふははは! なかなか気分がいいな、こういうのも! ──ああよろしく、ウルフだ。ははは!」

 

 コマちゃんを抱えて列を待ち構えるウルフだ。ルクレシアと併せて、いつもの探索者然とした格好から吟遊詩人一座とでもいうような姿に変わっている。羽根つき帽子を被っているのはウルフだけだがなるほど、緑の瞳の美しさとよく似合っている。羽根も白は白だが全く汚れの見られない素材で、どんなモンスターから取ったのか非常に気になった。

 

 アオキは二人から離れてこちらにいる。あいも変わらずむさ苦しい格好だ。

 

「やっぱりアオキさんは兜被っとくんですね」

 

「兜だけに?」

 

「兜だけに」

 

「…………」

 

「…………」

 

「「ガハハハ!」」

 

 一日中時間ということで山に分け入ることにした。いつもの格好で本殿の横らへんから山に入ろうとすると、ロイスまでくっついてきた。

 

「ロイス……お前は着いてこなくてもいいんだぞ?」

 

「いいいいいいや! 俺もいく!」

 

「──そうか」

 

「っ……」

 

 若さが眩しい。

 陳腐だが、恐怖を覚えてもそれを克服しようと歩みを進める姿というのはいつ見ても涙が出るほどに美しいものだ。演出されたものじゃない生の感情というのは、見ているだけで溜息が出る。

 

 この山はなんとも都合のいいことに下草が無い。ダニの媒介地となっている草がないというのはとても良いことだが不自然だ。では何故かといえば、定期的に燃えるらしい。怖い。

 しかしその炎は下草をピンポイントで狙うので人が触れても安全なんだとか。怖い。

 怖いが、不思議なので入るしかない。

 何せ不思議なのだから。

 

 許可は得ている。

 普通にダメって言われそうだな〜でも一応聞いてみるか〜ぐらいのノリで行ったら許された。俺なら良いらしいどころか推奨だって。

(信頼が)厚いってレベルじゃねえぞこれおい! 

 信頼が分厚い。

 どこでそんなに好感度を稼いだのかがまるでわからなくて怖い。

 

「ほお、ここが神の山か」

 

「アオキさんマジで来るんですか? 土足で人の山に?」

 

「神の山だろうが。あと土足はお前もだ」

 

「遊びに来てるわけじゃないんですけどね」

 

「俺にとっちゃ山なんざ遊びだ──というかお前も興味心できてるだけだろうが」

 

「俺はほら、許可得てるんで」

 

「うるせえな……霊領の経験はほとんどねえが、こんなこんもりしてるだけの山なんて大したモンスターはいねえんだよ。つまり俺が最強だ」

 

「それ、偏見じゃないですか? ロイス、どうなの実際…………おん?」

 

 視線を下ろすとロイスがモジモジしていた。

 

「あ、うん……確かレベル80? が一番上とかだった気がする……します」

 

「ぶふぉっ!」

 

「うわっ!?」

 

「は、はちじゅう!? 嘘だろ……こんなちっさな山にか!?」

 

「ち、ちっさいって言わないでよ……」

 

「マジか……マジか……そりゃあやべえな」

 

「…………ん」

 

 アオキに対して妙に余所余所しい気がした。

 流石に年齢差考えろバカってことなのかもしれない。あとは……よく考えたら俺だってアオキと知り合って数日なのに、さらに短いロイスはもはやアンタ誰状態だろう。

 そうだよな、俺だってちっせえ頃は大人怖かったと思う。いや、嘘。田舎だったからみんな知り合いだったな。怖かったのは父ちゃんと父ちゃんの友達だけだわ。

 なんの話だよ。

 

「あ、でも……モンスターはおとなしいよ」

 

「んなわけあるかあ! いくらなんでもレベル80のモンスターが大人しいなんてあるわけねえだろ!」

 

「ひっ……」

 

 普通にビビらせてんじゃねえよ。

 

「ロイス、それ本当なのか?」

 

「本当だよ! この間だって鼻撫でたもん!」

 

 俺に対しては普通だな……

 

「鼻を撫でる!? おい、コイツ何言ってんだ」

 

「おれもわかんねっす」

 

 ロイスも少し変なところがあるからな。初めて出会した時も、俺のこと見て神様とか言ってた。あれは恐怖で少しおかしくなってたんだとしても、そのあと爆テンションで俺を座敷まで案内してくれた。実際あれがなかったら彷徨って死んでたので全然良いんですけども。

 

「とりあえず! アキヒロくんが一番前ね!」

 

「なんで?」

 

「えーと……あの黒いのはアキヒロくん以外が触れると危ないから!」

 

 そんな事を言っちゃうから──

 

「ほお、なら俺がまずは触れてみるか?」

 

「ええ!? だ、だめだよ! ホントにだめ! 死んじゃうかも!」

 

「ああん? ……神、か。しゃあねえな、今回は言うこと聞いてやる」

 

 うるせえ! 触るんだーって走り出すかと思ったら意外とあっさり引き下がった。流石に神ということで思うところはあるらしい。俺も思うところあるよ。

 

「それにしても……歩きやすいな」

 

 そうなのだ。

 下草がないのでどのルートを選んでも良く、木の根も見逃さずに避けることができる。このせいで俺も最初に来た時はズンズン奥に進んで遭難した。俺にはわかる。そうやって人を奥に誘い込んで迷わせて、木の養分にしてるんだ。

 

「そんなことしないよ! というかそんなこと言わないでよ! 神様に聞かれてたらバチ当たるよ!」

 

「流石に聞かれてるんじゃね?」

 

「じゃあヤバいじゃん!」

 

「……ここで死ぬならそれまでだな」

 

「お、俺を巻き込まないでよ! ──あっ」

 

 道なき道を進めば、モヤーンとモヤが現れた。常に立ち込める霧と木々から落とされる影の相乗効果で、黒が暗色に隠れて見え辛いな。

 

「で、でた……!」

 

「あれがその黒いやつ──か!」

 

「え」

 

 喜色に満ちた声だった。

 制止の声をかけようという発想が思い浮かぶよりも先に接近したアオキは、剣でモヤを切りつけた。

 

「な…………な…………な…………」

 

 これほどに絶句という言葉が似合う顔をしている人間も見ない、というほどにロイスは絶句している。俺も少し驚いた。言うこと聞くぜ、とか言ってたくせに一瞬で約束破るんだもん。

 

「──ダメだな」

 

 行くのが一瞬なら、戻ってくるのも一瞬だった。風を伴って揺れるモヤを置き去りにしてきたアオキは刃の部分を見ている。

 

「刃こぼれ?」

 

「いや、感触がねえ。ありゃあ異能が必要だな、それも──」

 

「──何してるんだよ!!」

 

 甲高い声が響いた。鼓膜にキーンと来るような、怒りをそのまま音の形にした響きは一人の探索者に向けられている。

 

「言うこと聞くって言ったくせに! 何してんだよ!」

 

「ああすまん、つい。そもそもまだ何も言われてないからな」

 

「お前みたいなやつ! もう山には入れない!」

 

「…………」

 

 喚き散らす子供を前にしてできることは、宥めることだけだった。

 

 

 ──────

 

 

 双六ならば振り出しに戻された、というところだ。

 アオキを出禁にした上で再び山の中へ。正直なところ、モヤを見ることができたのでもういいかなって気分だったけど、ロイスが止まらないので着いてきた。

 

「だから外の人間はダメなんだ……」

 

 ぶつぶつ言ってる。

 なんだかんだでロイスも多少は偏りのある性格をしているようだった。完璧超人じゃなくて安心した。しかし外に行きたいと言いながら外の人間に対する悪印象は持っていたのか。

 

「あ! もちろんアキヒロくんは別だよ!」

 

「そうか〜」

 

「な、なでんな!」

 

 やっぱ心の中には常にダブスタを飼っておくべきだよな。一軸だとすぐ倒れちゃうけど二軸ならバランス取りやすいもん。ロイスは無意識にそれを理解しているのかな? 

 

「びっくりした……いきなり剣で切り掛かるから……」

 

「お……」

 

「大丈夫かなあ……神様怒ってないかなあ……」

 

 落ち込み過ぎて若干涙目になっていた。

 相当に堪えたらしい。

 

「だ、大丈夫だって! むしろ止めたんだから、ほら、チーン」

 

「ぶびいいいいい!」

 

「うお……」

 

 手にでろーんって、ね……

 土やら木やらに擦りつけて誤魔化そうにも、流石に限度があった。

 

「……川、あるよ」

 

「お」

 

 遠慮なく洗うと、魚が寄ってきた。せっせか河床を蹴っている。

 

「おい見ろよ、ロイスの鼻水で魚寄ってきたぞ」

 

「や、やめろよそういうの! イジメだぞ!」

 

「人聞きの悪い……」

 

 場を和ませるジョークじゃないか。魚が寄ってきたのはただの事実だし。…………魚? 

 

「そういえばあの魚はどうなったんだ? ほら、俺が持ってきたやつ。夕飯に出てきてたっけ、昨日。煮込まれて形無くなってた?」

 

「……ああ、アレ美味しかったって」

 

「なにが?」

 

「使用人のみんなで食べたって」

 

「なんで?」

 

「試しに食べてみたら美味しかったから食べちゃったんだって」

 

「どういうこと?」

 

 百歩譲って試し食いはわかる。

 味見だろ? 

 そこから全部食べるに至る理由がわからない。

 

「俺もちょっと食べたよ」

 

「お前もか」

 

「美味しかったからまた持ってきてな!」

 

「近くの川で釣ってきたんですがそれは」

 

 こいつら、あんなに綺麗な川がすぐそこを流れてるのに釣りとかしねえのか? 

 

「したことない」

 

「ええ……勿体無いなあ」

 

 俺なんかわざわざ街から出なきゃ釣りができないのに、やっぱ距離が近ければ近いほど活用しないってのはどこでもそうだな。

 

「つーかなんで食べちゃうの? カケラくらい残しといてくれよ」

 

「なんか、お土産だーって喜んでたよ」

 

 怒りづら……

 

「どうせなら今、新しく釣ったやつ焼いて食べようぜ」

 

「え?」

 

「塩がなあ……塩があればなあ……探すか、実」

 

「探す神?」

 

「実を探す。実。果実な」

 

「何の実?」

 

「塩」

 

「えー、あるの? レアなんでしょー?」

 

「探すんだよ。この鼻水まみれの手で」

 

「塗れてねーから!」

 

「いででででで」

 

 死ぬほど洗われた。

 

登場したキャラクター等の名簿的なものは必要か否か

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