【マンガ化】焼肉スコスコスコティッシュフォールド【進行中】 作:goldMg
「はぁ……」
「どしたよ」
「あ……ふんっ」
「おいおい、そんなつんけんすんなって。悪かったよあの時は。反省してる、もう二度とやんねえって」
先ほどやらかしたばかりの男とは思えないような堂々たる発言だった。既に深草峠からは降り、交友を深めようというアキヒロの言葉に端を発して一緒に行動することになったのだ。
1番相性が悪い2人だ。
その原因がアオキである事は否定のしようもない。
「ほんとに反省してるって。俺はちゃんと学べる男なんだから」
「…………」
なんて浅い言葉なんだ!
ルイスはその言葉に耳を貸す気がまるで起きなかった。
「じゃあ、こうだ。うまい飯でも食べよう」
「はぁ?」
その作戦は露骨過ぎて、1周回って狙ってないんじゃないかと思ってしまう。
食べ物で釣る。とてもシンプルだが、知恵を力として生きてきた人類に対しては効き目が薄い。絡め手を使って、その中に織り込むことでようやく効き目を発するような策だ。
「──アオキさんだ! ……あ」
というわけで、やってきたのは商工会の建物から少し離れた位置にある食事場。
父と娘の2人で懸命に経営している健気な店だ。
アオキが扉をくぐると、娘が嬉しそうに寄ってきた。そして後ろにいるロイスを見て、ややこわばった顔になる。
「元気にしてたか?」
「……うん!」
「今日は新入りを連れてきた」
「この人……だよね?」
「そうだ」
少女はカウンターの向こう側から怯み気味な視線を向けてくるが、ロイスもロイスでいきなり紹介されたので若干の戸惑いがあった。
「ロイスだよ。よろしく」
「!」
友好を意味するはずの笑顔を見て、少女はカウンターの下に姿を隠してしまった。
「あれ……」
「緊張しいでな。ほれ、お前も挨拶しろ」
「…………ミチカです」
目だけ出しての返答。
気まずい空気が流れる。たらりと額を流れる冷汗に、挨拶でこれってこのお店大丈夫なのか? と、ロイスは当然の疑問を抱いた。
「さて、飯だ飯。そのために来たんだからな」
かくして、男2人+看板娘のドキドキ昼食会が始まった。
はじまりは、啜る音。
丁寧に形を整えて斬られた野菜はどれも同じ形をしており、いつ誰が食べても同じ口触りになるように調整されている。その汁の味からして、肉ではない。やはりこのスープのメインは野菜なのだろう。
「なんか……安心する」
2口飲んで、ほっと息をついた少年は、カウンターの向こうで、無言で居続ける男を見た。
「おいしいです」
「ん」
無愛想。
褒められた返しとしてはあまりにも冷たく、人によっては、そこに不快感を覚えることもあるだろう。しかしロイスはそれで充分だと言わんばかりに、もう一度器を口に近づけた。
「…………」
そんな彼をこっそりと見ているのはミチカだ。目だけを見せ、客としてやってきた少年たちが一体どんな反応するのかを興味津々に観察している。口に含んだときの眉の動き、ホロホロの野菜を噛み砕いているときの視線の動かし方、飲み干して器をカウンターに置いたときの満足げな表情。
「あの……」
「!」
食事に集中できなくなるほど熱心に見てくる。
ロイスが思わず話しかけると、風を残してパントリーにつながる扉にまで後退した。
「俺、怖がられてます?」
「んー…………」
アオキは器に目を落として唸っていた。
「聞いてます?」
「あ? 何か言ったか?」
「俺、怖がられてるのかなって」
「…………」
視線をミチカへ向け、ロイスに向け、そして店主に向けると、最後は天井に向けた。あーとか、めんどくせーとか、勝手にやってろよとか、心底だるそうな顔して、ルイスに視線を戻す。
「さあ」
「絶対なんかわかってますよね!?」
「わかんねぇ……なんだろうな」
白々しいにもほどがあるとはこのことか。憮然とした表情でなんもわかんねぇと繰り返す。
「そんなことより、前より腕を上げたな」
「ん」
「ロイス。どうでもいいこと気にしてないで、お前もちゃんとこのスープを味わえ」
ただの昼飯からグルメツアーに変わっていったのかもしれない。
──────
スープ、ステーキ、野菜の焼き物。シンプルながら満足度の高い食事を楽しんだ二人は、店から出ることなくしばらく話していた。
「なんで兜外さないんですか」
「それ聞いてどうすんだよ」
「だってご飯食べ辛そうだし……」
「世の中には聞かないほうが良いこと、知らない方が良いことがたくさんあるんだよ」
「ふーん」
うまい飯を食べたおかげか、ロイスの機嫌は店に入る前と比べてだいぶ良くなっていた。言葉にも険がない。
食器を片したら裏で仕込みを行っている父娘は置いて、花が咲くほどには話をしていた。
「あの霊領の息子と見込んで聞くけどよ、実際どうなんだ? 神様ってやつに会ったことあるのか?」
「ありますよ、そりゃあ」
「へー、脳みそぶっ飛んだりしねえのか」
「するわけないじゃん! 神様をなんだと思ってるんですか!」
「まぁ基本的には敵だよな」
「え?」
それは意外な返答だった。少なくともロイスの身の回りにおいて、神の敵であることを自称するような人間は1人もいない。
「モンスターと神様、何が違えんだ?」
「神様は俺たちを守ってくれてんだよ?」
「でもお前はその霊領から出てきてるけど死んでないぞ? さっきだって守ってたのはグロウバスターだし」
「グ、グロウバスター?」
「知らなかったのか。現役の時はよく呼ばれたけどな」
「だっさ……」
「お前、そんなん聞かれたら殺されるだろ……」
「ダサイもんはダサイでしょ」
「まさか、あんな真っ当な人間だと思わなかったぜ」
薄ら笑いを浮かべ、トントンと机を指で叩く。獣のような笑みは、まさに彼の戦意がみなぎっていることを示していた。もしコウキがこの場にいれば、再び決闘をちらつかせたかもしれない。
「そんなに戦うのが好きなの?」
「ああ、好きだね。何よりも好きだ」
即答。
横に流した瞳がロイスの視線とぶつかった。
そして、戦いをなりわいとする人間ではないロイスは思った。
──あぁ、これはだめだ。なんて、恐ろしい瞳なんだ。
自分とはまるで違う精神性、意外とマトモな──一見するとマトモじゃないが話すと意外とマトモに思える男もアキヒロと同じく、人間の胎から生まれたとは思えない信念を抱いているのだ。
戦うことを楽しむ。
それは、ロイスにとっては言葉にしても全く理解できないことだった。穏やかで厳しくも優しい父、少し巫山戯たところがあるがやはり優しい母。秋川家に仕える皆んなも優しくて、それが当たり前だと思っていた。
戦うことを楽しむというのは、そんな自らの周りの人間たちも危険に巻き込むのだろうか。唐突な不安が、ロイスの胸に押し寄せた。
「なんか変な勘違いしてるみたいだから訂正しておくぞ?」
心を読んだかのようにアオキは口を開いた。
「誰から構わず戦いたいんじゃねえ、俺は強い奴と戦いてえんだよ。弱いやつと戦って楽しむって……それただの弱い者いじめじゃねーか」
「でも、アキヒロくんについて行ったのは弱い者いじめみたいなものでしょ? 無理矢理だったらしいし」
ロイスは、アケミが怒っていたことをしっかりと覚えていた。
「あれはウルフのせいだ。俺1人だったらついて行こうなんて思わねえよ」
「じゃあ止めればいいじゃん」
「止める理由ねーだろ」
「…………」
やっぱり価値観が違う。
ロイスは唇をとがらせた。
「ウルフは誰彼構わずあんなことするようなやつじゃない。あいつなりに感じるものがあってやったんだろ。そんで、あいつはリーダーだ。リーダーの言うことには従う、それがよっぽどアホな話じゃない限りな」
「……」
「それはあいつの目的も関わってることだからな。ふざけてるように見えて、意外と真面目にやってんだよ」
「……目的?」
詩を作ることじゃないのだろうかと、これまでの会話の端々を思い出してロイスは首をかしげた。なぜわざわざ目的なんてぼかした言い方をするのか。
「だーかーら、世の中には知らない方がいいことがたくさんあるんだっつってんだろ」
「そればっかじゃん」
「つーか、お前はあのワンコがどうでもよくなったら帰るんだろ? 俺たちの中じゃ1番関係ないからな?」
「!」
「だろ?」
ロイスの目的。
それは、神からの贈り物であるコマちゃんがひどい目に合わないかを見守るため。
──表向きには。
──────
ロイスは父親にこう言われていた。
『あの方が決めたことに、私たちが口を出すことなど決してできない。だが、私たちはそれでも彼の方に仕える一族だ。この地を離れることができない私の代わりに、どうか……あの方を少しの間だけ見ていてくれ。そして、あの方がついていくと決めた加賀美様が──真の浄化の力を操る彼が何を為そうとしているのか、彼に助けられたお前が見るんだ』
白き焔によって穢れを絶つ、不滅にして永久の存在たる神。街を護り、人々を守り、信仰を受けてきた。
信仰を増やすため。秋川家は遺跡をもとに神社を建て、人ところに力が集まるようにした。故に山はそれそのものが信仰の力を注がれた状態となり、神の住まいとして機能している。
だが、信仰とは呪いでもある。
純粋に思える信仰であっても、こうあって欲しいという欲望が必ず混じり、ノイズとなる。
神はノイズを受け取らない。
糧にならないものを受け取る義理は無い。
それは切り捨てられ、放棄される。
だが信仰とは、物理的な現象ではない。
切り捨てられたノイズはどこへ行く? どうなる消えるのか?
違う。
信仰が寄り集まって神に吸収されるように、ノイズもまた集まっていく。お互いがお互いを見つけ、近寄り、だんだんとノイズは形を持っていく。
それこそが『穢れ』の正体だ。
それは、絶大な力を持っているとしても信仰を依代とする神では受け入れられるものではない。
近い未来において、穢れと信仰を一緒くたに受け入れた神が堕ちたように。
では、人ならばどうだろう。
自分たちから生まれ出た欲望なのだから、身の内に戻すことだってできるだろう。
──本当に?
おびただしい量の欲望、醜い願い、押し付けがましさ。人が目をそらすものが、穢れを形作っている。目をそらさなければ精神を保てないようなものが寄り集まって物質として現れた。
それこそがロイスたちが恐る『穢れ』というものの本質だ。
黒く、見るだけでおぞましく、身の毛もよだつような声を上げるあの不浄の者たちを消し去らなければならない。アレらをひと目見たならば、誰だって同じ結論に至る。
だが、どうやって?
触れるだけで魂を溶かし、犯し、人を死に至らしめるあの呪いを消す? 誰がそんなことできる?
──神だ。
彼らの信仰を受ける神にはその力がある。そしてその力は秋川家にも与えられている。ロイスも、やがてはそのお役目を継ぐ運命にあった。
自分たちだけの領域、専売特許、果たすべき使命。
とにかく、特別感というものを感じながら生きていたのは確かだ。
そこに横入りしてきたのが加賀美明宏という少年だった。経緯は不明。
その力の源泉も、正体も、本人すらよくわかっていない。触れるだけで、たちまち穢れが消滅する。
間違いなく、秋川家以上の特別だった。
そして、どれだけ尽くしても返すことができない恩を受けていた。
秋川家にとって、浄化の儀式は命がけだ。神と比べて微々たる力しか持たない彼らは、大掛かりに木組みを作り、一族どころか仕える者全てで穢れを払うことに専念しなければ浄化することができない。
飜るに彼はなんだ?
触れただけで消滅させるなど、とんだズルというものだ。
だからこそ、彼に興味を持ったのだろう。
『僕、家出します』
それこそ、本来ならば青天の霹靂なのだろう言葉にも当主は一定の共感を示していた。しかし、引き止めようという意思も確かにあった。
『家のことは君たちに任せたよ』
こう言われてしまえばその意思もすぐに潰えるというものだ。『任せる』とまで言われてしまったのだから。
故に、役目などまだ追っていないロイスにそちらは任されたのだ。
「俺も……」
「あ?」
「俺も、アキヒロくんについていく」
「はあ?」
「アキヒロくんが何をするのか、これからどうなるのか、気になるんだ」
「…………」
「……ソフィアを助けたいんだ」
出会って数日にもかかわらず、ロイスの胸のうちには炎が宿っていた。彼女を包み込もうとしている氷を溶かさんと吹き上がり、高く登ってゆく炎だ。
「けっ……」
瞳の中に宿る炎を見て、アオキは視線を逸した。自分がなくしたものを持っている人間を見るのはとても面映いものだ。
「……ああ、そうか」
そして気付く。
もう一人の少年を見た時、こんな気分にはならなかったことに。
「なんて野郎だ」
登場したキャラクター等の名簿的なものは必要か否か
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いる
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いらない