【マンガ化】焼肉スコスコスコティッシュフォールド【進行中】   作:goldMg

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58_遠吠え

 

「アキヒロー!」

 

「おっ……と」

 

「どこ行ってたのー!」

 

「実家に戻ってた」

 

「もう帰るの禁止ね!」

 

「えー?!」

 

「部屋ならいっぱいあるから!」

 

「そんなこと言わないでくれよ〜」

 

「えへへっ! ほら、いこ!」

 

 会いたがっていたってのはどうやら本当だったらしい。小さな手に引かれて屋敷を進む。前回と同じように他のメンツは置いてけぼりだ。少しだけ違うのは、吹雪ちゃんもついてきたこと。

 

「ねーお姉ちゃんついてこないでよ〜!」

 

「うるさい」

 

「……ねぇぇ!」

 

「うるさい」

 

 仲が良いのか悪いのかよくわからない。

 知らない男と2人きりになるのを防いでいるという視点にすれば優しく見守っているようにも思えるし、シンプルに邪魔しているように見える。

 姉妹兄弟ってのはそういうもんか。

 俺は良いお兄ちゃんを自認してるからそういう意地悪はしたことないけどな! 

 

「ねーアキヒロもなんか言ってよ!」

 

「え? なんかってなに?」

 

「お姉ちゃん邪魔だからどっか行かせてよ!」

 

「それは俺の出張る土俵じゃないというか……フブキちゃんは何で付いてきてるんだ?」

 

 直接聞くのが一番良い。

 

「はぁ……どうでもいいでしょ、私のことなんて」

 

「なんでそう思うんだ?」

 

「別に」

 

「ふぅ〜ん」

 

「なに、なんか文句あんの?」

 

「文句っていうか……暇なのかなって」

 

「はぁ!?」

 

 そこキレるとこ? 

 

「お姉ちゃんのことはどうでも良いから! お姉ちゃんはついてこないで!」

 

「うるさい! …………バカ! 今は私が話してるんでしょ!」

 

「ひっ!」

 

 姉は強し。

 怒りを露わにした実姉を前にしては、元気が取り柄のコユキちゃんも怯える事しかできない。

 

「ふ、ふんっ、アキヒロがいるもん……」

 

「っ……邪魔しないでよ!」

 

 邪魔するも何も、俺を挟んで喧嘩するんだもんよ。

 

「あんま怒らないで」

 

「怒ってない!」

 

「何があったか知らないけどさ、取り敢えず落ち着こうよ」

 

「私は落ち着いてる!」

 

 吹雪ちゃんの勢いは止まることを知らない。詰め寄ってきた彼女の肩を押し留めると、そのまま体重をかけてくるので姉妹の間で板挟みになった。

 

「うおっ、と?」

 

「どいて!」

 

「…………はぁ」

 

「!」

 

「いろいろ溜まってるみたいだな…………金持ちも楽じゃない、か」

 

 厳格な父と優しい母。

 生活には何の瑕疵もなく、飢えや寒さに苦しむことがない。アカネと比べてどれだけ恵まれているか、本人が見たら噴飯ものだ。

 

「コユキちゃん、ちょっと戻っててくれる?」

 

「えー……じゃあ部屋で待ってるからね!」

 

「おー」

 

 俺たちがいるのは庭だ。

 薔薇に囲まれた人目の薄い場所で、当家の長女と馬の骨が2人きり──というわけでもない。常に死角にならないようメイド達がこちらに視線を向けている。

 俺もさりげなく見えてるよアピールしたら、笑顔で手を振りかえしてくれた。優しい。

 

「何のつもり?」

 

「何のつもりはこっちのつもりというか……最初からおかしかったなって」

 

「……」

 

「町を歩いてたらウルフの詩声が聞こえてきて、ソフィアを見つけた……そこはいいか、俺だって街を歩いてたらソフィアを見つけたんだし。でも、それで俺を連れて行こうって話になるか? ならないよな、だからおかしいんだよ」

 

「だからコユキが……」

 

「それなんだけどさ、コユキちゃんが会いたいって言っても会わせない手だってあるわけじゃん。そもそも会わせる意味がないっていうか……例えばフブキちゃんのお母さんなら意味あるよ? 俺っていうかソフィアだけど、まだわかる」

 

 前回は時間も限定的だったし、頼るのが怖かったから試せたのも少しだけだ。だけど今回はあの薬の件もあるから、また別のアプローチが見えたかもしれない。

 

「でも……フブキちゃんは思ってないだろ? コユキちゃんを俺に会わせたいなんて」

 

 そもそも、嫌われてる空気を感じる。

 吹雪ちゃんに対して何かをしたわけじゃないけど、何もしなくても人間を嫌うことができるのが思春期でもある。

 

「フブキちゃんはやっぱり家の後を継ぐとかあるの?」

 

「!」

 

「ああ、そうなんだ」

 

「……関係ないでしょ」

 

「関係はないけど、ストレス溜まりそうだなって」

 

「おちょくってるの?」

 

「…………もしかして、俺のこと嫌い?」

 

「…………」

 

 

 ──────

 

 

 それは当然の話だったのかもしれない。

 深山吹雪は、大金持ちというくくりで示すことすら失礼にあたるほどの資産家に生まれた女の子だ。隣に住んでいる人間とすら、生まれた時点から格の違う生活を送っている。

 

 求めれば与えられ、大人は誰もが遜り、そんな人間に子供が寄り付くはずがない。それに、賢い彼女は理解していた。自分に寄ってくるのは、金目当ての人間だけ。誰も彼女自身の価値を見ようとはしない。

 頑張ってしたオシャレも、必死にこなした勉強も、全ては記号でしかない。

 メイドに任せずに行っていた髪の手入れだって、おべっかを使う大人ぐらいしか褒める人間はいない。お母さんもお父さんも忙しくて、彼女を見ている暇なんてなかった。

 

 それでも、吹雪は癇癪を起こすことはなかった。

 深山家の長女として生まれたことの意味、恵まれた境遇というものをしっかりと理解していたからだ。

 第一セクターという閉ざされた世界の中であって、モンスターの危険に触れることのない生活。

 賢い彼女は、それを維持することの難しさが想像できていた。

 

 もう一つ、命が増えた。

 妹の小雪だ。

 吹雪は、妹の手を初めて握った時、なんてかわいいんだろうと思った。純粋で、余計なしがらみがなくて、ただ自分の手を握ってくれる。

 ずっと、日が暮れるまで小雪の手を握っていることもあった。真面目な吹雪が──と、使用人たちも最初こそ驚いたが妹の可愛さにやられてしまったのだと理解を示した。

 

 暗雲が垂れ始めたのは、小雪がしゃべれるようになってからの話だった。その頃も、吹雪にとってはまだ可愛い妹だった。何が変わったかといえば、姉妹を取り巻く環境だ。

 吹雪は敏感に感じ取っていた。小雪に対する躾は、自分に対してされていたソレに比べると幾分か緩かったのだ。その時点で、心の中にはモヤモヤとしたものが浮かび始める。

 

 小雪は自由で、楽しそうで、明るく見えた。

 

 吹雪と同じで対等な友達という奴はいなかったが、外に出るのが好きな小雪は、いろいろな人に話しかけて紛らわしているようだった。

 

 吹雪には、どうしてもそれができなかった。知らない人に話しかけて、自分が家の娘だということがばれたら何をされるかわからない。

 先が見えてしまうからこそ、いろいろなものを警戒せざるを得なかった。

 

 小雪はそういった意識を持っていないのか、自分のやりたいようにやる。吹雪と同じくスケジュールはガチガチの筈なのに、適当にサボって息抜きをしているのだ。吹雪とは違う方面で要領の良さが極まっていた。

 勿論のこと、表面上は小雪に対する叱責が存在する。しかしそこに本気さは無く、あくまで表面だけなのだ。

 

 吹雪は尚のこと思わざるを得なかった。

 自分は贄だと。

 深山商会という巨大な組織を存続させる為の楔でしかないと。

 家柄がよい適当な男をあてがわれるのか。それとも自分自身が立場を得て立つのか。ふんわりとしたイメージだが、吹雪は自分の未来がそうだと考えてしまった。

 

 しかし、妹には関係ない。

 長女として責任のある吹雪と違い、小雪には自由があった。未来があった。選択肢があった。

 自らの手が握っている紐と比べて、あまりにも色とりどりで輝いていた。

 

「だいっきらい!」

 

「…………」

 

 奥の奥から湧いてくるその感情を、人は憎しみと呼んだ。嫌悪と呼んだ。侮蔑と呼んだ。ありとあらゆる負の感情が、妹への想いを黒く塗りつぶしていく。

 自分よりも頭が悪くて、背が小さくて、年が若くて、我慢ができない。自分よりもはるかに劣っているから自分と同じ立場に及ぶことすらできないのだと、吹雪は信じた。

 信じざるを得なかった。

 そうしなければ狂いそうだった。

 

 家も、名前も、立場も、全部捨てて逃げられたらどれだけよかっただろう。しかし、彼女にはできなかった。だって、そんなことをしたらお母さんが悲しむから。

 お父さんがガッカリするから。

 

 鬱屈した感情を抱いたまま必死に耐えていた吹雪は、さらにショックを受けた。

 

 小雪が三人の知らない人を連れてきた。

 女の子が何か事情を抱えているのは明らかで、見ただけでその肉体に異常が起きているとわかった。

 男の子──加賀美とかいう人は、それが異能の暴走だと説明した。

 そして女の子を助けるために奔走しているのだと。

 

 ショックだった。

 あまりにも特別だった。

 ──男の子が女の子を助ける。

 吹雪だって女の子だ。

 めくるめく闘争劇や冒険譚(そういった物語)を読んだことがあるし、詩人から聞いたこともある。憧れたことがないといえば嘘になった。聡いが故に、そんな出来事が現実には起こり得ないと早い段階で気づいてしまったが。

 

「俺のことが嫌い……もしかして昔なにか失礼なことをしちゃったかな?」

 

 あり得ない。

 そう、あり得ないことだ。

 自ら犠牲にしてまで誰かを助ける人なんて、この世にはいないんだ。それが真実だ。真実のはずだ。

 物語の中にしかいない、くだらない幻想のはずだ。

 

「まずいな、謝ろうにも覚えがなさすぎる。なあ吹雪ちゃん、何でそんなに俺が嫌いなんだ?」

 

 だというのに、目の前にいる男は全てを否定するかのように微笑んでいる。

 

 そうだ。この男は小雪が連れてきた時と同じく、ソフィアを助けるために奔走していた。

 学校は? 

 親は? 

 そんな疑問など下らないと言わんばかりに、微塵も焦りを感じさせない。

 

「……っ!」

 

 強く歯を噛み締めた。

 

「──アンタなんて嘘っぱち!」

 

「?」

 

 目の前の男を否定しなければいけない。

 

「全部、嘘!」

 

 だって、こんな奴がいるなんて認めたら……

 くだらない人生を歩んでいる自分が何なのか、分からなくなる。そこから飛び出して目の前の男を見つけた妹が──自分より下だって、自信を持って言えなくなる。

 

「嘘!」

 

 つまり、心を守る為の遠吠えでしかなった。

 

 

登場したキャラクター等の名簿的なものは必要か否か

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