【マンガ化】焼肉スコスコスコティッシュフォールド【進行中】 作:goldMg
「ひぇぇぇ……マジで全部入っちまいやがんの……」
「俺の時よりもよほど驚いてやいまいか?」
「だって、こんなちっちゃいリュックにこんな大量のものが入ってるんですよ?!」
「それはそうだが……納得いかない!」
「でもこんなに詰め込んだらおも──くない!?」
「当たり前だ」
「本当に……四次元ポケット!?」
「…………知らない。だが、なんだ?」
「まさか際限なくモノを詰め込めるとか……」
「そこまでじゃない。ただ、そこそこたくさんのものを入れられて任意で取り出せるだけだ」
「………………!」
「なっ……!?」
黙り込んだかと思えばいきなり駆け出した少年の真意などまるで読めない。
開け放たれた扉に手をかけ、背中を追いかける。
鎧を着たまま駆け出すなんて、と悪態を吐きながら。
「隠密のネックレスを着けているから良かったものの! 何故、こうも突拍子がないんだ!」
速力の差もあって、すぐに追いつく事はできる。ドラゴンの鎧を着た人間などそう簡単に見失ったりはしない。
だが、やってきたのは宿から外れた木立。
安宿なだけあってすぐ郊外に足を運ぶ事ができる。
「おい! いきなり走り出すな!」
「…………」
「なんだ。何を……」
「あんなもんがあるならダンボールいらねーだろー!」
「????」
「おちょくりやがって! 人を舐めるのも大概にしろー!」
野に叫び始めた。
「はぁ…………ん?」
いよいよ狂ってしまった。
ウルフは嘆息と共に歩み寄り、肩に手を置いた。
正確に言えば、手を置こうとした。
スカした感触に手を見つめると、少年は背中から地面に倒れている。まさか、軽すぎて倒したことに気づかなかった……? と力加減の妙というものに感慨深さを覚える男をよそに少年は大の字に手を伸ばした。
「あー…………」
「何がそんなに気に食わない?」
「気に食わないのは…………それはいいんですよ。冷静になればあんなのが普及してるわけでもないんで」
「そうだな。長くダンジョンに持ち込まれ続けたリュックだからこその容量だ」
「……戻りましょうか」
すくっと起き上がると、鎧をつけている事の重さなど感じさせない。
「キミがいきなり走り出すからこうやってついてきただけの話なんだがな……それにしても、本当に自然と走り出したな」
「カッとなっちゃって」
「そういうのだったか?」
「宿で叫んだら迷惑じゃないですか」
その理性が残っているなら走り出すな、と釘を刺して戻ると、ソフィアが顔を出している。いきなりドタドタと廊下から聞こえた足音が気になっていたようだ。
「あの……?」
「いや、ちょっと……気持ちを落ち着かせてきた」
「…………私も、落ち着かないです」
言っていることの意味が違うのは、ウルフ目線で明らかだった。だが、それを素直に口に出す事は美徳ではない。
「どうやら……私はお邪魔虫のようだな」
落ち着かないというのであれば、落ち着くまで話をするべきだ。
もう1人を交えて。
「──やっほ」
「や、やっほ……ネルさん」
そろそろ日も暮れていく。街灯から出る光が霧を構成する水分子を乱反射して意外と明るい。合流に手間取る事はなかった。
「準備、本当に終わっちゃったんだ」
「はい」
身体が冷えないよう、熱く着込んだソフィアのその身体からはやはり冷気が漏れている。深山商会からありったけの耐寒アイテムを借りているが、それで誤魔化していられるのも平常心を保っている間だけだ。
しかも、アイテムを身に付けても完全に抑えられるわけではない。
ネルは、ソフィアとの距離をゼロまで詰めて座った。
「やっぱり落ち着かないんだよね」
「はい」
「久しぶりだね。こうして3人で話すの」
「……はい」
3人と言いながら実際に話しているのはネルとソフィアだけだが、大抵はアキヒロが1人で話し続けるか女子同士で喋っているかだったので問題ない。
「ついていけなくてごめんね」
「いえ……アキヒロさんがそうしろって言っただけじゃないですか」
「ふふ、そうだね」
「はい」
「でも……やっぱり、本当は一緒に行きたいよ」
人間だからこそ。
身に押し寄せる危険信号を無視してでも、誰かのために動きたくなる事がある。それを、この直前になってネルは強く感じていた。
「…………」
「…………」
見つめ合う2人の瞳は、水面に映るが如く同じに揺れている。その気持ちが言わずとも伝わっていく。
異能でも何でもなく、人が生来より持っているものだ。
それでも、伝えずにはいられないのが人間というものだ。
「私……私……!」
「──
「っ……ネルさん!」
「……!」
ネルは思う。
胴に回る腕の何と冷たい事か。
この身体で彼女はこんなにも強く、美しく生き足掻いている。
もっと褒めてあげたい。
もっと話したい。
だけれども──
「全部、帰ってきてからだよ」
「……はいっ」
全ては成し遂げた時の報酬でしかない。今褒めたところで、帰ってこられなければ無念の中に堕ち沈む木の葉の如き軽さしか持たない。だから褒めない。
「信じて待ってるからね」
大人数で行く以上、目立たないようにこっそりと出発する6人は早朝に出る。彼女は普通に出勤する。
それが、この計画の始まりだ。
「──悲壮感強いねえ」
そんな空気に水を差す男が1人。
ご存知、加賀美明弘くんだ。
シリシリと肌を優しく撫でる霧を、掌で起こす風で弄んでいる。
「あのさあ。空気読むとか……そういう茶化す空気じゃ…………」
「むしろ俺が悲しいですよ。失敗するって思われてて」
「そ、そんなこと……」
「いやいや、流石に分かりますから」
そう言われれば黙り込むしかない。
2人の心に死別という言葉が浮かんでいなかったなど、強く推せるはずもないからだ。決して認められないとしても。
「なあソフィア、難しいな」
「…………」
「魔素なんて、やっぱり世界に無い方がいいんだよ」
「……それはどうでしょうか」
「…………」
「この寒さが魔素のせいだとしても……それがあったからみんなと出会えました。ここまで生きられました。未来が──希望があるんだって思いました。だから……無い方がいいとは思いません」
「…………」
「あ、も、もちろんアキヒロさんの事を否定したいわけじゃ──」
「つっよ」
「へ?」
「なんだ! 大丈夫そうだな!」
「わ、わわわわ」
肩を大きく揺らす。
これまで丁寧に扱ってきたのを覆すような、ロイスにするような雑さだ。
「なななんんですかか……」
「旅ってのはいいぞ」
「え?」
「これまでに想像もしたことなかったような文化、生き物、人間。いろんなものに出会える」
話の趣旨が見えない。
2人は静かに話を促した。
「ダンジョンも一緒だ。俺が行ったことのあるどんな旅行先よりも危険で過酷。だけど……楽しみっちゃあ楽しみなんだよ」
「すごい……ですね」
「すごいもんか。
「私もですか?」
「それはソフィア次第かな」
「ええ〜?」
「何にせよ俺たちはやるしかない。だから──」
ここまで言っても悲しげに、不安そうに両手を重ねている女性へ視線を移す。
「ネルさんは平気な顔して仕事してて下さいよ。郊外に出そうな馬鹿を見つけたら叱って、困ってる女の子がいたら助けてあげてください」
「……あれは結局、相手がキミだったからでしかないよ」
「あのさあ……そういうのいいんで返事は?」
「…………はい」
「帰ってきたら美味しいご飯食べにいきましょうね」
「……わかった」
「俺が人に自分の意思で奢らせてあげるなんて珍しいんですから、存分に良い飯へ連れて行ってください」
「……コユキちゃんのお家でいいんじゃない?」
「それはそれ、これはこれ」
「そもそも私のお財布でしょ」
「お姉さんの良いところ見てみたいなー」
「ムカついてきた……最後に殴っても良い?」
「帰ってきたら殴らせてあげますよ」
「…………じゃあ、そうする」
「よしよし」
「!??!!!? ──撫でんな!」
「逃げるな!」
はたき落とすが、おかわりがやってくる。手から逃れようと必死に頭を動かしても、一瞬で捕まった。
「や、やめろぉ!」
「いいじゃないですか、こういう時くらい」
「年下に撫でられるとか……恥ずかしいでしょ!」
「まあまあ」
「むきー!」
引っ掻き傷を3本顔に走らせて帰るとアオキが宿の酒場にいた。やはりヘルムを外さず、器用に飲んでいる。
「お前ら、こんな時間まで何してたんだ3人で。…………まさか3人で?」
「3人で?」
ソフィアは首を傾げている。
「3人で何ですか? お酒は飲んでませんよ?」
「そりゃあ──」
無言のドツキが連続でアオキを襲った。
「揺らすな揺らすな! 分かったから! ったく……酒が溢れんだろうが!」
「全くはこちらのセリフなんですよ……変なことを教えようとしないでください」
「お前はお前で意外と分かってんのな。…………意外でも何でもねえや」
「明日に備えて早く寝た方がいいんじゃないですか?」
「お前母ちゃんみたいな事言うなあ。でも大丈夫だ、水みたいなもんだから」
「アル中がよ……ああ、2人は戻ってていいから」
ネルとソフィアは軽く言葉を交わし、そして
「全員と話すつもりか? お前こそ早く寝ろよ」
「まあまあ、アオキさんも酒呑んで黄昏るくらいしかやることないんですから少しだけ付き合ってくださいよ」
「ふん……」
「つってもアオキさんと話すことは特にないんですよね……あだあっ!」
「じゃあ寝ろ!」
アオキはウルフやルクレシアと比べても、人間的にかなり安定しているように見えた。
バトルジャンキーということが関係しているだろう。こだわりが強いから、それ以外のことには目を向けない。今この場にいるのも、パーティーのリーダーであるウルフがそう決めたからでしかなかった。
「あ、そうだ。切り捨てる時は迷わずに頼みますよ」
「──」
「俺はそういうのやった事ないんでプロにお任せします」
「お前……」
「ほら、アオキさんそういうの得意そうじゃないですか」
「……お前は確かにそういうのとは縁遠いツラしてるもんな」
「じゃっ」
「マジでそれだけかよ……」
それだけだ。
アオキに伝えたのはそれだけ。
テーブルに載っているツマミを齧り、適当な話をした後はよく眠れるように酒をかすめ飲み、ほろ酔いになったくらいで唐突にミツキへと電話をかけてから部屋に戻った。
登場したキャラクター等の名簿的なものは必要か否か
-
いる
-
いらない