【マンガ化】焼肉スコスコスコティッシュフォールド【進行中】   作:goldMg

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65_踏み抜き注意

「さっきのは本地にいる神様がソフィアを助けてくれたんだってさ!」

 

「「「へー」」」

 

「何でそんな目で見るんだよ! 父さんからちゃんと聞いたんだぞ!」

 

 神様かー、凄いなー。

 そんな目だ。

 

「お、俺のことをスピリチュアルなやつだって思ってんだろ!」

 

 神様がスピリチュアルじゃなかったら何だというのか。 

 

「ほ、ほんとうだし! 本当は神様から直接うびびびび!」

 

「ロイスゥ!?」

 

 電撃を喰らったように全身を麻痺させると、大きく床に倒れ込んだ。いきなりの出来事に、反応できたのは明宏だけだった。探索者組は2度目の異常事態にいよいよ身構えている。

 

「まさか見てんじゃねえだろうな……」

 

「神様がマジでいるんなら見るぐらい余裕だろ」

 

「私の着替えるところとか見てねえよな……?」

 

「ああ、確かに覗き放題だな」

 

「!?」

 

 コマちゃんが耳と尻尾をピンと立てた様子を見て、やはりと沸き立つ。

 

「……やっぱ見られてんじゃねえか?」

 

「こうなると、この犬の近くにいる人間は全員けつの穴までじっくり見られてるなんてこともあり得るぞ」

 

「ひゃん! ひゃん!」

 

 物言いたげに地面を足で鳴いているが、それが何を指すのかは誰にも分からない。一方で、干渉を疑う要素は少なくなっていた。

 ソフィアがトランス状態に陥ったのは一時的なせん妄などではなく、何かがあったのだ。

 

「だけど、今日はやめておこう。短期間で何かを続けてやると大抵ロクなことがない。明日もう一度来よう」

 

「はい」

 

 アキヒロの自論に全員が素直に頷いた。納得したということ以上に、一級ダンジョンの威容は近付きたいという意思すら奪っていたのだ。

 

「俺はもう一度見てくる。少し気になることがあったから」

 

「別行動ですか?」

 

「その通り! 自由時間だ!」

 

 あのダンジョンから影響を受けそうなソフィアさえいなければ、どれだけ近くにいたところで関係ない。もちろん自分自身の危険は度外視として。

 

「うーん……」

 

 集まる視線に唸る。中心地から外縁に近づくほど、建っている家の質は変わっていく。それはつまり、生活している人間の質も変わるということだ。

 海はわざわざ名前をつける必要がないほどモンスターに満ちており、潮の流れ──海流がダンジョンとして動いているとまで言われている。砂浜を挟んでいるとはいえ、そんな海の近くに居を構えている──構えざるを得ない人間達がどんなものかといえば……

 

「おい」

 

「え?」

 

「何歩いてんだよ」

 

「え?」

 

「誰の道だと思ってんだ」

 

「…………道路管理者……はいないかもしれないけど、私道じゃないでしょココ。強いて言うなら開拓した商工会の──」

 

「誰の道だってえ!? ええ!?」

 

 タンカスが道端に吐き捨てられ、色々なものと混ざって嫌な匂いを発している。それを気にもせず歩く小太りは絡まれている少年を見ても瞳に何かの色を生じさせることはない。同じように緑色のネバネバを吐き捨てると、少し離れたところからジッと様子を見るにとどまった。

 

「落ち着きません?」

 

「──!」

 

「おっとっとっと……」

 

 取り出されたるはいびつなナイフ。刃こぼれがひどく、物を切るにはまるで適していない。何かの液が付着している様子も見て取れ、これで体を引っかかれたら深刻な感染症に罹患してもおかしくない。

 そんなものを向けられて、眉間にシワを寄せないわけがない。

 

「ったく……これだから未開の地は……」

 

 ナチュラルヘイトを吐きながら、あたりに一瞬だけ視線を飛ばす。助けはまるで見込めない。影から覗く瞳が意味するものはハイエナ。やられた弱者をどうにかしてしまおうという意思だけが強く光り輝いていた。

 ならばと武器になりそうなものを探すが、それも見つからない。

 

「──うおっ!?」

 

 風を掻き分けて、乱れた剣筋が頬を掠めた。

 

「本気かよ……」

 

「…………」

 

 もはや冗談では済まない。目の前にいる背中の大きく曲がった不審者は、少年を解体する気満々だった。

 タダでやられる気はない。

 青龍刀でも携えて出てこられれば冷や汗は間違いなかったが、痩せ細り、身汚く、歯抜けの中年が錆び切ったナイフを持っていようとも深い以上の感情にはならない。

 

「探索者……じゃないな」

 

 探索者であれば、ナイフなど使わずとも単純な膂力でアキヒロを制圧することができる。そもそも一般人を襲う必要などないということも含めて、ただの追い剥ぎだと定めた。

 

「…………」

 

 再び、ぐるりと視線を巡らせる。

 目の前にはナイフ。

 あちらには別の濁った瞳。

 そちらには集団でアキヒロを睨む子ら。

 道を塞がれている。

 どこをどう向いても援軍らしき姿は望めない。

 捕まったが最後、1発の肉片に至るまで有効活用されてしまうだろう。

 

 そしてこの場に、彼を知る者はいなかった。

 

「サーカスとパンと水。あなたたちに足りないのはなんだろうか」

 

「……あ?」

 

 そう、問いかける。

 

「俺は足りなかったことがない。時代と……出会いに恵まれたからだ」

 

「うぇえあ!」

 

「──!」

 

「げえっ!?」

 

 屈指の人口密集地帯にあって、その富に預かることができない者。

 一地方の貧乏の生まれだが、栄養と健康の大事さを知り、食事と運動を絶やさぬ者。

 天秤がどちらに傾くかは分かり切っていた。

 

「知識は力だ。ナイフを握っていたとしても大きな差が生まれるほどには大きな力がある」

 

「おぼぉぉっ……!」

 

 たった1発。

 鳩尾に蹴りを入れられた男は汚い地面に崩れ落ち、呻き声を上げている。

 

「俺は……これを広めようと思えば広められるんだと思う。正直、それだけのものを積み上げてきた自信はある」

 

 彼らにはわからない話。

 彼らじゃなくてもわからない話。

 

 アキヒロは、感傷に浸った顔で男のことを見つめている。優しくて、どこかかわいそうなものを見る目。対等な人間には絶対に向けることのない目。

 

「その目で……見るんじゃねええ!」

 

 怒りと共にナイフを突き出すのは当然だった。

 腹を狙った一撃。体重も乗り、当たれば深刻なダメージになる事は免れない。

 それを後ろに跳ぶことで回避する。

 反射神経ではない。

 予見していた。

 ナイフを持った人間に対して最も有効なのは、とにかく逃げること。距離さえ離せば手出しできない。

 

「あああ! …………!?」

 

「ここなら──っと!」

 

 見上げ、ボロ屋の隙間に足を突っ込むとよじ登る。接近するよりも先にアキヒロの身体は建物の上に到達してしまった。壮健な肉体があっての動きだ。

 

「悪いな。いくら安いって言ってもこんなくだらないことで殺されてやるわけにはいかないんだ。それに、刺されるなら女の方がいい」

 

 呆気に取られた観衆たちを前に、アキヒロは屋根上からのぞいていた顔を引っ下げると一歩を踏み出した。

 ーーべきっ。

 

「ずあああ!」

 

「ぎゃあああ!?」

 

 踏み抜いた。

 屋根を支える横架材などあるわけもない。

 最初はあったとしても、既に薪として使われている。

 踏み抜かれた家の主人は騒ぎ立てるが、それどころではない。

 

「すまん! まじすまん! じゃあな!」

 

「ふ、ふざけ──」

 

 声を聞くことすらなく扉を蹴破る。

 目の前から消えた男が建物の中から出てくるというマジックショーに硬直しているならずもの達の間を抜けた。

 

「はいすいません、はい、はいすいませーん」

 

「──」

 

 気付かれるよりも先に。

 意識に空白が生まれている間に駆け出す。

 速力の差は明らかだ。

 栄養満点、肉体100点の彼に追いつけるわけもなく、海へと抜けた。

 

「ふぅ……ここまでは来ないのか」

 

 アキヒロが向かっている先に気付いたのか、途中で追跡はなくなった。

 ならず者ですら恐れる。それが、生命の母に対して人々が向ける目だった。

 

「これ確か翡翠だよな……」

 

 宝石として扱われるような石。

 

「こっちはモンスターの骨……」

 

 通常はダンジョンに行かないと採取できないような、貴重な素材。それがそこかしこに落ちている。

 

「…………」

 

 これが金になると知れれば彼らとて海岸に大挙して押し寄せ、根こそぎ取っていくだろうに。いるのは顔と同じサイズのヤドカリ。

 カリカリと砂浜を鳴らしながら次の宿を探している。

 

「ヤドカリが砂浜に……まあ、そんなことで今更って感じだけど……食えるよなコイツ」

 

 毒などがないのであれば、焼いてみるのもいいかもしれない。ヤドカリはエビの仲間だ。ひょこりと頭から飛び出た目を自分に向けてくるヤドカリを見れば、食後といえど食欲だって湧いてくる。

 アキヒロは海産物を取る機会の少ない内陸人として、なんとしても食べてやるつもりだった。

 

「これが牧場だったらなあ」

 

 意味不明なことを言い出した人間にヤドカリ達はカリカリと音を立てて離れていく。小さな足跡がいくつも残され、ぽつねんと立つのは人間だけ。急に海風が寒くなったような心地がしてくる光景に、歩みは再開された。

 

「生物の宝庫なのに……どこで魚を取ってるのやら」

 

 海は恐ろしいが、魚を全く取らないのかというとそういうわけではない。数が集まり余裕ができれば、目の前にある広大な食物庫を活用しようという人間はポツポツと現れる。視界の続く限り存在する海原に出るための知恵を絞り出す。

 モンスターがいても、人はやはり人だ。

 

「──あれか」

 

 遠くに大きな影が見えた。

 大きいが、モンスターのそれとは違う。

 いわゆる帆船だ。

 ガレオン船ほどしっかりしたものではないが、大きさはイメージ上のそれに近い。

 そこに並走するように、小さな影が三つ四つ。

 

「へー、あれが噂の」

 

 10分の1秒が生死を分ける戦場。

 できるだけ水面に近い方がいい。

 

 そういう思想で編み出された船団だ。

 浮遊船団と呼ばれることも多い。

 船が宙に浮くわけではない。

 小舟が主船から距離をとったり近付いたりする様子が、主船に乗っている人間からは浮遊しているように見えるらしい。

 

 主船には漁師が乗る。

 網、竿、操舵。

 それらを同時にこなさなければならない危険な仕事だ。

 

 もっと危険な仕事は小舟の乗組員が担う。

 つまり──モンスター退治。

 船にアタックを仕掛けてくるのは基本的に大型のモンスター、10m以上の体躯を有している。そんな彼らに対抗する為に漁師も武装し、そして武器を振るう。

 やっていることは探索者と同じだ。

 

 なぜ探索者を雇わないのか、理由を見聞きしたことはなかったが……概ねの理由には想像がついていた。

 

「この角度だと結構見えるな……」

 

 海辺を進むと、カーブを描いて海に()り出していく。先ほどは見えなかった船団がいくつも、あちこちにあるのが見えた。

 

「こっち側にいないのは……まあ、そりゃそうか」

 

 

登場したキャラクター等の名簿的なものは必要か否か

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