【マンガ化】焼肉スコスコスコティッシュフォールド【進行中】 作:goldMg
「あ、戻ってきた」
「みんな寝ちゃったか」
「うん」
霧の赤みが収まり、黒く支配された世界。
列車内は静まり返っていた。昼間は忙しなく話していた人々も、お互いの肩にもたれかかりあって目を閉じている。
ソフィアはロイスの膝に頭を乗せていた。出会ったばかりだというのに本当に距離が近い。波長が合うというやつだろう。
「アキヒロくん、寒くないの? 顔めっちゃ濡れてるよ」
「大丈夫」
霧雨に濡れてもいいように、ケープは被っていた。顔が濡れるのは放っといてもいい。大気汚染がないので、そのうちきれいに乾く。
「お前ら……ずいぶん仲良いよな」
「あはは、なんでか俺にもよくわかんないや」
この笑顔にやられた同級生女子が中学校にいっぱいいるんだろうなぁ。
「もう寝ろよ」
「うん」
俺も……どこの席で寝ようかな?
席はスカスカだから、好きな席を選べる。わざわざみんなでまとまって寝る必要もないだろうから……
「どこいくの?」
「え? どこ座ろうかなって」
「? ……ここでいいじゃん」
「……それもそうか」
「うん」
隣に座ると、ちょい離れた場所に丸まっていたコマちゃんまで寄ってきた。抱きしめるととても暖かい。太陽のような匂いもする。抱きしめるだけで、睡眠を促進する効果がありそうだ。
「じー……」
ロイスが羨ましそうに見ていた。
「ほら」
「きゅぅん……」
「! ……う、うわあ……もふもふだ……」
コマちゃんをソッとパス。
やめてよ、とかよわい鳴き声を上げるので若干の罪悪感が湧いてきたけど、ロイスの嬉しそうな顔見るとそれもしぼんだ。
なんだかんだでロイスも眠かったのか、コマちゃんを抱きしめてからすぐに頭がゆっくりと傾いてきた。
「うぅん……」
座高的に俺の肩にもたれるのはできないので、二の腕あたりに中途半端に頭が寄り掛かっている。寝苦しそうだ。
「膝枕イン膝枕だな」
ソフィアの膝枕をしているロイスの膝枕を俺がしている様子を、アオキは面白そうに片目だけ開けて見ていた。
コマちゃんは途中でソフィアの胸元に収まり、その暖かい体温のおかげか冷気がこちらまでやってくる事はなかった。
「──腹、減ったな」
朝、空腹で目を覚ます。
どれだけ逼迫した問題が迫っていようと、どれだけ大事な問題が存在しようと、人は眠くなるし、腹が減るし、トイレに行きたくなる。
ロイスの頭の下にリュックを置き、起こさないように食堂車へ向かった。まだ朝飯の匂いは広がってきてないけど、もしかしたら何かあるかもしれないと思った。
「あれ、起きたのか」
食堂車に入ると、アオキが酒を飲んでいた。
「こんな朝っぱらからですか」
「大人はいいの」
「何か食べるものはありません?」
「……酒のつまみくらいなら。朝飯はさっき準備始めまーすとか言ってたから、もうちょい時間かかると思うぞ」
「それください」
クラッカーのようなパリパリとした食感のつまみを噛み砕いていると、そのうち食堂の方から匂いが流れてきた。確かに朝飯はもう少し時間がかかるようだ。
しかし、匂いが流れてくると他の乗客たちも目を覚ます。自然と食堂車は人で埋まり始めた。
「先に席取っといてよかったな」
「自分の席でも食べられるらしいですけどね」
「皿持って自分の席は嫌だろ、普通に」
「まあ」
ウルフやソフィアたちも若干遅れながら合流した。
「お前ら起きるのはえーなあ。アオキは知ってたけど、アキヒロはなんでそんな早いんだよ」
「自然と?」
「じじいかよ」
ぎくっ!
「アオキ、そっち詰めろ」
「んで俺が……」
大股を開いてとんでもなく偉そうに座ってたアオキは気怠そうに奥へと詰めた。
「アキヒロくん! 詰めて!」
長椅子でよかった。
ギリギリ3人座れる。
「……狭いね」
狭いけど座れるから良いのだ。
そして座っていれば朝飯が勝手にやってくるので、何も問題は無い。
「へへ、狭い」
ロイスは何がおかしいのか、狭いことにツボっていた。
「俺、こんなギチギチの椅子に座ったの初めてだ」
「なんだ? 金持ち自慢か?」
「へへっ」
「ソフィア、なんか言ってやれ。こいつ金持ちすぎて感覚がバグってるぞ」
と言いながら思い出した。
ソフィアにも金持ち疑惑がかかっていたことを。
そして、案の定──
「実は私も、こういうみんなで一緒に狭い椅子に座るのって初めてで……ふふ……」
「だめだこいつら……」
狭い椅子には座らない。
金持ちと貧乏ではそこから違うらしい。
でも、言われて考えてみると金持ちってタクシー使うよな。電車狭いもんな。そういう感じなら納得はいく。
いや、やっぱり納得できない。
「ウルフさんはどう思います?」
「椅子か……私の故郷の村でもよく椅子を作ったものだ。頑丈な蔦を我が父と2人でせっせと集め、家に持って帰れば、母がそれを編んだ。そしてそれを隣村に持っていって、食料と交換したんだ……ああ、懐かしいな……」
知らん知らん。
「ルクレシアさんは?」
「そもそもバグってるってなんだよ」
「バグってるは……あ、そうか」
バグってる。
バグ。
虫だ。
昔のコンピューターは、虫が中に入ると故障したからバグると言った。それがそのまま受け継がれたんだけど……そんなスラングがこの世界であるわけない、ということを忘れていた。
「言い直しますね。ロイスの感覚はおかしい」
「アキヒロくん……そんなはっきり言わなくてもいいのに……」
「あ、うそうそ、ごめんな。冗談だから」
「な、なんだよもう……」
まさか、軽いジョークで凹むとは思わなかったけど、その気まずいタイミングで朝飯が届いてくれて助かった。
「ほら、食べようぜ」
「うん」
列車の朝飯。
トラベルチックでワクワクする響きだ。ウルフさんが俺たちの分までチケットを取ってくれたので、初めて食べることができる。いつもは干し肉オンリーだからね……
しかし、一般列車の備蓄食料の質はどうなのかドキドキだ。
というか、貸切での列車食の方が先ってかなりレアなケースだよな……いただきまーす!
「──う゛っ」
「アキヒロくん?」
「…………ごくん」
貴重な食料だ。
ちゃんと食べねば……!
例えどんな味でも……それが、生臭いとしても……!
──いや、生臭いのはダメなんじゃないか!?
なんで生臭くなるんだ? 火が弱かったのか?
「大丈夫?」
「大丈夫、ロイスも食べてみ」
「…………むぐむぐ……大丈夫だね」
「あれ?」
「?」
俺だけハズレを引いた……?
見ればソフィアとかも変な反応はしてないし……確かめてみるか。
「ロイス、ちょっとこれ食べてみて」
「え? なんか怪しい〜」
なぜかギャルみのある口調。
それでも口元に近付けるとパクついた。
ヒューって効果音をつけたのが良かったのかもしれない。
「……うわ、なんか変な味する。大丈夫じゃないじゃん」
「うん、やっぱそうか」
「変えてもらう?」
「頼んだらいけるよな……?」
そういうモラルってあるのかな。このラーメン髪の毛入ったから替えてください、みたいな。
「すいませーん」
「なに?」
不安だ……
「これ、味が変なんで別のやつにしてもらっていいですか?」
「…………む…………残ってれば良いけど」
最初はイライラしてそうだったけど、実際に食べさせてみたら態度が和らいだ。どうやらちゃんとした意見として受け取ってもらえたらしい。
よかった。朝飯も満足に食べられないかわいそうな少年は存在しなかったんだ……
「あー、マシな味になった」
「前から思ってたけど、アキヒロくんって結構グルメだよね。味にうるさいっていうか」
「おう、俺はグルメだぞ」
お前らより──この世界で金持ちのお前らよりたくさんの物を食べてきてる。これに関しては譲る気が全くなかった。
たかが一地方の食材、調理方法だけで作れるものには限界がある。十数年経っても食材の名前をまともに覚えられない俺はちょっと記憶力が悪いんだろうけど、それでも自身が揺らぐ事はない。
「でもお母さんが言ってたけど、アキヒロくんって料理下手なんだよね」
「……食べるのは得意だから」
「食べるのに得意も何もないでしょ……」
俺が料理下手なのは本気出してないだけだから。
本気出したら豚骨ラーメンとか作り始めるぞ。
いいのか? この世界の食料事情を全部変えるぞ。
主食が豚骨ラーメンの世界に変わってもいいのか? いやだろ?
文明侵略されるのが嫌だったら、俺には料理下手でいさせとくのが吉だぞ。
「何言ってるのかよくわかんないけどソフィアはわかる?」
「ううん、とりあえず料理練習した方がいいとは思います」
「だってさ」
なんだいなんだい! 料理なんか嫁か店に任せりゃいいじゃん! お粥作る時はクッ◯パッド見ればいいんだから!
「そうだねー」
「そうですねー」
異世界人の不可解な常識には本当にいつも参ってます。
「──はー! 着いた! 俺、初めてきたよ第一セクター!」
「そうなんですか?」
「うん、街をなかなか離れられないからさ」
「ふーん……」
「ちなみにソフィアってどこら辺に住んでたの?」
「……だいぶ遠い場所ですね」
「そこ行ってみない?」
「え? でも、もう人が住んでるかも……」
「何かのヒントになるかもしれないじゃん?」
数週間前までは住んでいた家が全く別の家族に占領されている光景は見たくないだろうに、ソフィアはそれでもロイスの案に頷いた。
「変な人だったら俺が言い返してやるから、大丈夫!」
謎の励ましも入った。
しかし待って欲しい。
そこで盛り上がるのはいいんだけど、まずは泊まる場所を探さないと……! 俺は野宿でいいけど、お前らはダメだろ! 列車代出してもらった上、ウルフさん達におんぶに抱っこじゃいかんでしょ!
「まあまあ、俺に考えがあるから」
とても不安だけど……教えてもらおうじゃないか、その考えとやらを!
登場したキャラクター等の名簿的なものは必要か否か
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いる
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いらない