【マンガ化】焼肉スコスコスコティッシュフォールド【進行中】   作:goldMg

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82_語り得ないモノ

「砂浜……?」

 

 歩みを進めた一行は、砂が堆積している場所に出た。中を縫うように川が流れている。

 

「上の方から流れてきた砂が堆積してるのか? それにしてもまっちろけっけだな……」

 

 砂にしても極めて粒子が細かく、サラサラとした感触だった。濡れている部分はぬかるみのようになっていて、触れるとベチャベチャとした感覚を与える。

 

「粘土みたいな細かさだ」

 

「……流砂か?」

 

「いや、流砂にしては匂いが……そもそもこの匂いはまさか……?」

 

 しゃがみ込んで調べていたウルフは、かぶりを振って立ち上がった。

 

「迂回するぞ」

 

 水場から離れるとロイスやアキヒロが必要な水分を確保できない可能性はあるが、そもそも危険をおかしてまで水場にいる今の方が奇妙に思える状況ではある。

 しかし、思ったよりもロイス達の消耗が大きかった。ダンジョンに来るまでに歩いていたからだ。

 

「ふむ……」

 

 ウルフは僅かにロイスの顔を見る。

 休憩は先ほど取ったはずだが、今すぐ休んでも眠れるほどだろう。

 

「今日はここまでだ。一旦周囲を探索して安全な場所を見つける」

 

「まだ夜ではなささうですね」

 

「ダンジョンじゃ昼とか夜とか関係ない。キリのいいところで休むんだ」

 

 周囲を探すと、岩壁に穴が掘り込まれていた。6人でも問題なく寝泊まりできるほどのスペースが確保され、中にはヤカンやテーブル、簡易な枝組のベッドまで──

 

「いや……流石におかしいだろ」

 

 岩石を掘ることを生業とする穴掘りや鉱夫がいるわけもないのに、文明圏から外れたこんな場所に生活の痕跡が残っているというのは想像の埒外だった。

 

「こんな舐めたことができるのは上位のやつらだな」

 

「そうだな。中の様子から見て最近は放置されているらしい。勝手に使ってしまっても問題ないだろう」

 

 元からあった木組は、そこら辺に生えている木と同種だ。やはり現地調達でこれを行なったらしい。

 

「2人分しかないのが気になるな」

 

「勝手にいじると後が怖えから、とりあえず外に出して後で入れ直せばいいだろ」

 

 置かれているものを壊さないように整理しつつ休むための準備を進めると、ソフィアが何かを見つけたらしい。床に落ちていた小袋を拾い上げ、観察している。

 

「ソフィア、なにそれ」

 

 皮で出来ている。

 中からは微妙に異臭を放つ紫の石が出てきた。

 シゲシゲと見つめたソフィアは、悲しそうに呟く。

 

「これ……お父さんのだ」

 

「なんだって!?」

 

「お父さんが首から下げてたの」

 

「そそそそそれじゃあここってソフィアのお父さんが寝泊まりしてたのか!?」

 

 とんでもない話だ。

 それが本当なら、ソフィアの父親はやはり探索者としてここに来ていたのだ。

 

「──お父さん」

 

 胸元で大事そうに抱きしめると、顔を上げた。

 

「ソフィア? …………あっ! ま、まっ──」

 

「私が行く」

 

 ロイスの制止が届く前に洞穴から駆け出したソフィア。

 後へ続いたのはルクレシアだった。

 

「っ!」

 

 ソフィアは遠くに行くつもりはないようで穴のすぐそばに留まっている。しかし何度も振り返り、振り向き、必死な顔で何かを探していた。それは正しく置いて行かれた子供の顔で、見つけないといけないモノが見つからない寂しがり屋の顔だった。

 

「ソフィア」

 

「お父さんが……お父さんがどこかにいるんです……!」

 

「ああ」

 

「早く行かないと!」

 

「……ダメだ。今日はもう足が動かないだろ?」

 

「でも……!」

 

 ルクレシアの言う通りだった。

 先程洞窟から出ていく時ですら、駆けるといっても足を引きずるように無理矢理な歩き方で、これ以上歩けば間違いなく倒れる。

 しかし、そんな理屈で止められるようならば最初から出てきていない。

 

「ソフィア、親父さんの声は聞こえるのか?」

 

「…………今は聞こえないです……でも、進めばきっと!」

 

「進むって言っても、お前だけじゃない。ロイスだって限界だろ? あいつを引きずって連れてくのか?」

 

「っ……う……ああ……!」

 

「──分かってたさ、こうなるのはな」

 

 冷たく、世界を凍て付かせる風が立ち込める。

 肺に取り込めば即座に肺胞を破壊し、呼吸する能力をすら失わせる死の風だ。

 この階層に存在するモンスター程度では抵抗する事すらできずに瞬間凍結するだろう、ただの人間が持っていてはいけない能力だ。

 少女は苦しみ、もがきながらその力を解き放とうと──いいや、それは語弊がある。少女は、必死に封じていた力を()()()()()()なりそうなのだ。

 

「はは……でも、こんなに凄いとは思ってなかったな」

 

 対するのは炎の嵐。

 赤い炎は不完全燃焼の証とは誰が言ったか。

 どこまでも赤い彼女の異能は鉄すら溶かし、モンスターを即座に焼き尽くすほどの力を持っている。

 そんな殺傷性能の高い異能をして、対抗し切れるかわからないだけの出力。

 

「このダンジョンにカラクリがあるのか? それとも……そんなにいいお父さんとお母さんだったのか?」

 

「あああ……!」

 

「いいよ」

 

 優しい声だった。

 それこそ母親がいたずら好きな子供を見て、しょうがない子だねと呟くような、そんな声色だった。

 

「全部、私が受け止めてやるよ」

 

 ますますの激しさ。

 ルクレシアの見つめる先で吹き荒れる吹雪は、何か風以外の大きなうねりをまとっているようにすら見える。これが真の意味で暴発すれば、落ち着いているこのダンジョン内の環境が大きく変わってしまうような気すらした。

 

「──ルクレシア」

 

「ウルフ、手を出すなよ」

 

「もちろんだ。お前のことを信じなかったことなど、1度たりともない」

 

 

 ──────

 

 

「ソフィア……!」

 

『ああああああ!』

 

 明らかに、世界を覆う空気が変わった。

 疲れ切ったロイスですら感じ取り、眠るよりも先にまずは洞窟の外で起きていることに集中せざるを得ない。

 つまり、炎と氷が激しくぶつかるその場所で視線が固定される。

 

「なんだよこれ……」

 

 思わず漏れた呟きは、偽りならざる彼の本心だ。

 あの華麗な少女が再び暴走を起こそうとしている。それがどうしても、彼には信じられなかった。

 

 ──だって、先ほどまでは普通にしていたじゃないか。

 

「アキヒロくん! ソフィアはどうしちゃったんだよ!」

 

「…………」

 

「アキヒロくん!!」

 

 アキヒロはそれを説明できない。

 たとえ彼女の内心がある程度読み取れるとしても、それを人に話すことは許されることではないのだ。

 

「なんで何も言わないんだよ!」

 

 炎と氷。

 その衝突は明白な変化を周囲にもたらす。

 前回は地表だった。

 霧季の特徴でもある霧に包まれた世界では目立たなかったが、今、彼らがいる場所はダンジョン内。

 つまり季節の霧の影響がない。

 そんな海と海の狭間に、不思議なことに霧が立ち込めていた。

 

「前が……見えねえ……!」

 

 爆発的に衝突する2つの温度は、間接的な媒体として用いられる水──H2Oの状態を激しく変化させる。

 結果として彼らの上空に水蒸気が舞い上がり、周囲へ広がり、滞留して冷やされることで霧として舞い落ちているのだ。

 覆い隠されて見えなくなった2人の姿。しかし聞こえてくる凄まじい音は、いまだに衝突が続いていることを意味していた。

 

「まさかこれほどとは……やはりここには何かがあるのか?」

 

「あるんだろうなぁ」

 

「アオキ、お前は何か感じるか?」

 

「おいおい……俺はそういうアレで食ってねえぞ」

 

「戦士の直感というやつならあるだろう?」

 

「──そんじゃあ言わせてもらうけどな。入った瞬間から嫌な予感がして仕方ねえよ。でもそんなの言ったところでしょうがねぇだろ? 来ちまったもんは前に進むしかねえんだから」

 

「ふむ……」

 

 2人は冷静だった。

 それが気になるのがロイスだ。

 

「2人も! ルクレシアさんが心配じゃないの!?」

 

「探索者ってのはこういう状況を何度も体験してんだよ。今更この程度で驚いてたら二級なんてやってられないっつうの」

 

「……!」

 

「それに、さっきの話……何でもかんでもアキヒロに聞けばいいってわけじゃねえぞ。そいつだって答えられないことぐらいある。むしろ、お前が考えた答えを──」

 

 一際おおきな爆発がアオキの声を覆い隠した。

 

「うああっ!?」

 

 むわりと熱く、勢いのある霧。

 単純な風などよりも余程重さをもって襲いかかったソレに、ロイスはその場で横倒しに倒れた。

 アキヒロも同じようにすっ転んで情けない姿を探している。

 

「う、うう……」

 

 数分続き、やっとこさ起き上がる余地が生まれる。

 

「終わったっぽいな」

 

「──ソフィア!」

 

「あ、おい」

 

 子供は、誰だっていきなり走り出すものだ。

 ロイスは無我夢中で霧に突っ込んだ。

 

「ううっ……!」

 

 分厚く、そして重い。

 霧とは思えないほど粘っこく体にまとわりつく上、ルクレシアの異能の影響でシンプルに熱い。ただの人間であるロイスには、そんなことですら深刻なダメージを与えるのだ。

 防具をまとっているからこそ『熱い』程度の肌感覚で済んでいた。

 

「ソフィア……!」

 

 霧の中を、棒のようになった足で駆け抜ける。その速力は素の彼自身が出せるソレよりもずっと高かった。それに、少女の位置を感じ取る力も。

 あっという間にたどり着いた。

 

「──ソフィア!」

 

「おお……お前、なかなか根性座ってるな……」

 

 足を崩したルクレシアの膝の上に、ソフィアは頭を寝かせていた。どうやら眠っているようだ。

 

「終わったら、案の定気絶しちまったよ」

 

 しかし、2人ともボロボロだ。

 

「はぁ……私も疲れた。こんな短期間で威力が……真実に近づいてるってことなのかね。何にせよ……後は任せた……からな……」

 

 ソフィアに膝枕をしたまま、ルクレシアは同じように後ろに倒れ込んだ。気絶する1歩手前でかろうじて意識を保っていたのが、ロイスを見たことで緩んだらしい。

 

「──運ばなきゃ」

 

 ロイスは無意識にそう呟くと、ソフィアを抱き起こす。

 

「すう……すう……」

 

 意外と穏やかな寝息の少女をなんとかこうにか背負い、ルクレシアはアーマーを掴む。

 

「ふんぎぎぎ……!」

 

 火事場の馬鹿力──ではなくてアイテムの力だが、ロイスは何とか2人を運んでいた。ソフィアは肩からずり落ちそうだし、ルクレシアに対するソレは女性の運び方じゃないだろうというツッコミが入りそうだ。なにせ地面を引きずっているのだから。

 それでも途中、ウルフに引き継ぐまではしっかりと両手で保持していた。

 

登場したキャラクター等の名簿的なものは必要か否か

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