【マンガ化】焼肉スコスコスコティッシュフォールド【進行中】 作:goldMg
『…………』
完全なる誤算。
アキヒロは想定が甘かったことを理解した。
探索者というのがどう見られているか、もう少しシミュレーションしてから来るべきだったのだ。
「うおっ!? ……なんだ探索者か」
「かっこいい……!」
「コラっ! 見るな!」
一般人からは想定通りの目で見られている。
金持ちが多いから忌避の視線というやつが多いが、そこは特に気にすることもない。自分も露骨に視線を向けはしないが、道をドヤドヤと歩く彼らを見て内心では同じように思っているのだから。
だが、想定通りならば何も問題ない筈だ。
誤算などどこにもない。
何が誤算か。
彼の周囲を確認すると、恐ろしいものを見る目付きをした人間が大勢を占めている。街中でフル装備の人間──しかもドラゴン素材製の鎧を身につけている──を見かけて恐ろしくないわけがないが、その中には探索者も含まれていた。モンスターを狩るのが仕事の彼らが何を恐れるのか。
「あいつ……ミヤマのアイテムだらけだな……」
「あれって最新の鎧だよな……すげえ、誰なんだ」
それは恐怖というよりも畏怖に近い。
高いが性能は確か。
性能は確かだが高い。
そんな深山商会のアイテムをわんさか身につけた探索者が街を闊歩しているのだ。畏れだって湧くだろう。
『くっ……』
これこそが誤算。
彼が身につけているアイテムが深山商会のものであるという事に、気付く探索者はしっかりと気付くのだ。そもそも名前を知らなかったアキヒロからしてみれば、自分が身に付けているアイテムを自分が外から見たところでゴツいという感想しか湧いてこない。
まさかブランドとしてしっかり認知されているなどと、文化レベルが低いと常々思っているアキヒロだからこそ予想ができなかった。
『見る奴が見りゃあ分かるのか……』
しかしコレも第一セクターだからこそだろう。
他のセクターであれば深山商会が何かとかいう話は出てこない。竜鱗の鎧というところにフォーカスを当てられるだけだ。
しかし、荷台に乗せたアイテムも一緒に運んでいるアキヒロの懸念とは、まさにそれそのものだ。
「ミスったか?」
威勢良く出てきたはいいが、初っ端から失策だと認めざるを得ない。このままでは宿まで付き纏われ、寝ている間に全部取られるかもしれない。追跡している人間が探索者ならば、筋トレをしてアイテムで底上げしている程度のアキヒロでは勝てないだろう。
「……いや、バカじゃん」
フブキに貸して、それから付けるのを忘れていたものがあった。リュックをまさぐり、目的のものを取り出す。
『これだ』
そのネックレスは、装着した人間に隠密の効果を齎す。とんでもない効果だが、ガッツリ注視されているタイミングで使った時に効果があるかは不透明だ。フブキが身につけた際は透明になったのかというほど姿を認知する事が出来なかったが、全ての人間に対して同じような効果を発揮するとは限らない。
一旦路地に入って、人目が消えた瞬間に装着した。
『…………』
荷台の陰に隠れていると、3人組が通りを気にしながら現れた。フードまで被って、1人が通りを覗いて残りの2人が歩いてくる。目を凝らしているような素振りだ。
流石に、ナイフを持った3人相手では武器を使わなければ戦いにならない。だが、アキヒロも剣だの斧だのは持ったことがない。ナイフも支給されたが、この鎧ありきで動くことを考えると不安が強かった。
「ちっ……どこ行きやがった?」
「まさか、今の一瞬であの荷台を持って逃げたのか?」
「飛んで逃げたって線もあるぜ。あいつらはそういうのが使えるって聞いたことある」
「グラタン、お前は屋根登って探せ! 俺たちは奥に行くぞ!」
『…………』
まさかのスルー。
隅に寄せていた荷台にぶつかることなくゴロツキどもは走り去っていった。数分戻ってこないことを確かめ、表路地に戻ると先程とは違って注視されている感覚がない。
探索者の中には特に気にせず見ているものもいるが、そんな者たちでも違和感は感じるようだ。
『さすが深山製品、だな』
認識されないことによる弊害。
時折ぶつかられることを除けば、それ以上のトラブルはなく宿まで戻ってくることができた。しかし、ここで1つ問題が。
『入れないが?』
荷台は宿の廊下を通れない。
誰かに取りに来てもらうのが一番だが、アイテムにより存在感が希薄化している自分では気付いてもらえない。しかしアイテムを外したら外したで、ドラゴンメイルを身に纏って荷台を引いてきたイカれ野郎が部屋に荷物を運び込むところを目撃されてしまう。
パズルゲームのようだ。
人を呼ぶか。
鎧を外すか。
アイテムを外すか。
気にせず持って行くか。
どの手順を優先させれば最も穏便に済むか。
しかし、そう酷い世界でもなかった。
「みんないるかな……」
『──!』
地獄に仏。
青菜に塩。
泣きっ面に蜂。
焼肉はタレ。
サンチョは生。
そして、ピンチにネル。
『ネルさん』
「…………なんか今、声が……?」
『ネルさん』
「カガミくん……かなあ……きゃっ──きゃああああ!」
膂力のましたアキヒロであれば、女性を1人確保することなどワケなかった。担ぎ上げられたネルは叫び声を上げるが、彼女の声は宿入り口の酒場にいる誰にも届かない。
「た、たすけて! だれか! やだっ! だれかあ! ……なんで、誰も……!?」
荷台をゴロゴロ。
ネルがビクビク。
霧はモクモク。
裏庭で立ち止まったアキヒロはネルを下ろし、逃げられないように抱き留めたままヘルムを脱いだ。しかしネルはアキヒロの顔を見る前に目を瞑って顔を背ける。
「ひっ……! ご、ごめんなさい! ちがうんです! ごめんなさい! …………たすけて……!」
「…………ネルさん、俺です。加賀美明宏です」
居た堪れなさに、心なしかアキヒロの声も縮こまっている。その声と顔に、ようやくネルは状況を理解した。理解したが、緩急の差というものは人の体に不思議な現象を起こさせる。
「あ……」
ストンと抜ける腰。
ご丁寧にタイルやレンガで舗装されているわけではない宿の庭は、なんなら芝生すら生えていない。ああ、土が彼女の服を汚してしまった。
立ちあがろうとして何度も腕に力を込めるが、細腕であるという事を省いても脚が動かない。
「あ、はは……なんでだろ……滑って動けないや……霧のせいかな……?」
「…………ごめんなさい」
「い、いやいや……いいよ……」
「いや、本当にごめんなさい。他意はなかったんです……ただ、にっちもさっちも行かなくなっていたところに見かけたんで……」
「はは……ちょ、ちょっと手貸してもらっていい?」
「あ、はい」
まだ腰が抜けている彼女に手どころか肩まで貸して話をする。
「──そういうことね」
「ええ、ちょっと焦りすぎました」
「そうだね……うん、ちょっと反省してほしいかも」
「はい」
「…………えいっ」
「あたっ」
コツンと、握り拳が額に当たる。
気まずい
それはそれとして、ちゃんと反省しろ。
「全く……出発の直前だってのに緊張感が足りないよね」
「緊張はしてますよ」
「ほんとに?」
「本当ですよ。帰ってきた時にやらないといけないことが多過ぎてイヤになります」
「してないじゃん……」
「はは、冗談ですよ。本当の本当は……うん、中々厳しい状況です」
「っ…………」
2人は荷台に並んで座り込んでいた。
体が触れ合うおかげで気配は未だ隠されたまま。
すぐそこにある宿の中でソフィアとロイスがいる筈だ。
皆で話せばいいものを、わざわざ2人で。
それも、メンバーの中で1人残るネルだ。
──だからこそ、話せることがあった。
「ネルさん、言っておきたいことがあります」
「ちょっと、やめてよ。縁起でもない……」
「真面目な話です」
「…………」
話したいことがあった。
登場したキャラクター等の名簿的なものは必要か否か
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いる
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いらない