【マンガ化】焼肉スコスコスコティッシュフォールド【進行中】   作:goldMg

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44_一歩は百歩

「3つ4つ質問がある」

 

「!」

 

 軽く声をかけられただけで、ソフィアの顔は明らかに硬直していた。

 

「そんな硬くなんなって。これでも俺は温厚なんだぞ? そこら辺にたむろしてる奴らと一緒にすんなよ」

 

 異能以外は普通の女の子であるソフィアにそんなことを言ったところで受け入れられるわけもない。一緒にするなと言われてもモヒカンだし、素肌の上からレジャージャケット着てるし、威圧感半端ないしで落ち着ける要素がない。アキヒロの言う通りモヒカンをやめてくれれば、もう少しだけ落ち着いて見えるのかもしれなかった。

 

「お前さん記憶がないって話があったな。どこからどこまでの記憶がねえんだ」

 

「……父さんやお母さんと最後にどこで出会ったかが全然思い出せないんです。一緒に暮らしてたし、いろんなところにご飯を食べに行ったり……服だって買ったし、ピクニックだって行きました。だから、私はあの2人と一緒に暮らしてたはずなんです。だけど……やっぱり何も思い出せないんです」

 

 一緒に暮らしていたはずなのに、いつ別れたのか思い出せない。どこからどこまでが本当で、どこからどこまでが虚構なのか。自らの記憶、自らを構成するはずのそれが現実かどうか自信が持てなくなる。それは自我の喪失に等しいだろう。

 

「探索者の間でも記憶喪失ってのは結構ある。ユメウツシの喪失粉を顔面にぶっかけられるとか魔素溜まりに突っ込んだとかでな。そういうのはあるか? 

 

「私、探索者じゃありません」

 

「そうだよな。そんじゃあ俺には何もわからんわけだが」

 

「…………え?」

 

「いや、わからんて。俺探索者だし。記憶喪失のプロじゃないし」

 

 それは当然なのかもしれないが、圧倒的な威圧感を放つ男が口にするにしては少々みみっちい内容だった。

 

「コウキさん、せっかく呼んだんだからもう少し何か意見言ってくださいよ」

 

「なぁーにがせっかくだ。お前が来て欲しいっつうから来てやったんじゃねえか」

 

「異能を獲得できるダンジョン。そんなのはないんですか?」

 

「はぁー? そんなのがあるんだったら誰だって行きたいに決まってるだろ。俺だって行きてえよ」

 

「一般人が魔素溜まりに突っ込んだら異能は獲得できるんですか? それが赤ちゃんだったら、どうなるんですか」

 

「あー……魔素溜まりに入って、そこから生きて出てくることができたって言うなら、お前の言う通り異能だって獲得できるかもしれねぇな。生きて出られればの話だけどな。そんなこと人間には無理だ」

 

「ソフィアが異能を獲得した理由って何だと思う?」

 

「それな。俺もミツキから聞いていろいろ考えたんだけどよ……正直全然わかんねんだわ。そもそもミツキがなんで異能を持って生まれたかだってわかってねーんだぞ」

 

「誰か知ってる人知らない?」

 

「お前適当ぶっこいてんじゃねーぞ」

 

「でもコウキさん顔広いじゃん。あるでしょ1つぐらい、そういう伝手が」

 

「はぁ……」

 

 何を言ってもわからない奴だとコウキは何度も首を横に振った。本当に普通に会話をしている。あっけに取られているウルフたちなど、まるで無視だ。

 しかし、彼らにも沽券というものがある。いつまでも無視されていたのでは、2級探索者としてこのセクターで築いてきた地位の基盤に差し障ることになるだろう。

 

「失礼!」

 

「あ?」

 

「私はウルフという。あなたは四門光輝で間違いないだろうか」

 

「どう見てもそうだろ」

 

「では……私たちを置いて会話をするのはやめてもらってもいいかな?」

 

「ああ?」

 

 男は眉間にしわを寄せた。それは間違いなく、下に見ている奴が反抗してきたときに人間が見せる反応だった。

 

「私たちの方が先にこの事について関わっている。1級探索者だからといって、そこを無視して話を全て進めてもらっては困るんだよ」

 

「…………役に立たないから俺が呼ばれたんだろ? 何言ってんだお前」

 

「役に立つ立たないの以前に、私たちとて詳しい話はまだ聞いていなかったのだ」

 

「じゃあ先に関わるもクソもねーじゃねーか」

 

「なればこそ、今こうしてこの場で改めて話を聞いてこそ見えてくるものもある」

 

「つーか誰だお前ら」

 

 コウキからしてみれば、アキヒロ以外の全員が初対面だった。関わるなだの怖いだの言われているが、昔からこのおてんば小僧と家族ぐるみでの付き合いがあるのは自分の方なのだ。

 それで頼られたのだから、力を貸そうと足を運んでやったのに、本当に誰なんだコイツらは……というのが内心だった。

 

「見たところ槍使い、剣使い、そんでお前はいろいろ使えそうだな」

 

「……見ただけでわかるか」

 

「そりゃな」

 

「…………」

 

「やめとけ」

 

 コウキは手のひらを向けた。今にも立ち上がりそうだったアオキが、兜についたスリットから覗く目を細めさせる。

 ピリついた空気──アオキからの一方的なものではあるが──が両者の間に流れ、それを止めるようにウルフが口を開いた。

 

「アオキ、やめてくれ」

 

「……ちっ」

 

 2人の闘気に当てられたロイスとソフィアは、もはや気絶しそうなほどの震えに襲われていた。

 

「ひぅぅ……」

 

「っ……」

 

 そのせいか、周囲の温度が心なし下がっているような気すらする。

 

「アオキさん、本末転倒なことはやめてください」

 

「……おっとそうだな、すまん」

 

 さすがに反省したのかアオキは気配を消し、ソフィアの体の震えも収まった。

 

「ウルフさん、アオキさんは暴走しやすいらしいので、ちゃんと握っていて欲しいですね」

 

 これで2回目だ。

 

 

 ──────

 

 

「本当にいいのか? どうなっても知らんぞ?」

 

「責任はコウキさんが取るので大丈夫です」

 

「だからそれ俺じゃねーかよ」

 

「あのなあ……お前は知ってるけど……この2人、マジで一般人なんだろ? よしんば研修生か」

 

「リスクなしで何かするにはちょっと今回は条件が厳しいんですよね」

 

「だから素人をダンジョンに連れてくのか?」

 

 そう、一行はダンジョンに来ていた。

 高難度のダンジョンではないが、紛れもなく探索者が活動するようなダンジョンだ。

 深草峠という、その名のごとく草が深く生えた峠までの範囲。もともとは上り坂の道に沿うように村が存在していたらしいが、セクターに区分けされるよりも前の話なので、跡すら残ってはいない。一行立っているのは峠の麓。この最下層で出現するのは精霊バッタ、青筋キノコ、はらぺこ長虫などとりあえず名前をつけてみただけの雑魚モンスターばっかりだ。

 探索者になりたての研修生が多く見られるし、少し成長した初級者なんかもここに来ることがある。入門編に相当するダンジョンが街の近くにあるとは、とても恵まれた環境だ。

 

 そんな場所に、1級探索者と2級探索者が集ってしまった。半分ぐらい悲劇だ。

 

『う、うああ……』

 

『あばばばば』

 

『終わった……俺、かっこいい英雄になろうって思ってたのになぁ……』

 

 悲劇に巻き込まれた彼らはあまりにもかわいそうだった。

 圧倒的な威圧感に下半身が弛緩して粗相をする者。

 脳が情報処理しきれなくなり失神する者。

 これからどんな目に合うかを想像して絶望するもの。

 歓迎の態度を見せる者は1人としていない。

 今からモンスターと戦おうと構えていた探索者ですら、一行の登場に視線を送らざるを得なかった。

 

「あの……なんでここに……?」

 

 ソフィアは2人に問いかけた。

 

「話聞いてなかったのか?」

 

「ご、ごめんなさい……」

 

「コウキさん。あんまり口調酷いとミナさんに言いつけますからね」

 

「お前ふざけんなよ……あれだよ。異能ってのは魔素ありきで発動する代物だから、魔素が濃いダンジョンに来れば、もしかしたら何か掴めるんじゃねーかと思ってな」

 

「魔素ありきなんですか?」

 

「第一期では異能なんてなかったって話だからな。魔素が現れて、世界が変わって、モンスターが現れて、ダンジョンが現れて、それで俺たち探索者がこの世界に現れた。なら異能もそこからだろ普通に考えて」

 

「それで……私は何をすればいいですか?」

 

「とりあえず一番高いところに行く。ダンジョンの1番深いところ、そこが1番魔素の濃い場所だ」

 

 こうして世界で1番贅沢な遠足が始まった。

 引率の先生は元1級探索者。

 副担任に現役の2級探索者が3人。

 参加者は、一般人が3人。

 講師の方が生徒よりも数が多い。

 峠を登るにつれて、攻撃的なモンスターが数を増やしていく。ボールバードやロールボアなど地表型のダンジョンならどこにでもいるようなモンスターがここにもいた。

 

「あーもー……雑魚は相手の強さがわかんねぇからめんどくせえな」

 

 デコピンを繰り出すと、向かってきたモンスターが小気味の良い音とともに弾け飛ぶ。圧倒的な性能はソフィアやロイスに危害を及ぼす余地とを消滅させていたが、低いモンスターでは相手の強さを推し量ることはできない。通るなら襲うと、ひっきりなしだ。

 

「さすがにここら辺の敵は切っても気持ちよくねぇな」

 

 アオキも武器を出すことすらしていなかった。飛びかかってきたロールボアの牙を片手で掴むと放り投げる。さすがにそんなことをされれば気づくのか、すぐに退散していった。

 

「おっ! こいつは食えるな」

 

 アキヒロは時折しゃがみ込むと草をむしり、木を見上げては果実を摘み取る。

 モンスターだけじゃない。

 生物の生育が通常より活発に行われるダンジョンでは、食べられる植物も多く存在した。

 

「毎日来てもいいくらいだ!」

 

 なんとも呑気なものだ。ソフィアの件など忘れているんじゃないかと思われるほど楽しそうにしている。

 持ってきた背嚢は既に満杯だ。

 

「こんだけ持って帰れば母さんも大満足だな」

 

「お前は何してんだよ」

 

「いつ何時(なんどき)でも気を張ってたら疲れちまうだろ? 緩急だよ。緩急」

 

「キモが座りすぎだろ」

 

 峠という名前が指す通り、深草峠はダンジョンとして見るとそこまで広くはない。アンダーなどと比べると本当に小さなダンジョンだ。逆に考えれば、狭くなければ初心者が安心して訪れることができるような推奨レベルのダンジョンとは言えないのである。

 

 一行は時間をかけることなく頂上にたどり着いた。そこまで広くはないが、草がしっかりと刈り取られ、数人の探索者がたむろしている。そしてそこには、探索者だけではなく商工会の職員もいた。

 

「ずいぶんと……お、大所帯で……ですね……」

 

 これまでの探索者たちと同じくキョドりながら迎え入れる。なぜ職員がこんなところにいるのかと、探索者ではない3人は不思議がった。

 

「ああ、それはですね。ウェブが低いダンジョンであれば、私たちのような職員も直接監視に赴くことができるので、こうしているってわけですよ」

 

 しかし、職員としても気になる事はある。

 何なら気になることしかない。

 

「どういう……その、事情でここに……?」

 

 モヒカンはともかく、ウルフたちに関してはその職員も認知している。こんな低レベルのダンジョンにいていいような4人ではない。何か事情があると考えるのは当然のことだった。

 

「すまないが、詳しい事情を話してやることはできないんだ。個人的な問題に大きく関わることでね」

 

「事情ですか」

 

「無論、この後ともに楽しいひとときを過ごしてくれると言うのであれば……もしかしたら口が滑ってしまうかもしれないがな」

 

「え、えと……少し時間をいただけるのであれば……」

 

「ふふ、待つともさ。何なら霧が赤く染まるまで一緒にここで立っていることもできる」

 

 ウルフは顔が良い。

 大げさな口調も好意的に捉えられるので、女性からこのような反応を受けることだってよくある事だ。特に、相互の関係値が薄ければ薄いほど。

 

「おい」

 

「!」

 

 地獄から響いているかのような声が彼の耳に届いた。

 

「……まあ待てルクレシア。そうだな、これは……もごっ!?」

 

 指を折り曲げ、手を動かし、何事か言い訳をつなごうとする口に槍が突っ込まれた。

 

「言ってみろよ」

 

「…………」

 

 一言でも発すれば最後、その綺麗な顔の均整を整えるパーツの1つである口が失われるだろう。

 

「おい女……わかるな……?」

 

「!」

 

 職員は、すぐさまウルフから離れた。

 

「パーティー内で恋愛ごっこか、いかにも低レベルらしいな」

 

「イキリすぎイキリすぎ。イキリすぎ警報出ますよ」

 

 

 ──────

 

 

「ソフィア、体に異常はないか?」

 

「え、あ、はい」

 

 ふざけていた雰囲気から一転、アキヒロは唐突に真面目な顔になるとソフィアの体調を慮った。もしかして自分が忘れられているのかもしれないとすら思っていたソフィアは、ポツネンとしていたところに急に話を振られたので、若干どもりながら体を確かめる。

 しかし、異常があれば冷気が漏れる。

 彼女の体温は至って平常。近くに立っているロイスも普通の顔をしていた。

 

「さすがに多少魔素が濃い位じゃなんも変わらないのかもしれないな……体調以外で何か変なことってないか? 例えば、あー……視界が緑色とか」

 

「緑色じゃないですね、いつも通りです。そもそも視界が緑色って体調が変なんじゃ……」

 

「それはいいんだよ、例だから。あんまり突っ込まないでくれ」

 

「…………あっ!」

 

「なんだ!?」

 

 唐突に大声を出したソフィアに視線が集まる。

 

「そういえば、ルクレシアさんに炎で温めてもらってから調子が良い気がします!」

 

 アキヒロはこれまでの彼女を思い返し、最後に暴走してからの彼女を思い返す。確かに鬱々としていた表情はどこか明るく、動きも機敏に見える。

 

「あれなのかな、逆に異能思いっきり使うと調子良くなるのかな」

 

 これまでは体調が悪いから異能が制御できないと思っていた。その仮定がもしかしたら少し間違っているのかもしれない。

 

「安直に試すのもなぁ、危ないからなあ……とりあえず、多少魔素が増える程度じゃ変わらないってことがわかったのは成果かな?」

 

 山登りをした結果として得るには、少々乏しいようにも思える。ソフィアは渋い顔だった。

 

「そんな顔すんなって。千里の道も1歩から、こうやって少しずつ進んでいくと何かが見えてくるんだよ」

 

 あまりにも長期的な視線。

 若者のそれではなかった。

 

「緊張感ねえなあアイツら、一応ダンジョンなのに」

 

「お、俺はありますよ……」

 

 ほぼ空気と化しているロイスは控えめに手を挙げた。

 

「……趣味がわかりやすすぎる」

 

「え?」

 

「言っていいか? なあ、言っていいよな」

 

「えっと……はい」

 

「あいつキモすぎだろ」

 

「え……き、きもくないですよ?」

 

「いや、キモすぎだろ。だって……ミツキだろ? お前とあの嬢ちゃんだろ? あと中学生の時も……やっぱキモすぎだろ……!」

 

「な、何がそんなにきもいんですか!」

 

「顔の良いやつばっか助けてるところだよ!」

 

「!?」

 

「あいつ昔から顔が良ければ全部いいみたいな考え方してるからな? いや、付き合い長いからずっと知ってたけど……改めてコレクションをお出しされると、あまりにも、その……趣味が露骨すぎてきもい」

 

 恩人に対する罵詈雑言。ロイスは頑張って反論しようとしたができなかった。

 

 確かに自分はイケメンだと言われる事はよくある。あまり自分で自分のことをそう思ったりはしないけど、人からそう見られてるんだったら否定ばっかりもできない。そしてソフィア。彼女の可愛さこそ、否定する隙なんかない。度々話に出てくるミツキという幼馴染もきっと可愛いんだろう。

 

「異能を使ったら体調が良くなる、ねえ……」

 

「な、何か心当たりがあるんですか?」

 

「…………異能ってのはな。使うと疲れるんだよ」

 

「へー」

 

「使って体調が良くなる──そういうのがないわけじゃない。超速再生とか幻惑解除やらはそうだからな。だけど、氷の異能を使って体調が良くなるってのはどういう理屈だ?」

 

「…………」

 

「………………例えば『氷を使うと体調が良くなる』でワンセットの異能ならありえない話じゃない」

 

 じゃあそれなんじゃないだろうかとロイスは小さく持った。そんな少年を横目で見ると、異能もりもりの男は小さくため息をつく。

 

「あのな? 問題は、そんな異能なんてありえないってことだよ」

 

「どうしてですか」

 

「これは俺の経験なんだけどな、異能ってのは大抵が窮地に追い込まれたときに発現するんだよ。この異能が、こんな異能があればもっとうまくやれたのに、死ななかったのに、誰も死なせなかったのに……そんな怨念じみた思いが具現化するのが異能だ」

 

「──!」

 

 握った拳から様々な色の光が溢れている。その一つ一つが性質の違う力を宿しているのだとしたら、一体どれだけの異能をこの男は操ることができるのかとロイスは戦慄した。

 しかし、今聞いた話はどこかで聞いた話だった。

 

「アキヒロにも何度か話したからな、それを受け売りで言ってるだけだろ。…………まあそれはいいんだ。要は、生まれた時に異能を持ってるなんてのは例外中の例外、俺もまだミツキとソフィアでしか見たことがねえ」

 

「それって……!」

 

 対処法がないということだろうか。

 

「さあな。それを探してんだろ?」

 

「…………」

 

 ロイスは、もはや何も言うことができなかった。

 

登場したキャラクター等の名簿的なものは必要か否か

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