【マンガ化】焼肉スコスコスコティッシュフォールド【進行中】   作:goldMg

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71_姉妹とGO

「あー!」

 

 とても響く声。

 庭の薔薇はいつもこの声を聴いているのだろう。枯れることなく育つわけだ。

 アキヒロは、何ともなしにそんな事を思った。

 

「アキヒロに触らないで!」

 

「は? 後から来たんだから邪魔しないで」

 

 怖い。

 アキヒロは、何ともなしにそんな事を思った。

 

「ぅ……わ、私の方が先に出会ってるし!」

 

「だから?」

 

 フブキは つめたいめで みおろしている! 

 コユキは なきそうだ! 

 

「ア、アキヒロ……」

 

「そうやって人に頼るの、情けないと思わないの? 自分が喧嘩ふっかけてきたんだから自分でやりなよ」

 

 まあ姉妹喧嘩ってこんなもんか。

 アキヒロは、何ともなしにそんな事を思った。

 

「仲良いなあ」

 

「アキヒロくん……目が……」

 

「姉妹喧嘩なんてあんなもんだろ。話さないより何倍もマシだよ」

 

 実のところ、深山姉妹が冷戦よりも冷たく冷え込んだ関係にある事にアキヒロはなんとなく気付いていた。その上で、家族の喧嘩に人が口を挟むと碌でもない事になるのはわかりきっていたのでスルーしていたのだ。

 

 だが、そんな事ロイスは知る由もないのでドン引きしている。

 

「アイテムも試せたし、どうやって持ってく?」

 

「深山さんに言ってから身に付けていこう」

 

「え? でも……ソフィアの分は?」

 

「箱に入れて運ぶ」

 

「持てないよ?」

 

「荷台を貸してもらう」

 

「おお〜」

 

「ロイス……お前、もう少し頭を使ってだな……」

 

「い、イヤだなあ! アキヒロ君はどうするか試してみただけだって! 俺も同じこと考えてたよ!」

 

「そうですか──っと、コユキちゃん?」

 

 両手を上げて走り込んできた少女を抱き上げると、背後からヌルリとした気配が。

 

「そうやって女の子を誑かしてきたんだ、へー」

 

「いや……違うぞフブキちゃ──深山さん! アキヒロ君は女の子を誑かすんじゃなくて子供を誑かすんだ!」

 

 何もフォローになっていないどころか、追撃だ。

 そんな風説を流布されてはたまらないと、即座に反撃を開始する。

 

「誑かすっていうのは嘘や欺瞞で人を騙すことだ! 俺は嘘はついてない! ただ、子供が困っているのに見捨てる人間でありたくないだけだ!」

 

「ふーん? じゃあ子供が悪人だったら? 多すぎて助けられなかったら?」

 

 先ほどの意趣返しのように、条件を設定して問いを投げてきた。

 

「悪人だったらまずは殴ってからだ。…………そんな顔をしないでほしいな。会話をするためには同じステージに立たないといけないんだ。それに、もし助けないといけない子供が多過ぎるなら、俺じゃなくて商工会がなんとかするべきだ」

 

「結局、見捨てるんだ」

 

「自分にできることの限界を設定しておかないと、できることもできなくなるぞ。ちなみに俺が大金持ちだとしても今の話は変わらない。沢山いるなら個人で助けるべきじゃないんだよ結局のところ」

 

「……冷たいね」

 

「ソフィアを放り出すなんて言った口にしては、自分のことを慈悲深いと思ってるみたいだな?」

 

「あれは……ただの仮定の話でしょ?」

 

「そうだな、俺のは仮定じゃなひ。でも、選択肢ふぉひとふしふぁ提示できなふぁっふぁ時点で同ひふぉふぉだふぉ?」

 

 真面目に話をしているのがつまらないのか、コユキは少年の髪や頬を引っ張って遊んでいる。

 

「外行きたーい」

 

「あ、そう? ……じゃあ行こっか」

 

 肩の上からコユキを下ろす。

 ソフィアの限界が近いという話はあるが、今日すぐに出発できるわけではない。アイテムを持って行って、ダンジョンを往く計画を少し詰めて、ソレから出発だ。

 だから猶予はある。

 

「本当に……コマちゃんがいてよかった」

 

「!」

 

 そんなことを言えばシュバってくるのはロイスだ。コユキの逆側を確保すると、嬉しそうに頷く。

 

「だよな! だよな! コマちゃんがいて良かったよな!」

 

「ロイスもだぞ」

 

「えっ!」

 

「ソフィアを支えられるのはお前らだけだ。しっかり頼むぞ」

 

「…………うん」

 

「?」

 

「あ、いや……俺って、ここにいて役に立ってるのかなって思ってたけど……意外と良い感じなのかなって……」

 

「…………なんだこの!」

 

「ううわっ!」

 

「なんだこの! なんだこの!」

 

 あまりにもしおらしいことを言うロイスの赤髪をぐしゃぐしゃにしていく。日本人にしてはあまりにも色味のハッキリとした赤だが、彼の幼馴染に比べるとまだ現実感もある。

 

「今更だけど、アイツの髪色が切り替わるタイミングっていつなんだろ……」

 

「人の髪ぐっちゃぐちゃにして言うことがソレかよ!」

 

 叛逆の兆し。

 ぐわしと捕まえてくる腕から逃れ、コユキと揃ってアキヒロを睨みつける。

 

「私もやるー!」

 

「お返しだ……!」

 

 1人なら勝てなくても、2人なら! 

 人の繋がる力は無限なんだ! 

 

「──ふん、俺に逆らおうなんて2度と考えるなよ」

 

「うう……」

 

「…………」

 

 少年少女が1人ずつ床に倒れている。

 乱れた髪。

 衣服もどこかもみくちゃにされたような気配を纏わり付かせ、息も絶え絶えだ。アダルティーな事件に巻き込まれたのかと思えば、2人の顔には笑みが浮かんでいる。

 

「バカみたい」

 

「いやいや、フブキちゃん」

 

「フブキちゃんって呼ばないで」

 

「深山さん」

 

「…………」

 

「賢ぶってちゃ楽しくないぜ? バカにならないと」

 

「……なにそれ?」

 

 吹雪の顔には疑問が浮かんでいた。どこまでもバカにするような、見下すような雰囲気ではない。純粋に何を言っているか分からないのだ。

 

「バカに……どうやってなるの? 頭が良い人間がバカになるのなんて無理じゃん。私とかアナタが今からスラムの人みたいになるの? どうやって?」

 

 強い興味。

 これまでの話の中で、最も食いつきが良かった。

 

「まあまあ、その話は俺が生きて帰ってきてからで。さて、2人とも行くぞ。なんでそんなところでぶっ倒れてるのか知らないけど起きて起きて」

 

「ちょ……待ってよ!」

 

 フブキは慌ててどこかへ向かった。

 

 

 ──────

 

 

「どこに向かってるのー?」

 

「どこって……コユキちゃんが外行きたいって話をしたんだけどね?」

 

「えー! えすこーとしてよー! 男でしょー!」

 

「おお……ナチュラルな性別役割分業……俺は嫌いじゃないぞ!」

 

「んー?」

 

「逆に何かしたいとかある?」

 

「うーん……デート!」

 

「なんですかソレは」

 

「えっ! デート知らないの!?」

 

 デートを知る知らないの前に、この場にはロイスもいた。ニヤニヤと成り行きを見守っているが、仮にデートとなったら3人でする事になる。何の時間なのかよくわからない。

 

「アキヒロく〜ん、してあげなよ〜、で、え、と」

 

「うぜえ……」

 

 神に誓って、アキヒロは自分が幼女に手を出すような人間ではないと信じている。だが、デートをするのはどこに含まれるのかよくわからない。

 

「ねーいこうよー」

 

 しかし、先を指差す彼女はそんな余計な事など考えてもいないのだろう。今か今かと、アキヒロの手を強く引っ張っている。それを認識して、コユキの手を握り返した。デートなどとご大層な名前を付けるから心に迷いが生まれるのだ。

 

「行こうか」

 

「うん!」

 

「──ちょっと待って」

 

 何故か。

 何故かな。

 何故だろう。

 フブキが遅れてやってきた。

 コユキとアキヒロが仲良くおててを繋いで歩き出そうとした瞬間、呼び止められた。コユキは驚きで目を見開いている。

 

「お姉ちゃん!?」

 

「……」

 

「何できたの!?」

 

 何故ここまで驚いているか。

 それは、普段であればフブキは勉強をしている時間だからだ。おサボりのコユキと違って、真面目なフブキは時間通りに勉強を始めてきっちり最後までやり遂げる。それが、初めてサボっているところを見たのだから声だって大きくなるというものだ。

 

「っ……」

 

 フブキも非常に気まずそうな顔をしている。良くないことをしている自覚があるのだろう。額からは冷や汗が一筋伝っていった。

 今頃はメイドたちが屋敷中を走り回っているかもしれない。

 

「アキヒロくん……! どうするの……!」

 

「さあ」

 

「さあって……! あれ、アキヒロくんのせいでしょ……!」

 

「いや、俺じゃないでしょ」

 

 ひそひそ声で全ての罪を被せるのはやめてほしいと顔を歪めるアキヒロに対して、ロイスも何故わからないのかと顔を歪めている。

 半分くらい睨めっこだが、フブキが口を開けば状況は進む。

 

「……ちょっと待ってって言ったのに、普通に置いてくんだね」

 

「え? そんなこと行ってたっけ……ごめん、あんまり覚えてない」

 

「…………」

 

「それで……何を待てば良いんだ?」

 

「もうそれはいい」

 

「あ、そう……」

 

 よくわからない沈黙が再び場を支配した。

 ロイスは固まった表情で目だけ動かすが、アキヒロがまた変なことをしようとしていることに気付いた。

 

「んー……」

 

 ポケットを探っている。

 何かを握り込んで引き抜こうとして、拳が引っかかって引き抜けない。一旦手を開き、ポケットを丸ごと引き出した。

 

「あったあった」

 

 取り出したのは一つのアクセサリー。

 ネックレスだ。

 

「ほら、これ」

 

「これ……は?」

 

「気配を隠せるネックレス。深山商会から借りたものだよ」

 

「それがどうしたんですか?」

 

「こっそり来たんだろ? じゃあ、一応付けとこうぜ」

 

「……」

 

 不承不承ながら受け取ると、首にかけた。

 

「!?」

 

 途端に、視界に入っているはずなのに全く脳内で彼女の情報を処理できなくなる。ロイスは慌てて駆け寄り、小石に蹴躓き──

 

「どぅらあああ!?」

 

「きゃあっ!?」

 

 思いっきり飛び込んだ。

 

 

 ──────

 

 

 さて、デートといえば男が案内するものだが……第一セクターに関しての知識量はフブキの方が勝っている。

 

「デートじゃない」

 

 これも毎度のことだ。その土地で出会った人間と仲良くなって、彼らと共に街を回る。アジアも、ヨーロッパも、アメリカも、アフリカも、全て変わらない。それがガイドなのかただの一般人なのかすら関係ない。

 アキヒロにとって、旅とはこういうものだった。

 

「第1セクターの建物はいつ出来たんだ?」

 

「30年前。そんなことも知らないの?」

 

「人は、自分が知ってるものしか知らないからな」

 

「カッコつけることじゃないよ、それ」

 

「はは、そうだな」

 

 最初こそ仏頂面だったフブキだが、知識をひけらかす機会を得たのは初めてなのか、口を開くたびに顔をが綻んでいった。アキヒロを小馬鹿にしつつ、聞かれた事にはしっかりと答える。以前、深山邸宅の庭で対話を試みたときとは大違いだ。

 

「ほら、あの店がウェルシュ卿のお店」

 

「えーと……金属の流通管理をしてるんだっけ?」

 

「そう」

 

「金や銀ならともかく、全体を管理する意味って何だ?」

 

「闇業者とか盗賊が好き勝手に出来ないようにだよ。普通の業者なら別に制限とかないもん」

 

「ほーん、じゃあ登録制ってことか」

 

「…………そう」

 

「そっちの方がよっぽど商工会っぽいな」

 

 商売人たちがより集まって形成される自助組織であるはずの商工会だが、この世界においては探索者の統括組織──ひいては行政経営の母体ですらある。大きく意味が外れていると常々思っているアキヒロからすれば、当然の感想だった。

 

「フブキちゃんはお偉いさんと会ったりするのか?」

 

「よく会うよ」

 

「深山商会の跡取りなんだから当たり前か」

 

 しかし何かを忘れている。

 この場にはもう2人いたはずだ。

 

「……」

 

 ご主人に裏切られて不貞腐れるダックスフンドのような雰囲気でアキヒロの手を握るコユキは、当てつけのように腕を大きく振ってその存在を知らしめようとしていた。しかしそもそも忘れていない。

 

「コユキちゃんも教えてよ。一番好きな勉強の科目って何?」

 

「え? 勉強? …………勉強に好きなんかないよ?」

 

「そっかー」

 

「アキヒロは何が好きなの?」

 

「俺は歴史」

 

「歴史? あんなの何が面白いの?」

 

「適当ばっかりなところ」

 

 この世界における歴史というのは、第二期の100年間に起きた事と第一期に起きた事を指す。だが、歴史というのは積み重ねであり、その記録をほぼ失っているこの世界では割と無茶苦茶な歴史が語られていた。

 アキヒロは歴史の教科書を新しく渡されると、中を読んで爆笑するまでが一つのプロセスになっている。

 

「適当なの?」

 

「当たり前でしょ。歴史は勝った人間が作るんだから、鵜呑みにするだけ無駄」

 

 そういうことではないが、わざわざ訂正もしない。

 一面においては真実だからだ。

 

「ふぇ、ふぇひふぉうなんふぁね……」

 

 やっとこさ発言した少年、ロイスの頬を見て通りすがりの人間たちが驚いている。

 彼の髪と同じく真っ赤に、そして紅葉型に腫れ上がっていた。

 何があったかはわざわざ述べる必要もあるまい。

 

「あんたは黙って後ろ歩いてて」

 

 フブキの絶対零度の視線。

 ロイスはしゅんとしてアキヒロ(助け舟)の背中に隠れた。しかし、いきなり走り出して飛び込んだのは完全にロイスの失点だ。アキヒロがそれを庇い立てする事も変な話だった。

 むしろ、イケメンはそういうベタな事をやるんだな……という目で見ている。

 

「2人はお小遣いってどれくらいもらってるんだ?」

 

「お小遣い?」

 

「ないのか? お小遣い」

 

「貧乏人の制度だよね確か。私は欲しいものとかないけど、必要なものがあるときはお父様に頼んでるよ」

 

「言い方……でもほら、服とか床屋とか……欲しいものはないって言ってもそういうところには意外と通ってるんじゃないの? 生のセンスじゃそんな似合う服選べないだろ?」

 

「っ……そ、そう?」

 

「そう」

 

「……ふーん……変態だ」

 

「!?」

 

 いきなり謂れのない誹謗中傷を浴びせられてはたまったものではない。純粋に褒めただけだというのに。

 

「待ってほしいんだけど、変な意味はないぞ!」

 

「年下の女の子の服を褒めるとか変態以外の何なの?」

 

「変態のゾーンが広すぎるって! 歳一つしか変わらねえんだぞ!」

 

「…………変態」

 

 何だこれは、と苦悶する。

 周囲の視線があまりにも痛い。

 あのネックレスはあまりにも効果が強すぎて逆に危ないという事で外していた。今となってはつけてもらいたいくらいだ。

 

「アキヒロ! アキヒロ! アキヒロ!」

 

「は、はいはい、なんですか?」

 

 だが、姉を褒めれば、次は妹の番だ。

 年相応にフリフリとした裾のスカートを履くコユキは、くるりと一つ回る。とても可愛らしい。

 

「どう!」

 

「最高」

 

 大人になる途中の蛹であるフブキは美人になることが確定しているが、コユキも別ベクトルの美しさを保持していた。姉がオオルリアゲハならば、妹はカイコだ。それはきっと、美男美女である父母の遺伝子が神がかっているからだろう。

 

「アキヒロくんが面食いだからそういう人としか会わないんでしょ……」

 

 身もふたもない話だが、ロイスの言ったことも大いに関係しているはずだ。

 

「アキヒロはいつも同じ感じの服だね!」

 

「ぐはぁっ」

 

「アキヒロ?」

 

「び、貧乏人は毎日違う柄とテイストの服を買う力がないんだ……だから仕方ないんだよ」

 

「でも、シャツの文字ダサいよ?」

 

 ヘニャヘニャの文字で大きく「キングトリカブト」と書いてあるシャツ。どこで見つけたのかとフブキも笑っている。

 

「あ、フブキちゃんが笑った」

 

「! ……ん、んんっ……」

 

「隠さなくて良いのに──」

 

 ──路地裏から覗く視線が3つ。たまたま見つけてしまったアキヒロは咄嗟に気付かなかったフリをした。

 

「ところでフブキちゃん、コユキちゃん。お昼ご飯はどうする?」

 

 そろそろ腹の虫も鳴り始める時間だった。

 太陽の位置はわからないが、良い加減生活リズムで覚える。インターネットの無い世界のなんと規則的なことか。人類は時計さえ持っていればそれで良いのだ。

 

「……あ、それならごめん。俺、一旦戻りたい」

 

 ロイスは即座に手を挙げた。

 

「ソフィアと一緒に食べたいから」

 

「わかった」

 

「……アキヒロくんは?」

 

「コユキちゃんたちを放っておくわけにゃいかないからな。それに、2人も男が一緒にいたらソフィアも落ち着かねえだろ」

 

「確かに! じゃあ俺行くね!」

 

「確かにじゃないが。気をつけてな」

 

「うん!」

 

 残されたのは金持ち、貧乏、金持ち。オセロならひっくり返って彼ごと金持ちになるところだが、残念ながらこれは人生ゲームの為、持ち金は変わらなかった。

 

登場したキャラクター等の名簿的なものは必要か否か

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