【マンガ化】焼肉スコスコスコティッシュフォールド【進行中】 作:goldMg
「他の探索者は気づかないのかって……そんなの私に分かるわけないじゃん」
多くの探索者が集う第一セクター。
その全員を覚えるというのは、極端な話をすれば小石を集めてその一つ一つを覚える作業と同じ事だ。基本的には微細の違いしかなく、それを頼りに見分けていく。よほど目立つ特徴があればという話だ。
「パーティー……うーん、そういう記録は無かったよ?」
何を気にしているのかといえば、ソフィアの父親の痕跡を探すという事だ。いくら目立たずにといっても、活動している以上はどこかに痕跡が残る。一級のダンジョンに潜ることのできる探索者など、それこそ近くにいれば気付くだろう。
「だからないって」
先ほどからうるさいこの女は目白ネル。
ソフィアを助けるに当たっての第一協力者にして、先ほどまで惰眠を貪っていた。寝起きながらも、自らが調べた情報を記憶から掘り起こしてアキヒロの要望を切り捨てる。真っピンクでシワシワの脳みそがフル活用だ。
「今、私のことババアって思った?」
「何も言ってないんですけど……」
「ふーん?」
「何ですかいきなり」
「まあいいや」
惰眠を貪っていたと言っても、アキヒロが帰ってくるまではかなりの時間があった。血糖値スパイクで気絶した人間が起きるには十分な時間だ。
そんな時間を活動してきた本人は疲れているが、その疲労に見合うだけの収穫はない。第一セクターの外縁探訪をしてきただけとなった。
「船!?」
「ああ、魚とってたぞ」
「へー!俺も見たかったなあ!」
「遊びに来てるわけじゃないんだけどな……?」
「わ、わかってるって!」
内陸部に住んでいるロイスは人生で一度も海を見たことがなかった。そういうわけで輝ける谷の入口を訪れたときは地味に感動していたのだが、男の子プライドによって表に出さなかった。ダンジョンが何より恐ろしかったので途中から余裕が無かったのも関係している。
しかし川をのんびりと進む小舟程度ならばともかく、アキヒロが見たような船を目にする機会はロイスに限らず基本的に存在しない。海岸部に来ない人間は一生目にすることがないのだ。
「ネルさんの同僚で、探索者について詳しい人っています?」
「何そのメチャクチャな質問」
「ほら、分かるでしょ?」
「……一級ってとんでもない扱いだから、私の同僚レベルだとお茶出しくらいしかないかなあ」
「逆に覚えてるんじゃないですか?」
「えー………」
「流石に厳しいですね、すんません」
なぜ探りを入れているのかと不思議がられるのが決まっているだけに、アキヒロも強く出る事はできなかった。
そうなると足で稼ぐしかないわけで――
「エメリッヒ?知らねえ」
「知らねえな」
「聞いたことねえ」
「誰それ」
と、こんな反応しか返ってこない。
誰かさんのように、相手が子供だからと甘い対応はない。金か、力か、彼らを納得させるだけのものがなければ単純な協力すら仰ぐ事はできない。
「――ねえ、そこの僕。可愛い顔してるね」
と、ロイスが粉をかけられるのが大抵のオチだった。
それを微妙な顔で見るアキヒロもセットで。いくらソフィアのためとはいえ、ロイスが自分の貞操を捧げるほどの価値がある情報ではない。そもそも
「話だけでも聞いてみるのは……」
「骨の髄までしゃぶられるぞ?いいのか、ソフィアを救う前に魂の腐った女とキスなんかして」
「き、ききき!そんなことしねえよ!大体俺は男だぞ!」
「女も男もない、力で押さえつけられたら弱者でしかないんだよ」
一般人のやれる範囲は限られているが、思いつく全てを試さないことには結論に至ることもできない。
街角先生、コウキ、ソフィアの様子。
できそうな事を試した結果――
「やっぱり……ダンジョンに入るしかない」
「そうなのかなあ……」
日に日にソフィアの暴走する頻度は高まっていく。取り返しのつかないことになるのは、正に時間の問題だ。
いくつか集まった情報を集めれば――
「あのダンジョンはまだ謎が多い……一級探索者でも迷って出られなくなることがある――コウキさんはそう言ってたな」
「しかも下層に行くほど冷気が強くなって耐性がないと肺から凍りついて死ぬ……でも、これは街角先生の薬をもらえば解決できる。………だよね?」
ネルが確認する。
彼女も時間がある時は合流して動いていた。
完全にレギュラーメンバーだ。
「そうですね……でも、その為には材料が足りないので、集める必要がある」
「そこで我々の出番!というわけだな!」
「ちっ……薬集めなんてシケてんぜ。もっとドラゴンとかよお」
「そう言うな!物事には段階があるのだから、その最も肝心な部分を任せられた私たちこそ主役と呼んで良いだろう!」
「んなわけあるか」
どれだけカッコよく言っても、アイテム収集など探索者は好まない。派手なことが好きなのだ。
しかし、もっと働かされると思っていただけに、やっと出番だとアオキの口元に笑みが浮かんでいる。
「探索者の力、存分に見せてやろう!」
「お願いします。これは本当に御三方にしかできませんから……」
意気揚々と三人は採取に向かった。
集める物については街角先生から直接聞くことになっている。アキヒロが出向いて内容を伝えているのでは二度手間だからだ。
「俺は何すればいい?」
「お前はとにかくソフィアを温めろ。親鳥くらいな」
「親鳥くらい?」
ヒナを温めるように、コマちゃんと一緒にソフィアに張り付く。それがロイスに与えられた役割だ。
何とも不思議なことに、コマちゃんが近くにいる時はソフィアの体調が比較的マシになる。
「アニマルセラピーってやつか……」
「……まあ、いっか」
言いたい事はあったが、訂正するともっとややこしいことになるのでロイスは大人しくソフィアの隣を確保した。
「ごめんね……」
「気にすんなって!それよりも、何かして欲しいことがあれば言ってくれよ?」
「うん……」
「ほら、まずはコマちゃん」
子鹿のように震えるソフィアにコマちゃんを渡すと顔色が和らぐ。ロイスはロイスで肩を抱こうと腕を回してやめ、手を握ろうとグーパーして諦め、何かをしようとしてやめるのを繰り返している。
「………ふふ」
そんな様子を横目で見て、ソフィアは口元を綻ばせた。
「ありがと」
「あ、おお、おう……」
残されたのは2人。
最初に出会った2人だ。
ネルは商工会の職員なのでまだ何かできるが、アキヒロはその魂の出所を除けばカスの一般人でしかない。金すら持っていない。
自力で何かを進めるのは厳しいものがあった。
そこで頼れる人間がいるのは幸運なことだ。
「アキヒロー!」
「ぬもっ」
顔面に張り付く小娘。
メンコを地面に叩きつける時のような勢いには、隣にいただけのネルも思わず怯んだ。
何度目かわからない深山家への訪問。
コユキの様子を見に来たというオブラートもあるが、屋敷の主人はお見通しだった。
「一級ダンジョンに行くための手伝いをして欲しいとな……久しぶりに顔を拝んだかと思えば、何とも自由な話をするヤツだ」
「どうでしょう」
「私も鬼ではない。困っている子供をむざむざ見殺しにするのは忍びないが……単純にメリットがないな」
金持ち。
彼らがその財力を本気で活用すれば、1人や2人の人生を丸ごと幸せにすることなど造作もないことだ。しかし、そんな事は決してない。
「私が大きくしたこの商会で、私が稼いだ金」
一枚の金貨を取り出す。精緻なプリント技術などない世界で、最もわかりやすい価値といえばやはり金だった。世界を導いていたデジタル革新は、そこに使われていた大量の貴金属も同時に地底に飲み込まれた。
だが、世界には新たに鉱脈が現れ、鉱山が生まれ、単純な資源量で言えば第一期のそれを凌いでいる。金山も銀山も、探索者によって安全をかろうじて維持されているとはいえ存在するのだ。
当主が取り出した金貨は、一枚換金すれば一年は余裕で暮らせるだけの厚みと大きさを持っている。
「何故、君たちを救わなければならない?」
「――そんな言い方!」
「答えられないか?大人ならば金の価値を知らないわけでもあるまい」
「っ……」
「ふむ……ではキミはどうだ?聞けば、あの少女をはじめに助けようと動き出したのはキミらしいではないか。そこから随分と時間があっただろうが、何を根拠に彼女を助けられると踏んでいる?」
それはイジワルな質問だが、その口調は至って真面目だった。純粋に、どうやって助けようとしているのかが気になっているのだ。
そして必要な質問でもある。
そもそも助ける手立てがないならば、アキヒロが求める援助も無駄な物になるのだから。
「さあ?」
「……」
「魔素、探索者、ダンジョン、そのどれに関しても私の知識は不足しています。その中からあなたの満足する定量的な回答をするのは無理ですね」
「堂々とした答えだ。度胸はある――いや、最初からそこは証明されていたな。だが開き直っても何も解決しない。私の質問に答えられないことには変わりないぞ」
「………最初からそんなものを提示する気はありません。俺がしに来たのは交渉ですから」
「交渉?……ははははは!交渉か!そうきたか!」
「………」
男は大きく口を開けている。
完全な予想外。
物乞いではなく対等な立場としてここに来たのだと宣ったのだから、喉を揺らして出る笑い声も大きくなるというものだ。
だが、それもひとときのこと。
「――あまり舐めるなよ」
「っ……!」
「目白ネルさん、そして……他にも探索者達がいたな。大人が揃いも揃って、子供の語る夢物語にも等しい話を鵜呑みにするなど……何とも愚かしいことだ」
「そ、それは!……ふぅ……ゆ、雪さんだって認めてくれました」
「彼女は少しゆるいところがある。人情というヤツだな。だからこそ私は惹かれたが……あくまで最終決定は私が行う。最初に破壊したというアイテム――本来ならばその請求をできるのが私の立場だ」
「うっ……」
「――というのは少々押し付けがましい話だな。彼女が半ば強引に進めた話だとは知っている」
上からいくらでも怒鳴り付けられる立場だというのに、あくまでフェアに話をしたいという態度が見えていた。
そして、視線は再び
「………」
黙りこくっている少年は、白地に一点だけ落とされた黒のようにシルエットを浮かび上がらせている。
ブレない瞳で男を見つめ返すのは、自信の裏打ちか。どんな勝算があってこの場にやってきたのか、ネルですらも心中を掴む事はできなかった。
「では――聞かせてもらおうじゃないか。その交渉の内容とやらを」
登場したキャラクター等の名簿的なものは必要か否か
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いる
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いらない