【マンガ化】焼肉スコスコスコティッシュフォールド【進行中】 作:goldMg
「──お、戻ってきた。意外と早かったな」
早かった? こちとら数日かけて脱出したというのに何を言っているんだ。まさか探索者にとって数日というのは俺たちでいうところの数時間にあたるのか。
「1時間で満足か」
「は?」
「まあパンピーのスタミナなんてそんなもんだよな。だけどそいつはなんてそんなへばってんだ? 毎日山をかけてるんじゃねえのか?」
「1時間て……どういうことです?」
「どういうことも何もねえだろ、おまえ頭悪かったのか」
ロイスのこのグロッキーな姿が全てを証明してくれる!
「つまりなんだ、おまえら二人はそのワン公と一緒に山で数日彷徨ってたって? ……言われてみりゃあ臭うか」
水浴び程度じゃ汗や皮脂の匂いというのは消せない。特に、若い俺たちの身体というのは新陳代謝がすごいので湿度の高い環境で服を変えずに数日過ごせばそりゃあ臭いだろう。
「ふーむ……神とやらに何かされたってようにも見えねえな」
「あり得るとしたらチェンジリングですかね」
「なんだ?」
「姿が同じだけど中身は違う、だけど本人自身もそれに気づかずに成り代わる。そんなモンスターがいるんですよ」
「ほお? ここ数十年でそんなのは聞いたことねえな。誰から聞いた?」
「ひ み つ」
「死ねクソガキ、けつ掘られて地獄に堕ちろ」
「そんな言う?」
「適当抜かす奴が一番嫌いなんだよ」
実時間が一時間だったという衝撃の事実を受け入れても、俺たち二人が疲労困憊という現実は変わらない。秋川さんに一応報告だけして寝ることにした。
「そんなことが……!? そうか……だからコマちゃんがいきなり走って行ってしまったのか…………何故ロイスも巻き込まれたんだ!?」
「はぁ……いやぁ……すいません、疲れてるんで明日でも、良いですかね……」
「ああ申し訳ない。そうだね、ゆっくり休んでください」
酷い目に遭った。
訳がわからないというのが一番腹が立つポイントだ。
「ああ……あったけえ……」
布団に潜り込むと、猿が温めてくれていたのかほんのりと体を包む熱が存在した。それにお日様のような香りもする。日も差してないのにどうやって──なんて考える隙すらなく意識が消失した。
夢すら見ずに一睡を終え、朝の挨拶がてら昨日の出来事を改めて秋川さんに話したけど、やっぱりあれが何だったのかは分からずじまいだった。
だけど一つだけ。
「コマちゃん、ありがとなあ」
「ひゃん」
こうなるともう馬鹿にできない。
あの異常事態に気付いて助けに来るような子犬がこの世に存在するわけはないので、この子は間違いなく神獣? とかいうやつなのだろう。
神獣ってなんですか。
「さぁ……」
この曖昧な反応。簡単に明かせるほど安い存在ではないということに違いない。それならこちらも敬意をある程度は払うしかあるめえ。
「ロイス、気をつけるんだぞ」
「うん」
「ちゃんとご飯食べるのよ?」
「分かってるって」
「コマちゃんに失礼がないようにな? それに加賀美さまにも」
「もううるさいから!」
恐るべき地主力。
彼らのお見送りのためだけに列車すら停められていた。乗客の内でこの土地の人間じゃない奴は不可解そうにしていたけど、地元民っぽいのは面白そうにしていた。
これがジモティーか。
「はぁ〜……うちの家族って過保護なんだよね……はっず」
「いいじゃん、あんな良い家族なかなかないぞ」
恥ずかしそうだけど、嬉しそうでもあった。
そして寂しさも。
「ははは! 良いではないか! 良いではないか! なんとも愉快な街だった!」
「……」
「ときにロイス。一つ疑問がある」
「なに?」
「コイツの家に泊まるつもりなのか?」
「…………」
なんだおまえら。
全員で俺のこと見やがって、そんなにかっこいいか?
「あのアホ面は置いておくとして……本当に貧乏だという話だぞ。俺も実際に見に行ったわけではない故、実際のところはわからないがな」
あ、一人称が俺に戻った。
「ビンボー……うーん……ビンボーって、あんまりイメージできないんだよね」
リアルに月とスッポンってやつかもしれない。貧乏がイメージできないほどの金持ち──確かにあの家に生まれていい学校に通ってたら下々の生活なんてわからないか。路地裏に入ろうという思考すら湧いてこない、そもそもそんなもの視界にすら入らない。そんなレベルでロイスの生活は恵まれている。
「貧乏って……どれくらいの人が貧乏なの?」
「お話にならないな! こんな人間が貧乏一家にお邪魔してみろ! 発狂して全裸で走り出すに違いない!」
「そんなことしねーよ!」
「いいや! そのあまりに見窄らしさに髪をかきむしりたくなる衝動に駆られるだろう! 貧乏というのは限界まで行くと家が無いという状態に行き着くわけだが、その一歩手前もまあ酷い! 無い富にいつまでも縋り付いて、いわゆる裏稼業という奴に手を出そうとしたり……そもそも頭が悪いからそこまで落ちぶれるというのが往々にして彼らの道だが──」
熱い貧乏叩きが始まった。
ロイスが顔色を悪くしながらチラチラとコチラを見て──言いたいことがあるなら言ってみろ。
「おっと! すまない! 貧乏から成り上がった身だからな、ついつい熱くなってしまった。もちろんキミがああいった類の人間でないことはその振る舞いからしてすでに理解しているが……やはり話は変わらない。ロイス少年が加賀美少年の家に泊まるというのは中々厳しいものがあろう」
「俺の家見たことないのに言い過ぎじゃない? アオキさんどう思います?」
「面白いなって思う」
「実況のルクレシアさん、どう感じました? あなたの旦那さんが人に対して暴言を吐いてますよ」
「だ、だだだだだんなじゃねえよ!」
えーっと、見たこともない人の実家を悪く言う最低な人間が一人、それを面白がってみてるのが一人、論点がわからないのが一人、と。
結論から言います。
最低なパーティーです。
「ロイス、女子三人と一緒に寝るのと男二人で寝るのと外で野宿するの、どれがいい?」
「ええっ、何その選択肢……」
「それ以外だとロイスのお金で宿を取ってもらうって話しかないんだけど……そういうプラン?」
「ち、ちがうよ! 泊めてよ!」
「うん、だから選んで欲しいというか……あ、ちなみに男二人ってのは俺と二人か俺の親父二人っていう選択肢に分かれるぞ」
「それでアキヒロくんのお父さん選ぶ人いないよ!」
それはそう。
俺の家で一人で寝たいと思ったら俺の家から出て野営するしかないのだ。
「……野宿ってなんか楽しそう!」
「まあ意外と性に合ってる可能性はあるか…………野宿やってみるか?」
「いいの? ……あ、でも……あの時みたいな感じにならない?」
「遭難した時のよりは全然楽だよ」
「へー!」
うちのそばにテント張るだけだからな。母さんがいい顔しないだけで、グランピングみたいなもんだ。
「貧乏もいいかもね!」
「お前が言う?」
これが余計なことをごちゃごちゃと考えない子供の純粋さってやつだ。見た目は若々しくても、いらんものくっつけて大人になったヤツらにはこの純粋な輝きは再現できまい。
「ぐぬぬ……!」
「ふふふ……」
「こ、これで勝ったと思うなよ!」
「勝ち逃げさせてもらいましょう」
いくら詩人が人間の感情に語りかけることを得意としていると言っても、所詮は小手先の技術に過ぎないと知れ!
「何と戦ってんだあの二人は」
「下らん、俺は寝るぞ」
列車は貸切だ。秋川家からの餞別──ロイスとコマちゃんに対しての──だろう。
貸切!
素晴らしい響きだ!
そんなことしなくてもウルフがいる時点で勝手に人が避けていきそうなものだけど、堂々と号車を好きに使えるってのは凄いな!
貸切なんて人生で一度もしたことなかったぞ!
「なんかあいつテンション高いぞ」
貸切というのは単純に人が他にいないだけじゃなくて、中に用意されているものまで変わる。寝台特急のように改造されているのは、職人たちがやったのだろう。普通の人間にこれはできない。
「ロイス、見ろ! 酒だ! 度数も高そうだな!」
「え、お、お酒? お酒はあんまり……」
「いつか飲みてえなあ……早く脳みそが成長し切ってくれねえかなあ!」
「お酒好きなの?」
「肉に合うからな!」
「肉、そんなに好きなんだ」
「特に牛肉がな!」
「俺も肉好きだよ」
ロイスは俺の同志だったようだ。
「こいつぁいい、寝る前に飲むか」
「えー」
「どうせ飲まねえんだろ?」
「持って帰ろうと思ってたのに……」
10年くらい寝かせときたかったのになあ。
「知らん知らん、早いもん勝ちだ」
馬鹿騒ぎにはならなかった。
予想に反してルクレシアとウルフがお上品にチビチビ飲むタイプだったからだ。しかし考えてみればウルフは詩人なんてやってるので、バカみたいに飲むタイプじゃないというのも納得はいく。ルクレシアの感じは、ウルフに合わせているんだろう。
「あー、うめ」
アオキは初っ端から飛ばして飲みまくってるけど、一向に顔が赤くならない。酔わない体質か?
「酒はみじゅだからな」
前言撤回。
若干酔っているらしい。
登場したキャラクター等の名簿的なものは必要か否か
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いる
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いらない