【マンガ化】焼肉スコスコスコティッシュフォールド【進行中】 作:goldMg
「ぜひー……ぜひー……も、もう無理……本当に動けない……無理……」
洞窟に戻るなり倒れ込んだまま動けなくなりそうだったロイスを見かね、アキヒロはまずソフィアをベッドに運んだ。男の子なら大丈夫という熱い信頼の元に行動をした結果だ。
「おいしょと」
ロイスも同じようにベッドに寝かせて、さっさとアーマーを脱がす。近くで火を焚くと洞穴内部に煙の匂いが充満するが、爆発的に外に充満していた霧の中にいた2人はびしょ濡れだから仕方ない。
そのおかげで体の汚れも落ちているので、むしろ儲けものだ。
「風邪ひくなよ〜」
祈るように2人の身体に布を被せる。
例のリュックは本当に色々なものを入れられた。
アキヒロの野営品全てをというわけには行かなかったが、こうして寒そうにしている2人にかけるための布ぐらいは用意できた。
「寝て起きりゃあスッキリするだろ……するよな?」
「おい」
「あ、はい」
焚き火の反対側でベッドに寝そべっているアオキの雑な呼びかけに応えてそばに寄ると、存外に真面目な顔をしている。
「あいつら……さっさとくっつけたほうがいいんじゃねーか?」
「うーん、それはどうですかね」
「そうすれば少しは気持ちだって落ち着くだろ」
「いやいや待ってくださいよ。こんなダンジョンの真ん中で集中の途切れるような関係にさせられるわけないじゃないですか」
「そうか?」
「想像してくださいよ。コマちゃんとルクレシアさんの間に挟まれた2人がチラチラ目線合わしてるところ」
「……見るに耐えねえな」
「いや、それはそれで眼福ではあるんでしょうけど……そうじゃなくてですね?」
要するにアキヒロが言いたいのは、先のことを考えず男女の関係になるのは碌なことにならないという話だった。
「ルクレシアにばっか負担がかかるんじゃ、それこそ待ってくれって話だぞ」
こういったことに関して、アオキは実にクレバーでシビアだった。
「俺とウルフの2人で何かが不足してるってわけじゃねえけどよ。あの火力を間近で耐えるのはなかなかきついだろうからな」
「…………」
だからこそ、早急にダンジョンを攻略する必要があった。外にいた時に散々急いでいたのはこうなる事が目に見えていたからだ。
ただの傷ならば回復薬で治せるが、体力というのはそう簡単には戻らない。無理をきかせれば最大値が減少し、次の日の行動に露骨に影響与える。
ともかく、今日は休むことが先決だ。
「あいつら飯も食わないで気絶しちまったからな……せめて俺たちは食っとくぞ」
「はい」
しこたま腹に詰め込んで、ローテーションで火の番を組んだ。アキヒロに多少の余裕があったし、逆に戦闘を行った2人は消耗によってそ余裕が削れているからだ。
「…………」
自分の番になって静かに火を見つめるアキヒロ。
天頂から届いていた光も今はなく、谷は静まり返るのかと思えばそうではない。明らかにモンスターのものと思しき声が聞こえてくる。
流石に勘弁してくれと縮こまるが、声はいずれも遠くからしか聞こえてこない。それに思い返すと、爆発があったにもかかわらずモンスターからのアクションは無かった。
「これは……一体どういうことなのかな」
考える。
だが、ダンジョンとモンスターについて一般プラス多少の知識しか持たないアキヒロでは深い考察を落とすことができなかった。
ソレについては考えを後回しにする。
ウルフ達も同じ思考には辿り着いているだろうと踏んで、次の日に話を聞けばいいことにしたのだ。
「ひん」
「──こっちおいで」
暗がりに立つコマちゃんはうつらうつらとしているが、四足を必死に動かしてアキヒロの胡座に辿り着いた。
丸くなり、すぐに寝息を立てる。
「わふっ……わふっ……」
夢を見ているのか細かく寝言を言うコマちゃんの頭を撫でれば、暖かな香りがこぼれ出す。まるで柔軟剤のような犬だと夜中の思考が導き出した。
「犬って普通でっかい動物がいたら暴れ出したりするもんだけど……お前は賢いなあ。いい番犬になれそうだ」
少なくとも強盗如きに負けるフィジカルじゃないのは、2人を引きずり倒した時の力強さが証明している。力を込めて握っただけで折れてしまいそうな脚だが、そうではないのだ。
──────
「ごめんなさい……」
「気にすんなよ。あーいうのも分かった上でついてきたんだから。それに寝たら治ってんだから何も問題ねえ」
「……」
「だー! なんでお前はいちいちマイナスなんだよ! 女なら堂々としろ! 太々しく迷惑ぐらいかけろ! 私がおかしいみたいだろ!」
朝っぱらから2人は元気だった。
ソレに釣られて明宏も目を覚ましてしまった。
厳密な話をすればアキヒロが目を覚ました今が朝かどうかはわからないが、起きたのだからきっと朝なのだ。体内感覚は、1日空を見なかったくらいで極端にズレるものではない。
「でも……」
「もういいから」
これ以上取り合う気はないと声が示している。ソフィアもさすがに観念してうじうじするのをやめた。
「ん〜……」
「……霧が濃いな」
「ルクレシア! 起きたか!」
全員が目を覚ますとようやく朝ごはんを食べるタイミングになる。ウルフは昨晩のルクレシアの活躍を褒めたくて仕方がなかったのか、嬉々として隣を確保していた。
「やめろよ」
「そう言うな! 頑張ったのだから!
「ったく……」
本人は口でこそ鬱陶しそうにしているが、嫌よ嫌よもなんとやらが顔に出ている。
「ソフィア! 何か身体に違和感はないか?」
「えっと……大丈夫です」
「──アキヒロ! 貴様から見てどうだ!」
「特に変なところはないですかね」
「そうか! ならばいいだろう!」
大黒柱ぐらい堂々たる態度でソフィアの状況を尋ねる。
後ろめたさなど何もない。
実際ウルフに後ろめたいことなどないのだから態度としては間違っていないが、ここまで気まずさを無視して話をできる人間はあまりいないだろう。
「ロイスも筋肉痛ぐらいか?」
「うん……」
ロイスだけでなく、ソフィアも同様に筋肉痛で顔歪めている。長い道のりを、アイテムの補助で無理やりに踏破した影響だ。しかし、この先がどれだけ長いかなどわからない。これまでの道のりが1割に満たない可能性だって十分にあり得る。
「薬使おう」
「薬……へんなやつ?」
「変なやつ」
「うえー……」
「痛いのなくなるんだから良いだろ」
「だけどさー……」
「ほら、文句言わず飲め」
「えー……」
ブーブーと文句を言いながら、朝飯と共に流し込んだ。
「うげぇ……」
「苦いんだ?」
「……アキヒロくんも飲んでみなよ」
カンタよろしく、『ん!』と差し出された薬を押し戻す。
「俺は我慢できるからいらん」
「えー! ずるー!」
「ずるいも何も、普段からちゃんと運動してないお前が悪いんだぞ……?」
「しょうがねーじゃん痛いんだもん」
「だから飲んだんだろ」
「……うるさい」
「そもそも筋肉痛だって筋肉が成長する前段階にいる証拠なんだから消さないほうがいいんだけどな」
「なんで? いいじゃん痛くないんだから」
「はい、もう話が合いません。この話はおわりっ!」
昨日起きた出来事はそれはそれとして、次の日にまで持ち込む必要性はどこにもない。ソフィアがそれを反省したところでどうにかなるものでもない。気にしないのが1番だと、起き抜けのロイスに言い含めていた。
「そしたら……ウルフさん」
「どうした」
「これからについて話しましょう」
「ふむ……2人でか?」
「いえ、みんなで。隠すことでもないんで」
「では──食後でいいな?」
「はい」
起きた時から位置は変わらない。
木組みの簡易ベッドに腰掛け、焚き火を取り囲んでいる。そこで改めて、対極に座っている2人が話を開始した。外の様子は霧で包まれているが、その色味からして直ぐにでも朝日が出るだろう。
「今日のことだが、やはり砂浜には近寄らない」
「モンスターがいる可能性を考えてですか?」
「モンスター、それと地形特性上のことだ」
「……ん〜……流砂、底なし沼とかそこらへんですか?」
「それもある」
「他にあるんですか」
「噴砂、砂嵐、砂爆弾、砂柱などがな」
「???」
「ほう、知らないか」
「砂嵐はまだ分かりますけど、あと三つは見聞きしたことがないです」
「そうか……しかし通らないから関係ない。我々はこの洞穴を出たのち──お、おおお……?!」
「なんだ!? うわわぐっ!」
いきなり、全員の視界が上下真っ逆様になった。
彼らがいるのは巨岩に掘り込まれた岩穴だ。下の方──つまり岩盤にまで据わっているであろうソレが容易くひっくり返されるわけはない。
しかし、確かに彼らは混乱している。
ベッドに腰掛けていたところ、いきなり天井に落ちたのだ。仕方あるまい。3mほどの高さから無防備な状態で真っ逆様に落ちれば、普通は怪我の一つでもするものだ。
一般人3名は混乱もあって立ち上がれずにいる。探索者はそれぞれのバディーの無事を確認した。
「うう……」
「ソフィア、大丈夫か」
「は、はい……防具のおかげで怪我は何も……でも、何が……?」
「……」
ルクレシアは洞穴の外に目を向けた。
モンスターが岩を転がしたのだとすれば、すぐにも戦闘になる。同じ思考に思い当たったウルフとアオキも武器を構え、3人で顔を出した。
まずはアオキが霧の中に足を踏み出し──
「──うおあっ!」
「!」
段差があるのか踏み外した。
すぐ後ろにいたルクレシアが槍先で引っ掛け、なんとか転げ落ちるのは免れたが致命的な隙だ。
ウルフはすぐさまアオキの背中を片手で握ると放り投げ、代わりに先頭を張る。
「アオキ! 気を抜くな!」
「わりい!」
「──霧を吹き飛ばす!」
剣は風を起こすのに向かない。
一体どうするのか。
「ふっ!」
「…………!」
アオキは、縦に構えた二つの剣をまっすぐに振り下ろした。ただそれだけで、風が細く渦巻いていく。
極めて局所的に発生した小規模なつむじ風はゆっくりと外へ向かい、霧に衝突した。
「巻き込んで消すのか……」
「…………いや、無理だな」
つむじ風が通った場所は周囲も巻き込んで一瞬だけ霧が消えるが、直ぐに見えなくなる。
「魔素を含んだ霧だからか」
「どうするんだウルフ。霧なんか無視して一旦外の様子を見たほうがいいんじゃねえか?」
明らかに状況がおかしい。
情報を収集整理しなければ出発はできない。
しかし、一晩経ったからか、はたまたソフィアとルクレシアの異能によるものだからか、霧を吹き飛ばすことができない。
「…………ん? これは……少しずつ薄れているような……」
「薄れてるっつーか……霧、動いてねえか? つーか落ちてねえか?」
理由はわからないが霧が勝手に薄れていく。
そういうことであれば消えるのを待つのが吉。
ロイスとソフィア、そしてアキヒロは洞穴のなるべく奥に寄り、3人が何かを言うのを待っていたところ──
「──おいおい」
薄れ、にじり消えていく霧に目を凝らしていたアオキが、心底からの呆れ声を出した。
「おい! アキヒロ! まずお前だけ来い!」
「はい!」
言われた通り入り口に近寄り、めにする。
「………………」
無言。
アキヒロは全くの無言だった。
反応一つ見せない。
「アキヒロくん、大丈夫そう?」
「…………あー……そうだな、2人も見な」
なんとも気まずそうな顔で呼びつける。
「ソフィア、行こうか」
「うん」
近寄るロイスだが、何かおかしなものを感じた。
今自分たちがいるのは洞穴で、岩の中。
そこは確かだ。
足が乗っているのも岩の上。
しかし、なにかおかしい。
距離があって小さく見える洞穴の入り口からの景色に何か違和感があった。しかし隣のソフィアを不安がらせないよう内心に押し込めて近付く。
そうして近付くことで、その景色は確定されていった。
入り口に辿り着く頃にはもはや見開いた目が閉じない。
「う、嘘……」
「あ…………」
2人の視界に広がる景色。
海に挟まれ、岩場に木々が茂るダンジョンは確かにあったはずだ。
そこを通ってやってきたはずだ。
しかし眼下に広がるものは。
そして頭上に広がるものは──
「なんで空が下に……?」
ぺたりと尻餅をついた2人は、目を見合わせるしかなかった。
登場したキャラクター等の名簿的なものは必要か否か
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いる
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いらない