【マンガ化】焼肉スコスコスコティッシュフォールド【進行中】 作:goldMg
「…………」
白む世界の中で、アオキは何度も武器に手を触れている。
しんがりを務めていたが、立ち止まった一行の横を素通りして前に出た。待ちきれないということか。
「行くぜ」
「──待て」
「んだよ」
「少し休憩だ」
「……貧弱だな」
まだダンジョンの中にすら入っていないにも関わらず、2人には疲労の色が見られた。そこら辺の棚岩に座り、並んで肩を落としている。
アキヒロも2人の隣に腰を下ろし、足甲を脱いで足を乾かしている。
「何してるの?」
「ずっと履いてると蒸れて靴擦れするからな」
「なにそれ」
「靴擦れも知らん子供がパーリナイ」
「なに? いきなり」
「ほら、お前らも一旦靴脱げ」
「もう……わかったよ」
甲羅干しよろしく足甲を脱いだはいいが、霧に満ちた世界でやる事にどれだけ意味があるのかはわからない。それでも気分的にはマシなのか、2人は少しだけ表情が和らいだ。
重ねて言うが、まだ入り口の手前だ。
「歩いたし、飯を食うのもいいか」
「体力もねえなあ」
「一般人ならこれくらいですよ」
ウルフが調達した擬似4次元リュックから干物を取り出す。海辺で塩辛いものを食べるのは非常にしんどい。水も限られているのでモサモサと口を動かすが、飲み込むのに苦労していた。
「はあ……」
「早い」
「え?」
「ため息、まだ早いぞ」
「あ、うん、ごめん」
「気持ちはわかるけどな。ほら水」
「ん」
どんな時でも腹を満たせば多少は気もまぎれる。
2人とも、真の意味で最後の休息を堪能していた。
対する探索者はまだ補給タイミングではないようで、あくまで静かにしている。ウルフは気障に海を眺め、ルクレシアはウルフに背中を預けた。
アオキはただ、ダンジョンの奥へ視線を向けている。
「何か見えますか」
「…………そう思うか?」
「いえ。挑戦状を叩きつけてるようには見えますけど」
「挑戦状ね……」
「実際のところ、今回のこれがなかったとして一級ダンジョンに挑む可能性ってあったんですか?」
「ウルフが頭なら暫くはないだろうな」
「案外あっさり言うんですね」
「俺たちをプライドだけ高いクソ低脳探索者どもと一緒にすんな。自分の限界くらい自分でわかる」
「すんません」
アオキのそばによると目が吸い寄せられるのはメイスだ。良く手入れはされているが、凹みや傷がそこかしこに見える。モンスターと戦っている最中に金属疲労で壊れないのかとアキヒロは不安になった。
その視線に気付き、柄を握りしめる。ストラップから引きぬかたれメイスは一振りで3人をまとめて屠るだろう。
「気になるか」
「ええ、まあ」
「なんだかんだでこいつとも付き合いが長えんだ」
自信があるということか。アオキの発言についてアキヒロは1秒足らず考え、その愚かな思考を終止した。一級ダンジョンに持ってくる武器が生半可であるわけがない。コウキに見せてもらった禍々しいまでの武器達に比べればともかく、アオキのそれに関しても一般常識からは3里ほど離れているに違いなかった。
「武器ってのは育っていくらしいですね」
「そうだな」
ペン回しでもするかのような手軽な様子でクルクルとメイスを弄ぶ。視線は先へ固定されているので、慣れた手慰みということだ。
「そんなに早く入りたいんですか?」
「ああ行きたいね。一級ダンジョンなんてのは中々お目にかかれるもんじゃない。こうしてイレギュラーでもなきゃ、一生機会はなかったかも」
「え? でも暫くって話なんじゃ……」
「暫くが一生続くこともある」
「そんな無茶な理屈がありますか」
「…………」
その視線はウルフとルクレシアへ飛ぶ。
密着しているのでイチャイチャしているように思えるし、お互いの体が違う方向を向いているのを見ると冷え込んだ関係のようにも思えた。
「上だけを向いて生きられない奴らもいる。わかるだろ」
「……それは分からないですね」
「…………」
「違う場所から、違うやり方で上を見てるだけなんですよ。それが他人から見ると下を向いてるように感じたりするだけで、地獄に堕ちたいなんて思ってる人間はいませんから」
休憩は長すぎると良くない。
そして立ち上がる時間が来たということは、いよいよという意味でもある。しきりに体を触って調子を確かめている様子のロイスは、アキヒロからの視線に動きを止め、不安そうな表情を貼り付ける。
「い、行くんだね?」
「うん、行こうか。ソフィアも大丈夫か? …………ソフィア?」
「──聞こえる」
良く聞き取りたいと、耳を澄ましている。心に届く声を邪魔できるものなどないが、一行はピタリと止まり、ソフィアの一挙一動に目を凝らす。バディーを組んだルクレシアは何が起きても対応できるようにと、そばにいた。
「────」
瞼を閉じて声を聞いていたソフィアは、一般人2人には聞き取れないほどの声量で何かを呟いた。
彼女がゆっくり目を開けると、意志のこもった強い光を湛えている。前を向く視線はきっと、ダンジョンの奥にいる家族に向いていた。
「よし! 行くぞ!」
声出しはアキヒロから。
いきなりの大声に全員が怪訝な目を向けるが、それを笑顔で迎えた。
「2人とも真面目なツラしてんな!? そんなんじゃやってけねえぜ!」
「……おう!」
すぐに同調できたロイスと違い、ソフィアは中々顔を崩せない。彼女の掛けているものを思えば立ち上がっているだけでも褒められて当然だ。
しかし、そんな彼女の肩を軽く叩く。
「ソフィア、にーって」
「…………」
「にー」
「……っ」
「うん、可愛い」
いつもの微笑み主体のそれに比べて、どこまでもヘタクソな笑顔だ。動かない感情と表情を無理矢理に動かして形だけなんとか整えようとした結果がアキヒロの前に現れた。
「えー? 俺も見たーい」
「──や、やだ……」
ニョキリと顔を出すロイスに抗してソフィアは後ろを向く。
ロイスは傷ついた。
大きく肩を落とし、アキヒロの背中にゴツンゴツンと頭をぶつける。
「あ゛ー……」
「うう……」
「よし! 元気だな! 行くぞ!」
──────
海の証。
鼻を突く磯臭さは谷に入っても薄れることはない。
生えている苔は発光し、海の断面という壁によって吸収された外光の代わりとして足元を照らしてくれる。
常に濡れている足元だが、水溜りなどの姿は見当たらない。入り口こそ巨岩の間にできた精々十数mの谷間だったが、奥に進むとラッパ状に広がっていく。谷というにはあまりに広いが、サイドに存在する海色の壁がここを海底だと分からせた。
「……何もないね」
緊張が抜けたのか、なんでもないような顔をしてアキヒロに話しかける。実際今のところは何もないので、その感想も間違っているわけではなかった。
しかし、ここにいるのはプロ3人。
舐めた発言をすればすぐに反応する。
「どうせ今のうちだけだぞ」
議論の余地もないと、ウルフとともに先頭を進むルクレシアが切り捨てた。
「今のうちだけ?」
「ダンジョンも全部が全部危険ってわけじゃない。モンスターがいないところだってあるし、常にモンスターと遭遇するわけでもない。それでも、お前が思うような安全な場所じゃないんだよ」
「…………」
当たり前に聞こえるが、街から出たことがない人間にはわかりづらい。特にロイスのように基本的にはモンスターなんかと遭遇することがない人生を送ってきた人間はそういう傾向があった。
「ちなみに、あんまり騒ぐようだと気絶させるからな」
「っ……」
一瞥に込められた本気を理解して怯える少年。
しかし、それほどに彼らも真剣だった。いつもはのらりくらりと過ごしているウルフも視線を散らし、いつでも対応できるよう手は楽にしてある。
アオキに至ってはすでにメイスを抜いていた。
「おいガキども〜、何かあったらすぐに伏せろよ。そんで俺が声掛けたら言われた通りの方に走ってけ」
「従わなかったら?」
「どう死ぬかってだけだな。食われるかミンチになるか焦げカスになるか破裂して死ぬか」
「ひょえー」
「怖がれよせめて……気抜けるわ」
「ほら、俺が何しても無駄なんで」
中に入る前は流石に若干の緊張もあったが、入ってしまえばあとは野となれ山となれ、だ。
言葉が通じない、かつ、物理的に絶対に敵わない、かつ、敵対関係にあることが確定している相手に対してアキヒロは何もできない。いきなり知識を披露したところで頭にハテナを浮かべながら縊り殺されるだけだ。
故に、死んだら死んだだな〜、とお気楽である。
「まあ、いい感じの指示頼みますよ。ロボットくらい機敏に従うんで」
「けっ……ロボットなんざ良いこと何もねえや」
「おっ?」
「戦ってても何の感情も見せやしねえ。そのくせ硬くて速い。一番楽しくない類だな、あーいうのは」
「へー…………ふーん…………」
「んだよ」
「ふーん…………」
暫くはフーンと呟くだけのロボットになっていたが、先頭が止まったことにより意識が戻る。ウルフ、ルクレシア、ソフィア、ロイス、コマちゃん、アキヒロ、アオキの順だが、コマちゃんを見ていた為、一瞬なぜ止まったのかが分からなかった。まさか壁や裂け目でも──と視線を上げていく
「──」
まず周りにあるのは茂る木々だ。
地底とか海底とか関係ないのか、逞しく木が生えている。葉も紫紫しく、魔素の影響をもろに受けていることがわかる。
次に目立つのはマダラ色の太い幹。
他の木々とやや違った色は、気付けば存在感があるが気づかなければ紛れてしまうだろう。
ヤシの木のように規律だった線が横に走っているのが分かる。横っ面は線ではなく多角形の組み合わせによって面を構成しているようで、こんなところに太い木もあるもんだなと感想を抱いた。
「────」
さらに視線を上げる。
柱の背後に、横倒しになった同種の幹が見える。
これはつまり、同じような木がいくつも生えているということ──幹が動いた。
ここで違和感に気づく。
なぜ立ち止まったままなのか。
何かあったら指示を出すはずのアオキから何の声も上がらない。
さらに視線を上げて──
「────あ」
|巨大なウミヘビと対面していた。《そのことに気付くまでに要したのは、立ち止まってから3秒だった》
登場したキャラクター等の名簿的なものは必要か否か
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いる
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いらない