【マンガ化】焼肉スコスコスコティッシュフォールド【進行中】 作:goldMg
「──?」
寒い。
ただ、寒い。
世界そのものが凍りつき、じわじわと体温を奪っていく。
気がつけば吹雪の中だった。
「夢?」
一瞬、自分が何をしていたのかわからなくなった。
だけど、俺が纏っている鎧を見て思い出した。
そうだ……俺は『かがやける谷』に入ったんだ。そこでおんぶに抱っこの旅をして、最後にソフィアのお父さんと出会った。
それで──
「扉! …………あ?」
視界が赤い。
今の今まで冷たく厳しい白で埋め尽くされていたのに。
「う……ああ……ごぼ……」
膝をついた。
息を吸い、吐き出すための鼻。
言葉を人に届け、生きる糧を得るための口。
空気の振動を感じる耳。
ソレら全てから何かが溢れてくる。
鉄臭さ。
色。
その全てが示しているのは、赤い血潮が身体から
「ああ……」
震えが止まらない。寒さによる2次的な反応などではなく、もっと根源的な肉体の震えだ。命そのものが反発しているような形容し難い震えは身体の自由を容易く奪い、生の証を白の上に彩らせる。
立ち上がることは敵わず、そのままうつ伏せに倒れるしかなかった。
「罠……じゃ……ない……」
そうだ、これは罠じゃない。
思い出せ。
『その扉を閉めたモノは──』
直前に彼はこう言っていたじゃないか。
こうなることを知っていたのだ。
確かに、これに耐えられる人間はいまい。
あるいは彼なら耐えられたのか。
「……ふふ……ごぼっ」
詮なきことだ。
この痛みは、もはや自分だけのものだ。
「──ああああああああ!!!」
気絶して、目覚めて。
また気絶して目覚めて。
どれだけの時間、雪の中で転がり狂っていたかわからない。気付けば息は上がり、涙が滲む視界が空を見上げている。
「はぁ……はぁ……」
娘と父親が再び出会うことができた。
死に別れでもおかしくなかったのに。
傷だらけとはいえ、確かに命を繋いだ。
これはハッピーエンドと言っても差し支えない。
「……ちくしょうめ…………痛えなあ……」
これが先ほど彼らの感じていた痛みだというなら、動けないのも納得だ。ひどい倦怠感と痛みが同時にやってきて動けるなんて、舐めたことを言うつもりはない。魂? とやらに干渉して直接痛みを与えるのだとすれば、これ以上の苦痛が彼らを襲っていたことも想像できる。
「ミツキ…………」
少しだけ、痛みに慣れてきた。
どうせなら最後に声でも聞きたかった。
そう思って取り出した端末は、やはりバグっている。
通話がどうとかそういう状態じゃなかった。
「まあ……いいか」
使えないなら、こんな物はゴミでしかない。
それにしても……冷たい雪の中で朽ち果てるのが俺の2度目の最後とは、1度目はあんな感じだったけど全然違うな。
「いや〜早かったなあ」
ゲームのリザルト画面? ってやつを人生で振り返るとしたらこんな感じになるのかね。真っ白で、冷たくて、誰もいない場所で。
「…………全然悪くないじゃん」
まともな国だったら──というか日本だったら表彰されてるレベルだぜ。やりたいようにやった結果、こんな風に気持ちよく死ねるなら悪い気はしない。
でも、それはそれとして心残りは多すぎる。
「ミツキ……」
あいつがせめて大人になるまで見届けたかった。
遺言は残してあるから良いんだけどさ。
「牛もなあ……ごほっ」
いつの間にか血は止まっていた。
もう痛みもない。
それでも起き上がる気にはならない。
起きたところでどうせ何もないんだから、こうやって大の字で寝転がっていたほうがまだ格好もつく。
どうせなら、いつか訪れたヤツが俺の姿を見て笑ってくれるような死に姿がいいな。
「良い伝手をゲットしたのに勿体ねえ〜」
深山家。
目白ネル。
秋川家。
ソフィア。
そして彼らも。
アオキ。
ウルフ。
ルクレシア。
彼らの1人として欠けていたならば、ここには辿り着けなかっただろう。
彼らがいれば、きっと夢に向けて加速するカンフル剤になってくれるだろう。
「帰ったら自慢しなくちゃな……ははははは!」
帰ることもできないのにそんなことを口走った自分が自分でおかしくて、笑いが止まらなかった。
「ははは! はーはっはっはっは!」
2ヶ月以上。
長いようで短い旅だった。
学生生活をサボった期間として考えれば長過ぎるが、1人の命を救うために奔走した時間と捉えれば短い。
人を救うというのは本当に大変なことだ。
何をすれば救ったことになるかがまず難しい。
そんな中で、肉体を救いさえすればソレでいい今回のことは本当にシンプルだった。
「やってやったな」
それでも、成し遂げるのは容易ではなかった。
シンプルなゴリ押しで進まないといけないとは思わなかったよ。
「ロイス……良くやった」
彼らは家に戻ることができるのだろうか。
帰りはドラゴンが襲ってくるかもしれない。
だけど、一人で深奥にたどり着けるエメリッヒがいればきっと問題ない。
あの岩穴も彼が用意したものだったということだ。
「コウキが知らない一級探索者が本当にいたんだな」
これも、教えてやれば大層驚かせられたはずだ。
光ファイバーで通信ケーブルぐらい引っ張ってくれないものか。
「……中々死なないな」
しかしどうしたことか。
いくら寝転がっていても死なない。
寒いは寒いけど、防具の質が良いせいか。
「はあ……」
「──」
「……どぅおあああああ!?」
誰?
何?
どういうこと?
こいつ誰?
こいつ何?
どういうこと?
そんでこいつ誰?
「えっと……」
キェェェェェェアァァァァァァシャァベッタァァァァァァァ!!
「先ほどから何をしてるんですか?」
どうする!?
どうする!?
事情を話す!?
逃げる!?
「扉がなくなってるし……あなたは誰なんですか? 血もいっぱい……大丈夫ですか?」
「!」
「きゃっ!」
「扉! 扉を知ってるのか!?」
「知ってるも何も……さ、先に答えてください! あなたは誰なんですか! なんで扉のあった場所にいたんですか!」
「…………ん?」
びっくりして最初は気付かなかった。
目の前にいる少女の姿格好があまりにも見覚えのあることに。
「な、なんですか……」
白い着物を着込んでいる。
この銀世界には非常に溶け込むが、大事なのはそこじゃない。
少女の肌は雪のように白く、銀の髪は美しく風に流されていた。
「雪女? というか、ソフィアに似てるな……」
「雪女!? ソフィア!? あ、あなた、私たちを知ってるの!? それにあの子の事も知ってるの!? お友達!?」
うるさい。
激しい痛みはなくなったけど、体中を倦怠感が襲っているのは変わってないんだ。あんまりうるさくされても頭痛がするようだし。
「ソフィアは! ソフィアはどうなったの!」
「待って……ちょっと……う……ごぼっ」
「きゃああああああ!」
揺らされたせいで気分が悪くなって、胃に落ち込んでいた血を吐き戻してしまった。
「血、血ィ! 血が!」
「おええええ」
「だ、誰かあ!」
「…………!?」
彼女が呼びかけると同じような格好の少女が次々と現れた。頭がおかしくなりそうです。
「運ばなきゃ!」
「男の人よ!」
「なんでここにいるの?」
「ウィル? ……じゃないね!」
「ほら! 早く運ぼ!」
「えっさ! ほいさ!」
狐に摘まれた気分のまま運ばれたのは集落だった。
雪で出来た家々だ。
しかし、予想に反して中は暖かい。
ベッドは少々小さいが、贅沢を言える立場でもない。
「ほえ〜、男の人だ〜」
「ソフィアちゃんのこと知ってるらしいよ」
「彼氏?」
「アナが見つけたんだって」
「なんであの子ばっかり見つけるの?」
「ずるいね」
「いいなー」
居心地が悪い。
素直にそう思った。
助けてもらった分際でという話はわかるけど、可愛い女の子とはいえこれほど興味津々に見られると逆にね。
だけど、状況を把握しないと。
「君たちは──」
「きゃあ!」
「ひゃー!」
「しゃべったー!」
「…………ええ……?」
色々と聞くために口を開けばこれである。
ここは女子校ですか?
「みんなうるさいなぁ……」
最初に出会った少女がキッチンからシチューを運んできた。
「ハイこれ」
「……助けてくれてありがとうございます。俺は加賀美明弘。ソフィアの友達です。ちなみにソフィアの彼氏は他にいます」
「あ、う……情報が多い……!」
「あなたはソフィアのお母さんですか?」
「──うん。アナって呼んで」
雪女がアナ。
なんだか危ない気はする。
「……ここは北海道ですか?」
北海道が魔素に侵食されたらこんな感じになるのかしら。試される大地って感じがするよね。
「何ソレ……ここはね、コキュートス」
「コキュートス! そりゃあ……随分な場所だ」
俺はマジに死んだって事だろうか。
「あなたコキュートスも知ってるの!? ほんとうに何者!?」
「いや、多分俺の知ってるコキュートスと違うと思うけどね?」
「……違うコキュートスがあるの?」
「あるよ」
「へー! そうなのね! …………ソフィアは大丈夫?」
なんというか、さっきから少女の様子はとても軽かった。娘が死にかけていたのに、冷たすぎやしないだろうか。
「ソフィアは死にかけてたんです。あれは……扉が開いたせいですね?」
おそらく、この考えは間違ってないはずだ。
「そうね…………そう、ね……扉について知ってるのは、ウィルから聞いたから?」
「ウィル……扉を閉じようと頑張っていた男の人で合ってますか?」
「…………」
アナは何故か、それを聞いて泣きそうになっていた。
「ウィル……彼は無事なの?」
「ええ。扉に触れて傷付いていましたけど、なんとか」
「……やりきったのね、ウィル…………でも、ソレなら貴方は? どうしてあそこにいたの?」
彼女は何やら勘違いしているようだったので、ソレを正すことにした。
初めからの話。
俺が
──────
「〜〜!!!」
話終わると、アナは涙を大きく溜めて抱きついて来た。
盗み聞きしていた雪女達も目元に布を当てている。
感受性豊かな妖怪だな……
「ありがとう……本当に、本当にありがとう……」
「聞いても良いですか? 聞くっていうか──」
「なんでも聞いて!」
「ソフィアに会ってあげてください」
「え」
「行かないんですか?」
「…………」
騒がしかった周りが一気に静まり返った。
でも、聞かなきゃ納得なんてできなかった。
娘と夫が大変な目に遭っているというのはしっかりと理解しているはずだ。でないと、ソフィアが無事かなんて聞くわけもない。ウィルが無事かなんて聞くわけもない。
これほどに涙ぐむわけがない。
じゃあ、なんで会いに行かないんだ
「…………会う権利なんて、ないもの」
「親が子供に会いたいと思って何が悪いんですか。ソフィアがお母さんと会いたいのに、誰がソレを否定するんですか」
「…………」
「アナさん」
「私は…………この地で生まれ、この地で育ったわ。見てわかると思うけど」
「はい」
「だから、そっちの世界が合わないっていうか……あんまり長くいると体調を崩しちゃうの」
「だから家族には会えないと」
「……そうよ」
「旦那さんとはどうやって会ってたんですか?」
「…………私が向こうに行ったり……あ、あの人に会いに来てもらってたわ」
見た目通りの少女の年齢であるかのように恥ずかしがる姿は、なんとも背徳的なものを感じさせた。ソレそのものが恥ずかしいというよりは、ガヤが──
「やっぱ会ってたんだ」
「会ってないとか言ってたのにね」
「まあバレバレだったけどね」
「やることやってたんだね」
「いくら巣篭もりが好きって言っても、村にいない期間長すぎたしね」
「ムッツリアナ」
「スケベアナ」
「スケベアナ……?」
「そりゃスケベアナでしょ」
あまりにもひど過ぎる。
これ誹謗中傷で訴えたら絶対勝てるぞ。
「で、でも、会いに行くのはそもそも無理だよ」
「どうして?」
「だって扉がなくなっちゃったから……」
「うん?」
「ほら、あなたが通って来た扉。アレがないと行き来が……」
「──────!?」
完全なる盲点。
意識外。
鳩尾に豆鉄砲。
そうだった。
「だから、あなたがいるのが不思議だったの」
「……いつもは少しだけ開いてたってことですよね?」
「うん」
「誰がアレを作ったんですか?」
「お母様」
お母様はなんなんだよ。
神様かなんかなのか?
どうやって世界間を行き来する扉なんてものを──よく考えたらめちゃくちゃ遠いだけの場所の可能性が普通にあった。
「とにかく、あの扉は私たちじゃどうにもできないから」
「……そのお母様に会う方法は?」
「会うつもり? うーん……」
扉がないからとかなんとか言ってるけど、気まずいから行きたくないだけだろ。分かるぞ、そういうの。
逃げさせないし、俺もどうせなら生きて帰りたい。
「私達も好きな時に会えるわけじゃないの」
「じゃあどういう時に会えるんです?」
「ひ、引かないね……」
「アナさんの話は置いといて、俺も帰らないといけないんで」
「そっか……そうだよね……」
「すぐにでも……う……?」
しかし、シチューを飲んで体が温まったせいか猛烈な眠気が全身を襲い、抗う暇すらなく意識が消失した。
登場したキャラクター等の名簿的なものは必要か否か
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いる
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いらない