【マンガ化】焼肉スコスコスコティッシュフォールド【進行中】 作:goldMg
「…………ずいぶん多いわね」
「アキヒロさん、お疲れ様で──え?」
俺を除いても四人と一匹やってきたからな。
この反応もやむなしだ。
「えっと……どなた達?」
「お──僕はロイスです!」
「ロイス君? じゃあ貴方がそこのバカ息子の言っていた子ね」
人前で家族を貶すのはハラスメントですよお母さん。
「この人たちは?」
強い視線。
露骨な警戒心が彼女から三人めがけて放たれていた。加賀美明美という女は探索者を昔から警戒している。俺が幼い頃なんて、目を合わせちゃダメなんて言っていたからな。それが今ではある程度落ち着いたとはいえ、完全に初対面の探索者に対してこういう態度を取るのは正直予想していた。
「ウルフ、ルクレシア、アオキさんだよ」
着いてくる契機となった出発前のことを話す。すると先ほどよりもよほど強い不快感が顔に現れた。それにとどまらず、一歩足を踏み出す。
「詩人だかなんだか知りませんけど……息子にちょっかいをかけるのはやめてもらえます?」
「いや、私たちは──」
「2級探索者? それがどうしたんですか? 何が偉いんですか? 自分の思いつきで子供に付きまとうって……完全に脅しですよね?」
ぐうの音も出ない正論だ。
「アキヒロ、コウキさんに連絡して。今すぐに」
そもそもなんで連絡してないんだよ、という顔で睨まれた。それについては俺も言い分がある。
「母さん、コウキさんは都合のいい便利屋じゃないんだよ」
「そういう甘いこと言ってられるわけ? 自分一人で終わらせるならともかく、家まで連れてきたくせに?」
「あー……とにかく! この三人は悪い人じゃないから!」
「…………」
不快感の強さはどんどん深まるばかりで、最初に口を開いたルクレシアも今では何も言えずにいた。こういう時こそ、ウルフには弁の一つでも立ててなんとかして欲しい。しかしウルフはウルフで気まずそうにダンマリしている。代わりに口を開いたのがアオキだった。
「うちのリーダーがそいつの意見も聞かずに話を進めたのはそうだ。それはすまんかったな」
「分かってるのに止めもしないんですね」
「そうは言うがな、その坊主がやろうとしてることをお前さんは理解してるのか?」
「……」
「話は聞いてるぜ。そこの嬢ちゃんの異能が暴走してんだろ」
「だからなんですか」
「探索者でもないくせに異能のあれこれなんて分かるのか?」
「それがあなたたちとなんの関係があるんですか。私たちにだって伝手はあります」
「へっ、2級探索者のか?」
「お生憎ですが……その程度なら間に合ってます」
「……1級探索者の伝手だと?」
この母ちゃん、情報開示に余念がねえぞ!
「何にしたって、貴方たちみたいな人と息子をつるませるわけにはいきませんから」
「──だそうだが、実際のところどうなんだ? ガチのマジでお別れか? まあ俺はそれでも良いと言えば良いんだが……カッコつかねえのは事実だな」
確かに。
秋川家でのルクレシアとのやりとりとか全部キャンセルされることになるもんな。
「そもそも……息子を詩の材料にするのはやめてもらっても良いですか?」
「え」
「結局、詩を作るのだって暴力で言う事を聞かせてるわけだし……あなた、詩人の才能なんてないんじゃないですか?」
ヒヤヒヤするなあ……いや、嬉しいけどね?
「そんな事ない! ウ、ウルフはちゃんとした詩を作るんだ!」
「作っていた、んでしょう? 過去のことは知りませんけどソレが出来なくなったから誰かに張り付いて、その人生の中から面白いところだけを切り貼りしてやろうと思ってるわけじゃないですか。そんなのちゃんとしてるなんて言えます? ……ねえ、貴方子供は? 子供がいるなら私の気持ちわかるはずだし、いないなら黙っててもらえます? 探索者でその見た目なら多分、私と同じくらいの歳なんでしょう? 分別くらいつけてください」
「うう……」
ルクレシアが泣きそうになっててちょっと面白い。
「ソフィア、ロイス。二人は関係ないから一旦こっち来ような」
「あ、う、うん」
「はい……」
お互いがお互いを意識しているのは分かる。視線が一瞬だけ相手の顔に向いて、それが時折ぶつかって、サッと顔を逸らす。そんな事を永遠に繰り返していたから。
ただ、うちの母親の説教パートを二人に聞かせても何も良い事がないどころか、勢いでソフィアにまでダメージが入りそうだった。父さんがいれば静かにさせてくれるんだけど、夜がうるさいのであまり使いたくない手でもある。今は父さん出掛けてるらしいから関係ないか。
『──!』
「さて、と……とりあえずソフィア、なんか変なことはなかったか? 体の調子は?」
「今のところは……それで……」
「言いたいことはわかる。もちろんロイスも」
紹介タイムだ。
「えっと……ソフィア・エメリッヒです」
「秋川ロイスです。よろしく?」
「よろしくお願いしま、す」
「なんか、大変だって話は聞いてる。異能? が悪さしてるって…………その……ち、力になれることがあれば言ってくれな! 俺、手伝うから!」
「ありがとうございます。…………あれ、この子犬は?」
「このかt──この子はコマちゃん。うちの神様、の使いみたいなもんだよ」
「神様ですか」
「うん」
「ええと、可愛いですね……って言っても大丈夫ですか?」
「そりゃあ大丈夫だよ! 可愛いんだから! つーかタメ口で話そうよ! 俺たち同い年らしいし!」
「そうなんですか?」
「俺、今年で15だよ」
「私もです」
「な?」
「えっと……そしたら、ロイス君って呼んでもいい?」
えっ。
「いいぜ! 俺もそっちのことソフィアって呼ぶから!」
「うん、わかった」
「ソフィアはここで……生活してるん、だよな?」
「あ、うん」
「……そうだよな」
なんですか、ずいぶんと言いたいことがありそうですねロイスさん。せから始まるその言葉を言ってみなさい、ほら。怒らないから。
「ひゃん」
「ん? どうした?」
「ひゃん、ひゃん!」
「お腹すいた? それとも散歩?」
「ひゃん!」
お腹が空いたらしい。
「ご飯か……じゃあ一緒に取りにいこうか」
「え?」
「ん?」
「アキヒロくん、今変なこと言わなかった?」
「ああ、大丈夫。取りに行くって言っても見てるだけだから」
「…………俺も行く」
「いや、危ないんだけど」
「だから行くんだよ!」
「私もいきます」
大所帯だなあ……
──────
「何言ってんの!? 今それどころじゃないから!」
「いや、この子がお腹空かせてるんだけど……」
「それウチで飼うの!? この人たちの飼い犬じゃないの!?」
「違うよ。でも猟犬として育てようかなって」
「…………まあ、それなら良いけど」
例の三人はコテンパンに叩きのめされていた。庇護対象の俺が言うのもなんだけど、母はつよしってところかな。
コマちゃん、俺、ロイス、ソフィアの四人で草原に出ると、間の悪いことにウサギが遠くをはねているのが見えた。群れじゃないけど、俺たちをまとめて骸にするだけの力を持っているのがウサギってモンスターだ。
ウサギがモンスター名の時点でお察しだけど、首を刎ねるのが大好きです。
「厄介だな……見つかったら一瞬で全員あの世行きだ」
「わ、私の冷気ならなんとかできるかも」
「無理だ。当てればなんとかなるかもしれないけど、そもそも素人が目で追えるような挙動じゃない」
「…………どうするんですか?」
「とりあえず別方向に向かおう」
その後もニセウロコダイル、ヒャクビシン、ヒヅメヒヅメなど行く先々でモンスターを見かけたせいで、迂闊に動けなくなってしまった。
「なんか、ダメダメだ……」
「お、落ち込まないでください。こういう日もありますよ」
「2連続でこんな事になるのは、父さんと一緒に来ないと基本ないのに……」
「まだおうちの食材には少し余裕がありますし、出直します?」
人数が多すぎて気配でざわつかせている可能性を考えたけど、それだったらもっとコチラに意識を向けていても良い。実際は、どのモンスターもコチラに気付いている様子はなかった。低レベルだからだろう。
「なりかけのやつなら死ぬ気でやればなんとかなるけど……」
低レベルなモンスターのヒヅメヒヅメとかをやるにしても、この二人が邪魔だ。コマちゃんも含めて、余計なのがたくさんいるのでミスった時のリカバリーが効かない。
父さんはこういう時に泥で体中を覆うというセオリー使ってるくれるからある程度何とかなるんだけどなあ……
「よう」
「…………アオキさん?」
「敢えて言うぜ。手伝いに来た」
「なんでまた……」
「お前の母ちゃんの言い分も真っ当だったからな。ポイント稼ぎってやつだ」
「………………」
「不満でもあんのか?」
不満というよりも、その手段を使うことが先につながらないのが嫌だった。彼らから施しを受けたとして、それは俺の糧にはならない。
直近の飯のタネとしてしか消費出来ないモノを日常の範疇に落とし込むのがどうにも受け入れ難い、ということを説明した。
「ごちゃごちゃ考えてんなあ」
「でも……背に腹は変えられないんでお願いします」
「お前心と動きが一致してねえじゃん」
「好き嫌いで飢えるのってバカみたいじゃないですか」
「……まあ、お前がなんて言おうとやるんだけどな」
アオキはただの一撃でヒヅメヒヅメの首を落とした。
燃えるヒヅメを持つ羊という他ないヒヅメヒヅメは、倒した後ヒヅメ──つまりは足を素早く切り落とさないと全身が燃え尽きてしまうので、これまでに食べたことは2度しかなかった。その時は足を切り落とすのに苦戦したので、2度とも火傷を負った。こうして全身がただの肉である状態を見るのは初めてだ。
「すっげー」
「ふん……あんな雑魚倒して喜ばれるのも微妙な気分だな」
──────
「アキヒロ、良い人たちを見つけてきたわね」
「…………ああ、うん」
「いつまでもいて良いですからね〜。アキヒロのこともじゃんじゃん詩にしちゃってください」
「ふぅ……」
「ほら、夕飯にしましょ」
こんだけの大所帯がうちに入るわけもないので、庭で食べる。誰も土地の所有権なんて主張しないから、庭は広いのだ。
「へー、みんなって人が来るとこんな感じで夕飯食べるんだ! ソフィアもこんな感じだった?」
「い、いや……私はちょっと違うかも……? 家の中で食べてはいました」
ヒヅメヒヅメは常に蹄が燃えているせいか、肉自体が最初からスモークされたような匂いを発している。味も普通の肉に比べると燻製肉というような印象を受けるし、もしかしたらいる場所の植生によって大きく味が変わるのだろうか。
「美味しい」
アカネがポツリと呟いたとおり、味は悪くない。惜しむらくは、ここにサンチョがないことだ。米もないしタレもない。木の実なんかを合わせてタレを作ることはあるけど、今回はそれもない。
肉の質は高いのに、それ以外のせいで食事が味気ないというのはなんというか貧乏の辛いところだ。
「ソースとか……あ、ないんだ」
ロイスは当然のように執事を呼ぼうとして、ここが貧乏人の家である事に気づいて愕然としていた。
「に、肉ってどうやって焼けば良いんだ……!?」
「ロイスくん、お肉焼いたことないんですか?」
「無い。ソフィアわかるの?」
「私はわかります、最近手伝ってるので」
「…………」
エヘンと胸を張る少女の横顔を、ロイスは少しだけ優しい顔で見つめていた。
「焼いちゃいますね」
「おお」
今は安定しているようで、ソフィアの身体から大幅に冷気が漏れているわけではない。それでも、ゆっくりと舞い落ちてくる霧がその身体に触れると小雪に変わって、それがさらに焚き火の熱で溶ける。
不思議な光景にロイスは見惚れているようだった。
「最初はどっちかの面だけを焼くんです。それで側面まで火が通ったらひっくり返して──あ、違います! それはまだ食べられません!」
「え? でもこんくらいのやつ食ったことあるよ? 赤いのって柔らかくて美味しいじゃん」
「お腹壊しちゃいますよ」
「でも食べた時これくらい赤かったよ?」
「ダメです!」
「あっ」
「ちゃんと焼きます!」
仲良くなるの早くない?
登場したキャラクター等の名簿的なものは必要か否か
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いる
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いらない