【マンガ化】焼肉スコスコスコティッシュフォールド【進行中】   作:goldMg

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61_全てを置き去りにするほどの有能

「やっほー?」

 

「ネルさん!?」

 

 何故。

 どうやって。

 疑問が浮かんでは消えゆく。

 しかし、それを口にする前に気付いた。

 目の前にいる女性の頬がひくついている。

 どう考えても人間が怒っている時の仕草に他ならない。覚えはないが、無視することもできなかった。

 

「怒ってます?」

 

「どう思う? 私、怒ってると思う? 逆に、怒ってないと思う?」

 

「怒ってないと思います。だって怒る理由が無いから!」

 

「はああああ!」

 

「あぶなっ!?」

 

 空振りに終わった掌底。

 顎を狙っての一撃は、当たっていれば昏倒間違いなしだった。突然の凶行に慄きつつ、小雪を巻き込んでベットに寝転がった。

 

「な、なにするんですか!」

 

「怒ってます」

 

「あ、そうなんだ」

 

「そうなんだで済むかあ!」

 

「うぐっ……頭突きまで……! 何てバイオレンスな日だ……」

 

「なんで怒ってるかクイーズ!」

 

「なんだ!?」

 

「何で私は怒ってるでしょうか! いち、私だけ放置だから! に、セールを逃したから! さん、霧が濃いから! よん、私を放置したから! ご、人に探させるだけ探させといて、こっちに戻ったにも関わらず新しい仲間と仲良くして私のことは放置だから!」

 

「なんですか!?」

 

 困惑と恐怖の入り混じった感情だけが、薄めたノリのようにじわじわと広がっていく。硬直している間にも、カウントが進む。

 

「じゅう、きゅう、はち──」

 

 カウントが終わった瞬間、一気に爆弾が爆発する。

 そんな気配を察知した瞬間から脳みそがフル回転した。

 

「なんだ? …………なんだ……?!」

 

『5だよ……』

 

『5でしょ……』

 

 案内してきたメイド達がなにか呟いているが、やはりアキヒロの耳には何も聞こえない。

 

「5でしょ……」

 

 コユキが(ry

 果たして導き出された答えは……! 

 

「答えは2! セールを逃したから! ネルさん、やっちゃいましたね!」

 

「オラァ!」

 

「ぐえっ」

 

 女性にあるまじき咆哮とともに振り下ろされた手刀は、アキヒロの脳天にクリーンヒットした。

 

「いてて……なんなんですか、もう……」

 

「アキヒロ……嘘だよね……?」

 

「こ、コユキちゃん……なんでそんな目で俺を見るんだい?」

 

「私、あんまりよく分かってないし驚いてはいるけど……でも、そんな私でもわかるよ? メイドのみんなも……」

 

「…………い、いやだなあ! 冗談に決まってるだろ! 答えは4だ!」

 

「…………」

 

 魂ごと取り残されたアキヒロ。女の子に囲まれてよかったね、と誰もが恨まむシチュエーションで感じているのはあり得ないほどの疎外感だけだった。

 さすがにこの状況で沸るような精神は持ち合わせていない。

 

「…………」

 

「おおお……」

 

 両目を大きく見開いて、唇が触れそうなほどの距離で見つめ合う。ドキドキはドキドキでも、下半身の脳みそではなく五臓六腑に染み渡る冷たさからなるドキドキが心臓を襲った。

 

「こ、怖いですよ?」

 

「言う事があるよね?」

 

「……放置してごめんなさい?」

 

「疑問形?」

 

「放置してごめんなさい!」

 

 まさかこの儂を恐怖させるとは……と心臓を押さえる。

 しかし、それはそれとして気になる事は尋ねるのがアキヒロスタイルだった。

 

「ネルさん、なんでここにいるってわかったんですか?」

 

『こ、この空気の中でよくあんな普通に聞けるね……!?』

 

『図太いなんてもんじゃないわ……多分また殴られるでしょうね』

 

 ネルはゆっくりと腕を伸ばした。

 

「ん? …………なんですか?」

 

「そのまま」

 

「…………」

 

 コユキと一緒に腰掛けているアキヒロの頬へ、手が近付いていく。

 

「なんだなんだ……?」

 

 メイド達は何かを察したかのように色めき立ち始めた。

 

『え……?』

 

『まさか、ここから始まるの……?』

 

『巻き返しのラブが……!』

 

「ラブ? ──いぎぎぎぎ!」

 

 ギウウウと音が鳴りそうなほど、アキヒロの頬が伸びていた。

 

ふぁぶは! (ラブは!)ふぁぶはふぉふぉ! (ラブはどこ!)

 

「ラブ!? コレが私の愛だよ!? 存分に味わって!」

 

「|ふぁひふぁふぁひへほひふぉふぁいひゃへーは!? 《愛は愛でも自己愛じゃねーか!?》」

 

「私のこの……どうしようもない気持ちを少しだけでも分けてやる!」

 

「いへへへへへ!」

 

 

 ──────

 

 

「ほっぺ抓られるとか久しぶりじゃねーか? ……はあ、いて……」

 

「よかったね、久しぶりに体験できて」

 

 ツンドラの如く冷たい声色だった。

 

「アキヒロ、ちょっとだけ頬伸びてない?」

 

「マジ?」

 

「うん、ここ」

 

「いで」

 

 赤くなっている。

 怒りがそのまま凝縮されたような跡だ。

 

「──で?」

 

「で、とは」

 

「理由」

 

「りゆう」

 

「私に! ソフィアちゃんの! 事を! 調べるように! 言っておいて! 第一セクターに! 来たのに! 放置した理由!」

 

「うーん……そんな怒鳴られても……」

 

「何か文句あるってわけ!? いいよ! やるよ! 私、こういうとき結構やる女だからね!?」

 

「怖すぎだって……」

 

「じゃあ分かってるよね?」

 

 放置といっても、ほんの数日の話だというのにここまでの癇癪は、よほど腹に据えかねていたらしい。

 本当に仲間だと思って頑張っていた事からの反動か。

 

「正直……放置してるっていう感覚がなかったですね。やることがあったので、まずそっちを片付けてからかなぁって」

 

「ウチにく、来て、挨拶ぐらいできたよねえ。……ですよねえ?」

 

 怒りでか呂律が若干怪しいネルの問いかけに、メイドたちは大きくうなずいた。

 どのような事情があろうと、100%彼が悪い。

 そう決まっていた。

 

「もちろん、この後行く気でしたよ」

 

「どうだか」

 

「ほんとですって! そこは信じてくださいよ! 俺とネルさんの仲じゃないですか!」

 

「……そう思うなら、真っ先に来るべきだったね」

 

「…………すいません」

 

「ふんっ……」

 

 しかし、放置された怒りを発散するためだけにここまで来る事はあるまい。何せ金持ちの家だ。入るのにだってそれなりのリスクを伴う。

 謝罪の後も拝み倒したアキヒロへ、本当の目的を告げた。

 

「ソフィアの……身元が……分かった……!?」

 

「……そう」

 

「つまりそれは、父親が誰かわかったということですか!?」

 

「うん」

 

「ネルさん!」

 

「は、はいっ」

 

「あなたとの出会いは間違いじゃなかった! やっぱり俺の道は正しかった! ありがとうございます!」

 

「…………そ、そう?」

 

「はい! ──みんなに知らせなきゃ!」

 

「待っで!」

 

「えっ」

 

 呼び止められたアキヒロは当然、足を止めた。しかし待てども追加が来ない。

 

「なんですか?」

 

「──もっと褒めろ!」

 

「えぇっ」

 

 妙なことを言い出した。

 

「大人はあんまり褒めてもらえないの! もっと褒めて!」

 

「あ〜……」

 

「あー、とか良いから褒めて!」

 

 次のフェーズに進むには褒めるというイベントが必要らしい。しかし、時間を犠牲にしてでも褒めるだけの価値がある情報を彼女は持ってきてくれた。

 報いるしかあるまい。

 

「まずは、情報を持ってきてくれてありがとうございます」

 

「うん」

 

「会いに行かなかった俺たちのところまで来てくれてありがとうございます」

 

「そうだよね?」

 

「商工会ではあんまり気づいてる人がいないかもしれないですけど、ネルさんはすごく仕事ができる人で、ソフィアや俺みたいな風来の子供にも優しくしてくれて、しかも美人さんです」

 

「…………」

 

「状況が状況だからアレですけど、普通は惚れちゃいますよ。男なら誰だって」

 

「……ふぅ〜〜ん?」

 

 聞くに耐えない賛辞がコユキの部屋を汚していった。

 

「──え〜? こまるなぁー……アキヒロくんって私のことそんな目で見てたの〜?」

 

 残ったのは、うれしそうに体を揺らすネルと、その様子を暖かい目で見守るアキヒロ。

 コユキやメイド達は流石に白けた目で床や天井を見つめている。

 

 こいつら……まさかいつもこんなことしてるわけじゃねぇだろうな。

 

 そんな思いがネルの心に届いたのか、気まずそうに頬をかくとアキヒロを立ち上がらせた。

 

「ん、んんっ……じゃあソフィアちゃんにも教えてあげなきゃね」

 

「そもそも、まずソフィアに教えてあげれば良かったのでは?」

 

「うるさい!」

 

「はい」

 

 

 ──────

 

 

「ネルさん!」

 

「やほっ、体大丈夫?」

 

「はい! ネルさんも大丈夫ですか?」

 

「うん、私はどこかの誰かさんが情報集めろって走り回らせるから逆に元気になっちゃったかも」

 

「あはは……すいません」

 

「いいのいいの! ソフィアちゃんは何も悪くないんだから!」

 

 アキヒロは首を捻った。

 

 おかしい。

 態度が違い過ぎる。

 コレって性差別だろうか。

 いいんか? クレーム入れるぞ? 

 

「ほら、これ!」

 

「これは……」

 

 それは、一つの名前。

 ソフィアと同じ姓を抱く者。

 

「コレがソフィアの親父さんの名前か」

 

「そっちもだけど! こっち!」

 

 ソフィアの父親がいるという意味なのか。

 居場所!! とグルグル何度も線で囲われている。

 

「…………輝ける谷?」

 

 アキヒロはそれに聞き覚えがなかった。

 ロイスとソフィアも同じく。

 しかし、大きく反応した者が2人。

 

「マジかよ……アオキ、お前はいけるか?」

 

「行けるかどうかじゃない、が……予想以上だな」

 

 アオキ、ルクレシアだ。

 商工会の職員がこんなところにやってきて、しかもわき目も振らずに宿の中で進んでいくときた。当然のようについて行くしかあるまい。

 

「アオキさん、輝ける谷ってのはまさか……」

 

「まあ……お前の予想通りだな」

 

「…………!」

 

「一級レベルのダンジョン、まさかそんなところに親父さんが行ってるとはな……なんで嬢ちゃんはそれを見つけられたんだ?」

 

 アオキの疑問も尤もだ。

 しかしアキヒロは別の疑問を抱いた。

 

「その質問の前に待ってください。ネルさん、エメリッヒさんは一級探索者なんですか?」

 

「……それが登録自体はされてるんだけど、レベルを測ったことが1回もないのよ」

 

「つまり状況証拠から考えるしかない……けど、分かることもある」

 

「?」

 

「その人が──ソフィアのお父さんが表立って一級探索者として動いた事はないはずだ」

 

「なんで?」

 

「もしも一級探索者と活動してたんなら……コウキさんが気付かないはずがない」

 

「コウキ? …………コウキって、もしかして四門光輝?」

 

「ええ」

 

「なに? どういうこと?」

 

「知り合いなんです」

 

「なんで!?」

 

「幼馴染がコウキさんの娘です」

 

「……意味わかんない意味わかんない! 私の頑張りをかすませるのやめて!」

 

「霞んでません、ぶっちぎりで輝いてます。でも……少し整理したいな」

 

 アキヒロは全員を置いて庭に向かった。

 深い霧が降り注いている中へ。

 

登場したキャラクター等の名簿的なものは必要か否か

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