【マンガ化】焼肉スコスコスコティッシュフォールド【進行中】   作:goldMg

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90_輝きの竜

 

「くっ……!」

 

『…………』

 

 大岩の上で静かにしゃがみ、槍はいつでも抜けるように手は柄へ。油断なく尖る視線の向かう先は、わざわざ上空高くまでやってきたドラゴンの顔先だ。

 

「絶対に手を出すなよ」

 

「当たり前だ……」

 

 襲ってはこなかった。

 こなかったが、ドラゴンはやってきた。

 

 一頭ではない。

 二頭でもない。

 何頭もが入れ替わり立ち替わりやってきては、一行をじっと見つめてまたいなくなるのだ。

 緊張するなんてものじゃない。

 一歩たりとも動けずに固まるしかなかった。

 戦闘大好きアオキでさえも、この状況では戦うという選択肢を取る事なく静かにしている。

 

「ふぁ〜あ……」

 

 唯一、コマちゃんだけは耳をかいてあくびをする程度の余裕があった。

 

「何で襲ってこないんだ……!」

 

「俺がそんなの知るわけねえだろ……」

 

 一際大きな個体が常に睨みを効かせており、途中、侵入したモンスターに向けて放った光線は、戦意を奪うに足る威力を有していた。そのプレッシャーからも、確実に一級のモンスターであると探索者達が確信するに至らしめている。

 

『グルルル……』

 

「!」

 

 低く唸った。

 ただそれだけでウルフ達は身構える。

 だが仮に抜いたとしても、その剣は決して届かないだろう。

 

「あれは……物理障壁か!?」

 

 ドラゴンの肉体を、さらに大きな球体が覆っている。

 紫に輝くそれは、そこら中にあるクリスタルから成るものだと考えるのが最も納得ができた。

 

「ドラゴンがそんなものを使えるなんてな」

 

「いよいよ私たちに勝ち目なんかねえってことか」

 

 目的が読めなかった。

 あるいは手を出すことはなく、見せ物としてこのまま永遠に幽閉されるのか。その場合でも何の抵抗もできないのが歯がゆい話だ。

 

「どうするよ。このまま何もできないなら、いっその事こっちから動くか?」

 

「……少し、待ってみよう」

 

 落ち着く。

 わざわざ手を出してこないのであれば、それはそのまま放っておけばいい。このままドラゴンの住む地帯を抜けるまで続くのであれば、それはまさに最善だ。

 岩の上にも三年ではないが、とにかくウルフらは座した。

 

「バリアを張ってるってことは、一応警戒はしてるんだよな」

 

「警戒心の強いことだ。そんなものなくとも我々では敵わぬというのに」

 

「……そんで何なんだコイツらは、ジロジロ見やがって」

 

「察するに──やはり見せ物にされているのだろうな」

 

 子竜が岩の淵から目だけを覗かせ、彼らをじっと見ている。好奇に満ちた瞳の輝きは、ドラゴンということを考えなければ可愛らしさすらある。

 

「……同族の鎧を纏ってる奴がいるのはどうなのかね」

 

 そうだ。

 アキヒロ達が身に纏っているのはドラゴンの鱗から作られたもの。人間であれば、人皮を丸ごと鎧にしているようなものだ。

 

 ──鎧に対する反応は特にない。

 

「そんなの気にしねえか。モンスターだし」

 

「うむ」

 

『…………フー』

 

「うおっ!?」

 

 いつの間にか、大ドラゴンは岩に密着していた。

 その鋭い爪でガッチリと縁を掴み、力を込めている。

 

『…………』

 

「まさかぶっ壊す気か!? 流石にそうはさせ──ん? なにして……」

 

 立ち上がったアオキは武器を振り上げようとして、現実に起きている事に目を擦った。

 

「え…………え…………?」

 

 困惑。

 アオキだけではなく、一同全員の頭をクエスチョンが埋め尽くした。

 

 

 ──────

 

 

「ナニガオキテルンダ」

 

「ワカラナイ」

 

 ウルフとアオキは現実逃避をしていた。

 三角座りで岩肌を眺め、過ぎ去る周囲の光景に時折視線を走らせるのみ。今、自分たちの身に起きている事を解釈、咀嚼するだけの余裕などなかった。

 

「どういう理屈?」

 

『…………』

 

 ドラゴンは岩を掴んでいる。

 掴んで、ゆっくりとした羽ばたきで岩を押していく。

 プールでビート板を掴んで泳ぐのに近い体勢だが、ドラゴンに限って補助具がないと飛べないなどということはあるまい。

 

「あー……一体どういう行動なのか教えていただいても良いですか?」

 

『カロロロ……』

 

「黙ってろですか、そうですか……ふぅ〜……」

 

 ドラゴンは、アキヒロの質問に対して答える気など一切ないと牙を剥き出しにした。あまりにも恐ろしい。アキヒロは、猛獣に至近距離でもアクションを仕掛けるテレビタレントの根性というやつを初めて尊敬した。こんなもの──勿論このドラゴンよりも恐ろしいわけはないが頂点に位置する捕食者に話しかけているという点で同じだ──に対面して何かをするなどと、テレビ局は本当に視聴率欲しさでしかないのだ。それとも、あの世界にドラゴンがいればまた話は変わったのだろうか。

 

「黙ってろ……ね」

 

 一つ、また情報が増えた。

 このドラゴンは明確な友好性によってこの行動をとったわけではないのだ。何かしらの事情があって、それを達成する為にこんな珍妙なことをしている。

 体格からして最も威厳と力を有していそうなこのドラゴンが、わざわざ矮小な猿が載っているだけの岩を押し運ぶ。それだけの事情とは? 

 

「──あ」

 

「ソフィア?」

 

「感じる……お父さん……」

 

「…………」

 

「う……」

 

 冷気が漏れる。

 コマちゃんがそばにいなければ、もはや防具すら意味を成さないだろう。

 それでもロイスは隣にいた。

 

「最後まで一緒だ」

 

「……うん」

 

 たとえそれが若さから出る愚かさに満ちた言葉だとしても、否定することは許されなかった。

 

「ここは……どれだけ深いのかもわからないな」

 

「今のうちに寝るのが吉じゃねえか?」

 

「そうします」

 

 そうは言ってもドラゴンがすぐそばにいる状況で寝付けるものではない。横にはなるが、満足な睡眠は取れなかった。

 

 初めに起きたのはソフィアだ。

 寒さで少しも眠ることのできなかった彼女の目には、これまでの疲労も合わさってクマが。ヨロヨロと立ち上がり、いまだに岩を押しているドラゴンのすぐそばにまで近寄った。

 ヨロヨロと頼りない足取りで近付いてくる彼女へ、ドラゴンはアキヒロに向けるほどの不快感を示さない。

 ただ、じっと見つめていた。

 

 そんなドラゴンに向けて、小さく呟く。

 

「あなたは、お父さん達と会ったことがあるんですか?」

 

『…………』

 

「やっぱり……そうなんですね」

 

 ゆっくりと目を閉じた。

 その動きだけ見れば瞬きと取ってもおかしくはないのに、ソフィアはそう解釈した。

 

「……お母さんはどこにいるんですか?」

 

『…………』

 

「なんで…………なんでお母さんもお父さんも帰ってこないんですか?」

 

『…………』

 

「私が嫌いになったからですか?」

 

『…………』

 

「だから、私はこんなところに来なくちゃいけなくなったんですか?」

 

『…………ハァ』

 

 深いため息。

 目をぐるりと回し、ソフィアを見つめる。

 

 ──足元を見つめる少女は、岩の動きが止まっていることを感じ取った。

 

「……」

 

『フゥ〜……』

 

 再度のため息。

 ドラゴンは、器用な事に腕組みをしている。

 ソフィアに真正面から向かい合うと、大きな翼膜を軽く動かした。それだけで紫の結晶が散りばめられ、大気が輝きだす。

 

「何が何だかわからねえが、俺の出番か?」

 

「…………アオキさん?」

 

 アオキはすでに武器を抜いていた。

 

「な、なんで武器を……」

 

「何でも何も──」

 

『フゥ〜…………』

 

 ドラゴンが深くため息を吐くごとに輝きが増していく。

 満月の夜の如く大気そのものが煌めき、単色の輝きの中で色が失われたシルエットが濃く見え始めた。

 

「こりゃあ戦闘準備だ」

 

『フゥ〜……』

 

 さらに濃くなり、アオキはソフィアに後ろへ下がるように指示を出す。コマちゃんの元から絶対に離れないようにと。

 

「野郎……溜め込んだ魔素を吐き出してやがんだな?」

 

『…………グルルル』

 

「…………来いってか? 良いぜ、そのつもりならやってやるよ!」

 

「1人でやるな」

 

「何でお前はそう先走るんだよ。私たちを置いてさ」

 

「……ちっ」

 

 両肩に置かれたのはサイズの違う手。

 アオキは口ぶりだけでなく心底から不愉快そうに唇をへの字に曲げた。

 

「そもそもどういう状況なんだ?」

 

「さあな。だが理由なんざどうでも良い…………こういうのを待ってたんだ!」

 

『スゥゥゥゥ……』

 

「!」

 

 腕組みを解き、天を仰いで深く息を吸う。

 ただそれだけの仕草が、これからどうするかを予感させた。

 

「散れ!」

 

「っ!」

 

 ナイフよりも巨大な牙に包まれた口腔から、紫の極光が溢れ出す。空へ向けて放たれたそれは、既に上空を確保していたアオキ目掛けて曲進した。

 

「曲がる光……!?」

 

 辛うじて避けた光は、背後の浮遊岩にて爆発。

 爆炎が淡く桜色に広がり、ソフィアの網膜を鮮やかに彩った。

 

「どわああああい!?」

 

 アキヒロが飛び起きた。

 最後まで寝ていたのは、ドラゴンがいるというプレッシャーで寝付くのが遅れたせいだ。

 

「なに!? なに!? なに!?」

 

 眠たい目を擦ると、完全なる臨戦体勢で対峙する二者がいた。広げられた翼から滲み出る紫の光球がゆっくりと散らばり、岩上で様子を見ていたウルフとルクレシア(2人)に向かっていく。

 

「なんで!? なにが!? どうなった!?」

 

「アキヒロくん……図太過ぎるよ」

 

「あれは何がどうなってああなったんだ!?」

 

「俺も今起きたから分かんないけど……アオキさんが初めたっぽい? どうなのソフィア」

 

 一部始終に関わっていたソフィアは、自分が原因かもしれないとは言い出せずにいた。すでに迷惑をかけているのに、その上こんな事にまでなったら本当に捨てられるかもしれないと思っても仕方ない。

 

「……」

 

「あっ!」

 

 しかし、口籠るソフィアのことをアキヒロはロイスほどには気にしておらず、アチラ側の成り行きを目に焼き付けていた。

 

「らあっ! ──うああっ!?」

 

 密度が高くなる前に切り抜けようと漂う光球の一つを切り裂いた瞬間、爆発が舞い起こる。煙から飛び出したルクレシアの左腕は力なく垂れ下がり、今にも千切れ落ちそうだ。地面を転がって苦しむ彼女の元へウルフが回復薬の瓶を投擲し、効果が現れる。

 

「があああ!」

 

 のたうち回るルクレシアは相手にされず、もっぱらドラゴンの顔が向いているのはアオキだ。

 

「へっ! 空を飛べりゃあ、この程度の攻撃避けれんだぜ!」

 

『──』

 

「げっ」

 

 離れた距離からでも確実にそれと分かる戦意がアオキの瞳を覗き込んできた。間髪入れずに放たれる光は全て、誘導式ミサイルのように追尾を開始。空気を足場にメチャクチャな軌道で移動するアオキの背中に追いつかんとした。

 

「それなら!」

 

 急下降。

 落下しながらさらに空気を蹴って自由落下では決して得られない速度でドラゴン目掛けて突っ込んだ。しかし激突はせず、その背後を取る。当然その動き自体は目で追われていたが、やや遅れてやってきた光はそのままドラゴンの肉体目掛けて一直線に進んでいた。

 

『フ〜ッ』

 

 そんなことは想定済みだと、軽く吐いた息吹はダイヤモンドダストの如く輝きを散らす。戦闘開始前と同じだ。

 何の意味が、と思うアオキの目の前で、光は息吹の残滓に突っ込む。

 

「……反則だろ」

 

 ビームは輝きの中へ突っ込んだ途端に減衰し、掻き消えたのだ。

 自分の攻撃で傷つくようなドラゴンがいるとは思っていなかったアオキも、これには抗議。

 

「反則だろ!」

 

『……フンッ』

 

 鼻を軽く鳴らし、尾を一振り。

 

「うぐおおお?!」

 

 肉体を捉える直前にやっとこさ盾を尻尾の前に持ってくることができた。だが一撃で盾は丸ごと砕け散り、アオキの姿は遠くへ。

 

登場したキャラクター等の名簿的なものは必要か否か

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