【マンガ化】焼肉スコスコスコティッシュフォールド【進行中】   作:goldMg

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49_む、むりだよお!

 

 

 全員を集めたアキヒロは、その前に立った。これから演説でもするのかという雰囲気だ。

 

「これからどうしようってんだ?」

 

「もう一度、第一セクターに行きます」

 

 それに対して渋い反応を見せるのはコウキだ。

 

「お前……金あんのか?」

 

「あと1回分なら、何とかなります」

 

「飯とか宿とかそういうのはどうすんだ。この人数だぞ? さすがに無理だろ」

 

「ええ」

 

 理詰め。

 準備をしていなければ地獄の時間になるが、詰められている本人は涼しい顔で受け流した。

 

「だから、ソフィアの分だけは俺が出す。ウルフさん達には来るなら自分で出してもらうし、ロイスは……待機だよな?」

 

「俺も行くよ!」

 

「! …………悪いけど、お前の分を出す金はないんだ。もし来るってんなら自分でどうにかしてもらわないと無理だ」

 

「そんなの大丈夫! ちゃんとお金あるから」

 

「……そか」

 

 忘れてはならない。

 ロイスの実家は太いのだ。

 そこで1つ疑問が生じる。お金の問題は解決したとして、コマちゃんはどうするのかということ。今後も付いてくるのかということ。

 その2つをはっきりさせておく必要があった。

 

「うん! ソフィアの事は俺もついてく!」

 

「……」

 

 アキヒロの視線は揺れた。

 ロイスは、自分が今言ったことの意味を理解しているのだろうか。きっとしていない。この事態において最悪とはどういうことかを、きっと想像していない。

 

「わかってる! 俺が足手まといかもしれないって事は……いや、多分足手まといだよね」

 

 ロイス自身も、それは理解していた。

 きっとこれから、いろいろな場所に行くのだろう。危ない場所や、想像もつかなかったような場所に行く。

 それが自分にどんな変化をもたらすか──怖くないわけじゃない。もしかしたら死ぬかもしれない。

 それでも、手を挙げずにはいられなかった。

 

「でも! 行きたいんだ!」

 

「……コマちゃんは?」

 

「連れてく!」

 

「連れてくったって、そんな危ないところに連れて行くわけにはいかないんじゃないか?」

 

「大丈夫! コマちゃんは特別だから!」

 

「…………はぁ……お父さんたちにはちゃんと言うんだぞ。それでちゃんと認めてもらってからだ」

 

「うん!」

 

 ロイスについては話がまとまった。

 次はウルフたちだ。

 しかし、それに関してはわざわざ聞くまでもなかった。

 

「何を躊躇う。私たちのことを存分に活用すれば良い。こちらも……少年、君のことを存分に見定めさせてもらう」

 

「わかりました」

 

 元から、彼らは勝手についてきただけのことだ。いちいち気を使う必要もない。

 

「そういうわけです、コウキさん」

 

「…………」

 

 今度は苦い顔をする。

 本当にどうしようもない奴だと額を抑え、若干考えると苛立ちを抑えるように何度か指を鳴らした。

 

「俺は……ついていかねーぞ」

 

「大丈夫、最初から求めてない」

 

「…………」

 

 何かをする時、コウキを頼れば物理的に決着がつく事は多い。そのほうが時間も早いだろう。

 だからこそ、アキヒロは彼を頼ったことがなかった。

 くだらない雑談や、本当にどうでもいい頼みなどをすることはあっても、大事な事は自分だけ。

 そもそもアテにしているような雰囲気もない。

 そんな期待の視線を向けたこともない。

 だから今回もそうだった。

 

 それはいつものことだとして、コウキは1つ言わなければならないことがあった。

 

「ミツキにはちゃんと言えよ」

 

 兄妹同然に育った2人はツーカーの仲だが、ミツキへの連絡というものを意図的にか、おざなりにしがちだった。

 それで娘が泣かされているのを何度も見たことがある父親としては、まさに出発しそうなタイミングだからこそ釘を刺さずにはいられない。

 

「コウキさんが伝えてくれてもいいんですけど」

 

「だめだ」

 

「……じゃあ、連絡しときますよ」

 

「直接言え」

 

 

 ──────

 

 

「許してあげる」

 

 尊大な表情をしつつ、あっさりと許可が出た。

 

「ちゃんと言ってくれたからね」

 

「……学校のみんなとは仲良くするんだぞ?」

 

「うるさい」

 

 入学して数ヶ月が経っても、やっぱりミツキは学校のクラスメートと打ち解けない。

 不登校気味だがしっかりと中心にいるアキヒロ。

 しっかりと登校しているが、コミニケーションの輪からは外れているミツキ。

 

『あんな子と一緒にいるのやめなよ』

 そんな心ない言葉をかけられた事は1度だけある。それもミツキが四門家の一人娘ということが周知される前の話だが、そう思っている人間がいることは確かなのだ。

 

 ミツキがどんな風に振る舞ったとしてもそばにいることをやめる気は無い。それはそれとして、本当にベタベタとくっついていてはミツキが成長しないことも分かっていた。たとえミツキ自身がそれでいいと思っていても、大人になったときに後悔するのは、彼女自身なのだ。

 

「いーもん、アキと一緒にいるから」

 

「…………」

 

「でしょ?」

 

「あぁ……」

 

 アキヒロは曖昧な返事しか返せない。

 ミツキの言う通り、いつまでも一緒に居られたらどれだけいいだろうか。

 現実は──それほど甘くないだろう。何かの拍子に2人の道が分かれる事はあり得る。

 そうなった後のことが恐ろしかった。

 

「だから、ちゃーんと解決して帰ってきてね!」

 

「……わかった」

 

 だけど、単純だ。

 やはり男の子ということか、女の子に応援してもらうだけでやる気が湧いてくる。それが性欲なのか、それとも別のものなのか、アキヒロにも正体を把握することはできなかった。

 

「ありがとう」

 

「ふぇっ……」

 

 その上で、元気を分けてくれる幼馴染に感謝を。

 どれだけ笑顔で取り繕っても、揺れる瞳を隠すことなどできない。スカートを強く握ってできているシワも視界の端に写っていたから。

 

「ちゃんと帰ってくる」

 

「あ……ひゃ……」

 

「また誘拐されんなよ?」

 

「ひゃわっ……あっ……」

 

 グンと強くなった甘い香り。

 意味をなさない微声。

 彷徨う細腕が落ち着くところを見つけるよりも前に離れた。

 

「じゃあ、行ってくるわ」

 

「ひゃぃぃ……」

 

 列車に乗った一行。

 ロイスは先ほど見た光景についてソフィアと話していた。

 

「やっぱそうだよな」

 

「うん……どう考えてもそうだよね」

 

 

 列車で一人、通路部分で外風に当たっているアキヒロを見ている全員がドン引きしていた。

 

 腰砕け。

 アキヒロが腕を離した途端、ミツキの体はふにゃふにゃとへたり込んでいた。顔面は茹で上がり、瞳の潤み具合はもう少しで雫がこぼれてしまいそうなほど。誰がどう見ても『そう』だとしか思えない。

 顔色1つ変えていないのは本人のみだ。

 

「枯れてんのかアイツ」

 

「うむ……しかし納得がいくところもあるぞ」

 

「ああん?」

 

「ソフィアに興味を示さなかったのはそういうことかと思ってな」

 

 ソフィアは美少女だ。

 客観的な事実として誰もが認めるし、アキヒロもそこに言及していた。しかし彼自身は美少女であるという事実から先には興味がないようだった。

 守るべき対象。

 それだけが、彼の彼女に対するスタンスだった。

 

「アオキ、彼と話してどう思った?」

 

「……掴みどころがねぇ奴だな」

 

「そうだな、俺もそう思った」

 

 まるで実像の存在しない人間と会話しているようだった。

 

 会話の全てが成熟した人間性に基づくように感じられる。その一方で、そんな成熟した人間であれば、そこに至る過程においてソフィアを助けるという情熱を捨てているだろうと思う。

 

 二律背反。

 

 ウルフは、関われば関わるほど彼という人間に惹き込まれていくのを感じた。このまま見届けられれば良い詩を作れそうだとウキウキで、外にいるアキヒロの横顔を見つめる。

 

「ご執心だな」

 

「ルクレシア……」

 

「親二人は割とまともだったのに、何であんなのが生まれんのかね」

 

「理由のないファンタジスタというのも良いではないか」

 

 普通の両親から生まれた突然変異というのも、題材にするには十分な話題性を持っている。そこにちょちょいと脚色を入れてやれば美しい物語の出来上がりだ。

 ウルフはそんな風に考えていた。

 

 

 ──────

 

 

「…………」

 

 外気むき出しの通路にいるアキヒロは鉄柵を強く握っていた。霧をかき分けて進む列車。車体と同様に少年の肉体が濡れていく。

 高速で打ち付ければ、滞留した霧であっても雨と何ら違いはない。反射的に目を閉じてしまいそうな状況であるにもかかわらず、遠くを睨んでいる。

 

 コウキに言われたことを思い出していた。

 

『何の役に立つかわかんねえけど、一つ思い出したぜ。噂で聞いたぐらいだけど、変なアイテムの研究をしてるやつがいるんだと。場所は──』

 

 アテが生まれた。

 そういう意味で、一度戻ったことは間違いではなかった。電話だけではコウキの記憶を引き出すことはできなかっただろう。

 一方で、足手纏い(ロイス&コマちゃん)が増えたというのはマイナスポイントだ。個人的な好悪はともかく、判断する時は天秤から外して考えなければならない。

 

「難しいな……」

 

 何事も段取りは大事だ。

 誘拐されたなら痕跡を辿る。

 狩りをするなら道具を用意する。

 どう辿るか、道具をどうやって使うかというところまでシミュレーションして、ようやく段取りと言える。

 

「記憶喪失ときたか」

 

 予想外の追加情報だった、それもマイナス方面の。

 引き出せる情報は本人の幼さを差し引いても予想以上に少なく、何かの拍子に取り戻されることを祈るしかない。

 つまり現段階では、段取りをするための情報が出揃っているとはいえなかった。

 

「……楽しいことを考えよう」

 

 1人で考える人間は、良くないことをセットで想像しがちだ。だから、思考を強制的にポジティブな方向へ持っていかなければならない。

 彼にとってそれは、家族との触れ合いを思い出す事と同義だった。

 

「…………」

 

 手を見る。老いさらばえて白くなったあの手ではない。

 腕を見る。細くて、箸を持つのすら億劫になるような貧弱さではない。

 脚を見る。常にサポーターをつけなければならなくて、機会があれば取り替えたいと思っていたあのゴミとは見違える。

 

 結果として全てが取り替えられた。

 魂と記憶を除くあらゆる全てが新品で、文句のつけようもない筈だ。

 誰もが望む、体は子供で頭脳は大人の状況。

 

 それでも思わずにはいられなかった。

 どうせなら、家族に関するものだけは忘れていたかった。

 

「はぁ……」

 

「辛気くせえなあ」

 

「……濡れますよ」

 

「お前だろ濡れてんのは」

 

「………………」

 

 辛気臭い。

 その通りだ。

 アキヒロの顔は鬱々と沈んでいる。

 

「なんか問題でもあったのか?」

 

「…………問題しかないですね」

 

「例えば?」

 

「ソフィアの親父さんたちの足取りが掴めないせいで、分からないことが多すぎる。…………ぶっちゃけ、戸籍が無いのが全部悪い!」

 

「何だお前……」

 

「統治方法も街づくりも文明も、何から何まで中途半端だ……元にしてる西暦(モノ)のレベルが高すぎて、いつもは運用で誤魔化してるけど、個人レベルだとやっぱり色々無理があるよコレ……!」

 

「お前、第一期のことに詳しいのか」

 

「そこそこですけどね……」

 

「面白えやつだな、貧乏のくせに」

 

「貧乏は余計だ」

 

「貧乏のくせに本なんか買う余裕あったのか?」

 

「……流れの人に色々聞きましてね」

 

「ふーん」

 

 苦しい言い訳だったが、アオキはスルーした。

 

 

登場したキャラクター等の名簿的なものは必要か否か

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