【マンガ化】焼肉スコスコスコティッシュフォールド【進行中】   作:goldMg

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64_お腹いっぱいお眠いっぱい柔らかっぱい

「もういらない」

 

「え……」

 

「これ」

 

「だから言ったじゃないですか、結構量ありそうだよって」

 

「いらない」

 

 プイ、とそっぽを向く。

 本当に手をつける気は無いようだ。

 お残しは許しまへんでなどと鬼の形相で迫ってくる料理人はいないので、残そうが全部食べようが自分の勝手だ。それはそれとしてもったいない。

 

「じゃあ俺が食べますよ?」

 

「ん」

 

「なんでいきなりワガママンボウになっちゃったんだよ……」

 

「そのジュースちょうだい」

 

「まあ良いですけど……俺の金じゃないし」

 

 基本的に奢られる気はないが、ご厚意でということなら人の金で食べるのもやぶさかではなかった。

 

「……なるほど」

 

 ネルの食べ残しを口に運ぶと、ピリピリとした爽やかな刺激感と香りが広がった。思い至るのは香辛料、肉の匂いを消すと言うのはこれのことかとうなずく。

 なかなか悪くない味わいだった。

 しかし、これほど強い匂いでは肉の味も何もあったものではない。少しくらい匂いが残っている方が味としては楽しめる。

 

「ロイスたちのを分けてもらえばよかったのに……」

 

 3分の1も手をつけ図ずに残している。

 探索者というのはとにかくエネルギーを消費する職業なので、彼らがもっぱら通う酒場の提供する食事の量というのは一般のそれとは比にならない。

 一般人がこれを全て食えば、しばらくの間、腹10分目で動けないだろう。

 質より量、だ。

 

「美味しかったは美味しかったけど、いっぱい食べるもんじゃないかなぁって」

 

「……だからそう言ってますけどね?」

 

「うわ、男のくせにそういうイヤミか言うんだ。みみっちい〜」

 

「なんですか? メスガキってやつになりたいんですか?」

 

 テーブルに肘をついて楽しそうに罵倒する姿を見れば、そんな感想も出てこようものだ。しかし悲しいかな、往々にして彼のスラングは通じない。

 

「こんな女の子捕まえてガキなんて……幼馴染みの子にもそんなこと言ってるの?」

 

「ミツキはメスガキって感じじゃないですかね。妹かなぁ〜……」

 

「ふーん」

 

「ネルさんは幼馴染みとかいないんですか?」

 

「いたけど、早死にしちゃったよ」

 

「ああ……それは失礼しました」

 

「やめてよ。ご飯おいしくなくなっちゃうじゃん」

 

「もう食べ終わったでしょう」

 

「しかも早死にってアレよ、10歳の時だからね」

 

「早いけど……珍しいとも思えないのが、何だかなあ……」

 

 平均寿命が低いとはどういうことか? 

 みんな死ぬのが早いということだ。

 老人になったらすぐ死ぬとか、若い子だけすぐ死ぬとか、そういう社会はありえない。みんな死なないか、みんな死ぬか、そのどっちかだけだ。

 

「なんか眠くなってきた……」

 

「赤ちゃんだコレ」

 

「…………」

 

 幸いなことに、アキヒロは彼女の家を知っている。寝たとしても問題なく送り届けることができるだろう。アオキ達がゲスの勘ぐりをしてくることも確定的だが、そこはどうにでもなる。

 そこまで考えて、耳打ちした。

 

「眠いなら寝ちゃって良いですよ」

 

「うん……」

 

 なんとも警戒心の浅いことだ。

 言われるがまま、瞼で蓋をしてしまった。

 

「ちょっと不安だな……この人、大丈夫なんだよな」

 

 この件が片付いて──とんでもなく気の早い話だ──またお互いの道を歩み始めたとき、だめな男に引っかかりそうだった。

 

「おい、ソイツどうすんだよ」

 

 後で、ではなく今きた。

 

「起きなかったら家に運びますよ」

 

「デザートってか?」

 

「仲間内で恋愛なんて、やめたほうがいいですよ?」

 

「俺がしてるみたいに言うんじゃねえよ。それにうまくいかないとも限らねえしな」

 

 そのニヤニヤとした顔。

 お仲間2人をチラと見た時の口元。

 本当にただ煽りたいだけなのだ。

 

「それにしても、お前はよく食うなあ……やっぱ筋肉か?」

 

「ええ、育ち盛りなんで」

 

「つっても筋肉なんか意味ねぇけどな」

 

「はい出た、その理論」

 

「んだよ」

 

 探索者の常識は基本的に世の中とかけ離れている。

 常識を構成する要素の中でアキヒロが最も異を唱えたいのが『筋肉なんか無駄』理論だった。

 

 なわけない。

 ていうかそんなわけない。

 本当にそんなわけがない。

 

「探索者の出せる数値からすれば誤差かもしれないですけど、単純な数値の差じゃなくて、筋トレしてる人間としてない人間の出せる力の比率で見なきゃ意味ないと思いますけどねぇ。仮にレベルが下がったら、皆さんどうやってあの重い武器を持つんですかねえ」

 

「レベルが下がるって……ダンジョン行ってるのにそんなことあるわけねーだろ」

 

 レベルは不変ではない。

 物質も、生物も、魔素の移動の中で生きている。

 空気と肌1つをとっても、どちらを構成する元素間からも魔素がお互いに放射されている。さながら熱エネルギーの交換に近い。あるいはエントロピー増大か。

 高レベルの探索者が全くモンスターと戦わず、ダンジョンにも潜らず平穏な日々を過ごしていれば、溜め込んだ高濃度の魔素を放出してレベルが下がっていくというのは割と有名な話だ。だがそれはよっぽど何もしていない場合の話なので、アオキのように積極的な探索者では基本的に起こり得ない。

 

 だが、アキヒロが言いたいのはそういうことではなかった。

 

「筋トレしろ」

 

「しない。そんな事するくらいなら普通に型練習してた方がマシだ」

 

「型練習……ならまあ、意味ないこともないか」

 

「俺たちは力が有り余ってんだよ。筋トレして力が増えるったって、既に持て余してるものをこれ以上あげることに何の意味があんだ。それなら技術を鍛えたほうがよっぽどマシってもんだろ」

 

「でも、小手先の技よりは力を数倍にしたほうが強いんじゃないですか」

 

「そこはだからレベル任せでいいんだよ」

 

 彼らはいったい何の話をしているのだ。

 

「ソフィア、今は変なことはないか?」

 

「はい」

 

 顔色は悪くない。食事を飲み込む速度も普通程度で、その言葉に偽りはないように思える。

 

「アキヒロくん! 俺がついてるから大丈夫だって!」

 

「ロイス」

 

「うん!」

 

「静かに」

 

「え……」

 

 精神論で乗り越えられることにも限界がある。

 両親からの声が聞こえたというのは大きな鍵であるのは間違いないが、即座に何かの役に立つわけではない。

 もっと直接的な何かが必要だった。

 その何かについて、アキヒロは先ほどの一連の流れ中でしっかりと目撃していた。

 

「コマちゃん」

 

 先ほどは、明らかに何かの力が行使されていた。

 一行の前で惜しげもなく広かったあの力は、神獣としてのものか。それとも神がコマちゃんを通じて何かを行ったのか。あくまで一般人でしかないアキヒロには推察すらできないが、都合の良いことにこの場にはプロフェッショナルが数人いる。

 

「ロイス、さっきのは何だ」

 

「さっき?」

 

「コマちゃんがトンってやっただろ」

 

「え?」

 

 トンと役に立たない。

 先程の一件についての説明ぐらいしか役立てそうな場面などないというのに。

 

「コマちゃん、何かしたんですか?」

 

 真剣に敬語で犬に話しかける姿を見ると、少々馬鹿らしくもなってくる。

 

「ロイスは置いといて、ウルフさん達からも意見を聞きたいですね」

 

「意見と言われてもだな……ただの犬が何かしらの異能を使うことなどない。モンスターか、探索者か、そのいずれかしか異能を使うことはできない。だが……本当にその犬が神の使いとしてこの場に在るというならばそれらの前提は全てひっくり返る」

 

「皆さんが何かしたわけじゃないんですね?」

 

「そんなことを疑っていたのか。嘘偽りなく述べるが、精神系の異能を持っているのは私だけだ。そしてこの私の異能も、あのような分類のものではない。それはパーティーメンバーである此奴らが証明してくれる」

 

 ルクレシア達の反応から、その言葉が本当だということはなんとなく見て取れた。そうなるとやはり──子犬に視線が集中することになる。

 

「へっ、へっ、へっ、へっ」

 

 しかし、今は人間などよりもよほど大事なことに集中している。先ほど届いた骨つき肉を一生懸命に舐めて、弾け飛びそうなほどにしっぽが揺れていた。

 

()()が神の使いねえ……ずいぶんと庶民派の神もいたもんだなぁ」

 

「うちの神様は人に親しんでくれる神様だから!」

 

 ロイスはフォローなんだかよくわからないことを言った。この場の全員の意思としては、さっきの現象について父親から聞いてもらいたい。

 

「あ、あとで聞いとくから……そんな目で見るなよ……」

 

 女の子に抱きつくのに必死で重要なことを見逃してしまうのは、確かに仕方ないのかもしれないが信頼度が下がるのは仕方ない。

 

「しょうがねえじゃん……」

 

 ロイスの首が、がっくりと垂れた。

 

「さて、そろそろ出るか」

 

 もう全員の皿は空いている。

 いつの間にやらアキヒロは残りを食い尽くしていたし、ロイスとソフィアも普段は食べない食材にスイスイと手が動いていた。

 

 問題は、1人だけあどけない顔を衆目に晒していることだ。

 

「ネルさーん……ネルさーん……!」

 

 トントントントンと小刻みに肩を叩いても瞼は微動だにしない。泥に沈んでいるかのようだが、それほど調べることに注力していたのか。

 アキヒロは思わず頭を撫でそうになった。

 

「いかんいかん」

 

 手を引っ込める。

 女性の髪を触れるにしては少々手が汚れすぎていた。それに、顔見知りとはいえ何でもない関係の女性の身体に触れるのは最小限にした方がいい。

 幼馴染から冷たい目で見られたくはないだろう? 

 

「撫でてやりゃいいじゃねえか、このビッグ赤ちゃんをよ」

 

「ネルさん、おきてくださーい」

 

「んゆ…………」

 

 背負うと、見た目相応の重さがアキヒロの身体にのしかかる。軽いけど軽くないというやつだ。

 歩く分には問題ないだろう。

 

「どっち行くんだ? 家って」

 

「流石に遠いんで宿までにします」

 

「マジで連れ込みじゃねえか」

 

「そうすね」

 

 ネルの身体は比較的落ち着いた曲線美をしているが、アキヒロの背中には肉感のある感触がもっちりと乗っていて非常にクレバーだ。

 しかしアキヒロはこの程度でクレバーになるほどクレバーではない。クレバーだなぁとは思いつつもそれを口には出さないし、クレバーなことをする気もなかった。

 

「いらっしゃいませ」

 

 深山家にやってくると、コユキの教育係であるシエラが出迎えた。どうせならコユキと会いたかったアキヒロだが、今はお勉強中ということで応接室に通された。

 十人ぐらいが並んで座れるようなソファー。

 ルビー、サファイア、ガラスではない本物の宝飾をふんだんに使ったシャンデリア。

 蝋燭立てすら金細工によって成形されている。

 前世でも見たことがないような金持ち趣味だ。しかし、ソファーがあるだけでネルの安眠の場として役に立ってくれる。

 

「ん…………」

 

「仕事大丈夫なのかなネルさん」

 

 身も蓋もない話だが、彼女がしたのは内部情報の漏洩だ。サボってここに来ているならそれも問題だが、ソフィアに関する情報を持ってきたことがそもそもヤバすぎて、仮にバレてもサボりの方は感知されないだろう。

 

「…………」

 

 それだけのことをしてくれたのだ。

 

「……やっぱ撫でたかったんじゃねえか」

 

「あ……」

 

登場したキャラクター等の名簿的なものは必要か否か

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