【マンガ化】焼肉スコスコスコティッシュフォールド【進行中】   作:goldMg

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70_在り方

 薬の素材集めから戻ってきたウルフ達。

 アキヒロは、最も気の合うアオキに尋ねた。

 

「ああ、写真ね……そういうのあったな……」

 

「アオキさんも持ってるんですか?」

 

「いや? 大事な人なんていないからな」

 

「そ、そうですか……」

 

 全員死んでいるかもしれないし、ろくでもない家族だったのかもしれない。いずれにせよ、触れづらい話題だった。

 

「しかもそれって一部のやつがやってるだけで、普通やらねえよ?」

 

「へー……」

 

「やったから変ってことはねえけどな」

 

 どうせなら忍ばせてみるのもいい。

 家族との写真は1枚ぐらいだしミツキの写真に埋もれてどこにあるのかわからないが、逆にミツキの写真であればたくさんある。

 

「……こわっ」

 

「え?」

 

「こわ……同じ女ばっかじゃねえか。しかも1つとして同じ髪色がないし」

 

「コレが俺の幼馴染で──あれ? このくだりやりませんでしたっけ」

 

「もういい怖いから」

 

 猛烈にミツキに会って抱きしめたい欲が湧いてきたアキヒロだったが、そんな時間はない。動いて動いて、どんどんやるべきことをつぶしていかないとソフィアがどうなるか。

 

「はぁ……はぁ……」

 

「ソフィア……」

 

 日増しに状況は悪化していく。

 ソフィアの頭へひっきりなしに語りかけてくる何者か。制御のバランスを崩した異能。

 凍り付いた宿。

 追い出された三人。

 噂が広まっていく。

 異常な何かが存在していることが、少しずつ露呈していた。

 

 肉体、精神、情報、あらゆる面においてソフィアが限界を迎える時は近い。

 

「ひゃん」

 

「コマ様……お願いします! ソフィアを……!」

 

 そばに寄り添うコマちゃんとロイスだけが、彼女にとって、彼女が人間であることを許す優しさだった。

 

「──揃ったな」

 

 必要なアイテムを手に取った。

 重量軽減、耐熱、耐寒、耐魔素、超速回復、衝撃吸収、隠蔽、無酸素行動、空中遊泳。

 盛り盛りすぎて、探索者であれば笑われること間違いなしだが一般人だとコレでも足りるのか分からない。

 

「お、俺も大丈夫! 重いけど! 何とかいける!」

 

「……ロイス、いいのか?」

 

「うん! コマちゃんがいないとソフィアはダメだし、コマちゃんが行くなら俺が行かない手はないよ!」

 

「…………」

 

 渋い顔を隠しもしない。

 ロイスは憤慨した。

 

「そもそも! 俺だって仲間なのに置いてけぼりなんて酷いだろ!」

 

「こういうのは置いてけぼりって言わないんだよ」

 

「じゃあ放置!」

 

「言い方の問題じゃないから」

 

 ガチガチに着込んだロイスは、細身ということもあり、アイテムの効果をもってしても中々キツそうにしている。対するアキヒロは身体を鍛えた甲斐があるのか、余裕のよっちゃんだ。

 

「……俺も身体鍛えようかな」

 

 ソレを聞いて、ドヤ顔でアオキを振り返る。

 筋トレに意味は──なんだって? 

 

「けっ、くだらねえや」

 

 さて、今いる場所はどこかと言えば。

 大量に貸し出されるアイテムを受け取りに来ていた。

 ソレを試着しているというわけだ。

 しかし直接交渉をした深山商会の会長ではなく、その長女の吹雪がいる。

 アキヒロのことを毛嫌いしているはずだが、わざわざ近付いてきて顔を顰めていた。

 

「ふん……バカみたい」

 

「そう思う?」

 

「人助けの為に命を捨てるとか……バカ以外の何者でもないでしょ」

 

「そうかもな」

 

 失敗に終われば本当に命を捨てたことになる。薄い勝機に賭け、順当に敗れるのはよくあることだ。

 正気であれば、ソレを見て愚かなことだと批判するのは至って真っ当な反応でしかない。

 

「でも、友達が死にそうだったら話は変わるだろ?」

 

「友達って……知り合ってちょっとでしょ? そんな人のために命まで──」

 

「それでもいいんだよ。見捨てて後悔するよりはずっと、な」

 

 まるで論理的じゃない話を前に、フブキはさらに顔を顰める。赤髪の少年は、そんなところに首を突っ込んだ。

 

「そうだぞ! 何もしなきゃ、何も変わらない!」

 

「腰巾着は黙ってて」

 

「こっ……!?」

 

「この人が始めたからくっついて来ただけのくせに、偉そうな口叩かないで欲しいんだよね」

 

「……あ、アキヒロくん!」

 

 雑魚だった。

『気にしてあげてくれ』なんて言われたのでちょっとだけ張り切ったのに、刺々しい同年代女子に貶されて心がズタボロに裂けている。

 涙目でアキヒロの背中にへばりつくと、虎の威を借る狐の如く唸る。

 

「うー!」

 

「はぁ……フブキちゃん、男の子の心は柔らかいんだからもうちょっと手加減してあげてくれよ」

 

 そんな事は知った事じゃない。

 ただ、目の前にいる異常存在が目的なのだ。

 

「お父様にうまく取り入ったね」

 

「取り入る?」

 

「媚びるのがうまいんだ」

 

「…………はーっはっはっは!」

 

「な、なによ……」

 

「媚びた、か! 媚び……まあ、面会してもらったのは温情みたいなものだし、媚びの分類に入れてもおかしくはないな!」

 

「言いたいことがあるならはっきり言いなよ」

 

「──君のお父さんは、媚びれば望むものをくれるのか?」

 

「…………」

 

「そうは見えなかったよ」

 

 着けていたアイテムを一つ一つ、長机の上に戻していく。ロイスも同じように、身体にのしかかる重りを外していく。

 

「やっとだ……重かったあ……」

 

 少女は貸し出されているアイテムの一つ、指輪を手に取った。回復の効果が閉じ込められたものだ。一度きりだが、超速再生の異能を発動することができる。

 

「こんなもの使ったって……一般人が何かできるわけないでしょ」

 

「じゃあ、君だったらどうする?」

 

「は? なんでそんなの私が考えなきゃいけないの?」

 

「何か案があるなら、少しでも参考にしたいからさ。な?」

 

 両手を合わせ、拝む。

 

「……私なら、1級の探索者を雇って行ってもらうよ。だってそれが1番確実だし」

 

「そうだな、俺も金があったらそうしたと思う。じゃあ条件をつけようか。手元にあるのは食費と移動費だけ。武器を買うなんてできないし、一級の探索者を雇うなんて絶対に無理。その状況でどうする?」

 

「…………無理じゃん」

 

「でもやらなきゃいけない。やらないと、第一セクターが丸ごと凍り付けになって全員死ぬ」

 

「あの人、そんな感じなの?」

 

「仮定の話さ。絶対にやらなきゃいけないっていう条件があるんだ。それならどうする?」

 

「……街の外に放り出す」

 

「!?」

 

 心は無い。

 そんな強さを感じる一手だ。

 

「な、なるほど……確かにそれならクリアできるな。でも、それが家族だったらどうする? 大事な人が──」

 

「大事な人なんて!」

 

「っ……?」

 

「…………なんでもない」

 

 重苦しい空気がその場に鎮座した。

 彼女が何を言おうとしたのか、思春期に照らし合わせれば推測は容易だった。しかし思春期のみに通じるものだと断ずるには彼女の家庭は複雑で、父親もまた仕事に目を向けすぎているように感じられた。

 

「あー……フブキちゃん、とりあえず聞いてくれるか?」

 

「…………」

 

「確かに無駄に終わるかもしれないけど、俺はソレでも良いんだ。だってソフィアと出会って、助けたいと思った。ネルさん、コユキちゃん、ロイス、ルクレシアさん、みんなの力があってようやくここまで漕ぎ着けたんだよ」

 

 中腰になって、フブキの手を掴んで語りかける。

 泣きかけの幼子を静かに説得するように。

 白雪のようにきめ細やかな肌は、彼女がいかに運動不足かを分からせる。細くしなやかな指先には整えられた爪、近づくと香る甘い香り、左右対称の筈が崩れている表情。

 何かを堪えるように強く唇を引き結ぶのはどうしてか。

 

「せっかくこの世界に生まれ出たんだから、何か残してやらなきゃ腹の一つだって立つってもんだ。生まれて死にました、はい終わりって、そりゃあ興味ない他人から見たらそれで良いけど…………死ぬ時に虚しいじゃん?」

 

「…………」

 

「だからまあ、納得できないならそれでも良いけどさ──あ、そうだ! こうしよう!」

 

 大袈裟なほどのジェスチャーで手のひらを合点すると、一つの提案をする。

 

「俺が無事に帰ってきたら、ソフィアとロイスと3人で飯に行ってくれ!」

 

「……え?」

 

「同い年3人なら多分話も進むだろうし、うん、我ながら良い案だな!」

 

 ちょいと待て。

 お前は何を言っている。

 何を勝手に話を進めている。

 ──ロイスはフブキを見た。

 ──フブキはロイスを睨んだ。

 

「アキヒロくん……?」

 

「なあ、良い案だよなあ!」

 

 なんて眩しい笑顔……! 

 この顔を前にして断れる人間はいるのか! 

 

「……嫌だ」

 

 いた。

 フブキだ。

 困惑をムッとした表情に変えている。

 

「なんであなたが約束を守ったらその2人となんですか、意味がわからないでしょ」

 

「え? だから同い年なら……」

 

「その2人に興味ないです」

 

「ひ、ひどい……ロイスがいるのに……なあ?」

 

「とにかく、嫌です」

 

「えー……じゃあ俺と飯食いに行くことになるけど」

 

「別に、ソレで良いんじゃないですか?」

 

「あ、そうなんだ……そうなんだ!?」

 

「……文句あるんですか」

 

「ないない! ないけど……俺のこと、嫌いなんじゃないのん?」

 

「はぁ…………」

 

 茶化して問うと、フブキは左足を上げる。

 何をするのかと待つアキヒロの目の前で振り下ろされて、サンドイッチした。

 

「いってええ!」

 

 アキヒロの足を、床とサンドイッチした。

 

「な、なにすんの?!」

 

「そういう気遣いみたいなのがムカつくんです」

 

「気遣いっていうか……」

 

 フブキがアキヒロに対して嫌いと言ったのは離れた過去の話ではない。そして嫌いという感情は数日・数週間程度で消えるものではない。強くは保たれないが、顔を合わせる度に嫌悪感はニョキニョキと芽から育っていく。

 そういうものだとアキヒロは捉えていた。

 

「じゃあ、俺と一緒に飯行く? …………なんかナンパみたいで嫌だなコレ……」

 

「自惚れないでください。あなた程度の人間に誘われても何も感じません」

 

「お、おう……なんか元気そうだし、行かなくても良いかな?」

 

「はあ? 約束は?」

 

「ええ……最近の子ってよくわかんねえな……」

 

「とにかく、そういうことで」

 

 そういうことになった。

 

登場したキャラクター等の名簿的なものは必要か否か

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