【マンガ化】焼肉スコスコスコティッシュフォールド【進行中】   作:goldMg

401 / 571
42_母と父

「うっ……くぁぁ! 体が……痛い……!」

 

 起き上がると、体の節々が痛んだ。これまでの人生において、寝起きにこんなに体が痛かったことは1度もない。若干の困惑、そして今自分がいる場所がどこかということも同時に思い出す。

 そう、昨晩はアキヒロくんと一緒にテントに寝泊まりしたのだ。野宿は初めてではない、というのもつい最近遭難したときに、地べたに這いつくばって寝た。

 比べると確かにマシではあったかもしれないけど、やっぱりあったかくて、ふわふわのベッドに比べると、数段階睡眠の質が落ちるということを実感した。

 

「あ」

 

「…………」

 

 隣に目をやれば、そこには、すやすやと寝息を立てる恩人の姿があった。

 

「おーい……」

 

 眠気はありつつも、こうして寝ている最中の顔を見る機会は初めてだったので、寝ていることを確認した上で、そっと顔を覗き込んだ。

 

「すぅ……すぅ……」

 

「…………」

 

 不思議な気分だった。

 山で助けられた日から、ずっと、不思議な気分だった。

 父親の言いつけを破って山の中にこっそりと入り込み、案の定穢れに囲まれた。1から10まで自業自得で、あのままあそこで死ぬのが、あるいは自分の運命だったのかもしれないと思うほどには追い詰められていた。ごめんなさい。詰め寄ってくる穢れに触れられる前に何度も謝った。人の醜さの結晶だと言われている穢れに触れてしまえば、間違いなく命が絶たれる。

 あと数センチ踏み込んできたならば、自分の命はあそこでなくなっていた。

 

 だけど、そうはならなかった。代わりに現れたのは、若い青年の顔だった。パニックで泣きまめていた自分をなだめ、落ち着かせ、『山に迷っちゃってさぁ!』などと朗らかに言う姿にようやく目の前の青年が本物の人間であるということに気づくことができた。

 まさか、歳が1つしか違わないとは思わなかったけれど。

 

 彼は普段、やっぱり自分と年が近い人間だとは思えないほど大人びた振る舞いをしている。振る舞いといっても、そちらが素であると勘違いしそうなほどにしっくりくるが。彼とは住んでる場所が全く違うのでそれが彼の普段と本当に言える証拠は何もない。だけど、昨晩の夕飯時、彼の母親や父親、そして妹は彼の言動に対して、特段言及する事はなかった。やはり彼があの素なのだろう。

 

 そんな彼は今、自分の目の前で無防備な姿を晒していま。寝ていると、あの強い眼差しを湛えた視線がないのでとてもあどけなく見える。

 

「…………」

 

 彼はとてもかっこいい。

 まるでヒーローみたいだった。

 困っている人の目の前に現れて、その人が抱えている問題をあっという間に解決する。そういう存在が、とても昔の物語に登場していた。

 そんな彼がまた誰かを助けるために、そしてその道筋を整えるために秋川家にやってきた。連絡が来たときとてもドキドキした。また自分では想像もつかないような何かが始まるんだってワクワクした。

 

 まさか、自分がそれにくっついてくることになるとは思わなかった。

 

 正直、緊張している。父さんが使うような浄化の術も使えない。未熟で何もできない子供でしかない自分が何かできるのか。

 

 もちろん、自分がそういう役目でここに来たわけじゃないっていうことぐらいはわかっている。だけど、あの儚い少女を見てしまったその瞬間から……何かしなきゃいけないって、胸の内を焦がすような、焦りにも似た感覚が止まなくて仕方なかった。

 ソフィア・エメリッヒ。

 かわいそうだと思った。

 それだけじゃない。

 この胸を突き破って溢れれそうな感覚は何なんだろう。

 彼も同じなのかな。こんな気持ちで人を助けているのかな。それなら確かにわかる。こんな気持ちを放っておく事は誰にもできやしないんだって、本能で理解できた。

 

「…………」

 

「…………わぁ」

 

「ずいぶん早い目覚めだな」

 

 寝起きのぼんやりとした頭で考え込んでいるうちに、いつの間にか目の前にいた青年の目が開いていた。それに気づかずにぼーっと彼の目を見つめている自分は、はんて間抜けな姿だったんだろう。

 

「はは……」

 

「元気そうで、何よりだ。疲れたら馬鹿にできないからな、もっと長く寝込んでるもんと思ったけど、意外とお前体力あるんだな」

 

「ちょっと馬鹿にしてる?」

 

「ははは」

 

「体痛い」

 

「だろうなぁ。俺も快適だと思ってテントで寝泊まりしてるわけじゃないから」

 

「……今日は中で寝てもいい?」

 

「いいよ」

 

 正直1回だけでいいかな。

 

「あら、2人一緒に起きたの? アキヒロだけ起きてくるものだと思ってた」

 

「それがロイス、俺よりも早く起きてたぞ」

 

「へー、すごいわね」

 

 こんな早くから、アキヒロくんのお母さんは料理をしていた。トントンと刃物で食材を刻み、それを調理器具に放り込んでいく。名前は何もわからない。

 

「良い匂い」

 

「ロイス君は料理できるの?」

 

「できません!」

 

「そ、そう……最初からできる人なんて誰もいないからね、仕方ない仕方ない」

 

「何手伝えばいいですか」

 

「そうだね、そっちの──を洗ってくれる?」

 

 なんて言ったのか、名前の部分が聞き取れなかったけど、とりあえず指差したものを拾い上げて洗ってみた。

 

「ちょっ、ちょっ、ちょっ!?」

 

「え?」

 

 すぐ様、慌てて止めに入られた。何か間違ったことをしたのだろうか。

 

「え? ……嘘だよね? アキヒロ、これ嘘だよね?」

 

「いやー、これはガチだね。金持ちだとまじでこういうのあるらしいから」

 

「ソフィアちゃんより何もできない子っているんだ……あの子が最低限だと思ってたよ」

 

「やっぱりソフィアって料理できないんだ」

 

「……もうあの子はあんたよりできるよ」

 

「げっ」

 

「あんたも変なアレンジしなきゃ普通に料理できるくせに……あの癖治しなよ」

 

「それはほら、俺の個性だから」

 

「よく言うよ……とりあえずロイス君にいろいろ教えてあげて」

 

 2人の言葉の掛け合いをボケっと聞いていたら、アキヒロくんが変な形の玉? を拾い上げた。

 それを受け取ると、皮を剥くように指示が入る。

 

「皮をむく? 皮って……どれ?」

 

 指示はちんぷんかんぷんだった。そもそもどれが皮なのかがわからない。

 

「うごごごごごご……」

 

 アキヒロくんはますます苦しむと皮がどれかということを教えてくれた。とても薄い皮が何層にも重なって中の実を保護しているらしく、それを剥がさないと食べることができないんだって。変なの。

 

「とりあえず剥けばいいんだよね」

 

「そう。だけど剥きすぎると食べる部分が空気に触れてすぐダメになっちゃうから1枚だけ残さないとダメだよ」

 

 何かまた複雑な話になってきた。剥かないと食べられないけど、剥きすぎると食べられない。それって俺みたいな素人に任せることなのかな。

 

「ほら、一緒にやろうぜ」

 

 アキヒロくんも見ているばかりでは無いようで、隣に立って一緒に皮を剥き始めた。最初のほうは簡単なんだけど、最後のほうになると皮同士が結構強く密着していて剥がしづらい。アキヒロ君は結構それに慣れているようであっさりと進めていくけど、俺は初めてで力加減が難しくてなかなかうまくいかなかった。

 

 他にも色々と手伝っているうちに、ソフィアが起きてきて一緒に作業をした。ソフィアは、加賀美家にお世話になるようになってから、毎日これをやっているらしい。すごい。

 

「お返しできるものが、これくらいしかありませんから」

 

「そんなことないよ? ソフィアちゃん、例の力で鳥とかすぐに取ってきてくれるからね。何ならそこら辺飛んでるやつも簡単に落とせるからアキヒロとかより全然役に立ってるよ」

 

「あはは……」

 

 どうやら、アキヒロくんは家ではあんまり役に立たないらしい。少しだけ親近感が湧いて嬉しかった。

 

「ソフィアが凄すぎるだけで、俺もそこそこ役に立ってると思うんだけどなぁ……まぁ逆身内びいきってことで納得しときますか」

 

「アキヒロさんは私を助けてくれたので、それが今に繋がってるから結局全部アキヒロさんのおかげなんじゃないですか?」

 

「今の聞いた? うちの母親と比べてあまりにも優しいよね。いてっ」

 

 ゴミが飛んできた。

 

「人前で暴力はいけないと思いまーす」

 

「あはは!」

 

「おうロイス、人様の頭にものがぶつけられたってのにずいぶん楽しそうだな」

 

「やべっ!」

 

「逃げるな! まだ終わってねーぞ! ──え、ちょっ、なんで俺だけ?!」

 

「ロイスくんはともかく、あんたまで逃すわけないでしょ。ソフィアさんもいるんだから真面目にやりなさい」

 

「とほほ……」

 

 思わず逃げ出してしまったけど、まずかったかなぁなんて戻ろうとした時だった。アキヒロくんのお父さんであるエリックさんと鉢合わせた。

 

「ロイス君、おはよう」

 

「お、おはようございます」

 

「あはは、そんなかしこまらなくてもいいよ」

 

 そう言われても緊張してしまう。アキヒロ君曰く、加賀美家で1番おかしいのは彼だと言うのだから。でも、見た目からは爽やかそうな雰囲気しか漂ってこない。この人が本当に1番おかしいなってことあるのかな。

 見た目も、アキヒロ君のお父さんというにはかなり若い気がする。

 

「ははは、わかるよ。僕について何か変なことをアキヒロから聞いてるんだね?」

 

「あ〜……いや、えーと……」

 

「大丈夫、隠さなくてもいいから。怒る気もないしね。怒ることでもない。だけど、誤解は解かなきゃいけないからね。僕が変人だなんていう誤解は」

 

 もうその話し方からして、変人だった。

 

「だけど、その前に……申し訳ないけどアキヒロから詳しい話を聞いてなくてね。なんでロイス君が家にやってきたのかあまり知らないんだ。ちょっとでいいから教えてもらってもいいかな」

 

 当然詳しい話なんかできるわけは無いけど、とりあえず話せそうな範囲──コマ様が神様からの贈り物で、俺はそれの見守り役ということでついてきたという設定は話した。

 

「なるほどね、確かに神様の使いであればそこを取り仕切っている一族の息子さんが来るっていうのも当然なのかな?」

 

 エリックさんはその話を納得してくれたようだった。正直、そっから先まで突っ込まれると俺じゃ対応しきれなかったから助かった。

 

「これは別に他意はないんだけど、昨日ソフィアちゃんの事についても話してたよね。そこら辺はどうなってるのかってのがちょっと気になってて……本当、どうしろって言う話じゃないよ? ただの質問なんだけど、ロイス君はソフィアちゃんの件について関わるつもりなの?」

 

「…………はい!」

 

「……」

 

 考え込む姿は、アキヒロくんそっくりだった。

 

「楽な道じゃないと思うよ。それどころか……本当に命を失ってもおかしくない道なんじゃないかなって僕は思ってる。そこのところはちゃんとお父さんたちに話した?」

 

「…………してないです」

 

「じゃあ、そこはちゃんと話しといたほうがいいと思う。自分が知らないところで子供が大変な目に遭ってるなんてなったら、お父さんすごい心配すると思うよ」

 

「……はい」

 

「はい話終わり! ごめんね。なんかちょっと重い話にしちゃって」

 

「あ、いえ……」

 

「アキヒロ、あいついいやつだろ?」

 

「はい、すこく」

 

「うんうん、そうだよね。でもその代償っていうのかな? 自分のことあんまり顧みないっぽいんだよね。正直周りに誰かいてくれた方が安全な道通ってくれそうだからさ、僕としてはロイス君がいてくれるのはすごく嬉しいんだ」

 

 すごいいいお父さんだなって思った。

 

「おっと、アカネが起きてきたかな」

 

 アカネちゃんはアキヒロ君の妹。絶賛反抗期だとかで、確かに昨日の夕飯の時も黙々とご飯を食べていた。

 

「あ……」

 

「アカネちゃん、おはよう」

 

「…………ます」

 

 一応返事は返してくれたかな、そそくさと逃げられてしまったのでちょっとショックだけど。

 

「ロイスくんがかっこいいから照れてるんだね。許してあげて」

 

「か、かっこよくは……怒ってもないです」

 

「それならよかった」

 

 やっぱり、いいお父さんだ。

 

登場したキャラクター等の名簿的なものは必要か否か

  • いる
  • いらない
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。