【マンガ化】焼肉スコスコスコティッシュフォールド【進行中】   作:goldMg

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81_上層

 

 先ほど正面から出くわしたマダラ模様の柱が高く立ち上がっている。上が頭だとすると首元に違和感を感じるが、天に登ろうとしているのが異常な行動であるのは間違いなかった。

 それほど高く上って何があるのか、目を凝らすアキヒロ達の目の前でヘビは真っ直ぐを保ったまま横向きに倒れていく。

 

「ドミノか? ……あ、首が」

 

 パックリと首が裂け、倒れていく胴体から頭だけがやや取り残される。三年峠を転がるおじいさんのようにコロコロと。自由落下加速度を得た頭部は背中を伝って落ちていった。

 

「へっ、討伐完了ってやつだ」

 

「…………おお! すごい! 見たい!」

 

 ものすごく頭の悪い感想を抱いたアキヒロがすぐに行こうと提案したが、ルクレシアはそれを止めた。

 

「なんでですか」

 

「倒したばっかのモンスターの周りってのは魔素が多いからだよ。いきなり吸い込んだら目玉飛んだりするからやめとけ」

 

「やめときます」

 

 目玉が飛ぶと聞かされては流石に躊躇する。

 

「それに──」

 

「え、まだあるの?」

 

「血の匂いに釣られて別のモンスターが集まるかも」

 

「あー……」

 

 あまりにも一般論すぎてアキヒロの頭から抜けていた事だった。野生の動物は血の匂いに敏感だ。数km離れていても嗅ぎつけることがあるという。

 

「私だって匂うんだぜ?」

 

 鼻を指先で軽く触れる。

 彼女にはあの蛇の死血の匂いがわかるというのか。

 

「普段はこっちの力と一緒で抑えられてるけど、ダンジョンに来ると勝手にな」

 

「へえ〜、やっぱ探索者って便利ですよね」

 

「まあな。常に全開しか出せないならモノをぶっ壊しちまってマトモに生活なんてできねえよ」

 

「赤ちゃんだって産道で潰れちゃうから産めませんもんね」

 

「…………は、はあ? 何の話だよいきなり……」

 

「いや、引退した時は子供とか欲しいんじゃないんですか?」

 

「知らねえよ!」

 

「またまた〜」

 

「うるせえっ!」

 

 ルクレシアが真剣でないということはそういう場面ではないのだ。アキヒロは思う存分にちょけていた。

 

「どうなんですか、ウルフさんとは」

 

「やめろよそれ……マジで全員聞いてくるじゃねえか。しかもお前はダンジョン内で……マジふざけんな」

 

「はは……だってほら、この会話が最後になるかもしれないじゃないですか」

 

「……へっ、信用ねえな」

 

「いやいや、信用はしてます。金も払ってないのに俺たちをこんなところに連れてきてくれたんですから」

 

「はあ……いきなりお前らの首を掻っ切るかもよ?」

 

「ああ、それも考えたんですけどね。その場合──ソフィアはどっちにしろ何かしなきゃ死ぬんでノーダメです。俺は普通にノーダメ。ロイスも自分の意思だからノーダメ。コマちゃんは可哀想だけど……まあ、あんまり殺されるデメリットってないんですよ」

 

「……虚勢じゃないな」

 

「だから、話せることは今のうちに話しておきましょう? 本当はもっと普段から話したかったんですけど……なにぶん色々とお任せしてましたから」

 

「安心しな。死なねえよお前らは。私たちが守ってやるからな」

 

「頼もしいです。本当に」

 

「……やめだやめ、こういう変なのは私たちには似合わねえ」

 

「俺はそんなこと思いませんけど」

 

「これでもお前よりずっと歳上なの。同じノリだと恥ずかしいってわけよ」

 

「へー……150歳くらいですか」

 

「バカにしてるのかな?」

 

「いや、ずっとって言うから……」

 

「バカにしてるだろ」

 

 ──木立を揺らす微かな音が、遥か上から聞こえる波の音に混ざってザワリと全員の耳を撫でた。

 

「!」

 

「まさか別のモンスターか……いや……この感じ……?」

 

 ルクレシアの耳にだけは、接近している相手の正体が朧げに掴めている状況。しかし、油断はできない。

 

「──はっ!」

 

 湿った空気をすら貫通して電子が弾ける。刺々しく纏ったのは彼女の異能の一つ。とても派手で格好の良い雷電の操術だ。

 3人を完全に後ろに下がらせ、警戒すべき方向にだけ注視を向ける。低く姿勢を保ち、トップギアに至る準備は万全だった。

 

 一際大きく木立が揺れ、そして飛び出した。

 

「じゃーん! ははは、モンスターだと思ったか! 俺たちだ! 万事喝采! あのモンスターはしっかりと処理しておいた!」

 

「んだよ……」

 

「なぜガッカリするんだ!?」

 

「お前が来ると五月蝿くて仕方ねえ。どうせならくたばってりゃよかったぜ」

 

「それが愛しきヴィクトリアからの本心ならば受け入れようとも!」

 

「……ふんっ」

 

 なお、同行しているアオキはこのやり取りに辟易しているものとする。

 

 

 ──────

 

 

「やったんですね」

 

「あー倒した倒した。血の匂いに釣られて別のもやってくるから、このバカに纏わり付いた汁をさっさと落とさなきゃいけなくて大変だったぜ」

 

「汁? 変なのかけられたんですか」

 

「お前が想像してるようなのじゃねえよ。血と毒だ」

 

「毒持ちだったんですね」

 

「鱗の裏にびっしりとな」

 

「えっ……よく最初の這いずりで俺たち死にませんでしたね」

 

「腹側にはなんもなかった。移動中まで毒を撒き散らすなんてアホな生態じゃなかったみたいだな」

 

「ですねえ……」

 

 アキヒロはマジマジとアオキの姿を見つめる。

 甲冑武者だ。

 今さっきまで巨大なモンスターと戦っていたとは思えない落ち着いた姿。本物の武士がこの世界に存在していたら、これくらいの立ち回りなのだろうか。

 

「そんで、またソフィアは気分が下がってるみてえだな」

 

「ん? ……ええまあ」

 

「ガキらしいっちゃガキらしいが、土壇場で出すのだけはやめて欲しいぜ」

 

「大丈夫です。あの子は強い」

 

「前から思ってたんだが……お前はちと甘すぎる。何でもかんでも肯定すればいいってもんじゃねえぞ」

 

「何でもかんでも肯定はしてないですよ。信じてるだけです」

 

「何がちげえんだよ」

 

「信じて声をかければ人はそれに応えてくれる。俺はこれまでそうやって生きてきました。だから今回も──それに信じるだけならタダですからね!」

 

「…………なんてやつ」

 

「なんですか?」

 

「なんでもねえよ」

 

 倒した蛇の死骸へは近寄らない。既にモンスターが集まっている頃合いだろう。いたずらに危険を加速させて良いことは何もないのだから。

 

「それにしてもアレだな……下が怖え」

 

 川が流れているのを見て、アキヒロはポツリとつぶやいた。地形特性的に谷間というのは川になりやすい──というよりも、水が流れたところが谷になるわけだがここはダンジョンだ。それも、幅があるとはいえ進むことのできる向きは二方向に絞られている。

 先ほどはウルフがそこで体を清めたとのこと。びしょびしょだったのはルクレシアが炎で乾かした。

 

「何が怖えって?」

 

「水流があるって事は終端があるってことです。規模はどうあれ、そこには水たまりができる。それが怖いんです」

 

「そうだな」

 

 皮肉もなくストレートにそれを認めたという事は、アキヒロの懸念は概ね正しいのだろう。

 

「水溜まりがダンジョンの終わり部分とも限らないし……何よりモンスターがいる可能性も高そうですからね」

 

「大抵はでかいのがいるけどな」

 

「さっきのより?」

 

「大きさはあんくらいだけどレベルがちげんだよ」

 

 モンスターと遭遇したことで逆に緊張が少しずつほぐれていた。ロイスとソフィアはまだ口を開く気にはならないようだが、それも時間の問題か。

 

「水に困らないのは良い事だけどな」

 

「生で飲むんすか」

 

「他にあんのかよ」

 

「探索者の皆様方のムキムキ内臓とムキムキ白血球くん達ならいけるかもしれないですけど、俺たちみたいなのが飲んだら間違いなく病気になりますからね」

 

 川は生物にとってまさしく生命線だが、汚染がつきまとうものだ。特に人間にとっては深刻な問題として立ちはだかる。動物の糞尿や単純な皮脂、血液、土壌の流入などの様々な要因によって、透明に見える川でも人間の飲用に適している可能性は低い。

 とにかく石橋をピッケルで叩くくらいの慎重さで進むべきだ。端末の通信がつながったとしても、誰も助けに来られないのだから。

 

「喉乾いた……」

 

 2人がそんなことを話していたからだろうか。ロイスが喉の渇きを訴えた。

 すぐに川縁に跪き、飲もうとする。

 慌ててそれを止め、生で飲んではいけないことを伝えた。細菌がどうとか言ったところでわからないので、とにかくきれいに見えても汚れていると念押しする。

 

「えー……目の前にこんなにきれいな水があるのに飲めないのお……」

 

「なので煮沸します」

 

「しゃふつ」

 

「煮立てれば、ある程度はきれいになるのですよ」

 

「じゃあ飲めるの?」

 

「煮沸した後なら」

 

「やりい!」

 

 しかし、火を立てるとなるとモンスターが寄ってくる危険がある。そこについては──

 

「そんな気にしなくていいぞ」

 

 アオキはそう言った。

 モンスターの中には、ドラゴンをはじめとして火を使う種類も多くいる。

 水棲種だろうが空棲種だろうが関係なしだ。

 つまり、モンスターはそこまで過剰に火に飛びつく事はない。レベルが上がるほどなおさらに。

 

「そうなると、ここだと火で追い払うのも難しいわけだ」

 

「火で追い払えるのなんて低レベルモンスター位だろ」

 

 目的は飲料水の確保なので、実際のところ追い払えなくても問題はない。燃料もたくさんあるからそこに困ることもない。一級ダンジョンの名を冠する割にはぬるいというのがアキヒロの今の所の感想だった。

 

「ああ、俺もおかしいと思う」

 

 多くのダンジョンに潜ってきたウルフ達からしてもそうなのだから、環境としてはかなり安全な方だとわかる。

 

「街中にあるアンダーの方が数倍危険だぜ。どうなってんだこりゃ」

 

 何にせよ、情報が集まってない状態で来ることを決めたのはアキヒロだ。一つ一つ情報を貯めていかないと、この違和感は払拭できないだろう。

 

「水できたぞ」

 

「…………えっ」

 

「飲みたいんだろ?」

 

「いや、アキヒロくん先でいいよ」

 

「いいから飲め」

 

「お、おう……」

 

 誰から飲もうがそこまで変わらない。

 ロイス、ソフィアが飲んでその次にアキヒロも水分を摂取した。至って普通の真水。

 海水が混ざっているということもない。

 

「怖いのは、この水ですらも魔素がかなり含まれてるってことだな」

 

「ぶふーっ!」

 

「おいこらっ!?」

 

「ア、アキヒロくん!? 何でそういうこと先に言わないの!?」

 

「考えたらわかるだろ!」

 

「わかんねーよ!」

 

「ダンジョンが形成される理由を考えろよ! つーか噴き出すにしても俺の方を向くな!」

 

「このまま進んでったらもっと濃くなるってこと!?」

 

「そうだろ」

 

「…………お腹壊さない?」

 

「もしかしたら指が増えたりしちゃうかもな……なんちゃっ──」

 

「ゆ、ゆゆゆ指が!?」

 

「冗談だ! じょっ……その為に装備を整えたんだよ!」

 

「──その為に?」

 

 魔素の影響を低減するとはどういうことか。

 魔素というのは、具体的にそんな元素が見つかっているわけではない。そもそも元素、原子、分子という概念を理解している人間をアキヒロは見たことがない。

 だが、それでも世界は間違いなく変わっている。

 

 魔素が魔素が、と人は言う。

 だが、それが実際に何なのかを理解している人間はいないのだ。そこで街角先生に聞いた仮説を元に、そもそも体内に魔素を取り込まない方向性で行くことにした。

 

「この防具は、魔素を強く吸収する性質を持ってる。普通の素材よりもな」

 

「ドラゴンの鱗ってそうなの?」

 

「いいや、そういう風に加工してもらった」

 

「…………俺たちのために?」

 

「俺の為でもある。この鎧を着ていると、レベルは上がらないけど魔素による影響を極限まで抑えられるはずだ」

 

「深山商会ってそんなこともできるんだ」

 

「そう。だから……もう一度会えたらちゃんとありがとうって言いに行こうな」

 

「うん」

 

登場したキャラクター等の名簿的なものは必要か否か

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