【マンガ化】焼肉スコスコスコティッシュフォールド【進行中】 作:goldMg
「ここで寝る……ここで寝る……」
実に興味深いとでも言いたげにロイスは家を見上げた。
ちんまりとした一軒家。
俺、妹、母、父が住まうボロ家だ。
ついでに今はソフィアもいて限界容量ギリギリ。
「ロイス君はどこで寝るんですか?」
「あ、俺はアキヒロ君と一緒に外で寝るよ」
「外で? ……あのテントですか?」
「そう、野宿の仕方教えてもらうんだ!」
「楽しそうで──う……?」
「ソフィア? ……大丈夫かソフィア。ソフィ──冷たい?!」
「うううう……!」
「──アキヒロくん!」
冗談ではない。
こんなタイミングでか。
「あううう!」
彼女の身体からは真冬のようなという比喩では済まないほどの冷気が溢れている。触れれば一瞬で凍り付くだろう。これは流石に背負うこともできまい。
「なるほど……これが異能の暴走か」
「見たことねえな、こんなの」
「氷ならば逆の炎をぶつけるのが定石と呼ぶべきだろう。ルクレシア、やってみてくれ」
「はい、よ!」
ルクレシアか地面に突き刺した槍から轟々と炎が噴き上がる。確かな熱気と勢いは、彼女の異能が相当に強力なモノであることの証左に違いない。
熱すぎて近寄れないが、これだけの熱量ならばあるいは。
「ソフィア、一か八かだ! あれに近づいてみろ!」
「……うう」
「ダメか……それなら! ──ぐぅっ!?」
凄まじい冷気に、抱きしめただけで表皮が嫌な音を立てる。おそらくこの冷気が肺に届けば、肺胞が凍り付いて息ができなくなるだろう。つーか、身体が嫌な音立ててる。あの時は布でわんさか包んでたから大丈夫だったけど……!
「うおおおおおお!」
「熱血やってんじゃねえ」
「うがっ!?」
「きゃっ!」
蹴飛ばされた衝撃で地面に倒れた俺と違い、本命のことはちゃんと受け止めてくれたらしい。アオキがソフィアを肩に担いで炎に近づいて行く。
「おい嬢ちゃん、ここはどうだ? まだ寒いか?」
「はい……」
「少しずつ行くぞ。暖かくなったら言え」
俺が立ち上がった時にはすでに冷気と熱気が衝突し、凄まじい量の霧が発生して二人の様子がわからなくなっていた。
「どうだ……?」
「アキヒロくん大丈夫!?」
「ああ」
きっと、あのまま続けていても俺は重度の凍傷で動けなくなっていただろう。
「カッコつけすぎたか……」
自分で初めたこととはいえ、能力の限界を超えているのは理解していた。だけど、それを他人に投げるのはプライドが許さなかった。それが良くなかった。
すぐにアオキに投げるべきだった。
「アキヒロくん! 身体冷たいよ!」
「分かってる。それよりソフィアはどうなったんだ。そっちの方が……」
「はっ!? そ、ソフィア! 大丈夫かソフィア!」
深い霧の中へ投げられた質問は、行くばかりで返ってくることはないかのように思われた。
「大丈夫です!」
「あっ!?」
「ちょうど良いところにいるので!」
しばらく経つと、アオキからの合図でルクレシアの火が消された。それと同時、霧の中から二つの影が出てくる。
「あーくそ、冷てえし熱いしで最悪だったぜ」
「大丈夫かソフィア!」
「心配してくれねえしな……ったく、若いって良いねえ」
ソフィアの顔色は至って普通だった。
あんな単純な策でどうにかなったのか。
「大丈夫か」
「はい! 大丈夫です!」
「なんか元気だな?」
「目一杯! ブワーってやったら元気になりました!」
「おお……なるほど、そういうことね」
──────
ソフィアの異能な暴走というのは、やっぱり何かしらの力が溜まってそれが抑えきれなくなることで発生しているようだった。その証拠に、今は冷たくない。
「一時凌ぎはできるってわけか」
「そうみたいです!」
ひとえにタイミングが良かった。
彼にあれが誰もいないタイミング、もしくはウルフたちと出会っていなかったなら──あんな巨大な炎を起こすことはできなかった。そうなれば、あの場でソフィアは凍り付いていただろう。
「ったく……世話がかかりそうな奴らだな」
「そう言うな。可憐な少女を助けられたのであれば、それは素晴らしいことだ」
「おめぇ、なんもしてねーだろ」
「リーダーである俺の判断でアキヒロ少年についてきたのだから、そこは評価してもらわないとな」
「それで評価することがあるとしたら、ルクレシアを仲間にしてたことだけだ」
2人の言い争いはともかく、助かったのは事実だ。感謝以外を述べるつもりもない。
「助かりました。ルクレシアさんがいなければどうなっていたことやら」
コウキさんに連絡がとれたとしても──いや、やっぱりそれは無理だ。端末ってのは魔素が多いところじゃ使うことができないらしい。まだそんなところで使ったことはないけど、列車に乗っていると時折つながりにくいことがある。
そうなれば、近くにある家やアカネたちも、巻き込んで大事件になっていたかもしれない。……ん? 待てよ? よく考えたらさっきの炎、あれって別の場所からも見えるよな。少なくともそれだけの規模はあったはず……つまり、この街にいる他の探索者や住人からも、当然のように視認されていたはずだ。
「気づいてるか?」
「はい。もしかして商工会、こっち来ますかね」
「多分な」
「すー……なんて誤魔化せばいいですかね」
「んなもん簡単だろ。近くにモンスターが現れたから、やむなく俺たちが対処したって言えばいいんだよ」
「おお! 確かに! じゃあ、そこは任せてもいいですかね? 申し訳ないんですけど、商工会と何かしらのやりとりをしたことってのがほとんどなくて……説得できる気がしないですね」
「まあ、そんぐらいはやってやるよ。なかなか楽しい夕飯だったしな」
事態をごまかす算段自体はついた。そうなれば、今度は後片付けだ。
「あー……この燃え跡、どうする?」
「それはどうでもいいんだけど、家具が……家具っていうか食器がやべえな」
ソフィアの冷気と爆熱の衝突によって凄まじい量の霧が発生していたけど、俺たちは先ほどこの付近で夕飯をとっていた。そこに置いてあった皿やフォークなんかがぐちゃぐちゃに散らばっている。ルクレシアもいきなりのことで、異能をうまく調整はできなかったのかもしれない。あるいは調整してあれなのか。
「1個1個見つけて片付けていくしかねぇなぁ」
アオキはちまちまと、しかし確実に食器を拾い上げて、俺たちのところへ持ってきてくれた。探索者の視力というのは俺たちの──通常人類のそれとはかけ離れた性能を持っている。そこかしこに散らばっていても、たやすく見つけられるということだ。
だけど、俺たちもそれを見ているばかりじゃない。一緒に草むらを捜索した。
そうやって腰をかがめていた俺たちの後ろに気配が立ち上がった。
「もし」
「はい? あ──」
振り返ったところにいたのは、それこそわかりやすい制服を着た女性。つまり、商工会の職員だった。どう対応したものか一瞬まごついたけど、ウルフがそこで前に出てくれた。
「何かな? などとは問うまい。先程の異能に関することだろう」
「そうです」
秋川家に向かう前、俺がアクフレの発生を知らせるために行ったときにはいなかった。受付を担当している職員ではないのかもしれない。アナログに手帳を取り出すと、ウルフとの会話を始めた。尋問という様子ではない。単純に情報を集めているのだろう。
その中で、モンスターとルクレシアの話が出てきた。
「つまり、先程の炎はそちらの一家を守るために、あなた方が異能を使ったことによるもの──というわけですね?」
「相違ない。街の中で異能を使用したのは申し訳なかったと思っているが、何分突発的な事象でな。あの場で使用しなかった場合、彼らは犠牲になっていたかもしれない。商工会としても、それは許容できるものではないだろう?」
「ええ、ええ、そこは間違いありません。魔素の急激な増加が確認されたので、場合によっては依頼として探索者に発注する可能性がありました。ですが事前に解決していただいたのであれば、こちらとしては何も文句を言う事はございません」
「ふふふ、そうだろう?」
何も自慢げに胸を張り、不敵な笑みを見せるウルフ。この調子であれば、先程のソフィアの事はバレる余地などないだろう。
……それが本当にいいことなのかは、わかりかねることだった。
本来なら、商工会に今すぐ投げるべき案件なのかもしれない。それを俺みたいな力も金もないガキが、自分の力だけで何とかしようとしている。俺が大人なら、ぶん殴ってでも今すぐやめさせた。だけど、それは他の大人かあるいは公共的な福祉として、何かしらの介入があるということが前提の話だ。この世界はそんなに甘くない。
彼女が天涯孤独の──そうと決まったわけではないが──少女だとしても、誰も手を差し伸べてはくれないだろう。ウルフ、彼は美少女に目がないという話だった。もしかしたら彼のような女好きが出会えば、自分のものにする過程で解決する可能性はある。
それが本当に救いなのかどうか、少なくとも俺の価値観に照らし合わせれば答えは自ずと見えてくる。
「なんだか……難しい顔してるな。あれどういう顔かわかる?」
「私も見たことない顔です」
「おうお前ら、あれはな。悩んでる顔だ」
「あ、それはわかります。何に悩んでるのかなって」
「そんなの直接聞かないとわかんねえだろ。なんでお前ら2人して、ここで顔突き合わせてこそこそ話してんだ? 知りたいなら直接いけよ」
「……そうする?」
「そうしましょうか」
ウルフたちパーティーは、職員に付き添って一旦支部まで戻るらしい。つまり、今日はこれで解散だ。それにしてもこんな夕飯の時間にまで仕事をしないといけないなんて、商工会っていうのは、案外ブラックな仕事なのかもしれない。いや、もちろん労働基準法なんてものは存在しない世界だけど……大変だろうね。
3人がこの場を去る直前、アオキがルイスとソフィアに対して何やら耳打ちをしているのは見えていた。何してんだろうなぁと思いながら2人の様子を伺っていたら、こちらに明らかに話がありますという顔で近づいてくる。
「どうした?」
「何悩んでんのかなあって」
「悩み? 何が?」
どうやら俺が悩みを抱えていると勘違いしているらしい。
「だってほら、さっきウルフさんが商工会の人と話してる時ずっと難しい顔してたじゃん。何かあるんだろうなって」
「あー……」
確かに、アレを悩みと呼ぶのであればそうなのかもしれない。しかしそれはソフィアのいる場所で、本人に対して言うべきものじゃない。せめてロイス単体であればまだ口に出すこともできた。だけど、ここではさすがにというところだ。
「なんかさー、悩みがあるなら俺たちにも話してくれよ」
「え?」
「俺ばっか助けられてたんじゃ、なんか変じゃん」
「何が変なんだ?」
「それって友達じゃなくない? 俺も友達なんてできたことないけどさ、友達って……助け合うものだろ? 俺たち、友達同士だよな?」
「!」
「……何か恥ずかしいな、これ」
「そんなことないですよ! その通りだと思います!」
それにしてもソフィアが元気だ。あの路地裏で出会った時から、今までにここまで元気だった事は1度もない。少なくとも俺の目の前では。
もしかしてロイスがイケメンだから?
「うーん……悩みは悩みだけど、2人に関することだからなあ」
「それなら尚のこと話してよ。なんか直して欲しいことがあるなら言ってくれ!」
引かない。
2人で一緒に俺に話に来ているから少し気が大きくなっているのだろう。悪いとは言わないけど、今はもう少し理性的でいて欲しかった。
「ほら!」
「…………うるせえ! 2人とも疲れてるんだろうからさっさとお風呂入れ!」
「いきなり何!?」
「あんまりごちゃごちゃ言ってると2人まとめて同じ風呂にぶち込むぞ!」
「アキヒロくん!?」
「アキヒロさん!?」
うちの風呂は狭いから、2人が一緒に入ったら、それはもう0距離で密着することになるだろう。
「はい! 片付けはこっちでやるから! 早く風呂入ってこい!」
「ええ……なんでいきなり暴君みたいなこと言い出したの……」
「父さん! こいつら連れてって!」
ずっとこちらを見るばかりで介入してこなかった父さん。たまには仕事らしい仕事をしてもらおうと指示を出したら立ち上がった。
「やれやれ、父親を顎で使うなんて本当にひどい息子だ」
「はよ」
いつも使われてるのは俺の方なんだから、これぐらいいいだろう。
「ふぅ……」
残ったのは、母さんただ1人。
心配そうに腕を擦っている。
先程の異能のぶつかり合いを見た時から、ずっと不安そうにしていた。
時折、申し訳ないと思うこともある。彼女は本当に普通の女性で、どこの誰とも知れないおっさんが息子になってしまったことは彼女にとって悲劇でしかない。これが本当の息子であれば、俺みたいにドタバタと日常をかき乱すこともなかっただろう。
しかし、そんなことを気にしていても仕方ない。話したところで信じようもない。それに、こんな変な息子をちゃんと息子として受け入れて、愛してくれている。その事実だけで充分だ。
「ごめん母さん」
「はぁ……どうしてこんな風になっちゃったのかな」
「俺を産んだ時点で諦めて欲しいかな」
「…… 1つだけ、言っておくからね」
「はい」
「ここまで迷惑かけてるんだから、あの子をちゃんと助けるんだよ?」
なぜだろう。
助けろと言うにしてはあまりにも悲壮感が強く、励ましているようにも思えない顔だった。それがどんな意味を含んでいるのか、どんな意図で言ったのか、俺には理解することができなかった。
登場したキャラクター等の名簿的なものは必要か否か
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いる
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いらない