【マンガ化】焼肉スコスコスコティッシュフォールド【進行中】 作:goldMg
「どう思う?」
「うーん……良い人なんじゃない?」
「ソフィアは?」
「……わかりません、本当に飲んでもいいんでしょうか」
もっと言うと、その薬が本当に効果があるのかというところも怪しい。睡眠薬だったりしたら目も当てられない結果になるぞ。
「よし、こうしよう。まず俺が飲む。それで大丈夫そうだったらソフィアも試してみよう」
「もし大丈夫じゃなかったらアキヒロさんはどうするんですか?」
「死ぬんじゃね?」
「だ、だめですよ!?」
そう言われても、探索者が扱うようなレベルのアイテムを俺みたいな一般人が使うのは色々とリスクがあるだろう。例えば、探索者が自然と備えている耐毒性を前提として作られている可能性。科学の発展していない。この世界では、免疫や疾患に対する知識というものが一般レベルで浅い。
この……街角に普通にいるんだから街角先生でいいか。街角先生がその概念を知っているならともかく、期待はできない。
「よくわからないですけど、何でも直接聞いてみるしかないんじゃないですか?」
「正解すぎる」
「で、でも! アキヒロさんに飲ませるわけにはいきません! 私が飲みます!」
「それなら俺が飲むよ!」
ロイスまで乱入してきた。
こうなるともう、しっちゃかめっちゃかだ。
「ロイスくん!? ロイス君は1番関係ないよ! 危ないことしなくていいから!」
「なんでそんなこと言うんだよ! 俺にも何かさせろよ!」
「ロイス君は……お買い物の時に荷物持ってくれればいいから!」
「なにそれ!? 何か意味ある?!」
「ないけどあるよ! とにかく、ロイス君は飲んじゃだめ! 1番弱いんだから!」
「そんなこと思われてたのか!?」
人様の研究所でワーギャーと飲む飲まないの話をし始めた。男なんだから女よりも体は丈夫だとか、やっぱり関係ないから引っ込んでろとか、いつの間にか好き放題言える関係になっていたらしい。
いつの間に──昨夜のことで間違いないんだよなあ……
「…………あ? 終わったか。つーか何の時間だったんだよ」
「先生が信頼に足るかどうか話してました」
「こんな近い位置でそれやるか? 普通……別に薬あげなくても良いんだぞこちとら」
「はい、なので先生の研究している領域を見させてもらいました」
「はあ? お前……勝手に俺の研究見たのか?」
「見ました」
正直よくわからないところが多かったけど……確信に至った。この人は、科学を──俺が考えるところの科学を発展させようとしている。
魔素に関する研究もしているようだけど、省いて研究する方が難しい位なので、誤差だ。
「この設計中の内燃機関ですけど……」
「勝手に持ってくんじゃねー!?」
「俺、あんまりこういう分野は詳しくはないんですけど……そういうのを扱ってる取引先もあったので若干知ってるんですよ。いやほんとにちょっとだけで、全然、プロにもアマにも及ばないし、設計どころか、メンテナンスとかもゼロなんですけど……」
「あ? なに? 聞こえねえよ」
「ルーローでしたっけ、四角とか三角の丸まった奴。アレが中心に必要じゃないんでしたっけ?」
「はあ? お前何言ってんの?」
「これって駆動の心臓部分ですよね? ガスを送り込んで高圧にしたあと爆発させてピストンを動かすやつ」
「…………!」
「ああっと!」
「!?」
「すんません! 何言おうとしてたか全部忘れちゃった!」
「お、お前……!」
「いやー面目ない! これ以上はもうちょっと記憶の深いところを掘っておかないと思い出せないかも!」
「どういう……なんだコイツ……!?」
街角先生が作ってるエンジンの試作機らしきものはとてもシンプルだけど、そこら辺を走ってる車に搭載されているのとは明らかに機構が違った。
アレらは基本的にメタエレメンツを燃料として走っているから、エンジンを見ても何がどうなって走っているのか全くわからなかった。街角先生の作っているものはそうじゃない。俺たちの世界にあるものと近い機構だ。
だけど……わかるぞ。この機械はこの世界では、きっと広がらない。
既に魔素に頼った発展が位置づけられているところにいきなりこんな内燃機関が現れても採用する人はいない。
「お前、これが何か……なんでわかるんだ」
「流れの吟遊詩人に教えてもらったんです」
せっかく発生した科学技術の一端をこんなところで失ってしまうなんて、あまりにも勿体ない。
「ルーローとはなんだ……なんで俺が作りだしたコレのことをお前が知っている! 教えろ……!」
怒りと見紛うような激情を顔に表して掴みかかってくるこの男はきっと、俺の味方だ。
だけど、それだけだ。見たことがないようなアイテムも様々に置かれているのに。売れば散財しても問題ないほどの金は入ってくるのに。
こいつの乱れた髪。
無頓着な服装。
他に誰もいない寂しい研究所。
マネタイズという概念がきっとないのだろう。
研究が続けられる程度の金さえあればそれで良い──そういう態度が透けて見えていた。
勿体無い。
「協力してもらえればいくらでも教えますよ。あんまり期待されても困りますけどね」
「……けっ」
「いてて…… あんな強く掴まなくてもいいのに……」
──────
「アキヒロくん大丈夫?」
「ああ、大丈夫」
「何話してたの? なんか大声だったけど」
「……お前は可愛いなぁ」
「はぁああ!? か、可愛くねえよ!」
「でもほら、薬を飲む許可はもらったから」
薬をほんの1滴口に含むと形容しがたい味が広がった。珍味に分類されるタイプの味だ。
めまいがしたり、急激に吐き気を催したりはしない。だけど発汗、脈拍の上昇、体温の上昇が体感で確認することができた。
「すごい汗だよ?」
「すげえ暑い……もうちょっと飲んでみる」
「なんで!?」
これはすごい。
飲むだけで体熱が上昇するなんて、雪山に行く時は重宝すること間違いなしだ。
唐辛子なんかで発汗を促しているのでなければ、飲む量によってもっと温度を上げることができるはず。それが確かめたかった。
「やめとけ」
「どうしてですか?」
「普通の人間が飲み過ぎたら、死ぬぜ。たとえ体表だけは冷やすことができたとしても内部の熱は変わらない」
「じゃあ先生はどうやって生き残ったんですか」
「秘密だ」
先程の意趣返しだ。
しかし、作った本人がそう言ってるんだから本当なんだろうな。
「ソフィア、どうする?」
「────やってみます!」
「……良い顔だ!」
「はいっ!」
ソフィアは瓶に口をつけ、俺が飲んだ量の倍の倍以上は減らしてしまった。
即座にその効果は現れる。
「うっ!?」
「ソフィア! ……うあっ!?」
慌てて駆け寄ったロイスは、最後まで近寄ることができずにいた。ソフィアの体からは、熱気と冷気が同時に出ている。凝縮と蒸発を繰り返す大気中の水分は室内に雲を生み出し、雨となって降り注ぐ。それがまたサイクルの中に組み込まれ、降り止まぬ雨となってしまった。
「なっ……早く外出ろ!」
当然、家の持ち主である街角先生はこう言う。
ソフィアは驚きながらも特に変調をきたしている様子は無い。体から雲を発生させるのが変調に含まれなければの話だけど。
結果として研究所の真上にだけ厚い雨雲が発生し、俺たちとまとめてびしょ濡れだ。
「ソフィア!」
「あはは! あは! えへへ!」
「おい! ソフィア! ……ソフィア!」
「へへ……」
ハイになってやがる。
どういうことだこれは。
「ロイス、ソフィアのことを抱きしめてろ。死なない程度に」
「へぇっ!? な、な、な、何言って……」
「どっか行かないようにってこと!」
先生はやっぱりメモを取っていた。
「なるほどな、暴走者が暴走する時はこうなるのか」
「なんですか暴走者って、とんでもなく縁起悪い名前じゃないですか」
「暴走してんだから暴走者でいいだろ。それよりあれ、いつもあんな感じなのか?」
「違いますよ、もっと苦しそうです」
「ほーん……いつもとは違う。もっと苦しそう……変な薬は入れてないんだけどな」
「そこは……はい。俺もハイにはなってませんから」
「ああそうか、そうだった」
「他の被験者とかいないんですか?」
「いると思うか?」
「いえ…………」
この現象は初めてらしい。先生、俺、ソフィアの3人しか被験者がいないので、あまりあてにならない検証結果だ。やっぱりロイスに飲ませればよかったかなぁ。
「じゃあ、ハイになったことはこれまでないんだな?」
「ないです。俺の知る限りは」
「ふーん……」
こめかみをトントンと軽く叩く。
いわゆる思考中の癖が出ていた。
思いついたことをさらさらとメモ書きに連ねていくのは、記憶についてよく理解している研究者らしい姿だ。
しかし、今も雨は降り注いでいる。さっきは火事で集まっていた住民たちが、今度はさらに異様な光景にドン引きしていた。
「なんかすみません」
「別に。もうこれくらいじゃ俺の評価なんか変わらないし」
寂しい男だ。
──────
「はぁ……」
やがてソフィアの体からは熱気と冷気が抜けていった。相殺し切ったのだろう。
若干飛んでいた目も正常に戻り、抱きしめてるのか腕で輪っかを作ってるだけなのかよくわからないロイスは安堵の息をついた。
やっと雨もやんだ。
「意外と時間がかかる奴だな」
「…………」
「でもアレだ、あんまり意味ないな?」
「そうみたいですね」
たとえ冷気を相殺できるとしても、こんなに長く雨を降らせるんじゃあ室内では絶対に使えない。外でも、目立たない場所でやるしかない。基本的には寝てるときに冷気が溢れてしまうので、あの薬では無理だ。
すんごい特殊な部屋を用意できれば解決できるかもだけど……あてはない。
「疲れた気がする……」
「ソフィア、おんぶするか?」
「ね、寝たいです……」
びしょびしょだけど、その不快感よりも疲労の方が勝っている。まだ昼前なのに。
ますますあの薬を使う理由がなくなってしまった。
「すみません、ちょっとこれで失礼しますね」
何をするにしても、ソフィアがいないと始まらない。それに宿に帰るように言ったとしても──
「ごめん、俺、宿の場所覚えてないや……」
こうなるのは目に見えていた。迷って、おんぶできなくなってそこら辺に座り込んでチンピラに絡まれる。
そういうくだらんトラブルはなるべく排除したいんだ。
「俺は覚えてるから。それよりどうする、おんぶ代わろうか」
「大丈夫! 全然いけるよ!」
かっこ震え声、ってね。
ロイスの細腕じゃ早い段階で限界が来るだろうと思っていた。
「そろそろ代わるか?」
「ま、まだまだ!」
意外と。
「もう無理だろ」
「ひぃ、ひぃ、まだ、いける……!」
意外と粘る。
粘っているだけで移動速度はだいぶ落ちてるけど、根性を見直した。
「こけっ!」
「あぶなっ」
見直した途端にこれだ。
「うぅーん……」
あやうく二人とも地面に叩きつけられるところで抱き留めた。そもそも無茶な話だ。女の子とはいえ数十キロの重りを背負って宿まで行こうなんて。
男の子魂っつってもそこら辺を見極めないとな。
「…………お腹すいた」
「もうちょっと待てって!」
運ぶのお腹が空いただの忙しい奴だな。
いつも決まった時間にご飯が勝手に運ばれてくる生活を送っていた弊害だ、こりゃ。
「や、やっと戻ってきた……」
「あ」
戻った俺たちを宿の入り口で待ち構えていたのは店主──
「コソコソやってくれやがったな」
「俺は悲しい!」
「なんでソフィア寝てんの?」
じゃなくて顔見知りの3人だった。
昼まで寝ぼけていたくせに、ずいぶんと強気な態度だ。
「起こすの悪いかなぁって」
「我々は2級探索者だぞ? 睡眠など短くても問題ない」
「ないことないでしょ……とりあえずソフィア部屋に運んでいいですかね」
「何があったのか? ……まさか、また?」
「いや、ちょっと違うかな。説明難しいんで後でいいですか。つーか入口どいてくれって!」
出ようとする人たちも入ろうとする俺たちも迷惑していた。そういうとこだぞ、探索者。
ソフィアを早くベッドに寝かせるのが俺の仕事なんだから。
「ビッショビショじゃねえか」
「ふむ……雨が降っていないところを見るに、何かしらのトラブルに巻き込まれたか、あるいは──」
何故俺を見るんです?
何もしてないよ?
……何もしてねえっつってんだろ!
登場したキャラクター等の名簿的なものは必要か否か
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いる
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いらない