【マンガ化】焼肉スコスコスコティッシュフォールド【進行中】   作:goldMg

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69_アレとコレとソレと

「やっぱり私ってすごい!」

 

「はぁ〜……」

 

「だよねっ!」

 

「ええ、凄いですよ」

 

 単純明快。

 褒めて褒めて、褒めまくる。

 それが有効な手だった。

 最早暗い顔は浮かべていない。

 小躍りでもし出しそうなほどの雰囲気で立ち上がっている。

 

「いやー! 加賀美くんは私がいないと何もできないからね!」

 

 先ほどとはまるで真逆なことを言い出した。

 ルンルンで宿に戻るとソフィアとロイスは並んで眠っている。暖かいコマちゃんに触れて、これまで張っていた気が緩んだのだろうか。

 

「起こすのは流石に──か」

 

「どうする?」

 

「どうする、とは」

 

「アイテムとかは見つかったけどさぁ、誰が行くの?」

 

 一級ダンジョンは過酷な環境を持っている。

 そして、その情報はそこら辺に転がっているものではない。低級のダンジョンならいざ知らず、中に挑むことのできる探索者がそもそも少ないからだ。コウキもそこまで覚えているわけではないようで、あまりアテにすることはできない。

 

「入ったらほぼほぼ確実に死ぬと思うんだけど……」

 

「ウルフさん達と俺、そしてソフィアです」

 

「……私とロイスくんは?」

 

「俺は自殺に他人を付き合わせる気はありませんよ」

 

「自殺だって分かってるのに……なんでやるの?」

 

「道筋を選ぶことはできますから」

 

「どういうこと?」

 

「人はいつか死にます。それが自殺か他殺か自然死かは関係なく。そして死にたどり着くとしても、そこまでの過程で自分が何を成し遂げるかを決めることができる。それが自由意志です」

 

 壮大な話とも取れるし、極論とも取れる。

 一般論としてそれが正しいかはともかく、一理はあった。だが、その理論を飲み込むということは、今死んだとしても気にしないと言っているに等しい。

 

「そんな大きな目線じゃ見れないよ……」

 

 ネルは普通の女性だ。

 人並みの幸せを掴んで人並みに死にたい──その程度の漠然とした生死観はあるが、それを元に何かの行動を起こす事はない。なかった。

 いきなりそんな話を振られても共感は難しい。

 

「逆に聞きますけど、付いて来たいと思いますか?」

 

 意地悪だ。

 そういう話ではないことを理解しながら、イエスノーでしか答えられない問いを投げる。

 

「もちろん、俺たちのことを見捨てたいとか、ソフィアに本当は興味がないとか、そういう話をしたわけじゃないですよ。ネルさんがそんな人じゃないのはわかってます」

 

「……」

 

「ネルさん、そしてロイスも……未来がある。まだこの先、いろいろなことを経験できる。こんなところで他人のために使って良いものじゃないんですよ、人生ってのは」

 

「そ、それを言ったら加賀美くんはどうなの? 自分だってまだ若いのに……」

 

「俺はいろいろ事情があって、一応……いつ死んでも仕方ないなとは思ってます」

 

「なにそれ」

 

 子供がかっこつけているだけと笑うには、アキヒロの表情はあまりにも固かった。口に出したことは全部やり遂げてきたという直前の実績も加味され、先ほどの機嫌など忘れたかのように睨みつける。

 

「死ぬ気なの?」

 

「違います。死ぬ気でやらなきゃどうにもできないことも世の中にはあるって話ですよ」

 

「そんなの……本当に死んじゃったら意味ないじゃん」

 

「それをどう捉えるかは自分次第なんです。俺は……この程度の苦難を乗り越えられないなら、先の人生を生きる意味がないと思ってます」

 

「そんな大変じゃないよ? 人生って」

 

「……そうかもしれない。でも、そうじゃないかもしれない」

 

 アキヒロは微笑んだ。

 自分の愚かな発言を自嘲するかのような眉の下がり具合が儚さを感じさせる。

 

「生きてる意味が欲しいんです、俺は」

 

「むぅぅ……!」

 

 本音だとわかる。

 だからこそ、頭に来る。

 そして、説き伏せることはできないと悟ってしまう。

 

「平穏な人生を歩むのも幸せなんでしょうけど……満足できないんですよ、幸せなだけじゃ」

 

 アキヒロの発言がどうだろうが、一級ダンジョンの危険性が上下するわけではない。結局のところ、怪獣大決戦を行えるような超人をして本気で挑まなければならないのが一級ダンジョンというものだ。

 

『あー……まあ、そうだな』

 

 コウキの反応は、電話越しながら露骨だった。

 彼が付いてくるというのも一つの手だが、2人はお互いに、それは選ばないと理解していた。

 

『俺も見て見ぬ振りしてるわけじゃねえぞ? でもお前……止まらねえじゃん? 止めても無駄じゃん? 両足砕いても止まらなさそうじゃん? じゃあ無理かなって』

 

「そうか……まあ、死んだらそれまでの男だったってことで」

 

『うーん、この……マジで死ぬんだろうなあって気持ちと死ななそうって気持ちが入り混じってくるんだよなあ』

 

「俺が死んだらアカネがひもじくならないように頼みますよ」

 

『…………しゃあねえな』

 

「じゃあ、もう心残りないわ」

 

『マジで死ぬの? なんか実感湧かなくて全然そんな気分にならないんだけど』

 

「それはダンジョン次第かな?」

 

『…………いいか? 基本的な危険だけおさらいするぞ』

 

 まずはダンジョンの内部構造が変わる組み換え。

 これは迷子になる可能性があるから、マッピング能力が試される。そもそも物理的な距離が狂っている一級ダンジョンでは地図が当てにならない為、あまり関係ない。

 

 次に落とし穴。

 地面の色が変わってたら踏み抜く可能性や地面の中に飲み込まれる可能性がある。これは後述の理由により考慮する必要はない。

 

 三つ目が魔素だまり。

 不思議な色の霧がかかった空間に近付いてはいけない。超高濃度の魔素が空気を輝かせているのだ。足を踏み入れたが最後、全身を襲う苦痛により動けなくなり、肉体が音を立てて変容していくのをただ待つだけとなる。

 

 四つ目は飛び出し罠。

 人為的なものではなく、壁や地面に蓄えられた魔素のせいで、刺激を与えると飛び出すような場所が存在するのだ。串刺しにされるのは嫌だろう。探索者の皮膚を容易く貫く硬度と速度だが、足元の色にさえ気をつけていれば大丈夫だ。

 輝ける谷は地下迷宮型のダンジョンではない為、複雑な道筋はない。落ちる危険はない代わりにこちらを気にしなければならない。

 

 五つ目は植物──

 

「基本とは」

 

『そんだけ気をつけないといけないもんが多いんだよ』

 

「うーん、厳しい」

 

『つっても最初から最後まで危険がたっぷりってわけじゃねえ。入り口近くはそれこそダンジョンじゃないのと同じだろうし、深く潜るにつれて危険になってくんだ。……これくらいは知ってるよな? うわー! 不安すぎる! 絶対死ぬ!』

 

 死ぬ死ぬ言ってても始まらない。

 どんな装備が必要かという話だ。

 

『装備は……まず、魔素の影響を減らせ。魔素溜まりなんか無くても、いきなり素人が一級ダンジョンに乗り込んだら腹壊すぞ』

 

「魔素の影響を減らすって……鉛の板で覆えば良いんですか?」

 

『ナマリ? 知らん話をするな! できるならの話をしてんだ!』

 

「聞いてみるか……」

 

『あと、モンスターに気付かれないようになる装備をつけろ』

 

「そんな都合のいいもんが!?」

 

 それが本当なら、五人全員でそれをつければ最後まで安全に旅ができるだろう。

 

『一度だけ見たことあるんだよ。使ってるやつは見たことねえけど……』

 

「なんで?」

 

『探索者がそんなの使ってたら笑われるだろ』

 

「ああ……」

 

 舐められたら終わりとは、なんともブルーカラーな話だ。

 

「じゃあそれを使うとして……あればね、あれば」

 

『後あれ! 急速回復系のアイテムがあれば持ってけよ! というかあるはずだから持ってけ! 絶対に!』

 

「回復薬のことですね」

 

『アレは急速ってほどじゃねえ』

 

「急速だろ」

 

 人間の腕がちぎれたとして、それを繋げるには本来外科手術が必要になる。外科手術で繋げたとして機能するかはまた別の話だが、少なくともホッチキスなどでパチパチと止めて終わりではない。

 回復薬を飲めば、グチャグチャの断面をくっつけているだけで1人でに治る。それも三十分以内に。

 急速じゃなくて何だといいのか。

 

『首だったら千切れた瞬間にくっつかねえと死ぬだろ!』

 

「千切れた瞬間にくっついたとしてもだろ……」

 

『ああ〜? ……ああ、パンピーは無理か! じゃあ回復薬でいいや! まあ商会のやつに聞いて見てくれや! 俺からも話しとくし!』

 

 常識が違う。

 アキヒロは探索者の頑丈さに思いを馳せた。

 彼らは首がちぎれて神経が断裂したとしても、直後に再生すれば生き返れるらしい。いや、そもそも死ぬ判定にすらならないのか。首が飛んだ直後、血管が伸びて接続し骨肉が修復されていく。想像するだにホラーな光景だ。

 

「他は?」

 

『他は……軽くて頑丈な防具とか』

 

「まあそれは、はい」

 

『あれだぞ! 衝撃を和らげる効果のあるやつがあったら選べよ!』

 

 単純に物理障壁として衝撃を吸収するのみならず、追加効果として衝撃を弱くする。たかが金属や鱗一枚で防げる衝撃などタカが知れている。仮にアキヒロ達がモンスターの一撃を喰らえば、防具をつけていても中はミンチになるだろう。

 

『あとアレ! 炎とか──』

 

 止まらないこと止まらないこと。

 どれだけ気を付けても意味などないのだと。肉体の性能に頼ることなどするなとコウキは脅していた。

 

 そして最後に一つ、これも大事な事だと言葉を残す。

 

『大事な人の写真を持っておけ』

 

「……」

 

 兵士が胸の内に忍ばせるアレだろうか、とアキヒロは天を仰いだ。大事な人と言われて真っ先に思いつくのは家族とミツキだ。

 彼らの写真を今から現像するというのは何だか真面目すぎて恥ずかしいな……と気まずい顔をする。

 

『ピンチになった時に写真見るだけで気力湧いてくるから。俺の仲間もそういう話あったし』

 

「ふーん……参考にします」

 

『マジだぞ!』

 

登場したキャラクター等の名簿的なものは必要か否か

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