【マンガ化】焼肉スコスコスコティッシュフォールド【進行中】 作:goldMg
「ウミヘビは海にいるからウミヘビなのであって、海に挟まれているとはいえ海じゃないダンジョンにいるウミヘビはそれってもはやウミヘビじゃないんじゃないかっていう──」
「伏せろ!」
事前に何度も確認していた通り。
しゃがみ込もうとしたアキヒロは、目の前で固まっている2人の首根っこを無理やりに加えて引きずり倒すコマちゃんを視界の上端にとらえた。
直後、差した影。
さらに上から重なるように影が濃くなる。
「おおっ!」
「──」
雄叫び。
顔を上げたアキヒロは信じられないものを見た。
「レベル30以上はあるぜ……!」
天に突き出した盾が、一行を押し潰さんとのしかかる巨体を押し留めているのだ。人間がトラックを持ち上げられないことを考えれば、この戦士の膂力が数値としてどの領域にあるかの凄まじさも見えてくる。
「ぐっ……うっ……!」
しかし、容易な業ではないことは変わらないようだ。
両腕を突っ張っているアオキの身体からは、ミシミシという明らかに人間の身体から出ることはないであろう音が発されていた。
「3人とも! 速く下から出るぞ!」
頽れることなく耐えているが、足裏に集まった圧力が岩表面を剥離させ、さらに深くまで砕いていく。今いる場所が岩場でなく土だったならばアオキの身体は丸ごと地表面下埋もれていただろう。
「──ソフィア!」
「はっ!?」
頭上を通り過ぎていく巨木の如き存在に気圧されて動けないソフィアの様子に、間髪入れずルクレシアが腕を引っ張る。声掛けも効果を発揮し、引かれるがまま胴体の下から逃げ出す。
「うえええ!」
ロイスは相変わらず首根っこを引っ張られて退避。これではどちらが子犬かわからない有様だ。
「こりゃあ……やっぱ俺らだけじゃぜっったいに無理だったな」
間違えて頭でもかすめれば頭蓋骨を容易く削り取られ、脳みそまで引っ掛けて持っていかれるだろう。
「うおお……!?」
盾から散る火花。鱗と盾の摩擦で負けた方がガリガリと削れているのだ。もちろんヘルム越しではあるが隙間から入ってくるのだろう、素っ頓狂な雄叫びをあげていた。
「アオキ! いいぞ!」
「っ!」
一本柱で支えていた以上、いなくなれば重力に負けて落下するのが必然だ。ウルフの言葉を合図にして押し潰されないようローリングで逃れたアオキは、体を投げ出している暇など無いと、すぐさまメイスを取り出して、片膝立ちで構える。
自然とロイスを背中に庇っているあたり、バディーの意味を理解しているようだった。
「ルクレシア! お前がそいつらを非難させろ! ウルフ! やるぞ!」
「わかった!」
「オーライッ!」
私が残るとか、ここはまかせろとか、そんな親しみやすくて時間のかかることはしない。
3人がいるだけであらゆる状況においてデバフになる以上、先に逃すのは当然だった。
「ついてこいっ!」
「俺の雄志を見られないのが憐れだな! 諸君!」
ルクレシアの声を皮切りに動き出したのはウルフ。風の如き速さで駆け、今なお動く蛇の胴体に飛び乗った。
分厚く頑丈な鱗で覆われている背中は大きく揺れ動き、そのような意図がなくともただ動くだけで上にある物を振り落とそうとする。
「ぬおっ!」
流石に足元を揺らされては二級探索者も動きを制限される。体幹の強さというのは踏みしめる足場があっての話であり、上下に細かく動く背中に乗ったアオキは弾き飛ばされそうにもなっていた。加えて防御機構として進化したのか、踏みつけた鱗の尾側の隙間から黄色い気体が漏れ出ている。
「これは……ますます距離を取らせて正解だな!」
『ジュラッ!?』
勢いよく突き刺した片方の剣。
鱗を容易く貫通してしっかりと固定されている。それこそ、掴まれば揺れによる行動制限を軽減できるほどに。
「鱗は貫通した……」
身体の大きさと比較すれば、人間にとっては爪楊枝が刺さったような程度の負傷にしかならないはずだ。だが、注射針ですら刺し込まれれば痛みを伴うというのに爪楊枝が刺されば痛みもひとしお。
ウミヘビは体を揺らし、何とか爪楊枝を取り除こうとする。しかし、動きが止まればそれは隙と見做されるのがダンジョンにおける戦いだ。
「んーっ! らあっ!」
岩を砕きながらの強烈な踏み込み。
アオキの振りかぶったメイスは、空気を押しのけて横っ腹を叩き抜いた。
『──!?』
大きな風船を殴って弾き飛ばしたような音。
ウミヘビの胴体の中程が、くの字に大きく折れ曲がった衝撃によるものだった。
『ギエエエ!』
それほどの一撃を喰らえば、モンスターの耐久だとしても痛みを感じた程度の反応では済まない。白目を剥き、大きく体を波打たせたかと思えば動かなくなった。
「気絶か? それとも死んだか?」
「気絶だ。まだ息してるぞ」
「よし──首を落とす!」
状況が状況だけに早めの決着を選んだ。
「気をつけろよ。毒が吹き出すかも──」
「ぬうううあっ!」
『ジャアアアア!』
ウルフは一時的な昏倒状態に陥ったヘビの首──頭の根本あたりに両手の剣を突き入れ、腕を開くようにして引き切った。その前にアオキが言いかけたことを聞くよりも先に。
「ぬわああああ!?」
さきほどは足で踏むだけだった鱗の裏をガッツリと切り開いたせいで、毒霧が大量に噴霧される。まるでスプレーを至近距離で噴射されたかのように、ウルフの身体は赤と黄色で彩られた。
「バカが! 終わったらさっさと水で洗ってこいよ!」
首元を切開されたが、まだ死ぬには早い。ウルフの剣は、使いやすさ重視で通常の刀身よりも短くしてある。今の一撃では脊椎を切断するには至らなかったのだ。
『ジュラララララララ……!』
そして、モンスターの特徴がハッキリと目に見える形で発現している。体を小刻みにうねらせ、いつでも動き出せるようにしているその首筋にある巨大な傷の断面は、少しずつ癒着して回復していた。
今まさに切り開かれたばかりだというのに、すでに回復が始まっている。
「アオキ! もう一度できるか!」
「いいや、俺だけ見てやがるな。流石に喰らわんだろ」
「なら同時に仕掛けるぞ!」
そんなことは気にしていない。
次の一手を打とうと動き出していた。
──────
「はぁっ……はぁっ……」
「ったく、いきなりくるもんだな」
モンスターが活発に動いても被害を受けないだけの十分な距離。それでいて離れすぎない位置に4人と1匹は避難を安全に完了させた。
全速力で駆け抜けることを求められたので、一般人の3人は息を上がらせている。普段から活動量の高いアキヒロも、あくまで身体能力は普通の域を出ないので額に汗を滲ませた。
「私から離れるんじゃねえぞ」
あくまでウミヘビ型モンスターから逃れたというだけの話で、別のモンスターがいないとも限らない。ロイスとソフィアはもはや清々しいまでに情けなくルクレシアの足しがみついた。
「だあーっ! そんなひっつくんじゃねえ! 動けなかったら守れるもんも守れねえだろ! そいつと同じくらいでいいんだよ!」
あくまで目の届く範囲、5m程度の距離で息を整えているアキヒロを指差す。コマちゃんはその足元でクルクルと回って楽しげだ。
場の緊張感、そんなもの犬には関係なかった。
「ふぅぅ……中々、刺激的な出会いだったな」
多くの旅をしたアキヒロだが、そんなのは所詮、魔素が存在しない旧世界の惑星における話でしかない。超常の出会いというものはその度に心を震わせていた。
秘境に立つ、人の手が入らなかった古木たちのごとき大きさを誇るモンスターを前にすれば、年寄り程度の余裕など関係ないのだ。
──1つ、大きな鳴き声が。
「うわっ!? ……ビックリした……」
今し方逃げてきたばかりの方向から、重量物の動きによって生み出される振動が地面を伝ってくる。ロイスは飛び上がる勢いで立ち上がった。
先ほど、頭上を掠めた鱗から漂っていた野生の香りが鼻に染み付いてしまったらしい。
「ふ、2人で大丈夫なの?」
「ああ? アオキがそう判断したんだから大丈夫だろ」
「…………リーダーってウルフさんじゃないの?」
「戦うってなりゃあアイツの方が判断が早いんだわ」
「へー……ううわっ!」
大きな揺れがまた一つ。
激しく動き回っているような音も聞こえてくる。
状況は常に動いて、全てが初めての2人には何が起きているのか掴めなかった。というよりも、頭を働かせて想像するだけの余裕がなかった。
そんな中で反応する事すらなく黙り込んでいるのが1人。
「…………」
ソフィアだ。
曇った顔で手を見つめている。
「ソフィア、どうした。引っ掛けたか」
ルクレシアは、ロイスたちに向けるのよりも棘を落とした声で肩を叩いた。
「少し気に引っ掛けたくらいでも、お前らじゃ耐えられない毒とかを樹液に含んでることがあるからな。隠さず言えよ? …………なんだ、別に怪我はしてないな」
彼女が見つめる手のひらは、白雪の如く細い指が綺麗に揃っている。汚す赤は無く、ほんのりとついた茶は先ほど土に触れた時のものだろう。
「……」
「しょうがねえな……」
ルクレシアは周囲を軽く見回した後、ソフィアの隣に腰を下ろす。そのタイミングでコマちゃんはアキヒロの側を離れ、トコトコと歩き回った。
「お……ちっこいのにマーキングか」
少量ながら、周囲へとこまめに尿を放出して周る。そんな様子をチラリと見てから改めて話を始めた。
「ソフィア、ウジウジ悩んでるのは女らしくねえぞ。ここに入る前に吹っ切れたんだろ」
「…………」
「……はぁ」
「私……何かできると思ったんです」
「は?」
お前らじゃなくて私の方ができるんだぞ、と思っていたという内心に他ならない。専門家であるルクレシアにとってはバカにされたと感じられる言葉だった。
だが、落ち着いて続きを聞くとそうではない。
「私のこの力……モンスターに使えば凍り付かせられるのかな、とか思ってんです」
「…………」
「でも、実際はそんな事なくて……見ただけで体が全然動かなくなって、何にも……」
「あのな……」
「分かってます、そういうことは求められてないって。でも……やっぱり何かしたいんです」
「…………それなら、まずはモンスターと出会した時に最低限アイツくらい反応できるようにならないとな」
「アイツ?」
指差した先では、アキヒロが手をヒラヒラと振っていた。
「動けないんじゃ、力があったって意味ねえだろ?」
「…………」
「アイツがそうかは置いておいて、あんくらい反応できなきゃ武器を振る前にやられるだけだぜ? それに、一撃で仕留められなかったら今度は集中的に狙われるのはお前だ」
「──っ!」
身体を通り抜けていく冷たさ。
あの巨大な顔がこちらを向いて牙を自分の身体に突き立てたとしたら、ひとたまりもない。
足だって一番遅い。
逃げる事すらできないのだ。
「──おっ!?」
「!」
弄んでいた小石を投げ捨ててアキヒロが立ち上がった。
登場したキャラクター等の名簿的なものは必要か否か
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いる
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いらない