【マンガ化】焼肉スコスコスコティッシュフォールド【進行中】   作:goldMg

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89_限界は近い

 

「えいしょ」

 

「……」

 

 アオキは静かに状況を掴んでいた。

 体調もある程度落ち着いている。

 黙ったままにしているのは、存外にアキヒロの乗り心地がいいからだ。加えて、動き回りながらよりも、ヒューマンスケールの人間の速度で辺りを観察する方が次の一手を深く考えられる。

 

「ふう……なんか、そういうゲームのキャラにでもなった気分だ」

 

 ただ、ドラゴンに見つからないように降りていく。

 シンプルだが、そもそも熟せているかどうかもわからない。

 

「100mくらいは降りたか」

 

 見上げると、最初に乗っていた岩は既に小さく見える。飛び降りるという行為の安直さと手っ取り早さがわかりやすく表れていた。

 しかし、数分で移動したわけではない。浮遊岩は風の影響なのか常に動き回っている上、その軌道も線状ではなく面的な動きだ。願う通りの方向に進んでいる岩を見極めてから動いているから、垂直落下という言葉から想像するよりは時間が経過している。

 

「あの豆粒がドラゴンだな……飛んでるし……ん?」

 

「…………!」

 

 遥か下層にて青い光が煌めいた。

 一点から放たれたかと思えば複数に分かれて広がり、また別の点に集中する。

 赤い花がいくつも咲くさまは、正しく花火のような光景だった。

 

 遅れて聞こえたのは爆発音。

 

「戦ってるのか? 参ったな……このまま降りてったらアレに近付くってことだよな。ソレは結構きついぞ──ってそうじゃない! まさかルクレシアさん達が?!」

 

「いや、違う」

 

「え? ……起きてたんですか」

 

「今起きた」

 

「じゃあ降りてもらっても?」

 

「しゃあねえな」

 

「しゃあねえなってなんだよ」

 

 背中から降り、コキコキと骨を鳴らす。

 

「ありゃウルフ達じゃねえ。別のモンスターだ」

 

「……そうですか、じゃあどうします」

 

「どうしますって……俺がいるんだから飛んできゃいいだろ」

 

「あ、そうか」

 

「ほれ」

 

「失礼します」

 

 今回は2人揃って戻る。

 流石に、ドラゴンの巣窟にアキヒロを1人で残すのはナシという話だ。

 

「そういえばウルフさんは大丈夫ですかね」

 

「大丈夫だろ」

 

「アッサリですね」

 

「そんなもんだ。死ぬときゃ死ぬ」

 

「……ありがとうございます」

 

「気持ち悪いな、やめろ」

 

 ロイス達の元に戻ると、ウルフはアッサリと戻っていた。

 

「あのあと探そうかとも思ったのだが……不用意に進めば合流が不可能になると思い直してな」

 

「確かに……」

 

 至極真っ当な理由で戻っていた。

 

「ドラゴンの巣!? 俺たちそんなところに行くの!? やっぱり騙されてない!?」

 

「他の道がここより緩い確証なんてないけどな」

 

「……時間が、ないんだもんね」

 

「そういうこと」

 

「よ、よし……でも、どうやって行くの?」

 

「かなり高度を下げる」

 

「え?」

 

「下」

 

「…………」

 

 

 ──────

 

 

「下見ない下見ない下見ない下見ない下見ない」

 

「…………っ!」

 

 今回は、3人まとめて運んでいる。

 クリスタル地帯直前まではバディー同士で組んでの移動。戦闘が起こらなかったのは奇跡か。

 そこからアオキがソフィアをおんぶ。男子2人は脇に抱えてかなり下まで降りた。

 先ほどと同程度の高低差を移動したはずだが、いまだに崖は高く見える。

 

「俺たち、こんなに降りたっけ?」

 

「まあ1日かけて下り坂だからな。こんくらいは降りてても全然おかしくない」

 

 あまりにも谷の幅が広いため、距離感覚すら狂ってしまっていた。

 

「アオキさん、ぜっっったいに離さないでくださいよ!」

 

「ああ? ……ああ、お前が暴れなきゃ離さねえよ……おっと!」

 

「ぴいいああああ!」

 

「がはははは! 冗談だ冗談!」

 

「じょ、冗談になってねえよー!」

 

 見つけたのは大岩。

 アオキは今度こそパーティーメンバーを迎えに行った。

 

「こんな上空にまで岩が浮いてるなんて……俺んちみたいだな」

 

「確かにロイスの家もこんな感じだったな」

 

「……」

 

「……」

 

 2人は同時に黙り込むと、同じく顔を見合わせた。

 

「流石にないよな?」

 

「な、ないと思う……けど、わかんないよ……」

 

「ひゃん」

 

「あ! ほら、ないってさ!」

 

「なんも言ってないだろ」

 

「いんだよ!」

 

「……まあ、岩が浮いてるだけで霊領なんてちょっと安直すぎるか。じゃあ一旦置いとくとして……」

 

 今の今まで話していたロイスを置いて、岩から身を乗り出す。

 

「あわわわ!」

 

「おい」

 

 自殺志願者を引き戻したことで賞状でも貰えそうなのに、引き戻された側のアキヒロはジト目で睨んだ。

 

「おいじゃないよ! 何してんのさ! なあソフィアもなんとか言って──ソフィア?」

 

「うう……」

 

 冷気、白霧が漏れ出している。

 足甲越しでその冷たさを感じ取ることはできないが、彼女の様子からして相当な冷たさのようだ。差し出された手に応えるように、コマちゃんがそそくさと胸元に収まる。

 

「大丈夫か?」

 

「うん……でも、ちょっと動けないかも……」

 

「…………」

 

「ロ、ロイス君?!」

 

「大丈夫……きっと良くなるからな」

 

「…………冷たくなっちゃうよ」

 

 ロイスは、まるで何かに体を操られているかのような心地だった。自然と身体が動いていた。

 常の素面であればこんなことできない筈なのに。

 チラリとアキヒロを見れば、何も知らないと言わんばかりに再び眼下を覗き込んでいる。

 先程は止めたのに、今はとてもありがたかった。

 

「……大丈夫?」

 

「とんでもなく寒い」

 

「そ、そうだよね……危ないから離れていいよ?」

 

「いいや、離れない」

 

「どうして?」

 

「だって、ソフィアはもっと寒いんだろ?」

 

 ロイスが感じる寒さは、ソフィアの身体から出た冷気を強力な鎧越しに感じているものだ。もちろん鎧がなければ肉体が凍り付いて死に至るだろう。だが、それはソフィアの辛さに及ぶとは言えない。

 

「仲間って、こういうもんだろ?」

 

「…………うん」

 

 背後から聞こえるやり取りをアキヒロは確かに情報として手に入れた。すなわち『精神の平静時、かつアイテムなどでも抑えきれないほどに冷気が強まっている』という事実だ。

 眼下に広がる光景がソレに関係するとは思えないが、それでも何かの関連性を探した。

 

「──もう、落ち着いたかも?」

 

「そうみたいだな……良かった」

 

「…………っ!」

 

 ロイスは、ソフィアの顔色を見て微笑んだ。泣き笑いの一歩手前のような、心から安堵したような、そんな笑みだった。

 そんな顔を間近で見たソフィアは無性に顔を見ていられなくなり、慌ててロイスの胸元に顔を埋めた。

 

「そ、ソフィア?」

 

「……」

 

 呼びかけに少しだけ目線を上げる。

 美しい銀髪はダンジョンでのアレコレで汚れ、額にも泥が。それでも、瞼をゆっくりと持ち上げる瞳の大きさがロイスの視線をとらえて離さなかった。

 

「うっ! あ、いや……そろそろ離れた方がいいかなーって……」

 

「…………」

 

「あ、あーっ……と……」

 

 ロイスは頭がおかしくなりそうだった。

 

 ぐるぐると走る思考。

 至近に見下ろす銀の睫毛。

 鎧越しで肌の感触なんてまるで分からない筈なのに、触れ合っているような気分にさえなる。

 口では離れた方がなんて言いながら、そのための行動を起こす気はない。本歌にその気なら両の肩に手を添えるだけでいい筈なのだから。

 

「──おいおい、こんなところで盛るんじゃねえよ」

 

「ぴょぇぇっ!」

 

「おいアキヒロ、お前もだ。何関係ないみたいな顔してんだよ。大人の階段はまだ早いとかなんとか言ってたのお前だろ」

 

 崖下を覗き込んでいるアキヒロは、ようやく顔を上げた。

 

「アオキさん……あなたにはがっかりです」

 

「ああん!?」

 

「もう少し浪漫をわかってる人だとばかり……」

 

 失望した表情のアキヒロが宣う世迷言にアオキは怯んだ。だが、ひょっこりと肩を出すヤツも。

 

「──わかるぞ」

 

「ウルフさん」

 

「愛だな」

 

「まあ、あなたはわかるでしょうね」

 

「ふははは、分かるともさ」

 

 当人達を置いて何やら小っ恥ずかしい話を推し進めていく。溜まったものではない。

 思春期の男女にとって、この類の問題は外から茶化されると途端に身動きが取りづらくなるのだ。

 

 ロイスはギュッと目を瞑った。

 

「ソフィアの力が一時的に暴走しました。しかも感情の制御ができているのに」

 

「ふむ……」

 

 あれ、おかしいな。

 今、もしかしたら気絶していたのかもしれない。

 一瞬で話題が切り替わったような──

 

「つまり……おそらく……俺たちは合っています」

 

「そうか。それは良いことだな」

 

「申し訳ありません、俺にもっと情報収集能力があれば……」

 

「謝ることではない。ソレに、怒ってもいない」

 

「それでもです」

 

「──受け入れよう」

 

 ロイスの勘違いなどではなく、確かに話題が変わっていた。少しだけ軽かった雰囲気は上の方へ浮き消え、代わりに真面目さが下からやってきて置換されている。

 

「ソフィアの様子は……今は落ち着いているな」

 

「コマちゃんとロイスが鎮めてくれました」

 

「神に仕える一族か…………俺には想像もできない生き方だが、ロイスを見るにやはり根から善き一族なのだな」

 

「そうですね、俺もお世話になってます」

 

「……彼らと深い交友を結ぶ君は、やはり尋常ではないな」

 

「微妙に褒められてないような……ま、まあいいや。それよりも──」

 

「ああ、このまま上空を進み続けるのはどうだろうな。あのドラゴン達は間違いなく我々に気付いているようだ。いつまでお目溢しをしてもらえるか分からない」

 

「気付かれてる? それは……流石にまずいのでは?」

 

 とんでもないカミングアウトだ。

 

「この高所にいる事で、脅かすものではないと理解しているのだろう」

 

「……仮に近づいて来たら? 目を見ないようにして少しずつ後退りですか?」

 

「それは怒ってない時にしか通用しないぞ」

 

「一応通用するんだ……」

 

 しかし、そんな懸念は考え過ぎだったのか。

 一行はゆるゆるとした進行速度で高きを往くが、ドラゴンが襲撃をかけてくることはなかった。

登場したキャラクター等の名簿的なものは必要か否か

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