【マンガ化】焼肉スコスコスコティッシュフォールド【進行中】   作:goldMg

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46_ソフィアとルクレシア

「あー……なんで私がガキのお守りなんか……めんどくせー……」

 

「が、ガキ……」

 

「仲間同士で一緒にいたほうがいいだろ」

 

 ソフィアは、なんとなしに察していた目の前の女性の口の悪さについて、真正面から受け止めなければならなかった。

 ポケットに手を突っ込み、猫背気味に歩く彼女を見ると中身はおっさんなのではないかと思ってしまうが、その顔立ちの綺麗さが振る舞いの全てを打ち消していた。霧が染み込んでシットリと濡れた髪は、どういう原理か風に流されているかのように、さらさらと揺れている。

 ソフィアからしても、彼女の美貌というのは疑いようがなかった。少女性、あるいは処女性を含んだ幼い美ではなく、育ちきった女性の肉感ある艶かしさ。

 こんな素敵なパートナーがいて浮気するなんて、とウルフへの評価がダダ下がりだ。

 

「な、なに見てんだよ……」

 

 しかしルクレシアの表情は、その美貌とはまるで打ち解けないはずの少年性を持っていた。美人はよく人に見られる。だからこそ、見られる事には慣れているはずだ。それなのに、彼女はソフィアに見られて少し恥ずかしがっていた。

 そんな彼女の姿にいたずら心をあおられ、軽めのストレートをぶつける。

 

「ウルフさんとはやっぱり彼氏彼女なんですか?」

 

「かっ……ちがっ……そ、そういのうじゃ……」

 

「!」

 

 ソフィアは音の鳴るおもちゃを見つけてしまった。ウキウキとした表情で手を握る。

 

「ルクレシアさん!」

 

「なっ……」

 

「恋をしてるんですね?! ルクレシアさんは!」

 

「…………はぁぁぁぁぁあ!?」

 

「素敵です!」

 

「し、してねーよ! 恋なんかしてねぇ! したこともねぇ!」

 

 ルクレシア、必死の抗弁。

 しかし、そんな姿はさらにソフィアの感情を盛り上げるだけだった。

 

「ふわぁぁぁぁあ……!」

 

 目をキラキラと輝かせる年下の少女には強く出れない。なまじっか彼女の事情を知ってしまっているだけに尚更。

 しかし、隙を見せれば畳み掛けてくるのが戦場だ。

 ソフィアはさらなる攻勢に出た。

 

「あのあの! どうやって出会ったんですか!」

 

「!?」

 

「2人がどうやって知り合ったのか。私、知りたいです!」

 

 昨日までは深窓の令嬢のようにおとなしく、私は今すぐにでも死にますみたいな顔をしていたのに。その変わりように、2級探索者であるルクレシアが気圧されていた。

 

「知り合ったって方法って……言えるかそんなもん!」

 

 恥じらうような姿を見せれば、ますます盛り上がるのが乙女だ。手を引き、近くのベンチに座らせれば、逃がさないと見つめる。

 その視線は何よりもまっすぐで美しく、逃れることができないほどに純粋だった。

 身体能力の差。ルクレシアからすれば赤子の手をひねるようなものでしかないはずなのに、その手を外すことができない。逃走する気すら奪われていた。

 

「ルクレシアさん! 私、もっとあなたのことが知りたいです!」

 

「…………」

 

「だめ、ですか?」

 

「うっ……」

 

 なぜ自分は追い詰められているのか。

 自問自答しても答えは出ない。確かなのは、ここで逃げたところで加賀美明宏にくっついていくことが確定している以上、また同じ目に遭うということだ。

 

「……言えばいいんだろ!」

 

「はい!」

 

「くそっ、いい笑顔しやがって……んんっ」

 

「わくわく……!」

 

「アイツが私のいた村に来たのは──」

 

 ルクレシアは文字数にするとおそらく100万文字くらいになる大冒険のうち、始まりの数万文字分をさらに圧縮して話した。

 語り出しは口調も顔も硬く、耳側で真っ赤に染めあげて辿々しく事実を陳列するだけになりそうだったが、ソフィアからの注文が入った。渋い顔で話していくうち、もともと隣にウルフと言う語り部がいるおかげか、話す口がなめらかになっていく。

 ソフィアが聞き上手ということもあるだろう。話すほど機嫌を良くしていき、楽しげにジェスチャーまで繰り出し始めた。

 

「ルクレシアさんの故郷、いいところなんですね!」

 

 ベンチで話すだけでは飽きたらず、二人は街を歩きながら話に興じる。そこらへんに転がっている屋台をハシゴしてモグモグと食べ歩きながらの移動だ。

 話はルクレシアの村を襲ったモンスターをウルフが討伐しに向かった時の話に差し掛かった。

 

「アイツは普段カッコつけるだけで、自分の故郷を自慢するだけのヤツだった。探索者の活躍の話はするけど、自分がそうだなんて一度も名乗らなかったし……だから、みんな驚いてたな」

 

「商工会の人は知ってたってことですか?」

 

「いや、あの頃のアイツは商工会に登録してなかったんだ」

 

「そんなことがあるんですか?」

 

「あったんだからあるんだよ」

 

 蜜のかけられた団子をモグモグと食みながら街を歩く姿は、とても深刻な状況に置かれた人間とは思えない。

 それに、美人2人が歩いているということで屋台のおっちゃんも機嫌よくサービスしてくれた。

 声をかけてくる人間も多い。

 それが探索者であれば顔を真正面から見ることで正体に気づき、真っ青に変えて引き下がる。ただナンパしたいだけの若者は気付かないので、ルクレシアのへび睨みによって体の震えが止まらなくなっていた。

 

「ウルフさんって……かっこいい人なんですね!」

 

 ルクレシアの話を聞いて、ウルフへの評価はだいぶ上方修正されていた。

 

「へっ、一緒にいりゃあわかるけどそんな大層なヤツじゃなかったよ」

 

 その表情が、そして『大層な奴ではない』ヤツと一緒にいるという事実が全てを物語っている事にも気付かない。お間抜けなルクレシアを見てソフィアは微笑んだ。

 

 

 ──────

 

 

 結局二人は、適当なカフェに立ち寄った。

 長時間屋外にいると霧のせいで服が重くなってくるかららだ。

 

「結構可愛いところですね、よく来るんですか?」

 

「たまにな」

 

 出てきたアイスは少し溶けかけていた。

 ソフィアはルクレシアに目で合図を送る。

 

「え? お前……」

 

「ふふっ」

 

「……いや、どうなんだコレ」

 

 こっそりと指先から放たれた冷気が、溶けかけた部分をパキパキに凍らせた。アイスと言うのは、単純に冷やせば良いわけではない。なめらかな口どけを保つには、小さな氷の粒の集合体であることを意識する必要があるのだ。

 

「あれ!?」

 

「意外と操れるんじゃねーか」

 

「なんか、ちょっとだけ得意になった気がするんです」

 

「じゃあこのままでもいいじゃん」

 

 そんなふうに言われるのは読んでいたのだろう。

 ソフィアは悲しげに微笑んだ。

 

「……無理なのか?」

 

「なんとなく感じるんです、どんどん強くなってるって……さっきダンジョンにいた時はそんなに思わなかったんですけど、やっぱりダメみたいです」

 

「…………」

 

 ルクレシアは自分の異能に自信を持っている。先日の炎だって途中から相当に力を使った。加減などしていない。だというのに彼女の氷の力は拮抗していた。

 

「アイツは……なんなんだ?」

 

 ただの好奇心だけでソフィアを見つけたと言っていた。

 その言葉を信じる信じないは別として、彼から特別な力を感じないのは事実だった。

 だけど、本当に何の力も持たない人間が、神に仕える一族にあそこまで敬われるわけがない。明かさないだけで何かがあるのだ。

 

「私が思うのは、アキヒロさんって行動力がすごいんだと思います」

 

「行動力ね……それはあるか」

 

 アイスを掬った。

 ほのかの甘みが広がり、自然と口がほころぶ。

 

「ロイス君のことも何かあったらしいですね」

 

 それに関しては、ソフィアよりはルクレシアの方が知っている。詳しい話を聞いたわけではないが、あの空気感はただの友人に対するものではなかった。

 

「私も聞いたわけじゃねーからしらねえんだけどな、変って感覚はわかるぜ」

 

「……なんだか表が騒がしいような」

 

 のんびりとアイスを食べていたのに、その落ち着いた空気を壊すような気配があった。

 2人が外を覗くと意外な光景が。

 

「あの噂は本当なのか?」

 

「どの噂だ」

 

「一級探索者が異なる世界に迷い込んだという話だ」

 

「あ? ああ〜……まあ、あるっちゃあるか」

 

「……むむむ! むむむむむ! 気になる! 気になるぞ! 一体どんな世界だったのだ!」

 

「そんなの自分で確かめろよ」

 

「今の私ではレベルが足りん! 高難易度ダンジョンにあるというブリンクポイントをくぐり、その先をさらに進んで最後のブリンクポイントを通過すればあるというが……神魔に満ちた世界なのか!?」

 

「教えねっつの」

 

 並んで歩く二人は、友人と言うにはあまりその雰囲気がかけ離れていた。肩で風を切って進むモヒカンと、追いすがる詩人。凸凹コンビというのが最もふさわしい称号だろう。

 

「何してるんだろう」

 

「あいつの悪い癖だな……」

 

 ルクレシアは頭を抱えている。

 

「高レベルの探索者を見つけるといつもそうなんだ。何とかして面白い話を聞き出そうとしやがる。あの手この手で丸め込んで最終的には聞き出しちまうんだけど……」

 

「けど?」

 

「一級探索者に対しても同じことやるとは思わなかった」

 

 それはつまり、これまでは一級探索者に取材を行ったことがなかったという暴露に等しい。

 

「話したこと、あるのかと思ってました」

 

 詩人は話の種がなければ良い詩を作り出すことはできない。この世で最も質の良い種を持っているのが誰かという問いが存在すれば、誰しも一級探索者と答えるだろう。そんな彼らに取材をしたいと思っている詩人は山ほどいる。

 

「そう簡単な話じゃねえ」

 

 なかなか会うことができないというのは容易に想像がつく。探索者はダンジョンか商工会にいるというのが相場で、無闇に会おうとしても時間が合わないということが真っ先に思いつく。

 それに、詩人以外でも会いたい人間はいる。探索者が疎まれているというのは一般的な話だが、一級まで極めればそれは尊敬の対象にだってなるのだ。

 一つの道を極めたもの達。しかも金をたんまり持っている。

 会いたくないわけがない。

 金を援助してもらおうと近づいてくるものがどれだけいるか。親戚だってたくさん湧く。

 そんな人間達をかき分けるようにして、やっとこさ目の前までやってきたとしよう。

 

「話せばいいんじゃないんですか?」

 

「──奴ら、話が通じねえんだ」

 

「話が? それってどういう……」

 

「気が触れてんのさ」

 

 とんでもなく失礼なことを言い出した。

 

登場したキャラクター等の名簿的なものは必要か否か

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