【マンガ化】焼肉スコスコスコティッシュフォールド【進行中】   作:goldMg

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85_竜をも超えるもの

 

「──な、なんだったんだ……?」

 

 アオキは武器を構えたまま固まっている。

 向かってきていた筈のドラゴンは横を通り過ぎ、どこかへと消え去った。安くはない傷を負ったにも関わらず急ぐ様子は、何かに追い立てられているような切迫したものを感じさせた。

 

 ポツンと取り残された男は、武器と気持ちだけが据え置きでやりきれない。

 

「おーい!」

 

「……戻るか」

 

 空中にただ1人立っていられるのは、優越感もあるが自分だけ働かなければならないというシンプルなデメリットも併せ持っている。今回もまたアオキ1人で戦うことになった。

 それを楽しむ性質を持っているのが、彼自身にとっては恨めしい話だ。

 

「なんだったんだ?」

 

「隠れるぞ」

 

 危機感知。

 ウルフが持つそれが働いているのだろう。

 有無を言わさない口調と顔での指示だ。

 しかし隠れると言っても──

 

「どこに?」

 

「どこでもいい」

 

「……アキヒロ、ロイス、ソフィア、お前らはここでじっとしてろ。流石に運ぶ余裕はない」

 

 ジッとすることだけならできるだろう。

 しかし、彼らがいるのは反転した木の枝の上。身を隠す、とは程遠い行動になってしまうはずだ。それでもいいのだろうか。

 ロイス、ソフィアは不安に顔を見合わせている。癖と言うほどではないが、この2人はよく顔を見合わせる。

 

「分かりました」

 

 アキヒロは一も二もなくウルフの言葉に従った。

 リュックを下ろし、中から布を取り出すとそれを纏う。地味な色で、確かにじっとしていれば紛れられるかもしれない。視力、聴力、触覚、嗅覚の全てが高水準にあるモンスターに対して『かもしれない』程度で通じるのかどうかは別の話だが。

 

「ほら、2人も」

 

「リュック下ろせないです……」

 

「じゃぁ俺が取り出すから後ろ向いて」

 

「うう……」

 

 アキヒロにしがみついていた手を離し、後ろを向くだけですら体が震える。モンスターと超高高度の組み合わせはなかなか克服できるものではなかった。

 しかし、怖がる2人を無視してでも進めなければ間に合わない。

 

「ん……あれ……なんか硬……」

 

 容赦なくリュックを開け、身体を揺らし、布を取り出し、身体を揺らし、ついでに食料も取り出し、身体を──

 

「────」

 

「き、気絶してる……」

 

 ソフィアは遂に意識を手放してしまった。

 アキヒロとてやりたくてやったわけではない。やたらとリュックが硬く閉じられていたのと中が整理されていなかったのが原因だ。

 しかし気絶されてしまえば話は変わる。

 身体を抱き留め、枝の上にゆっくりと座らせる。

 そのままだといずれ体勢が崩れていってしまうので、枝と枝でなるべく近い2本を選び、その根元にあらためて横たえた。

 

「ロイス」

 

「ひっ……!」

 

「怖がるなって。すぐ終わるから」

 

「そ、そんなの騙されないぞ……!」

 

「本当だよ。ほら……後ろを向いて、リュックの中を見せろ」

 

「そう言って揺らす気なんだ……!」

 

「いいから」

 

「いやだ……!」

 

「ロイス、マジで早くしてくれ」

 

「あ、うん」

 

 ウダウダと楽しくやっている暇はない。

 とにかく早く身を隠さなければ、何か恐ろしいものが来るかもしれないのだから。

 

「ほら、ソフィアの体支えて」

 

「うん」

 

「3人で固まってれば少しは安心だろ?」

 

「…………うん」

 

 布でくるまった3人は暫くジッとしていた。

 ウルフ達がどこへ行ったのかは分からないが、彼らが置いていくことだけはないと信じている。仮に戻ってこないことがあるとしたら、それはそういうことなのだ。

 

 ──冷たい風が吹き始めた。

 

「……ソフィア?」

 

 ロイスはポツリと呟いたが違う。

 ソフィアではない。

 彼女は確かに意識を失っているが直に触れているロイスはその身肌から特別な冷たさを感じ取ってはいない。

 しかし、吹き込む冷たい風そのものもまた偽りではない。背筋を撫でるだけで身震いをするような冷気。

 どんどんと脅威を増し、このまま止まなければそのまま自分達が凍死してしまうと脳みそが警鐘を鳴らすような風だ。

 

「ソフィア……」

 

 ロイスはソフィアの体を強く抱きしめた。

 冷たさで苦しんでいる彼女を、これ以上の冷たさで苦しめるわけにはいかないのだから。

 

 しかし風は止まない。

 冷気も、強さを増していく。

 強力な防具を纏っているからこそ耐えられる冷気。

 アイテムではない私物が音を立てて凍りつき、ものによっては儚く壊れていく。気孔から蒸散した水蒸気が凍りつくことで木の葉を覆い尽くす霜は、さらに厚みを増してもはや葉本体が見えない。

 

「はぁぁ……」

 

 吐く息も白さ極まり、肺からダイヤモンドでも出てきたかのように輝いて見える。危険な予兆に、アキヒロは2人を幹側で抱きしめた。

 

 ダンジョン。

 世界の反転。

 モンスター。

 今、2人には常に大きな心的負荷がかかっている。

 そんな状況で気丈に振る舞ってはいるが、どうしても拭いきれない幼さもあるものだ。

 

「ね、ねえアキヒロくん……あとどれくら──」

 

 高速道路をゆく車内の幼児が如く、あとどれくらいこうしていればいいのかをロイスが尋ねようとした。

 

『オ オ──』

 

 僧が寄り集まってお経を唱えているように響く低い音。

 明らかに自然発生しないであろう音がいきなり聞こえ始め、そして続いている。

 ロイスは咄嗟に口を手で抑え、アキヒロの懐に常に収まっているコマちゃんに触れた。

 

『オ オ オ オ……』

 

「っ……!」

 

 近付く音。さらに強まる冷気。ビシバシとアキヒロの背中に叩き付けられる気配が、振り向くことを全く許さない。

 

『オ オ オ オ オ オ!』

 

 すぐ近くだ。

 痛いほどの冷気が彼の鎧を凍らせ、ジワジワといやな予感を増大させていく。

 それでも声ひとつ漏らさずにロイス達を抱きしめていると、やがて気配は遠ざかっていく。

 せめて一目見てやろうと振り返り、その姿を網膜に収めた。

 

「────!?」

 

 出そうになった声をなんとか飲み込んだ。しかしこのまま見ていると正気が削がれていきそうで、直ぐさまロイスとソフィアに視線を戻す。

 

「…………」

 

「……?」

 

 やたらと見つめてくるアキヒロに気まずさと恥ずかしさが勝つのか、2人とも目が泳いでいた。

 

 

 ──────

 

 

「はぁ……怖かったです……」

 

「怖かったな……」

 

 恐ろしく凄まじいナニカが去った後、凍り付いた木の上で息をついている2人。もうこれ以上はないだろうと完全に気が緩んでいるが──アキヒロは様子が違った。

 抱きしめていた腕を離しているのは当然として、2人に背を向けてどこか遠くを見つめていた。

 髭も無いのにアゴに手をやり、何度も撫でさする。

 

「アキヒロさん、どうしたんですか?」

 

「ん? うん……怖かったなって」

 

「ですよね!」

 

「お……」

 

「でも……私、アキヒロさんに拾われてよかったって思いました!」

 

「?」

 

「アキヒロさん以外だったら、やっぱり酷い目にあってたんだろうなって……そう思いました!」

 

「……今?」

 

 そんな当たり前のことを実感するのが今というのはおかしな話だ。首を捻る彼に対して、ソフィアは笑顔を見せた。

 

「はい!」

 

「…………まあ、いっか」

 

 答えは不明。

 しかし、昨晩の暗い状態から持ち直した故の笑顔と考えると理由などどうでも良くなってくる。1人の少女の笑顔を守ることが出来たなら、雄として生まれた意味も多少はあるというモノだ。

 不明な笑顔を見せ合っていた2人と、それを怪訝な顔で見つめるロイスという図になっていた場。そこに勢いのいい雷が飛び込んできた。

 

「──おい! 大丈夫か!」

 

「ルクレシアさん!」

 

「怪我はないか? ソフィア」

 

「はい!」

 

「……」

 

 ルクレシアは、人差し指でアキヒロを指差す。

 

「なんです」

 

「及第点」

 

「なんなんですか……」

 

「それくらいはやれよ」

 

「前々から思ってたんですけど、俺だけ風当たり厳しくないですかね」

 

「……それくらいは背負ってきたんだろ?」

 

「さあ」

 

 ゆらゆらと首を揺らす姿に鼻を鳴らせば、次々と後続が姿を現した。何も表情が硬い。

 アキヒロは確信した。

 先ほど見たモノはやはり尋常ではなかったのだ。

 

「あの腕の生えたモアイみたいなやつはなんですか?」

 

「あれは……俺も初めて見たけど、多分ゴーレム系のモンスターだ」

 

「ゴーレム……」

 

 それは、少なくともアキヒロの知識では空想上の生き物だった。

登場したキャラクター等の名簿的なものは必要か否か

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