【マンガ化】焼肉スコスコスコティッシュフォールド【進行中】 作:goldMg
「商工会に行く?!」
アキヒロが突然にそんなことを言い出したので、秋川ロイスは目を白黒させた。何せ商工会とは荒くれ者たちが集まるランドマークタワー。ロイスとは永遠に交わることのない倫理観に身を委ねた、戦闘者たちの憩いの場だ。そんな彼らの場所に行くという事は、何をされても仕方がないという意思表示に他ならない。
「ほ、本当に行くんですか?」
ソフィアも似たような反応を見せている。第一セクターで生活してきた彼女にとって探索者というのは見慣れた存在ではあるが、慣れた存在ではない。父親が探索者であるからといって娘まで同種であるということは意味しないからだ。
──誰かの幼なじみと同じように。
「行くって、それ俺たちだけで行くの?」
彼の言葉に逆らっても何の意味もない。まずはもう少し詳しいことが知りたかったロイスは、気になった点を挙げた。
「ウルフさん達も連れて行くぞ」
返ってきた答えき2人とも胸を撫で下ろした。見知って間もない3人組ではあるが、自分たちに危害を与えるような存在でないという事は既に証明されていた。
「コマちゃんはお留守番な」
「ひゃん」
当然だ。もしも探索者たちの集団の前に連れて行って何かされたら、自分は一体何をもって償えばいいのかとロイスは身震いをした。
「──ほう! こんな朝早くから何をしに来たかと思えば、商工会とな? なるほどなるほど、まるで突拍子がない! ……だが、何か意味があるのだろう?」
3人が泊まっている宿に押し掛けると、まず出てきたのはウルフだった。少しだけ目元にクマが見える。探索者の体力の化け物っぷりを考えると、昨晩から夜通し詩を考え続けていたということだろうか。
「探索者になる? ダンジョンに行く? 誰かに依頼する? ──ああ! 想像ができない! 君が何をするのか、まるで予想がつかない! なんと素晴らしいんだ! 素晴らしい題材だ!」
「うるせえな! 朝からうるせんだよお前!」
隣の部屋から扉を勢いよく開けて出てきたのは、キレたアオキだった。まさか、このタイミングにおいても、兜を被っているとはと3人に衝撃を与えつつブチ切れている。
「ウルフ! 何度言ったらわかんだよてめえ! ガキはガキらしく、夜は寝てろ! カチャカチャカチャカチャカチャカチャカチャカチャうるせんだよ! 昼間全部やれ!」
嫌悪感がすごい。
言葉の節々から忌避感が溢れている。
以前から何度も同じ話を繰り返しているのだろう。それに耐え続けているのもなかなかの精神力だが、それだけ言われても続けているウルフもまた異常だ。
「おめぇら! 俺は眠い! 今日は休養日なんだよ! ゆっくりさせろや!」
「いや! 今すぐ行こう!」
「話聞いてんのか、てめえ」
「リーダー命令だ」
「ちっ……」
悪態はついても従うのがパーティー。それは理想形だが、このパーティーはそれに近いらしい。
早速と準備を終えたウルフたちは、下で待っていた3人の下へやってきた。
「せめて朝飯ぐらい食わせろや」
どうせ酒場に行くなら、そこで朝飯を食べようと結論付いた。
というわけで荒くれ者ばかりの商工会にやってきたはいいものの、そこにいるのはジロジロと不躾な視線をよこす探索者たち。露骨に体に視線を起こしてくるのには辟易したが、ウルフたちがいるということもあり、悪態をつくものやちょっかいをかけようと近づいてくるものはいなかった。
居心地の悪さを感じつつ、人が来ると言うのでおとなしく待っていれば届いたのは1杯の酒。これは何かとアキヒロの顔を見れば、首をすくめる。彼が頼んだものではなかったようだ。では誰が──そんな彼女たちが気づいたのは、後ろの席に座っていた1つのパーティー。若い青年で構成されたパーティーで、先ほどからこちらに視線を寄越しているのには気づいていた。
「あちらのお客様から、ってやつか……」
アキヒロが感慨深そうに呟いた。しかし当の本人は飲み物に手をつけていいのかわからず、ロイスの顔を見る。
「いいんじゃない?」
少年は善意を疑うこともなく能天気に言った。しかしソフィアはなんとなく嫌な予感がして手を伸ばせない。
手をつけなければ彼らの機嫌を損ねるかもしれないけど、手をつけたら何を言われるかわからない。もしかしたら不当なほどの要求をされるかもしれない。
どうしようかと悩むソフィアに声をかけたのはアオキだった。
「どっちでもいいと思うぜ」
「アオキさん?」
「精一杯のカッコつけってやつだろ、そんな気にする必要もねーよ」
「……じゃあ、飲もうかな」
軽い口当たりのアルコールだった。どうやら、女子供でも飲めるように用意されているソフトドリンクに類するような酒らしい。限界まで抑えられたアルコール成分、果物から絞ったのであろう甘さとあいまってすいすいと喉を通り過ぎていく。
「……おいしかった」
「飲み過ぎんなよ。酔っ払って暴走なんてされちゃあ、たまったもんじゃねーからな」
釘を刺されたので1杯で打ち止めとし、お礼をしに行った。
「ありがとうございました!」
「ん? おう」
「?」
そっけない。
わざわざ飲み物を寄越したにしてはあまりにも淡白な反応だ。何のために彼らは飲み物を自分にくれたのだろうと首をひねるが、面倒事がないのであればソレに越した事はなかった。
席に戻ると、ロイスが少しだけ緊張した顔をしていた。
「ど、どうだった?」
「よくわかりませんでした」
「?」
今のやりとりを話すと、ロイスも首をひねる。しかし別の反応を見せたものもいた。
「はっはっはっは!」
ウルフだ。
呵々大笑、面白くて仕方ないと肩をゆする。
「どうやら女の口説き方すら知らんらしいなぁ! 若い若い!」
「おっさんくせーぞ」
「俺があの歳の位の時は、それはもう──あだあっ!?」
「もういい」
「なっ?! す、すねるなルクレシア!」
アオキも既に機嫌は直っている。ドラゴンのステーキというとんでもない高級料理を幸せそうにほおばっていた。
ルクレシアとウルフのしょうもない夫婦喧嘩などどうでもいいのだ。
「おめぇらも大人になったら、こんなうめぇ飯が食えるといいな。あ、お前だけは無理っぽいな」
「な、なにおう!?」
アキヒロは憤慨した。彼が目指しているのは、牛肉をいつでも食べられる理想郷だ。今の価値で言えば、ドラゴンの肉などよりもよっぽど牛の方が高値になる。夢を叶える頃には、ドラゴンの肉など飽きるほど食べているだろう。
「はいはい、夢は大きく持っとけな」
ぐぬぬ、と返すことしかできない。どれだけ壮大な夢を持とうとも、今は単なる貧乏人でしかなかった。
「というか、誰呼んだんだ? いい加減教えろよ」
「来てからのお楽しみだって言ってるじゃないですか」
「…………まあ、なんとなく予想が着くよような気もするけどよ」
──────
「それで俺を呼んだってわけか。贅沢だねぇ」
「いやぁ、さすがにプロフェッショナルを呼ばないってわけにはいかないかなと……本当は最初に相談しようかとも思っていたんですけど、なんか違う気がしたんですよね」
「ふーん……まぁ、お前の勘って意外と頼りになるから合ってるのかもな」
「意外と、は余計ですね」
呼び寄せられたモヒカンの男。
名を四門光輝という。
アキヒロの幼なじみの父親にして、探索者の中でも特に名高い1級探索者の位に位置していた。なぜそんな彼が家に呼ばれたのかと言えば、ソフィアの件について何か役に立つのではないかと思われたからだった。
レベルの高い探索者であれば、より多くの異能と触れている。より多くのモンスター、より多くのダンジョン、普通の人間であれば一生経験しないようなことですらも、彼らは日常のように経験しているのだ。その中に、もしかしたらソフィアの件を解決する糸口があるのではないかと、そういうことである。
「それで? この嬢ちゃんがソフィアか?」
「…………!」
「っ……!」
ロイス、ソフィア、ウルフ、ルクレシア、アオキ。
この件に関わりを持っているアキヒロ以外の5名は、押し寄せる波のような圧力にたじろいでいた。特にロイスとソフィアに関しては、声を発することすらできない。
「おいおい、びびりすぎだろ。傷つくぜ」
「髪型変えるべきだと思いますけどね。絶対それで損してるんで」
「黙れ」
ウルフたちは驚愕した。超絶の域に達している魔人を目の前にして、少年は圧力などまるで感じていないかのように楽しげな会話を行っていたのだ。だが偽りではない。この感覚は間違いなく、目の前の絶対強者から放たれているものだ。
「異能の暴走……お前、わかってて言ってるな?」
「俺は確定してない、誰も研究してないことを事実として言うのは嫌なんです。1つの例だけを挙げて、それを拡大解釈するのは、あまりにも危険じゃないですか?」
「あーうるせえうるせえ、そういうクソどうでもいい理屈などうでもいいんだよ。てゆうか、お前ミツキと会わせてんだろその子」
「ミツキのことって何もわかってないじゃないですか」
この場において、ミツキなる人物のことをちゃんと知っているのは2人だけだった。他の面々は首をかしげ、情報を得ようと耳をすましている。
「まずはミツキも一緒にいないと話始まらねーだろ」
「あいつ学校じゃないですか。授業サボっちゃダメですよ」
「どの口が」
「でも俺の場合は成績で良いですから、何の問題もないです」
「ミツキも別に悪くねーから」
わざわざ商工会の酒場にまでやってきてする話がこれなのか。周囲にいる無関係の探索者たちも、突如として現れた最強の存在にうろたえている。仮に彼の姿を見たことがなかったとしても、一度その姿を視界に収めれば、どのような存在かは探索者であれば当然理解できた。
『あれって……』
『この圧力……』
『モヒカン……』
ざわざわと鳴り止むことのない詮索のさざめき。中にはその正体を直接確かめようと腰を上げるものもいたが、パーティーメンバーに押さえつけられる。誰だって、見える地雷に突っ込む勇気は無いのだ。
「ミツキ抜きで話がしたいって事は、あいつが関係ないことなんだろ? ダンジョン、モンスター、西の地、霊領、どれなんだ」
「俺は……どこかのダンジョンに答えがあるんじゃないかと思ってる」
「理由は?」
「理由は二つあります」
「言ってみろ」
「ソフィアのお父さんが探索者らしいです。だけど、お母さんはそうでもないらしいんですよね。コウキさんと……違うか、ミツキと状況がそこだけ見れば似てると思うんですよ」
「…………さすがにそれだけで同じって決めつけるのは厳しいと思うぞ」
「相当やり手だったみたいなことも……ソフィアの記憶の中ではそうらしいです」
「主観かあ……」
「まずは信じてみる。情報が少ないんだから、それしかないじゃないですか」
「そもそも、その親父さんの名前は何つうんだ」
「それは2つ目の理由ですね」
「は?」
「ソフィアはお父さんの名前を覚えてないんです。それにお母さんの名前も。出来事、昔どんなことをしたのかだけは覚えているのに、名前は全く出てこないそうです」
それを聞いて、コウキはようやく興味が出たと身を乗り出した。
「あれか? 強いショックでも受けたとかか? それか薬でも飲まされたか?」
「そんなアイテムがあるなんて話は初めて知ったので、それは置いておくとして……不思議でしょう?」
「不思議っていうのはちょっと違えな。そんなの不思議のウチには入らねえ」
「一般的には不思議な範疇に入るんですよ」
腕を組み、首をかしげる。
おそらくは過去の記憶を探っているのだろう。
「す、すすすすすごい人だね」
「は、ははははい」
少年少女は体の震えが止まらなかった。
登場したキャラクター等の名簿的なものは必要か否か
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いる
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いらない