【マンガ化】焼肉スコスコスコティッシュフォールド【進行中】   作:goldMg

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84_木から木へ

 

「こ、これっ、どどっ、どうなってんの!?」

 

 あまりの光景に腰を抜かす。

 なにせ今ロイスがいるのは、ただの岩穴などではない。もしも足を進めれば極限環境に適応した空棲種達の住む空まで真っ逆様、燕の巣のようにダンジョンの天蓋に張り付いた限界安全地帯の崖の縁なのだから。

 

「空……だな」

 

「空って! だって、俺たちダンジョンに入って……ええ……?」

 

「俺も細かい事は知らねえよ。でも、どう考えてもあれは空だろ」

 

「…………」

 

 ロイスが取り乱しているから表に出さないだけで、全員が動揺している。特にアキヒロはじっと空の底を覗き込んでいた。それがまるで自殺しようとしているように見え、ウルフは肩をつかんだ。

 

「危ないぞ」

 

「……落ちたら、どうなるんでしょうか」

 

「さぁな。途中でモンスターに食われるか、それとも別の場所にブリンクするか」

 

「どちらもなかったら?」

 

「それこそ想像する意味もない。無限に落ち続けるのがオチだろう」

 

「無限に……そうか、その可能性もあるか」

 

「何が気になる?」

 

「何が反転しているのかが気になったんです」

 

「何がって……そんなの上下だろう?」

 

「…………今はやめておくか」

 

「またよくわからんことを考えおってからに……せめて俺ぐらいには共有してくれ」

 

「…………俺も別に研究者ってわけじゃないんで複雑なことを考えてるわけじゃありません。その上で何かを言うなら……仮に上下が丸ごと反転しているのであれば、世界がそのまま落ちていくはずですよね? でも実際はそうじゃない。おそらく影響範囲そのものはダンジョンに限られてるはず。じゃあ何がそれを取捨選択してるのか、それが気になった。その母体さえわかれば、この上下反転も解決できるはずです。あるいは、解決できないことがわかるかも……」

 

「……よし、うん、よくわかった! 空が下にある! 一先ずはそれでいいな!」

 

「ええ」

 

 とにかく、問題はそれだ。

 彼らはホモサピエンス。

 探索者を純粋にホモサピエンスと呼べるかはともかく、猿から進化した生き物だ。翼は無い。おならや脚力で空を飛べるわけでもない。

 しかし、この空の上にいる状態から、落ちないようになんとか移動していかなければならなかった。

 

「俺は飛べるぜ」

 

「ええっ!?」

 

 人が空を飛ぶ。

 

 アキヒロは勿論それを見たことがあるが、まさかまたそんな特殊な力を持つ人間に会うとは想像していなかった。

 

「ちなみにアオキさんはどうやって空を飛ぶんですか?」

 

「俺は空中を踏む──というかあれか、四門光輝か」

 

「はい」

 

「教え甲斐のねぇ奴だな……」

 

「はっはっは」

 

「かわいげもねえときた」

 

 しかし、1人2人飛べたところで関係ない。1番大事なソフィアを運ぶ方法を確立しなければいけないのだ。

 しかも、モンスターすらいるこの場所で。

 

「まあ…… 1つしかないな」

 

「うーん、やるしかないとはいえ本当に大丈夫なのかちょっと不安ですね」

 

 やることはひとつ。

 

「──ア、アアアアアキヒロくん! 本当にやるの!? 木と木を移動していくって……本当に!? なんでそんな楽しそうなの!?」

 

「やりまあす!」

 

「……え? 聞いてる? 俺の声聞こえてる反応だよね?」

 

「まずは俺がやるから、ちゃんと見とくように」

 

「なんか噛み合わない……」

 

「じゃあアオキさん、お願いします!」

 

 鎧も荷物も身に付けたアキヒロの重さは、物質的には100kgなど余裕で超えている。だがアオキはそれを容易く背負い、河岸をのんびりと散歩しているが如き軽い足取りで歩みを進めた。

 

「ほおお……空を歩いてる」

 

「探索者続けてりゃ必要な場面も出てくる。そうすると勝手にできるようになるんだよ」

 

「いいですねぇ」

 

「お前ほんとにそう思ってんのか?」

 

「いいじゃないですか階段が要らなくて。縦穴だけ用意しとけば1階と2階行き来できますもんね」

 

「舐めんな」

 

 洞穴を踏み越え、先ほどは落ちかけた空の道を闊歩しているにしてはあまりにも日常の会話だ。数メートルで一本目の木に辿りつき、太ましく育った幹から伸びる枝に載る。足を乗せてと全く音を立てず、折れる気配は全くない。

 何度も強く踏んでも大丈夫だ。

 

「流石はダンジョンに生えてるだけあるな」

 

「……お前怖くねえの?」

 

「スカイダイビングの経験はありますからね。そこまで空に恐怖を抱いているわけじゃないです」

 

「んなあ……もういいや、よくわかんねえ」

 

 次にやってきたロイスは隣の枝に立った。しかし、一歩でも動けば落ちてしまうと根本に張り付いて動かない。

 実際、風の抜ける音や時折モンスターが落下していく鳴き声などを聞いてしまえばそうもなるだろう。

 

「ロイス、そんなガチガチじゃ逆に危ないぞ」

 

「そ、そんなこと言ったって……だって、これ落ちたら戻ってこられないでしょ?」

 

「うん」

 

「ほら!」

 

「だからもう少し緊張崩さないと、ほんとに落ちるぞ」

 

「無理だよ! だって俺、こんな高いところ来たことないもん!」

 

「俺も上空100kmまで行ったことはないよ」

 

「と、とにかく助けて!」

 

「助けるも何も……まあいいや、じゃあそっち行くぞ」

 

「へ」

 

 ロイスが目を開けたとき、アキヒロがちょうど枝から枝へ立ち幅跳びをするところであった。

 

「ふう、これでいいだろ」

 

「──」

 

 もはや口をパクパクさせるばかりで何も言えない。

 すぐ隣にやってきたアキヒロのことを、永久に理解できないナマモノとして見ていた。

 

「落ちる時は一緒だな」

 

「あ……ああ……あ……」

 

「……ソフィアも来るんだから、もう少しシャンとしとけ」

 

「そ、そっか………………やっぱ無理!」

 

 次に来たソフィアは、ロイスと違って怖がることもなく堂々たる立ち姿で高笑いを──そんなわけもなく。

 

「ひいいい……!」

 

「しょうがねえなお前は……ほら、掴まれ」

 

「ごめんなさいい……」

 

「…………ふっ」

 

 バディー(ルクレシア)の身体に必死にしがみついていた。そしてルクレシアは、そんな様子を2人に見せ付ける。なんの意味があるのか、アキヒロが首を捻っていると隣から歯軋りの音が。

 

「ぐぎぎ……本当なら俺が……!」

 

「意外と大丈夫そうか?」

 

「無理!」

 

「はい」

 

 

 ──────

 

 

「うわあ……もう洞穴がどこかもわかんなくなっちゃったよ……ひっ!?」

 

 しばらく進めば、当然のことながら寝泊まりした岩穴は隠れて見えなくなる。そしてひっくり返った世界の中で変わったことはもうひとつ。

 

『グギヤアアアア!』

 

「また来やがったか!」

 

 頻繁な襲撃だ。

 隠密アイテムのおかげか、それとも強者の気配を感じているのか、ウルフやアオキを目掛けて飛来するモンスター達。

 いずれもレベルにして50近く。

 3人が全力で戦うことを求められていた。

 

 しかも今回やってきたのは──

 

「サンドドラゴンがなんだってこんな場所に……あの砂地のどこかにいたのか!?」

 

 砂の鱗を纏い、ゆっくりと漂う竜の周囲にはこれまたサンドの名に相応しく砂の槍が並んでいる。宙に立つアオキの身体に風穴を開けたくて仕方がないようだ。

 

「サンドドラゴンは一頭で行動するドラゴンだ! 恐らくこいつだけだろう!」

 

「んなこたあわかってる!」

 

 分かってはいるが、容易に戦えるものでもない。

 アオキは確かに空中を闊歩することができる。だが所詮は足場として踏む程度、空を自在に駆ける本物に敵うわけもない。

 しかも、無尽蔵に空を走り回れるアオキと違ってウルフやルクレシアは制限がある。

 加えてこの場にいるのは探索者だけではなかった。

 

『ギャオオッ!』

 

「──っ!」

 

 ロイスらが載っている木に直撃しかけた砂の槍が弾け飛ぶ。やったのはソフィアの隣にいたルクレシアだ。

 しかし砂と一口にいってもそこら辺にあるモノではない。ダンジョン内部で魔素に晒され続けた砂をドラゴンが操っているのだ。ひとつ当たれば一軒家が衝撃で吹き飛ぶ。

 そんなものを迎撃したルクレシアは何でもないように槍を構えているが、額にはわずかな滴が浮かんで見えた。

 

「ルクレシアさん……大丈夫ですか?」

 

「大丈夫だ! 反対側に引っ込んでろ!」

 

「は、はい!」

 

 なりふり構わない指示。

 ソフィアはおっかなびっくりの腰をなんとか据え付けて移動しようとするが、枝から枝へすら足を渡すことができなかった。

 

「ソフィア! ジャンプできるか!」

 

「むむ、むむむっ、むりっ! ですっ!」

 

「……そっち行くぞ!」

 

 枝から枝への移動はお手の物と、ソフィアの乗る枝へ飛び移る。

 

「ほら、掴まれ」

 

「はいいい……!」

 

「落ち着けって」

 

「ドラゴンがいるんですよ……?!」

 

「そうだな。よし、ジャンプするぞ」

 

 鍛えている人間であっても、1人の人間を背負って1m以上の跳躍をすることはかなりの労力となる。だが、アキヒロの脚は柔らかに沈み、軽やかに伸び上がった。

 

「いいいい!」

 

 半泣きでしがみついているソフィア。ロイスも恐怖で憔悴した顔のまま木に張り付いていた。

 そんな情けない姿を笑える人間は、しかし存在しない。

 

「もうやだ……」

 

「帰りたい……」

 

 折れかけているのではなく、完全に折れている。

 しかし他4名は全く容赦なく先に進むことを強要していた。引き返しても意味がない事を理解しているからだ。

 

『ギャオオオ!』

 

「なんつう汚ねえ鳴き声だ……」

 

 サンドドラゴンは、赤子の泣き声を低くしたような声の持ち主だった。追い縋ろうと駆けるアオキを嘲笑うように空を自在に飛び回り、最初の槍以降はその攻撃の矛先をアオキのみに向けている。

 

「探索者ってのは1人でも意外とやれるモノなんだな。まあ何も見えないけど」

 

 木の葉の隙間から覗く様子。

 重苦しい風切り音とともに巨体が近くを飛び抜け、その直後に小さな生き物が走り抜けていく。人間の眼では捉えられなかった。

 

「ううあ……気持ち悪い……」

 

「私も……」

 

 精神の異常は即ち脳の異常。

 あまりの恐怖で吐き気を催し、空の彼方へ向けて朝飯を一部奉納した2人は、それでも落ちまいと必死にアキヒロの身体を掴んで離さない。アキヒロもそんな2人をしっかりと抱き寄せながら、下を見つめる。

 

「このままで何とかなるのか? それとも……終わりか?」

 

 アキヒロの疑問は、すぐに氷解した。

 

『────!』

 

『ギャオッ……?』

 

 空気を踏む。

 力を伝える。

 反作用で進む。

 全く分からない戦闘模様をなんとか見ようとアキヒロが目を凝らしている間にも、アオキは脚力にモノを言わせて加速していた。ドラゴンの飛翔にやっとこさ追いつき、それどころか、瞬間的にはドラゴンの認識可能な速度を超えて頭上に躍り出たのだ。

 

「うーん……この距離だと分かるっちゃわかるけど、やっぱ人間じゃねえな」

 

 アオキ達は──というよりもアオキが狙ってそうしているのだろう、戦闘座標が先ほどよりも離れているため角速度が落ちて動きの視認が可能になっていた。

 その上で、空中を飛び回るという無法な戦闘スタイルには呆れしか浮かばないのが地球生まれというものだ。

 

『……? …………?』

 

『ぬうあ!』

 

『──カッ…………!?!!?』

 

 細く伸びた首、つまり頚椎目掛けてメイスが振り下ろされた。纏っている砂の鱗が砕け散り、目玉が飛び出んばかりの驚愕とともに落下を始めるドラゴンの身体。

 

『……!』

 

 しかし数瞬のうちに意識を回復させる。

 錐揉みを打っていた肉体も、大きく広げた翼によって安定した。

 

『来いよ』

 

『カロロロ……!』

 

 空と地を両方とも制する筈のサンドドラゴン()を見下ろす不遜な猿目掛けて、口から燃ゆる砂を吐き出しながら急加速した。

 

登場したキャラクター等の名簿的なものは必要か否か

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