【マンガ化】焼肉スコスコスコティッシュフォールド【進行中】   作:goldMg

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60_また誰かが

 目白ネル。

 商工会の職員であり、アキヒロが最初に頼った人物。何故彼女の話がここで出てくるのか。

 

「アキヒロくん、貴方は信じているのね?」

 

「ええ」

 

「素敵ね!」

 

「素敵……そうですかね」

 

「素敵じゃない!」

 

「個人の感想として受け取っておきます」

 

「冷たいのね、ぷんぷん!」

 

「たはは……」

 

 たははと笑ってやりたいのはこっちだ、とルクレシアが腕組みをした。その衣擦れの音に釣られて、ユキが槍先を向ける。

 

「2人はネルさんと会ったことはあるのかしら?」

 

「私たちは無い」

 

「素敵な方なのよ! お2人と同じくらい!」

 

「素敵って言いたいだけ?」

 

「……いいえ、本心よ」

 

 しかし、言葉とは重ねるほどに安っぽくなっていくものだ。懐疑的な視線に残念そうな反応を見せ、並んでいたクッキーを一つ摘む。

 ハムスターのようにチマチマと口を動かすユキの代わりに口を開いたのはアキヒロ。2人が気になっていることを話し始めた。

 

「ネルさんは商工会の職員なんです」

 

「へえ? お前が避けてる商工会の、ねえ」

 

「組織として信じるかということと、個人として信じるかということは別問題です」

 

「商工会には報告義務やら何やら色々あったはずだけどな。職員なら尚更そういうのに敏感なはずだぞ」

 

「それはそれ、これはこれ」

 

 ともかく、アキヒロがネルを信じているという事は真であった。

 

「俺たちもそのネルとかいうのに会わせろよ。ここにいるんだろ?」

 

「今は昼間なので出勤中じゃないですか? 受付はやってないらしいんで会えないと思います」

 

「いつなら会えんだよ」

 

「さぁ……どういう仕事をやってるか聞いたことはないので。そこまで深い仲でもないですし」

 

「じゃあ何をもって信じられるんだ」

 

「顔と行動」

 

 新たに置かれた2つのカップ。

 庭にあるイブルナイトローズの花弁から淹れたお茶だ。

 市井には出回らない一品だが、この家では基本がこんな感じだった。

 

「天命山脈の麓にあるバラ、ねえ……」

 

「確かあそこらへんにあったよな、お前の家」

 

「その話はいいだろ……それにしても美味えなコレ」

 

「私は飲んだことあるぞ」

 

「なんだ、そういう店にデートで連れてってもらったのか?」

 

「……別にデートじゃねえ」

 

「そうかい」

 

 話は吹雪のことへ。

 

「さっきはごめんなさいね」

 

「気にしてないです」

 

「あんな事をする子じゃないんだけど……」

 

 母親である雪からして、先ほどの娘の様子が俄かには信じる事ができなかった。アキヒロがやってきてすぐもショックを受けたようで少しの間黙りこくっていたのだから、その程度は相当のものだ。

 

「あなたが悪い人だって言いたいわけじゃないけど……あの子に何か言った?」

 

「あー……姉妹喧嘩はほどほどに、って言ったのがダメだったのかもしれないですね。その前にもいろいろお話をしたんですけど──いや、話をしようとしたんですけど取り付くシマもなかったと言いますか……」

 

「……私には、どうしたらあの子があんな風になるのか全く想像がつかないわ」

 

「──!」

 

 アキヒロの視線が鋭く光った。

 

「フブキさんは真面目な子なんですか?」

 

「え? ……ええ、そうらしいわね。ちゃんとカリキュラムをこなしてるって先生方からは聞いてるわ」

 

「どこか良いところの学校に通ってるんでしたっけ」

 

「まさか! そんな事をしたら襲われてしまうわ!」

 

「!? ──ど、どういうことですか!?」

 

「どういうことも何も……フブキはウチで勉強しているのよ。だってウチなら安全でしょ?」

 

「ホームスクーリングだと!?」

 

「なにかしら? ホー……?」

 

「ああいや、なんでも……口を出したいわけじゃないですけど、高い金を払えば良い私学とかあるんじゃないですか? それこそ金持ち用の……」

 

「…………?」

 

「まさか…………確かに調べたことはなかったけど……無いのか?!」

 

「シガク、というのは何を指しているの? 聞き及んだ覚えが無いわ」

 

「……お友達はいるんですか? フブキちゃんに」

 

「友達? ……大学で作ればいいじゃないのかしら。だって中学と高校で友達を作ったとしても、その子たちはほとんど大学に行かないじゃない? それなら今は勉強に集中したほうがいいでしょう? それに学校に行く途中で攫われるかもしれないし」

 

「あー……なるほどー……」

 

「ね?」

 

 アキヒロはアッサリと説得を諦めた。

 価値観が違う。

 経験も違う。

 そして何度も強調するという事は、何度も自分がそういう目に遭ってきたのだろうと読む事ができたからだ。

 

「親子喧嘩ってしたことあります?」

 

「あるわよ〜、これでも母親なのよ?」

 

「フブキさんとは?」

 

「フブキとは無いわよ! あの子はとても聞き分けが良い子だもの!」

 

 

 ──────

 

 

「ネルさんに会いてえ〜」

 

 価値観の違いという言葉で収めていいのかわからない会話を済ませ、邸内をぶらつく。何故かルクレシアは呼び止められた。

 

「そんなに美人なのか?」

 

「……アオキさん、そういうこと言うんですね」

 

「はあ?」

 

「女に興味ないのかと思ってました」

 

「なんだそりゃ」

 

「ウルフさんと違って、美人とすれ違っても見たりしないじゃないですか。むしろ武器ばっか見てるっていうか……」

 

「気持ち悪いな、どんだけ俺のこと見てんだよ」

 

 少しだけ質の違う視線。

 メイドたちがアキヒロに対して向けるソレは、以前とは明らかに変わっていた。

 

「注目の的だな、さすがリーダーだ」

 

「嫌がらせかよ……」

 

 大抵のメイドは2人1組で動いているものだが、すれ違うたびにヒソヒソと内緒話をしている気配がある。

 

「嫌だ嫌だ、女ってのはコレだから……」

 

「……ああ、聞こえてるんですね。彼女たちが何を話しているのか」

 

「そんで、お前はもうちょっと気にしろよ。よくもまぁそんな何も感じないでいられるな」

 

「え? ……く、くるしい……!」

 

「きしょっ」

 

「ぶっちゃけ、彼女たちが悪口言ったところで何も変わらないでしょう」

 

 そんなことより、もっと気にするべき事があるとアキヒロは指を差した。

 

「あん?」

 

「まだ被ってるんですね、兜」

 

 言うべきか言うまいか迷っていたが、さすがに指摘した。邸宅に入ってからも全く脱ぐ気配がない。

 就業時や就学時は帽子を脱ぐのが礼儀だ。

 人の家に入っても同じ話が通用する。

 兜などもってのほかだ。

 だというのに、この男はアキヒロの目の前で兜を脱いだことが1度もない。

 

「俺のご尊顔を簡単に見られると思うなよ」

 

「……ちなみになんですけど、風呂では脱ぎますよね」

 

「当たり前だ」

 

 その当たり前すら疑わざるを得ないのはひとえに彼の行動によるものだった。構えをとった2人。廊下での突然の奇行に、どこか見覚えのあるメイドが尻餅をついた。

 

「お前ごときの身体能力で俺に勝てると思うなよ?」

 

「能力で勝てるとか勝てないとか、そういうことじゃない。やりたいと思ったことをやらないなら……死んだほうがマシだ」

 

「その情熱をくだらないことに向けるあたりが、お前がイカれてるって言われる理由だってわかってんだろ?」

 

「生憎と、イカれてるなんて言われたことは1度もありませんよ?」

 

「どうやら……友達がいないのはあのガキと同じらしいな」

 

 距離を詰めていくのは当然アキヒロの方からだ。

 右手をゆっくりと伸ばし、相対する男の意識がそれた瞬間を狙う。熊が鮭を取るときのような深い集中力。

 

「あの人、何してるの……?」

 

「──!」

 

 アキヒロのお世話をしたあのメイドが、目の前の状況を飲み込むことができずに発した一言。それが2人の耳に届いた瞬間、動き出した。

 

「──うぐああああ!」

 

「無理だって言ってんだろ」

 

 なんともアホな結末。

 兜を掴もうと伸ばした腕をはらわれ、お返しとばかりに伸ばされた手のひらがアキヒロの顔面を鷲掴みにした。文字通りの万力によって締め上げられ、情けない声を上げる。

 

「ちょ、ちょっと! ここは深山家の邸宅ですよ! 暴力はやめてください!」

 

「──あ、ああ、君はあの時のおおおお!」

 

「ちなみに全部こいつのせいだ。いきなり人様の秘密を取ろうとするのが悪い」

 

「割れるぞ! そのままだと俺のハチが割れるぞ!」

 

「……やめなさーい!」

 

 やっとこさアオキは手を離した。

 

「死ぬかと思った」

 

「もう、変な事をしないでください!」

 

 窓から覗く世界は薄い霧の中。

 風のおかげで密度が小さくなっているのだ。

 

「久しぶり」

 

「お久しぶりです。私の感覚としては、すぐですけどね?」

 

 腰に手を当て、茶目っ気にウィンクをするその姿はあの初々しい姿と同じものとは思えない。

 今日は余裕があるようだ。

 だが、彼女にも仕事がある。いつまでもアキヒロと話をしているわけにもいかない。

 頭を下げるとお盆を持って奥へ姿を消した。

 

「…………彼氏でも出来たのかな?」

 

「お前やっぱ頭でもぶつけただろ」

 

「ぶっつけてないですよ。頭を潰されそうにはなりましたけどね」

 

「へー、大変だな」

 

「……ちなみにウルフさんは来ないんですか?」

 

「知らね、どうなんだろうな」

 

「端末持ってないんですか?」

 

「何が楽しくてあいつの声をコレで聞かなきゃいけねえんだよ……」

 

 既に彼が詩を語り始めてから数時間は経過している。

 流石に聴衆も解散して時間を持て余しているだろう。

 

「女でも買いに行ってんじゃね?」

 

「あー……」

 

 そういえば、と思い出す。

 確かに彼は以前、風俗に行こうとしてルクレシアにとっちめられていた。今回はこの家にルクレシアがいる以上、ソレを邪魔するものはいない。

 

「……あの2人って、正式に付き合ってるんですか?」

 

「知らねえよ」

 

「興味なさすぎでしょ……」

 

「アイツといると退屈しねえからいるだけだ。プライベートは好きにやってくれりゃあいい」

 

「ふーん…………奥さんとかいたんですか?」

 

「今はいないって決めつけんな」

 

「じゃあ、今はいるんですか」

 

「いねえよ」

 

「ほら」

 

 アキヒロは大事な事を忘れていた。

 

「おっそーい!」

 

「ごめんなさい、話をしてました」

 

「待ってるって言ったのに! 女の子を待たせる男の人はモテないよ!」

 

「ごめんなさい」

 

 大層ご立腹だ。

 薄暗い部屋に入って真っ先にしたのは土下座。仁王立ちのコユキの前で、今もこうして頭を床に擦り付けている。

 安い頭はいくら下げても良い。

 

「ソフィアさんの為になる話をしようって思ったのに! もうしてあげない!」

 

「!」

 

「ふんだ!」

 

「コユキちゃん」

 

「ひゃっ!?」

 

「お願いだ、教えてくれ。何の話だったんだ」

 

 切り替えの良さ。

 ソレもまた転生した故の特典と言っていいだろう。子供らしい恥などないのだ。少しでもソフィアのためになるならば、手間を惜しむ気はなかった。

 

「コユキちゃん」

 

 薄暗い部屋の中で少女に迫る、というと非常に聞こえは悪いが目的は至って真面目だ。

 

「え、え、え、えーっと……」

 

「頼む、何でも良いんだ。教えて欲しい」

 

「……な、なんのはなしだったかな」

 

 モジモジと身じろぎをするコユキの挙動を観察し、その発言の真偽を考察する。子供が知っている情報と侮るなかれ、彼女は超大金持ちの子供なのだ。いきなり手掛かりが手に入っても不思議ではない。

 

「ふー……落ち着こう」

 

 しかし、それもコユキが何かを言ってからの話。

 この段階で熱くなっているのはアキヒロだけだ。

 まずは落ち着いて、そしてコユキにも落ち着かせようとした。

 

「なんか、廊下がうるさい?」

 

「嫌な予感が……」

 

 アキヒロはデジャビュを感じた。

 

登場したキャラクター等の名簿的なものは必要か否か

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