【マンガ化】焼肉スコスコスコティッシュフォールド【進行中】 作:goldMg
「反省をしてください」
ミツキの身体に回していた腕を解いたアリサは、厳しい顔でそんなことを言い出した。
「良いですか? 人を助けることの重みを自覚してください」
「重みつっても」
「ヒロさんは息をするように困った人を見つけて、当然のように『じゃあ助けよう!』って決めちゃいますけど、待たされる側にもなってください!」
俺、そんな感じじゃないよね。
高峰レオと言い、俺を美化しても一銭も出ないぞ。
いや……アリサには出るかも、色々と。
「聞いてますか!」
「アリサちゃんがちょっと私みたいになってる……!」
何を感動してんだ。
「いーですか。ヒロさんには私達のモノであるって自覚が足りなさすぎます」
うーん、正論。
自覚が薄い自覚はある。
「もっと……私を優先してください!」
「私は!?」
「ミツキさんとヒナタさんは自分でお願いします」
なんだろう、アリサがどんどん面白い女になっていく気がする。このまま見ていたいけど……ソレって俺が正座をしたままということなんだ。
「よいしょ」
「あ! 勝手に立っちゃ──」
「アリサ、心配させてごめんな」
見上げる角度が見下ろす角度になると、同じ表情でも見え方が変わる。怒って見えていたのは眉が寄っていたからだ。
揺れる尻尾とへたった耳が、最初から全てを教えてくれていた。
「人を助けるのはやめない」
「っ……」
「でも、みんなのことも好きだ」
「っ……!」
ごちゃごちゃ難しい理屈は並べない。
ただ、答えを告げるだけだ。
俺は自分がやることを伝えるだけ。
ソレをどう受け取るかは彼女たち次第。
「アリサ、好きだ」
「……はい」
「でも、ご存知の通り……俺はやりたい事がある。そこから逃げたら、俺は生きている意味がない」
「ソレも、聞きました」
「……どうしたら良いんだろうなあ!?」
本当に、どうすれば良いのか分からない。
この状況こそ、かつての俺が最も恐れていた事だった。
俺の精神や脳みそは何も変わっていないのに状況だけが変わってしまったので、どうすればここから上手くいくのかが思いつかない。
「探索者はやめたくない。できる範囲で人助けもしたい。アリサと離れたくない。でも、なにより俺は牛をこの手で養殖してみたいんだ」
いくつか壁はあるけど、それらを乗り越えてきっと辿り着けるはずだ。壁の正確な正体すら分かってないのが今だけどな。
「呆れたというか、感心したというか……この期に及んでって感じだね」
「うーん……ヒロさんの夢の話ってリアル過ぎるし……本当に夢なのかなあ……」
ギクリ。
「確かに……ね、どうなの?」
「俺が知るわけないだろ。現実と夢をどうやって見分けるんだよ」
「確かに……」
「自分が夢の中の存在じゃない事が証明できる人間だけが俺に石を投げなさい」
「なにそれ」
俺の前世の話が本当に現実の話なのかは俺にも分からない。実は天才なだけかもしれないし。
「ともかく……2人とも」
2人の手は柔らかくて、アリサの方が少しだけしっかりしている。
握られた事が意外そうに目を僅かばかり開くと、すぐに反対の手が添えられた。
「2人とヒナタが大事なのは変わりないからさ。信じてよ俺のこと」
「……」
「ううーん……」
なぜか微妙に反応が悪かった。
「そういうのって、1人に対してやるものだよね普通」
「そうそう。今のセリフの中で三人出てくる時点で信用ないですよ〜」
「なんと!?」
すごく梯子を外された気分だ。
今のはしんみりとした空気になるところじゃなかろうか。
「反省しろって話も有耶無耶だし……」
「そもそも、ヒナタちゃんを連れて帰ってきたのまだ怒ってるからね」
「なんと!?」
それこそ有耶無耶にしてもらえたと思っていた。
まさか、ここから浮気裁判が始まるのか?
俺の弁護人は俺1人だけだが、物的証拠が多すぎて弁護を投げ出したくなる裁判が始まるぞ!
「フブキさんも……」
「アリサちゃん! めっ!」
「はっ! そ、そうですね!」
なんだこいつら、フブキにもなんか吹き込みやがったのか。
「フブキちゃんの件はこっちのセリフというか……」
「反省事項プラス1みたいな?」
「なんと!?」
コマちゃん!
助けてくれ!
コマちゃーん!
『圏外です』
くそ、役に立たねえ!
何だこの世界は!
俺の思い通りになれよ!
「ほらほら、出掛けますよー」
「どこに?」
「フブキちゃんのところ」
「もう行ったのに?」
「私たちは行ってないでしょ?」
はい。
──────
世界は移ろいゆく。
雷の季節が終わったならば、次にやってくるのは霧だ。
「なんか、いつもより静かだね」
「……季節が変わるな」
弱く、弱く、空の鼓動は静かになっていく。
はっきりと、季節の分け目が近づいていた。
「霧の季節になったら列車あんまり動かなくなっちゃうし、そろそろ帰ろうよ」
「お母さんたちが心配してるかもです」
街角先生からのタスクは熟せていないが、2人ともがそう思うなら帰っても良いか。
だって、2人の方が大事だから。
みんなの様子も気になる。
「フウカは何してるかな」
「餅つきじゃね」
「アキ……そういうこと言わない方がいいよ?」
「何だよ、別にバカにしてるわけじゃないぞ」
フウカちゃんの次の目標は米探しだ。
俺も全力で──ぜ! ん! りょ! く! で! 援護する所存なので、思う存分使い倒して欲しい。
米は要るよ、うん。
「ヒロさん、ダンジョンから手紙を持って帰ってきたんですよね」
「うん」
「ひいおばあちゃん……でしたっけ」
何とかしないといけない問題は放置されたままだ。
あのばあちゃんに魔石を大量投入して何か起こらないか確かめるのは学術的に極めて価値があるので、やらない手はない。
惜しむらくは永井先生がいないこと。
そして、その研究過程も結果も公表することはできないということだ。
そもそも喋るモンスターというだけで凄まじく希少性が高い。最近はドラゴニアの彼女とも知り合ったけど、根本的には人間じゃない。
飜るにあの婆ちゃんは元が人間なので、実験するに最適なのだ。
俺はマッドサイエンティストじゃないし見たこともないけど、永井先生曰くいくらでもそういう輩はいるらしい。チマチマと潰すのが趣味だとか。
んで、そういう奴らにあの婆ちゃんが捕まれば何されるか分からん。ミツキもアリサもドラゴニアもフブキもそうだけど、全員が希少な性質を持っているのだ。
いくらでも実験のしようはある。
悍ましいね。
「私のひいおばあちゃんかあ……」
「そういえば、アリサちゃんっておばあちゃんとかどこにいるの?」
「生きてるかは知らないですけど、生きてても会えないと思います」
「なんで?」
「お母さんとおやj──お父さん、実家から逃げてきたんですよ」
「そうなの!?」
どこかで聞いた話だ。
「2人って顔似てるじゃないですか」
「え? ……まあ、そう言われれば……あんまり会ったことないから……」
「従兄妹同士なんですよね」
「そうなんだ!?」
どこかで聞いたような話だ。
「結婚を反対されて逃げてきたんだって」
「へぇ〜……なんか、憧れちゃうね!」
「そうですか?」
「そうだよ!」
こんな事を言っているけど、コウキさんも故郷から出奔してるんだよなあ……美那さんと出会ったのは出奔先らしいけど。
もしかしたらセンシティブな話だから聞かせてないのかもしれない。
俺も酔いの口からポロッと聞いた話だし。
「アキはそういうの考えないの?」
「え?」
「女の子を連れて逃げるとか」
「逃げるって……俺が何で逃げるんだよ」
「いいから! そういうのあるでしょ!」
「……そういえば、ミツキと一緒に逃げた時はあったっけ」
「…………」
「懐かしいな」
俺の腕が初めて他人に切り落とされそうになったのもあのタイミングだったかな。
小さい頃は誘拐の危機と隣り合わせみたいな感じだった。
「な、なにそれ! ずるい! 私も逃げたい!」
意味不明な猫耳娘はともかく、言われてみれば逃げるシチュエーションはあったみたいだ。
ソフィアの時だって最初は逃避行も止むなしみたいな感じだった。中学生の時も……あれ、意外と多いな。
「考えるっていうかアレだな。やってるから別に憧れないというか」
「私は!?」
「おっ?」
「私は何で何もないんですか!? 私、鼻を殴られただけなんですけど!」
そう言われればそうだったか。
「でもほら、アリサとはダンジョンに行ってるじゃん?」
「足りません! もっとこう……私も逃げたい!」
「逃げる状況にならない方がいいと思うんですけど……」
「いやだいやだ! 私だってミツキさんとかフブキさんみたいに手を引かれて2人きりで世界から逃げ回りたい!」
赤ちゃんになってしまった。
バカみたいな話ではあるけど……実際のところ、この地域の情勢を考えると、ないとも言い切れないので笑えない。
その時はアリサだけじゃなくてミツキとヒナタと早苗ちゃんと三船くんと……おかしいな、人数が多いぞ。
俺1人の手じゃ回らん。
…………そうか。
「ふう……例の話だけど……もう一度会ってくるよ、とりあえず」
「女の人を任されたって話? ……まだ終わってなかったの?」
「話だけは聞こうと思う」
気分が変わったというやつだ。
「アリサちゃん、どう思う?」
「年上の女の人らしいので大丈夫──あ、ダメじゃん。ヒロさんってほら、歳が……」
「50歳までは子供ってこと……!?」
お好きに言ってください、もう。
登場したキャラクター等の名簿的なものは必要か否か
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いる
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いらない