【マンガ化】焼肉スコスコスコティッシュフォールド【進行中】   作:goldMg

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4_紡がれた冒険譚、そして最速の

アオキやソフィアらゲストは前に立って、やや恥ずかしそうに話をしている。その内容は聞こえない。

俺たち2人は窓際にいたから。

 

「さて……アオキから話は聞いたであろう」

 

「………」

 

「すでに理解している話だろうが、俺たちは――」

 

先ほどと同じく物騒な話だった。

血腥く、どこまでも憎しみに塗られた言葉。

祝いの場で吐くにしてはあまりにもあまりな内容だ。

全てを吐露したウルフの瞳は、やや血走っているように見える。

 

「――無論、この興行は今しばらく続けるつもりだ。それが終わってから動く」

 

「そうですか……」

 

「俺は止まらんぞ」

 

「止めません」

 

「!………ヤツらが無実だとしたら?」

 

「それは関係ない」

 

「何故だ?」

 

「彼らはすでに俺の友人を攻撃しました。だから、もう始まってるんです」

 

「……キミは、俺を止めるかもしれないと思っていた」

 

それこそあり得ない話だった。

 

「アナタは俺たちの命を救ってくれた。ソフィアが暴走するかもしれない可能性を無視して……命をかけて、あのダンジョンを乗り越えるための手助けをしてくれた」

 

「………」

 

「だから、もしアナタがアイツらと戦うのだとしたら……俺も参戦します」

 

「……ありがとう」

 

彼らは、客観的に見れば勝算など無いに等しい旅に参戦してくれた。

劇がなんだ。

あの程度の話、どこにだって転がっている。

無関係な人間が命を賭けてまで助ける義理なんてない。

それでも彼らは俺に善性を示してくれた。

 

ならば応えよう。

恩には報いる、それは……至極当然のことなんだから。

 

「――と、そんなことを話しているうちに君の番が回ってきたな」

 

「はえ?」

 

「何をとぼけている。あの英雄譚を紡いだのは君だ。君が話さないでどうする」

 

「英雄譚て……大袈裟な……」

 

「さあ行ってこい、最速の英雄」

 

「………それ、定着させないでくださいね?」

 

うちなる冷笑の獣が笑ってる。

え、英雄てw――と。

 

 

――――――

 

 

男は、トントンと米神を叩きながら全員の前に向かう。ややゆっくりとしたテンポの足取りは小賢しい時間稼ぎか。最後の数歩に至っては10秒以上も時間をかけて、牛歩戦術を露骨に用いてきた。

 

やっとこさ皆の前に立つと、それでも往生際悪く腕組みをし、ゆっくり瞼と口を開く。

 

「………本日は、お招きいただき誠にありがとうございます。劇団員ですらない、ただの観客である私がこのような場に立たせていただけるとは思っておりませんでした。そうですね、話すようなことは考えてきてないんですけれども……」

 

固唾を飲んで言葉を待つ皆の前で、一つ一つ考えながら。

 

「探索者として一つ」

 

ナイフを取り出す。

 

「私は正直、こういった劇によって探索者を上等なモノであると喧伝することについて懸念を持っています。このナイフは私が探索者になった当初から使っているものですが、最初は本当にただのナイフでした。それが――」

 

刀身をゆらめき出させる。

 

「普通の剣のように扱えるようになり――」

 

黒炎を出す。

その異様さから、流石にどよめきが走る。

 

「異能を扱えるようになりました………しかし、決して楽な道のりではありませんでした」

 

腕を見せる。

切断された後、回復薬で引っ付けた痕は今も残っている。痛々しい白線は、みみず腫れのようだ。

 

「かっこいい――それだけの理由で探索者になる子供が出てくる可能性を考えると、複雑な気持ちになります」

 

盛り下げ上手とはこのことか。

一旦、場の空気は静まってしまった。

ワクワクしていた劇団員の顔もシュンとしている。

 

「ですが――」

 

「わ、わわっ」

 

炎を消すと、魔剣のままのそれをアキヒロ役の青年に手渡した。当然狼狽えるが、肩を軽く叩いて隣に並ぶ。

アキヒロと比べればだいぶ華奢で、明らかに違うとわかる少年だ。

 

「劇の事はまるで素人の私ですが、昨日の観劇は時間が過ぎるのも忘れて魅入ってしまいました。強いて言うことがあるとすれば、私の剣技はアレほど洗練されたモノではないということですね。彼の方がよほど、剣の使い方を心得ています」

 

「い、いやそんな……」

 

「ソフィアも、ロイスも、アオキさんも、ネルさんも、皆が壇上に居るかと錯覚しそうになるほどの入り込みと、あの時の旅を思い出す表情でした。体力的にも実力的にも厳しい旅路ではありましたが、やり遂げた時のあの感動を思い出せてとても嬉しかった。………改めて、お招きありがとうございます」

 

拍手に迎えられ、ミツキ達の元に戻った。

代わりに前に立つのはウルフ。

先ほど、アキヒロと話していた時の雰囲気は霧散している。

 

「――では!お越しいただいた皆様からのお言葉をいただいたところで、パーティーを始めさせていただく!」

 

 

――――――

 

 

『始めさせていただく!』

 

「えっ」

 

まだ始まってなかったの?とアリサが困惑してる。確かに食事に蓋はされていたけど、もうチビチビ飲み始めてる人も多い。

ソフィア役のあの子はすでに絡み酒だ。

 

「うぇーい!ソフィアさん全然飲んでないじゃーん!」

 

「うふふ、お酒が好きなんですね」

 

「ちょっと〜私だけ飲んでてバカみたいだからソフィアさんも飲もうよ〜」

 

「じゃあ――いただきます」

 

「私も〜!」

 

顔が似ているので、姉妹のようだ。

ソフィアに抱きついて離れない。

 

「………」

 

ロイスはロイスで、瞳を細めてソレを見ている。

どういう感情だアレは。

 

「あの!」

 

「ん?……ああ、ロイス役の」

 

赤い髪の少年だ。

イケメンを演じるだけあってイケメンで……むふふ^^

ロイスよりは可愛い系で、髪も少し癖毛。

鼻筋がスッと通り、顎のラインは細い。

口の小さいことなどソレ専用のモデルに採用されてもおかしくない。

三船くんと同系統のイケメンと表現するのが正しいだろう。背はまだ低く、肩幅も手足も未成熟な女子供のソレだ。

握手をすると、硬いものに触れたことがないのではというような柔らかい感触。

 

「シオンって言います!」

 

まだ声変わり前の高い声。

シオン――紫苑かな。

紫は高貴な色、縁起がいい。

 

「いい名前だ」

 

「ありがとうございます!」

 

「ロイスの情けない感じがすごく再現されてて良かったよ」

 

「あははっ!実際あんな感じだったんですか?」

 

「まあな。でも、モンスターに遭遇したら人間あんなもんよ」

 

「じゃあ………加賀美さんはなんで、あんなに勇気があるんですか?ダンジョンに行こうだなんて……」

 

その質問に対する精密な答えは『慣れているだけ』というところだ。

勇気を出さないと出来ない行動なんてのは歳を取るほど少なくなる。体験してしまえば、どんなことだって拍子抜けというものだ。

でも、そういうナマ過ぎる答えは時としてがっかりさせてしまう。

 

「………あの……」

 

「ああ、ごめんね。勇気の理由か………俺には夢があるんだ」

 

「そ、それって、牛がどうとかっていう?」

 

「そう。俺はその夢のためならなんでもできる。たとえ火の中水の中でも飛び込んでいく覚悟がある」

 

「覚悟……」

 

「だから、勇気を出すなら自分の中で大事なものを一つでも持っておくことだね。そうすれば、例え何か恐ろしいものが近くに迫ってきても立ち向かえる」

 

「そ、そうすればモンスターに立ち向かえますか?」

 

「もちろん」

 

「!」

 

あら可愛い。

カッコいいじゃなくて可愛いだったのね、あーた。

 

「――!ごめんなさい、おゆはんですね!」

 

一度気が付くと全てが可愛く見える。

弟か息子にしたい。

多分アカネも喜ぶ。

しかし肉をよそっているところをジッと見ていたら、なぜかケツを押さえてこちらを振り向いた。そのままやってくる。

 

「あの……」

 

「うん」

 

「………」

 

「?」

 

「お、お尻、あんまり見ないでください……」

 

「!?」

 

とんでもない勘違いが発生していた。

だけど、一つだけわかる。

俺は死ぬ。

邪悪な気配が、一方向からまとめて二つやってきている。

ダメージをどうにか減らさなければ。

 

「すぅ〜……俺は、お尻を見てないよ?」

 

「……」

 

「シオン……キミのことを見ていたのは事実だ。だけど、そんなやましい気持ちは一欠片だってない。素晴らしい演技を見せてくれた人を、ただ見ていたいと思うのはおかしいことか?」

 

「………信じ……ます」

 

ホッと息を吐いた。

こういうのは素直に否定しないと大変なことになるからな!

 

「いーや、信じなくて良いよ」

 

そうなるか。

 

「ヒロさん……またそういう事して、懲りないですね……」

 

ジトメリアンのアリサが現れた。

俺が他人の尻を見るのは常のこと、みたいに言うのはやめてもらおうか。

 

しかし、アリサはジト目を深めた。

 

「シオンちゃん離れといたほうがいいよ。この人、子供が大好きだから」

 

「確かにそうだけど、変な意味はないって何度言えば気が済むんだ」

 

「近付きすぎると蜘蛛みたいに絡め取られちゃうからね」

 

「なんてことだ」

 

俺のイメージは多分この劇団達の中で天上くらいのものだったのに、今の発言で地の底に落ちた気がする。

 

「誰でも彼でもだなんて、俺はそんなウルフさんみたいな軽い男じゃないぞ」

 

「子供なら誰だって好きなくせによく言えますね」

 

「言えます。なぜなら、子供と好きな女の子は別の話だからです」

 

なぜ子供の話から君たちの話がつながるか、全く訳がわかりません。

 

「だっておじい――」

 

何を言い出すんだい?

人前でそんな真実を語る事を俺が許すわけあるかい?

 

「もごもごもが」

 

人を後ろから拘束するのは得意だ。

 

「……お、お尻を見てたわけじゃ、ないんですよね?」

 

ほれ見ろ。

変な疑いが再燃してるじゃないか。

 

「そこは間違いないよ。俺はシオンのお尻は見てない」

 

しかし、そう言われると気になるのが男心というヤツだ。何故そんなにお尻を気にするのか。

 

「………!」

 

「うん、これはごめんなさい」

 

もちろん謝るけど、尻を気にする理由がよくわからん。

ホモだと思われているのかしら。彼女がいる時点で自動的に否定されるはずだけど……

 

「モゴモゴ!モゴモゴ!」

 

「なんだ――ぶっ!」

 

モゴモゴの民が激しく何かを主張しているので手をどかしたら即ビンタされた。

 

「女の子はお尻見られるの嫌なんですから!」

 

「いつつ……」

 

女の子だったのかよ、と失言しないで助かった。

しかし、お尻の話をするなら俺も抗議がある。

 

「チミ達、俺のケツをよく揉むよね。それはいいんですかね」

 

「エロケツしといて生意気言わないでください」

 

「生意気……」

 

「とにかく、シオンちゃん。この人に近づいちゃだめだよ」

 

そこまで言うなら距離取りますよ……

 

 

登場したキャラクター等の名簿的なものは必要か否か

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