【マンガ化】焼肉スコスコスコティッシュフォールド【進行中】   作:goldMg

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48_親不孝な息子

 

「……」

 

「……?」

 

 不思議そうに見つめ返してくる子犬。

 スコティッシュテリアの幼体だ。

 日本であれば、日常的に見かけることはなくともなんらかの媒体を通じて目にする機会は多くある犬種。しかしこの世界においては雑種がほとんどのため、このように整った見た目であることは少ない。

 不思議なことだ。

 

「お前はどこから来たんだ?」

 

 まともな答えなんて返ってくるはずがない。

 わかりきっているにも関わらず獣に問いを投げるのは、どれだけの意味があろうか。

 

 彼の疑問そのものは単純だ。

 コマちゃんが神の獣であるということは構わない。

 しかしスコティッシュテリアは神の力で出来たものではなく、人類の力によって生み出されたものだ。

 どこから、どうやってこの子犬を連れてきたのか。

 

「ひゃん」

 

 子犬は彼の質問に首を傾げるばかりで、質問に答えることができる知能があるようには思えない。

 期待するのが愚かなのか。

 だが、神と名乗るからには不可思議な力をこの犬に与えていてもおかしくない。

 すでにその一端は目にした。

 その先が知りたかったのだ。

 

「はっはっはっはっ……!」

 

「おぉ……よしよし」

 

 飛び込んできたかとおもえば、千切れそうなくらいに、尻尾を振ってアキヒロの顔を舐める。そんなことをされてしまえば邪険に扱うこともできない。

 自然と顔が綻んだ。

 その顔のまま、やや上に視線を向ける。どこか遠くを眺めながら口を開いた。

 

「あいつらちゃんとコミュニケーションとってるかなぁ」

 

 ──懇親会、のようなモノのつもりで設定した機会だが、彼らにこれが生かしきれるのかどうか。男女で組ませると意外と気まずいことになりそうだから、あえて男男、女女という同性ペアで組ませた。

 今頃は、思い思いの場所でそれぞれの出自やら好きなものやらを自己紹介しあって、アイスブレイクでもしてくれていると良い──というのは都合が良すぎるだろうか。

 属性も年齢も違う彼らのことだ。

 即座に打ち解けるというのはなかなか難しいかもしれない

 

「でも、そうしてくんないと後々でめんどくさいしなぁ……横の繋がりなんだよやっぱり」

 

 一団の構造は準トップダウン方式となっている。アキヒロがやることを決め、それを彼らに伝えて同行するかどうかは任せる。上下関係があるわけではないが、どう進めるかというところでポンポンと案を出すのが彼の為、こんなことになっていた。

 しかし、このままでは自分を介してしかやり取りをしなさそうだと懸念したことで今回のことを思いついたのだ。

 

「コマちゃんもそう思うよな」

 

「ひゃん!」

 

「さっきから何やってんの」

 

 ひょっこりと顔出したのは明美。

 暇なら家事でもしろとジェスチャー。

 

「はいはい、何をすればいいですかね」

 

「そうじ」

 

「はいよ」

 

 掃除機なんてねえよ、ということで拭き掃除だ。

 ボロ布を濡らし、床板に膝をつくとキュッキュッキュッと磨いていく。

 

「せめてワックスでもあればなあ……」

 

 やること自体に不満は無いけど、道具に不満があった。しかし、あるものでやるしかない。

 ジャレついてくるコマちゃんをそのままにやっていると、茜の部屋はどうするかという問題にぶち当たった。扉を開けて拭くのがもちろん正しいが、勝手に妹の部屋を開けたら後で恐ろしいことになりそうだ。

 

「みんなが仲良くしてる間に、俺は妹の機嫌を損ねないように拭き掃除か……仕方ないな」

 

「自分で引き寄せた問題なんでしょ? いつものことはやってもらわないと困るよ」

 

「わかっておりますよ、はい」

 

 そう長い時間かけずに家全体を拭くことができた。

 

「拭いた拭いた! あー腰いてえ!」

 

「はい、おやつ」

 

「ありがてえ」

 

「……あの子、いい子だよ」

 

「だろうな」

 

「よくわかんないけどさ、た──いや、うん……」

 

「そういう話は後にしようぜ」

 

 全てが終わった後。

 どういう結末に至るにせよ、答えは出る。

 ならば、今問答する意味は──

 

「やっぱり狭いなウチは」

 

「そんなこと言うんだったらあんたが広くしてよ」

 

「稼げるようになってからな」

 

 見た目の問題ではなく、機能的に少々手狭なのは家族の共通認識だった。

 女の子ということで一応アカネの部屋はあるが、それもギリギリ作った程度のものだ。

 いつまでもこんな狭小住宅に住んでいるつもりもないアキヒロはそのうち出ていく予定だが、余裕ができたら立て直してやろう位には考えていた。

 

 それも先の話だ。

 

「まずは目の前の問題をどうにかする。すべてはそこからだ……!」

 

 不意にみなぎる活力。

 アキヒロの自己認識としてはマルチタスクではない。

 目の前にある一つ一つの仕事を順々にこなしていくことこそが、自分の最も得意とする仕事の進め方だと理解していた。

 処理能力というのが脳みそ由来である為、この少年の肉体であればマルチタスクを身に付けることも可能かもしれない。しかし、それを伸ばす時間は今じゃない。

 

 とにかく、ネガティブになる時間というのは無駄なのだ。

 

「忙しくなるぞ!」

 

「……」

 

「母さん、ごめんな」

 

「謝る位なら……」

 

「それでもごめんな」

 

 母親の顔をまっすぐに見ていた。

 

「善意じゃないし、同情でもない。全部俺のためだ。あの子を助ける事はきっと俺の未来へ新しい道を作ってくれる。だからやるんだ」

 

「……何言ってんのかわかんないよ」

 

「運命だと思ったんだ」

 

「はあ? ミツキちゃんのことはどうすんの?」

 

「……ミツキ? この話にミツキは関係ない」

 

「はぁ……」

 

「そういう話じゃなくてさ……生きてるとそういうことがあるんだよ。きっとこの人なら任せられるって。何を任せるのかもいつ任せるのかもわからないのに、そう思う時があるんだ」

 

「もういいって。反対しても意味ないんでしょ?」

 

「ああ! だから、ごめんな!」

 

 アケミは母親として、家族の幸せを願っていた。子供たちが、ただ健やかに育ってくれればそれでいいと、純粋に思っていた。

 次女に比べて、なんて手がかからない長男なんだろう──そんな風に思っていたのはどれだけ前のことか。

 健やかなんてなま優しいものじゃない。今となっては制御不能の暴走モンスターみたいなものだ。

 

「血は争えないんだね……」

 

「どうかな!」

 

 その眼はあまりにも力に満ちていた。

 その力は、権力でも財力でも腕力でもない。

 人の持つ力の中で、最も強くて意味のあるもの。

 母親である自分の言葉でも絶対にねじまげることができないものだ。

 誰が教えたわけでもないのに、最初からこのバカ息子は持っていた。

 

 意思。

 何かを成し遂げたいという強い思い。

 それ1つで、進んでいこうというのだ。

 

「……」

 

 良識のある大人なら止めるべきなのだろう。

 何かを成し遂げるには具体的な力が必要だと。

 金、腕っぷしなどで周りに影響を与えることが不可欠だと。せめて説得材料を持ってこいと言うべきなのだ。

 

「なんでこんな風に育っちゃったかなあ」

 

「育て方が良かったんじゃない?」

 

 だけど、既に証明されてしまっていた。

 

 彼の意思は届き得る。

 周囲にいる人間の心へ。

 例え他に誰かが動かなくても関係ない。それが未来につながるならば、そして、子供を助けることができるならば──いくらでも身を捧げよう。

 そう思い行動すればこそ、あんな得体の知れない人間たちが集まったのだ。

 

「さて、掃除も終わったことだし……俺はちょっと出かけてこようかな」

 

「どこへ?」

 

「みんなの様子を見に」

 

「……」

 

 人が見るのは彼の背中か、あるいは横顔だけだ。

 なぜなら、もっとも先へ進んでいる人間の顔を真正面から見ることはできないのだから。

 身も蓋もない話をすれば、彼はこの世界の人間では想像もできない倫理原則で動いている。それに対してアケミ達が表面的な理解を示すことはできても、裏の真意を読み取る事は不可能だった。

 だから、こうして見送ることしかできない。

 

 なんとも親不孝な息子だ。

 

 

 ──────

 

 

「あら、かわいいワンちゃんね。何ヶ月?」

 

「もらった子なんで細かくはわからないんですけど、多分4ヶ月位かなって」

 

「へー……よしよし」

 

 子犬を連れていれば構いたくなるのが人間の心理。少し歩くだけで、近所の住民が話しかけてくる。

 こんな霧の中でも、奥さん方はせっせかと庭の葉っぱを掃いたり夕飯の支度をしたりしていた。やっぱ外で働くのが男の役目だよな。

 

「ひゃん!」

 

「だーめ、離したらお前どっか行っちゃうだろ」

 

 秋川家のせいでコマちゃんのリードとか準備できてないからな。神様からの贈り物に首輪をつけるだなんて、信じられません! じゃないんだよ上山さん。

 犬を飼うって事は責任が生じるってことなんだよ。

 人に噛みつかない。

 家でうんこしない。

 散歩に行く時はリードをつける。

 狂犬病の注射を打つ。

 できないこともあるけど、できる事は全部やんなきゃいけないんだよ。

 

「ひゃん! ひゃん!」

 

「こら! あんまり暴れちゃだめだぞ!」

 

 まだ抱き上げられるのはあまり好きじゃないのか、それともよっぽど気になるものの匂いがしたのか。

 

「しょうがねぇな……こっちか?」

 

「ひゃん!」

 

 なるほど確かに。

 街の中心部へ向かうといい香りが漂ってきた。途中で腕の中から逃げ出したコマちゃんは意外なことに俺がついていくのを待ってくれたので、同じ位の速度でたどり着く。

 

「へっへっへっへっへっ」

 

「もう二足歩行できるのか……」

 

 窓から中の様子を覗こうと、ぴょんぴょん跳ねるコマちゃんを抱え上げた。

 

「ロイス……」

 

 そこには2人、知り合いがいた。

 ロイスとアオキだ。

 

「入るか? でも金がねえんだよな……」

 

 さすがにこんな場面で使うほど金を持っているわけじゃない。地元でご飯を食べるだけなら絶対に店には行かないと決めてるんだ。

 

「ひゃん!」

 

「あっ、こらっ!」

 

 再び、スルリと腕の中から抜け出したコマちゃんは一目散に店内へかけて行った。

 扉の隙間から体をねじ込み、ロイスの足元へたどり着く。当然、店内にいる人間たちには見つかった。

 

「アキヒロくん! なんでここに?!」

 

「コマちゃんに連れてこられた」

 

「今ね、ご飯食べ終わってのんびりしてたとこ!」

 

「いろいろ話したか」

 

「うん!」

 

 ロイスの様子からは問題は感じられなかった。

 

「アオキさん、どうでした?」

 

「それなりだな」

 

「それなりって……結構楽しそうに話してたじゃないですか」

 

「だからそれなりって言ってんだろ」

 

 コマちゃんはルイスの足元でウロウロとしている。

 

「……これ食べます?」

 

「ひゃん!」

 

 犬に甘いものをあげるのって、正直あまり良くないと思うけど……秋川家の御曹司がやるなら仕方ないのかな。

 

「はは、くすぐったい」

 

 ロイスが手に乗せたおやつをおいしそうに舌で舐めとると、ありがとうとでも言うようにくるぶしへ体をすり寄せた。

 

「はひ……はひ……足に……足にコマちゃんが!」

 

「くぅん」

 

 結局何も食べずに店を出た。2人はちょうど食べきるところだったからタイミング自体は良かった。

 ロイスがちょっと気持ち悪かったことを除けばモーマンタイ。

 

登場したキャラクター等の名簿的なものは必要か否か

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