【マンガ化】焼肉スコスコスコティッシュフォールド【進行中】 作:goldMg
「アオキ!」
ぶっ飛んだアオキは本当に姿が見えなくなってしまった。しかし、その無事を祈る余裕すらない。ウルフの目の前にはアオキを吹き飛ばした張本人(竜?)がいるのだ。
「効くかは分からないが……ルクレシア! 立てるな!」
「あー……くそ、まだ痛え…………あったまきた!」
取り落としていた槍を回収し、怒りが大気を揺らめかす。
「──あっつ!?」
違った。
彼女は異能を発動していたのだ。
同じ平面上にいるアキヒロ達は大慌てで岩の反対側に移動した。そこまでいくとソフィアの冷気といい感じに相殺してくれるどころか寒い。だが、暑すぎて焼け死ぬよりは余程マシだろう。
「やい結晶トカゲ!」
『…………』
「よくも私の腕をへし折ってくれやがったな!」
光球は今も浮かび、ふわりふわりとルクレシアめがけて近づいていた。だが、ルクレシアが声を張り上げた瞬間からその場に静止。時が止まったかというくらいにその距離を一定の位置に留めている。
「次は私が相手だ!」
「待て、俺も一緒にやるぞ」
『スゥゥゥゥ……』
深呼吸。
それは先ほどアオキが浴びせかけられた一撃を放つ準備。
「シッ!」
神速の踏み込み。
槍使いとして瞬発力ならばアオキにも負けないという自負があるルクレシアは、距離を一息すらつかずに詰め切った。
「させねえよ!」
『!』
溜め込んだ粒子を上空目掛けて放とうとしたドラゴンの首筋に跳び出したルクレシアは、そんな状態でも全くぶれない体幹に任せた腰溜めを解放した。
突き進む先は喉裏。
目視では鱗がない、比較的柔らかな部位だ。
「獲った!」
激突。
渦巻く炎が推進力としてさらなる後押しをおこなった一撃は、コモンドラゴンであれば外殻を割り砕いて肉を貫き、アンダーの第一階層に住まうクソザコナメクジどもであれば100匹は連続で裁断するだろう。
『…………』
だが、そうは甘くない。
首元。
穂先が触れそうになったまさにその瞬間、現れた結晶によって防がれていた。
「んなっ!? ──っ!」
振り下ろされた左腕。
ドラゴンの顔から読み取れるのはソレがやる気のない一撃だということだが、それでもルクレシアを屠るに足る最低限の力は有していた。少なくともアキヒロ達には残像としてのみ、その一振りが見えていた。
「…………っっっ!」
ルクレシアは、自らが肉片と化すことを予感した。あの、紫に延伸した鉤爪が当たればどうなることか。二級探索者どころか、一級探索者でさえまともにやりあえるのは真のトップ層のみだと感じ取れる禍々しさ。
槍を戻そうとしたが、引き伸ばされた時間感覚の中で間に合わないことを悟り、異能──雷によるショックでの攻撃遅延を狙う。
だが、やはり間に合わない。
そこに背中が飛び込んできた。
「こ……こうなる……ことは……分かって、いた!」
歪な金属音。
擦れているのは、確かに片方は金属製だがもう片方は爪であるはずなのに。
凄まじい音は、鎬を削っているウルフとその背にいるルクレシアのみならず、さらに広範囲へ拡散される。
「ぐっ……」
ロイス達は耳を塞ぐが、多少マシになったところでダメージとしては貫通してくる。空気の揺れというのは、粒子の動きだ。そのものに攻撃の意思はなくとも、肉体を揺さぶられるということには変わりない。
「痛っ!」
3人とも、耳からの出血が見られた。
同時に、周囲から聞こえる音が極端にぼやけ始める。
「──鼓膜が破れたな」
自らの口から突いて出た言葉は骨を伝うのである程度聞こえるし、音の形もわかる。だが、ソレ以外はトンと分かりづらくなってしまった。
日常生活において、鼓膜が破れるということは中々ない。殊更にロイスのような人種であれば、一生破けない方が多いだろう。
「わー!? わ、わー!」
アホみたいなパニックを起こしていた。
「っ……!」
ギュッと目を瞑って耳に手を当てるソフィアとは対照的だ。
「…………」
アキヒロは顔を顰めているが、それでもドラゴンから目を離さない。ただの一合で鼓膜すら破れるような轟音を掻き鳴らす彼らの戦いは、もちろん目で追えるようなものではないが、その結果だけは視覚に現れる。
「これなら!」
ルクレシアは雷を操り、ドラゴンを一時的にでも痺れさせようとした。ウルフと近接戦中の今ならば、多少彼を巻き込んででも一撃入れることができる。
しかし右へ左へ跳び回り、ドラゴンの狙いを定めさせまいと必死な彼をなるべく射線上から除く心算で五指を向けた。
「──ここっ!」
斉射。
チャージされていた雷電が解き放たれ、完璧なタイミングでドラゴンの体を中心に捉える。雷速とまではいかないが、少なくとも避けられる速度の攻撃ではない。
「…………」
そんな攻撃はドラゴンを取り巻く紫の輝きに吸収されてかき消えた。先ほどから3人とも攻撃系の異能の調子が悪い理由がこれだ。どれだけ出力をあげても普段の三分の一にも届かない。これでは仮に異能が上乗せされても大した威力として機能しないだろう。
「なんだよ、それ」
本当に、戦いになっていないというのがルクレシアの素直な感想だった。あらゆる攻撃に対して効果的に対処されている。
このまま戦ったところで結果が変わるとも思えない。
「ルクレシア! この程度で諦めるな!」
「っ……わかってんだよ!」
1人ずつではダメなら2人で挟めばいい。
最初からそうすればいいのでは、とアキヒロは首を傾げた。
だが、異能というのは基本的に大味だ。炎や雷、毒、衝撃などの攻撃系の異能であれば、近くにいる味方まで巻き込んで発動してしまう。それならば異能をまずぶつけ、通じるのならばゴリ押しする。通じないならば、ようやく連携が日の目を見る。
それが最も合理的で、ウルフ達が好んで用いる戦法だった。
勿論、低レベル探索者は攻撃系の異能など保有していないのでパーティー内における連携の重要度は高レベルのソレよりも大きい。故に、高レベルよりもむしろ低レベルにおいての方が連携する必要性は高かった。
『フゥゥ〜……』
「んなっ!?」
だが、そんな涙ぐましい努力を無視するモンスターもいる。2人は同時に接近した筈だが、ドラゴンの息吹が耳に入った瞬間、虚空を見つめていた。
「うしろ!?」
振り返れば、2人とも既にドラゴンのいる位置を通り過ぎている。ドラゴンの膨大な生命力の証でもある体熱を顔に感じた記憶はない。
しかし、側から見れば一目瞭然だった。
「2人とも! そのキラキラに突っ込んだ瞬間ドラゴンの反対側まで移動してたぞ!」
「……なんっだよ、そりゃ!」
つまり、接近ができないということだろうか。ソレが本当ならば、こちらは近付けないのに向こうは永遠に
「ズルいぞ!」
「そうだ! 男らしく戦え! 正々堂々と!」
『…………ハァ』
しょうもな、とでも言うように目をぐるりと回す。
先ほどからヤケに人間臭い動きをしていた。
面倒くさそうに左腕を持ち上げ、ルクレシアを指差す。
「……な、なんだ?」
『グル……』
「…………あっちいけって?」
『…………』
ちょいちょいと指を動かすと、ルクレシアに離れるように指示を出した。いよいよ知能の高さを隠さなくなってきたところで、ウルフが対面に立った。
「アオキ、ルクレシアと来て──最後には私との一騎打ちをご所望というわけだな!」
『スゥゥゥゥ──』
「良いだろう! 我が命の尽きる時まで……いや、これは……」
輝く。
煌めく。
迸る。
いつの間にやら広大に散布されていた小さなクリスタルが、高らかに吠えるウルフを取り囲んでいた。
今にもこぼれ落ちそうな銀河の如く強い光を湛え、あまりの美しさに、苦しむソフィアでさえも見惚れる。だが
それは、曲芸のための、観覧のための、観光のための光ではない。
滅ぼす光。
敵対したものを絶対的に破壊するための、絶望的な攻め手の一つだった。
「くっ……」
見るだにわかるプレッシャー。
眼前のドラゴンが全力闘争を選んだことを察したウルフは、冷や汗で剣を握る手が滑り始める。武者震いも止まらない。あの光が放たれた瞬間、ウルフどころか岩やアキヒロ達すら貫通していくことが容易に想像できたのだ。
「理解できん! 誰からも認識されず、どうやってこんなところにこれ程の怪物が隠れ潜んでいたというのだ! …………だが!」
それでも、と開眼した。
高濃度の魔素に反応して武具が輝く。
纏わせる異能がより練り上げられていく。
絶望的な状況にあって、それでも生きたいと強く思う心に肉体が反応する。
双剣を構えたウルフの全身を万能感が包み込んだ。
「押し通らせてもらうぞ!」
「ウルフ……!」
先ほどまではあった仲間を想う心はない。
ルクレシアの言葉も聞こえない。
ただ、自らを覆う不可思議な烈力を試したいと、魂からの発露が体を推し進める。
『──カァッ!』
風。
熱。
光。
全てが手に取るように分かる。
ドラゴンが放ったブレスを避けることはできない。それならばと翳した二振り。斜め十字に切り裂かれたエネルギーの塊が背後の岩を溶かし、はるか下方に突き抜けて行ったのを感じ取った。
「来るか……!」
『──』
ソレは本命ではない。
無数に散布された結晶を通じて感じ取れるのは必殺の心。ドラゴンが総身の力を漲らせた次の瞬間、八方から膨れ上がる気配。
「!」
鳥肌が止まらなくなった。
回転し、自壊しながら莫大なエネルギーを放出したクリスタル。周囲全てから先ほどと同等のブレスが押し寄せたのだ。
「ぬぐおおおあああああ!?」
隙間を縫え。
少しでも到着にラグがあるなら情けなく飛び込め。
目の前でふんぞりかえる傲慢なる竜の元に辿り着き、その鼻を明かしてやるのだ。
そうして身を削り取られながら押し進んだ果て。奔流を抜けた先にて、王者は見下ろしていた。
「あ……が……」
両腕が光で削り取られている。
動かすための筋肉が失われては、剣を持つことすら叶わない。
だが、吟遊詩人は時として曲芸を求められることもある。
「…………!」
蹴り上げた剣を咥え、ドラゴンを睨みつけた。
『……』
ここに至って無言だが、少しだけ前のめりにウルフを見つめていた。
そして腕を持ち上げる。
「!」
登場したキャラクター等の名簿的なものは必要か否か
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いる
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いらない